日本が8強の壁を超えるために必要な個の成長。三笘、堂安に続くタレントの出現を熱望

2022.12.20 19:00 Tue
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約1カ月間にわたって熱戦が続いた2022年カタールワールドカップ(W杯)も18日のファイナルで幕を閉じた。頂点に立ったのは、36年ぶり3度目のタイトルを手にしたアルゼンチン。MVPを受賞したリオネル・メッシ(PSG)の凄さは誰もが認めるところだが、ヤングプレーヤー賞に輝いたエンソ・フェルナンデス(ベンフィカ)、中盤を支えたマク・アリスター(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)、メッシの相棒として活躍したフリアン・アルバレス(マンチェスター・シティ)など若いタレントたちの活躍も大いに目を引いた。彼ら上位進出国には必ずと言っていいほど「違いを作れる選手」がいた。フランスのキリアン・ムバッペ(PSG)、クロアチアのルカ・モドリッチ(レアル・マドリー)、モロッコのハキム・ツィエク(チェルシー)らがその筆頭だ。クロアチアのイバン・ペリシッチ(トッテナム)などは突破力もヘディング力も高く、点も取れて、左FWだけでなく左SBもこなせる。マルチな能力には3位決定戦を解説した中村俊輔(横浜FC)でさえも目を丸くしていたほどだ。

翻って日本代表を見た時、過去のW杯よりは個の能力が上がっているのは確かだ。1大会2ゴールを挙げた堂安律(フライブルク)、高度なドリブル技術で敵を凌駕できる三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)らは4年後も期待できるタレントだ。だが、彼らが封じられた時の次の手がないのも事実。ボール保持を捨て、カウンターに徹してドイツ・スペイン戦は戦術がハマったものの、主導権を握ったコスタリカ戦で攻めあぐね、クロアチア戦でも決め手を欠いたことを考えると、まだまだ強国に肩を並べるレベルには至っていないと言うしかない。
4年後に向けては遠藤航(シュツットガルト)ら多くの選手が口を揃えている通り、個のレベルアップは急務の課題だ。「選手のほとんどがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント進出チームか欧州5大リーグの上位クラブにいるようになれば、日本は強くなる」と鎌田大地(フランクフルト)も口癖のように話していたが、それに近い状況を4年間でどれだけ作れるかがポイントになる。

目下、日本で欧州ビッグクラブである程度の結果を残しているのは鎌田と冨安健洋(アーセナル)の2人だけ。鎌田はバルセロナやドルトムントから熱視線を送られていて、来夏にももう一段階ステップアップが実現しそう。そこで中心的存在として活躍できれば4年後のエースという野望も現実になる。

本人は「次(2026年)がホントに勝負。代表への考え方も変わったし、自分が代表を引っ張っていけるような存在になりたい」と目の色を変えていた。今回は守備的戦術の犠牲になった部分も否めないが、本当に決め手を持った選手なら、コスタリカ戦の決定機などでもゴールを奪えていたはず。その勝負強さを身に着けることが重要だ。

冨安にしても、この1年間はケガ続きで、まともに代表でプレーできなかった。カタールW杯も直前に右ハムストリング負傷を再発させ、リハビリの日々を強いられた。そしてドイツ戦に強行出場したと思いきや、頭からで出られたのはクロアチア戦だけ。その大一番で前半からペリシッチの決定機につながるミスパスを犯したりと、本来のレベルとはかけ離れたパフォーマンスにとどまったのだから、彼自身も納得できるはずがない。

「僕個人のパフォーマンスが本当によくなかったし、チームに迷惑かけた。自分に苛立ちしかないし、感情の整理をつけるのが難しい」と日頃温厚な男が怒りを露にしていた。この悪循環から抜け出すためにはまず体を万全に戻すところから取り組むしかない。状態がよければ彼はもっと高みを目指せる選手。今大会で評価を急上昇させたクロアチアのヨシュコ・グヴァルディオル(RBライプツィヒ)に負けじと奮起してほしい。

三笘と堂安ももう一段階、飛躍できる可能性がある。そのためにも各クラブで目に見える結果を残す必要がある。三笘は今季赴いたブライトンで10月からようやくリーグ戦でスタメン出場のチャンスをつかみ、現在に至っている。その地位を盤石にし、不可欠な存在にのし上がることで、CL常連クラブ行きが見えてきそうだ。

堂安にしても、フライブルクが目下、ドイツ・ブンデスリーガ1部で2位という好位置につけている今を逃す手はない。チーム最大の得点源は最前線に陣取るミヒャエル・グレゴリッtチュでここまで10ゴールを奪っているが、堂安にも数字を伸ばしてほしいところ。同じリーグの鎌田が注目されるのも今季前半戦公式戦12ゴールという結果が大きい。彼自身、PSVで挫折した経験を踏まえ、現在の環境で自己研鑽を図っているが、次なる挑戦は必ずモノにしてほしい。それができるだけの自信をカタールで得たはず。そこは期待していいだろう。

久保建英(レアル・ソシエダ)らパリ五輪世代の台頭も必須。重要なクロアチア戦を発熱で棒に振った彼自身はもちろんのこと、2001年生まれの斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)らにはブレイクしてほしいところ。ドリブルで敵を打開できる逸材という意味では、2003年生まれの古川陽介(ジュビロ磐田)や横山歩夢(サガン鳥栖)も面白い。

