堂安、菅原のように欧州移籍のチャンスをつかめるのか?キャプテン・松木玖生に託される統率力と勝利という結果【新しい景色へ導く期待の選手/vol.12】

2023.05.17 11:30 Wed
©︎J.LEAGUE
大会1カ月半前に突如として開催地がインドネシアからアルゼンチンに変更されたU-20ワールドカップ(W杯)。同じアジアから地球の裏側への変更ということで、日本は振り回される格好となったが、12日には選手21人全員が現地入り。15日にはU-20アルゼンチン代表とテストマッチを実施。21日(日本時間22日)のU-20セネガル戦(ラプラタ)を迎えることになる。

ビッグトーナメントは初戦が肝心。2022年カタールW杯でもファーストマッチでドイツを撃破し、勢いづいたのは記憶に新しいところだ。3月のAFC U-20アジアカップ(ウズベキスタン)でも初戦・中国戦で大苦戦したU-20日本代表だけに、今度は同じ轍を踏むわけにはいかない。最初から持てる力の全てを発揮していくことが肝要だ。
とはいえ、セネガルという相手は難敵だ。U-20W杯・5度目の出場となる彼らの最高成績は2015年ニュージーランド大会のベスト4。[4-5-1]を基本布陣とし、フィジカル能力は頭抜けている。キャプテンマークを巻く攻撃的MFのサンバ・ディアロ(ディナモ・キエフ)や中盤の統率役のミラン・カマラ(メス)らタレントも揃っていて、国際経験の少ない日本にとっては戦いづらい相手なのは間違いない。彼らを叩いて一気に波に乗れるか否か。そこに日本の命運がかかっていると言っても過言ではないだろう。

そのけん引役となるべき存在が松木玖生(FC東京)だろう。U-20アジアカップで主将として全5試合に出場し、サウジアラビア戦で2ゴールを挙げている男はこのチームの精神的支柱。高井幸大(川崎フロンターレ)、山根陸(横浜F・マリノス)らJ1で試合出場経験を積み重ねる選手が少ない中、松木はプロ1年目だった2022年からFC東京の主力として活躍。その実績は頭抜けている。冨樫剛一監督から絶対的信頼を寄せられるのも頷ける話なのだ。

ご存じの通り、青森山田高校3年時の3冠(高円宮杯、高校総体、高校選手権)達成など、プロ入り前からスケールの大きなMFとして注目されてきた男だが、最大の武器は強靭なメンタル。どんな苦境に直面しても、顔色1つ変えずに闘争心を押し出せるタフさを備えている。
今回の開催地変更に関しても「日本の逆(裏側)に行けるのはなかなかないこと。いい経験として捉えている」と涼しい顔。動じる様子を人前で見せることがほとんどない。そういうタフさと逞しさは世界で戦う上での大きなアドバンテージと言えるだろう。

野心をメラメラと燃やすところも、最近の若者とは一線を隠している部分。「今回は世界のスカウトの方が見に来ると思うんで、そういった人たちに注目されるようなプレーをしていきたい。チームが上に行けば行くほど注目度も上がっていくと思うので、まずは良い結果を残せるようにしたいです」と欧州移籍への道を切り開く覚悟でアルゼンチンに乗り込んでいる。

彼らの世代は高校3年間がコロナ禍真っ只中。2021年U-17W杯が中止になり、強豪クラブとテストマッチをする機会も持てず、海外経験を積むことが全くと言っていいほどできなかった。松木も青森山田高校時代に海外遠征を何度かしていたら、チェイス・アンリ(シュツットガルト)や福田師王(ボルシアMG)のようにダイレクトに欧州へ行く道を選んでいた可能性もあっただろう。

しかしながら、本人はまずJリーグでプロとしてのベースを築くことが重要だと考え、FC東京入りを選択した。それから1年半が経過し、長友佑都のような百戦錬磨のベテランから薫陶を受け、香川真司(セレッソ大阪)と移籍の話をするなど、次のステップを考える時期に来ているのは確かだ。

2017年韓国大会直後にフローニンヘンに赴いた堂安律(フライブルク)、2019年ポーランド大会直後にAZ入りした菅原由勢のように、欧州クラブからの好オファーを勝ち取るためにも、アルゼンチンでインパクトを残したいと熱望しているはず。だからこそ、わざわざメディアの前で「世界のスカウトが見に来る」といった発言をしたのだろう。

松木はボランチと2列目の両方をこなせて、得点力もある選手。FKやCKも蹴れる。そういったストロングを前面に押し出し、日本を勝利に導いてくれれば、日本の上位躍進も見えてくる。冨樫監督が掲げる「世界一」というのは壮大な目標ではあるが、小野伸二(北海道コンサドーレ札幌)らを擁した99年ナイジェリア大会で準優勝したように、U-20世代の大会は何が起きるか分からない。そういう意味でも楽しみは尽きないのだ。

2017年韓国大会の主力だった堂安、冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(ボルシアMG)が5年後のW杯で日本の軸を担ったように、松木らの世代も将来のA代表をけん引しなければならない。それだけの底力があることを示してくれれば、日本サッカー界の未来も明るい。

1次リーグはセネガルを筆頭に、コロンビア、イスラエルという強豪揃いのグループに入っているが、とにかく初戦で良い入りを見せることだ。松木には卓越した統率力でチームを力強く引っ張ってほしいものである。


【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。

関連ニュース

1対1はノリノリでやれる環境作りを。「自分だけの抜ける形」を確立したい斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.22】

2021年1月にベルギー2部・ロンメルへ赴き、2022年夏にオランダ1部・スパルタへステップアップしたパリ五輪世代のエース・斉藤光毅。昨季は26試合出場7ゴールという実績を残し、本人も飛躍の手応えを掴むことができた。 そして迎えた2シーズン目。「昨年越えの数字」を目指してスタートした今季もここまでコンスタントに試合に出ている。8月12日の開幕・ズウォレ戦こそ軽いケガで欠場したものの、20日のフェイエノールト戦からは[4-2-3-1]の左FWでスタメン出場。27日のヘーレンフェーン戦では2ゴールを叩き出す活躍を見せた。 ただ、小川航基との「コウキダービー」となった9月1日のNECナイメンヘン戦では積極的な仕掛けを見せるも不発。本人も「全然ダメでした」と反省しきりだった。 「仕掛けて抜けきれず、チャンスも作り切れなかった。こういう(拮抗した)試合で点を取れる、アシストできるののがいいプレーヤーだと思うので、突き詰めてやっていきたい」と彼は奮起を誓った。 斉藤光毅というとドリブラーのイメージが強いが、実際にオランダでもそう見られている様子。NEC戦では対面のDFに厳しいマークを受け、なかなか思うように突破させてもらえず、苦しんでいるようにも見受けられた。オランダ1部というのはイングランドやスペインにステップアップしようとも目論む若いアタッカーがしのぎを削るリーグ。そこで頭抜けたインパクトを残さない限り、斉藤の飛躍も叶わない。本人もその厳しさをよく知っているからこそ、1対1をブラッシュアップしなければならないと考えている。 「考え過ぎちゃうと詰まったりとか、うまく抜けない場面が自分の中にはあるので。やっぱりそんなに考えず、ノリノリでやれるような環境作りを試合の中でしていかないといけないと思うし、自分の間合いだったり、『ここに出せば抜ける』とかを極めていかないと。本当に全員抜けるように自分の感覚を研ぎ澄ませていくことが大事だと思います」と斉藤は自分のやるべきことを明確に見据えていた。 