4年前、三笘がこうなるとは誰も予想できなかった。それだけに誰が出てくるか分からない。未知なる面々が次々と頭角を現し、しのぎを削るようなアタッカー大国になってくれれば、日本の未来も開けてくるはず。そして次こそ8強入りを達成してほしいものである。


【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。


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京都契約満了から丸1年でブンデスデビュー。2000年世代のドリブラー・上月壮一郎が示した潜在能力と可能性【新しい景色へ導く期待の選手/vol.2】

2022年カタールワールドカップ(W杯)の後、長いウインターブレイクに入っていたドイツ・ブンデスリーガ1部が20日から再開。吉田麻也(シャルケ)や遠藤航(シュツットガルト)、鎌田大地(フランクフルト)ら日本代表戦士たちが新たなスタートを切った。 こうした中、若い世代の面々も頭角を現しつつある。その筆頭がシャルケでブンデスデビューを飾った上月壮一郎。久保建英(レアル・ソシエダ)、菅原由勢(AZ)、中村敬斗(LASKリンツ)らとともに2017年U-17W杯(インド)に参戦した2000年生まれの若きアタッカーだ。 上月は京都サンガのアカデミー出身。U-15・U-18を経て、2種登録だった2018年5月の横浜FC戦で公式戦デビューを飾った。2019年にはトップに昇格。同年は3試合、2020年に11試合と出番を増やしたが、曺貴裁監督が就任した2021年はわずか2試合しかプレーできなかった。そして同年末に契約満了という憂き目に遭ったのである。 「自分にとっては、ブンデスリーガであったり、プレミアリーグが憧れのリーグ。毎日毎日そこを意識しながら日々を過ごしています。自分の一番の武器は裏への動き出し。タテへの突破も少しはできていると思いますけど、まだまだ足りない。ドリブルも大事だけど、チームに貢献するための攻守の切り替えをしっかりやっていきたいですね」 2016年9月のAFC・U-16選手権(インド)に参戦していた時、16歳だった上月は自分のストロングや課題、近未来のビジョンをこう語っていた。だからこそ、21歳になったばかりの2021年末に京都を退団することになるとは想像だにしなかっただろう。 そこでいったんプロキャリアを断たれたわけだが、彼が見据えたのは10代の頃から憧れていた欧州だった。2022年になるや否やドイツへ渡り、翌2月に5部・デューレンに新天地を見出したのだ。 年代別代表とはいえ、日の丸をつけてW杯に参戦した若武者にとってドイツ5部というのは不本意な環境だったかもしれないが、上月は腐ることなく前向きに取り組み、半年間でリーグ11試合に出場。5ゴール5アシストという活躍を見せ、チームの4部昇格に貢献する。 目覚ましい働きを認めたシャルケからU-23チーム入りが認められ、2022年8月からプレー。9月からはトップチームの練習試合に参加し、W杯が終わった12月末にトップチーム昇格を現実にした。 そして、今季後半戦再開初戦となった1月21日のフランクフルト戦でスタメン出場。4-2-3-1の右MFのポジションに入ると、前半からアグレッシブな仕掛けとチャンスメークを披露する。前半32分には右サイドを持ちあがって右ポストをかすめる鋭いシュートを放つと、その1分後には爆発的なスピードで右サイドを駆け上がり、最前線へクロスを送る。これはFWマリウス・ビュルダーが決めていればアシストがついたはずだったが、惜しくも合わなかった。 そして、後半開始早々には左からのクロスに反応。ゴール前に積極果敢に飛び込み、絶妙のタイミングでヘッドを放ったが、これは相手守護神のケヴィン・トラップに防がれた。これらビッグチャンスの1つでも決まっていたらシャルケは貴重な勝ち点3を手にできただろうし、最下位脱出のきっかけをつかめた確率が高い。最終的に0-3で敗れたことを考えると、上月にとってはほろ苦いブンデスデビュー戦になったと言える。 それでも、チームメートの吉田が彼の一挙手一投足を高く評価した通り、上月が新たな可能性を示したのは紛れもない事実である。鎌田が2017年夏にフランクフルトデビューを飾ったのが21歳で、最初のシーズンはほとんど試合に出られず、22歳でシント=トロイデンに赴いて1年間実績を積み重ねたため、本格的にドイツで活躍できるようになったのは23歳から。そう考えると、上月が22歳で上々のスタートを切ったことを前向きに捉えていいはずだ。 彼ら2000年生まれのグループは東京五輪世代の中で一番下だったため、五輪に出られる可能性が低かった。その分、日本代表入りが遠のいてしまった部分は否定できない。 しかしながら、一足先に欧州へ渡った菅原や中村は今季コンスタントに試合に出ているし、瀬古歩夢(グラスホッパー)もスイスで奮闘している。この冬にセルティックへ移籍した小林友希もすでに新天地に適応。左利きのDFとしてアンジェ・ポステコグルー監督から重用され始めている。2000年生の彼らが一気に急成長し、2026年北中米W杯のメンバー入りしてくる可能性も少なくないのである。 そういう意味でも上月の今後は非常に興味深い。彼が「右の三笘薫(ブライトン)」と言われるような存在に大化けしてくれれば、日本サッカー界も新たな武器を得られる。ここからの爆発を楽しみに待ちたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.01.24 21:45 Tue
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