確かに今、日本代表の看板アタッカーに上り詰めた三笘薫(ブライトン)などは「自分の抜ける間合いと駆け引き」を持っている。だからこそ、最高峰リーグで活躍できるのだ。その領域まで上り詰めるのは一筋縄ではいかないだろうが、22歳の斉藤ならまだまだ先を目指せるはず。オランダ1部のクラブで主力級の地位を勝ち得ているアドバンテージを生かしながら、積極的にトライし続けることが肝要だ。 彼が直面するもう1つの課題は五輪代表での活躍である。大岩剛監督率いるU-22日本代表では大きな期待を寄せられているが、なかなか本来の実力を発揮しきれない状況が続いている。 9月の五輪予選を兼ねたAFC・U-23アジアカップ予選も「40度超の猛暑のバーレーンに行ってどれだけ動けるのか分からない」と不安を吐露していたが、先発したパキスタン・バーレーンの2試合ではゴールという結果を残せなかった。とりわけ後者は前半のみで交代を強いられており、斉藤自身も不完全燃焼感がな強かったに違いない。 今のU-22は斉藤以外にも、鈴木唯人(ブロンビー)、小田裕太郎(ハーツ)、鈴木彩艶、藤田譲瑠チマ、山本理仁(いずれもシント=トロイデン)ら欧州組がいるが、活躍度が際立っているのはやはり斉藤だ。ゆえに大岩監督も彼への期待値が高くなる。にもかかわらず、代表ではゴール前の鋭さが影をひそめてしまうというのは、今後を考えても問題だ。近い将来、A代表を目指そうと思うなら、2つのチームで波のない仕事ができる選手になること。それが今季の斉藤光毅の克服すべきもう1つのテーマと言えるだろう。 「A代表は常に狙っていかないといけないと思います。パリ五輪のメンバーだから(経験を積ませる的に)A代表に呼んでみるということではなくて、オランダと五輪代表での活躍を評価されて選ばれるようになりたいと僕は思っています。今のA代表の選手はもっと上のリーグで活躍している人たちばっかり。僕はそれ以上の仕事をしないといけない。本当に頑張らないといけないですね」 本人も自分に課せられたノルマをよく分かっている。三笘、トルコ戦で2ゴールを挙げた中村敬斗(スタッド・ランス)、2年連続でUEFAチャンピオンズリーグに参戦している前田大然(セルティック)が同じポジションにいるうえ、相馬勇紀(カーザ・ピア)やオランダ1部デビューを飾ったばかりの佐野航大(NECナイメンヘン)ら予備軍もいるだけに、多少の活躍では認められない。ここからゴール・アシスト数をグングン引き上げていくしか、上に這い上がる道はないのだ。 伸び盛りの斉藤光毅が今季どのような軌跡を辿るのか。そして五輪代表との掛け持ちをうまく成功させられるようになるのか。今後の動向を注視したい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> <span class="paragraph-title">【写真】オランダで対決した斉藤光毅と小川航基の試合後2ショット</span> <span data-other-div="movie"></span> <div style="text-align:center;"><img class="lazyload" data-src="https://image.ultra-soccer.jp/1200/img/2023/koki20230923_tw1.jpg" style="max-width:100%; min-height:200px;"></div> 2023.09.23 12:30 Sat

偉大な先輩・香川真司の激励を糧に、遅咲きの東京世代の右SBは代表定着を狙う!/毎熊晟矢(セレッソ大阪)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.21】

「毎熊晟矢(C大阪)です。みんなからは『マイク』と呼ばれています」 9月4日(日本時間5日未明)の夕方、ドイツ・ヴォルフスブルクで行われた日本代表・9月シリーズの練習初日の冒頭ミーティング。初招集の毎熊が森保一監督に促されて中央に立ち、少しはにかみながら挨拶した。 「僕は年代別代表経験もないですし、今回のメンバーで知っているのは大学選抜で一緒だった森下(龍矢=名古屋)くらい。同い年の三笘(薫=ブライトン)選手なんかは、そのタイミングでU-21代表の方に行っていたので、全く面識はありません」と先月31日の代表選出会見で話していたが、すでにドイツ行きの機内で大迫敬介(広島)と親交を深めた様子。さらに大迫と同い年の上田綺世(フェイエノールト)らとも親しく話し込む姿が見られ、「つかみはOK」と言ったところだろう。 2022年カタール・ワールドカップ(W杯)メンバー16人が選出されるなど、ある程度、コアグループが固まりつつある第2次森保ジャパンにおいて、毎熊のような無印の抜擢は1つのサプライズに他ならない。 97年生まれの彼は東福岡高校時代に高校総体・高校サッカー選手権の2冠達成を経験。桃山学院大学へ進み、2020年に地元のVファーレン長崎でプロキャリアをスタートさせた。もともとはFWだったが、同年に長崎を率いていた手倉森誠監督(現チョンブリー)からいきなりキャンプの練習試合前に右サイドバック(SB)での起用を告げられる。 本人は戸惑い、「正直、嫌だった」と複雑な感情を抱いたというが、吉田孝行コーチ(現神戸監督)から「このポジションでやれば代表まで行ける可能性がある」と言われ、納得してトライできるようになったという。 その思いは2022年にセレッソ大阪にステップアップしてからより強まったという。昨季は右SBに松田陸(甲府)という絶対的な存在がいたため、毎熊は右MFでプレーすることが多かったが、「去年、サイドハーフで出ていた頃から『近い将来、絶対に代表になれると思うから目指せ』『自分が信じないとその目標には辿り着けないから』と小菊(昭雄)監督から言われていたので、自分に言い聞かせるようにしていました」と毎熊は明かす。 その夢が現実になったのが今季。シーズン序盤3試合を右SBで出場した後、再びサイドハーフに上がったが、5月半ば以降は完全に右SBに定着。ジョルディ・クルークスとのタテ関係がセレッソ攻撃陣に大きな迫力と推進力をもたらすようになったのだ。 そのあたりから、小菊監督は毎熊のことを「和製ハキミ(PSG)」と呼ぶようになり、世界基準を目指すようにより一層、強く背中を押した。 「僕が相手2人を剥がしたシーンが試合の振り返りミーティングで出てきて、ちょっといじられ気味に言われました(苦笑)。小菊監督も冗談ぽかったですけど、冗談だけでは言わない監督なので、素直に嬉しかったですね。 自分のストロングは攻撃面。中でも外でもプレーができると思っている。組む選手によって自分は使い分けができると思いますし、より相手が怖いペナルティエリアに入っていく部分が一番の特徴。そのクオリティをより意識しながら、代表でアピールしていきたいと思っています」と毎熊は小菊監督の思いも背負いながら、ドイツに赴いたのだ。 セレッソには2011〜2019年まで代表10番を背負った香川真司もいるが、偉大な先輩からも「セレッソでやっているような感じでやれば、絶対大丈夫やから」と太鼓判を押されたという。その言葉で気持ちが楽になった彼は思い切って自分らしさを出せる状態になりつつあるようだ。 ただ、今の代表右SB争いは熾烈だ。新生ジャパン発足後、全4試合に先発している菅原由勢(AZ)が一歩リードしている感はあるが、ベルギー4シーズン目を迎える橋岡大樹(シント=トロイデン)も実績ある選手。毎熊が国際経験で秀でる彼らを上回るのはそう簡単ではなさそうだ。 特に懸念要素になりそうなのは守備面だ。屈強なドイツ・トルコのアタッカーと1対1になった時、毎熊がどこまで止められるかというのは今のところ未知数。間合いや寄せがJリーグとは違う部分が多々あるだけに、いかにして異なる環境に適応していくか。そこが彼にとっての最初の関門と言える。 「相手の選手は速いと思いますけど、自分もスピードには自信がある。線が細いと言われることも少なくないですけど、当たり負けしない部分にも自信がある。Jとは違う強さやスピードもあるでしょうけど、そこは負けない気持ちは見せていきたい。いつもセレッソではカピシャーバやクルークスと練習で激しくやってますし、その感覚で行けば問題ないと思ってます」 淡々とした語り口の中にも飽くなき闘争心をにじませる毎熊。彼は静かな炎を燃やしつつ、代表定着、そして定位置確保に突き進む構えだ。 さしあたって、チャンスがあるとすれば、12日のトルコ戦(ゲンク)ではないか。そこで出番を与えられた場合には、必ず爪痕を残してほしいものである。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> <span class="paragraph-title">【動画】右サイドの新たなピースになれるか、毎熊晟矢プレー集</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="in-Mm5Ed0iY";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.09.06 12:05 Wed

夏場に4ゴールでランキング上位に浮上。パリ世代のエースFWは地に足を着けて成長中/細谷真大(柏レイソル)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.20】

2023年J1も残り9試合。横浜F・マリノスやヴィッセル神戸ら上位陣も混とんとしているが、下位争いも熾烈を極めている。 25節終了時点では、最下位の18位が勝ち点17の湘南ベルマーレ。17位が同20の柏レイソルだ。その上の16位が同21の横浜FC。この3チームのうち1チームがJ2自動降格に憂き目に遭う可能性が高そうだ。 今年5月に長年チームを率いていたネルシーニョ監督を解任し、ヘッドコーチだった井原正巳監督が昇格する形で再建を図っている柏は7月中旬の中断前まではなかなか白星を挙げられず苦しんだ。が、8月6日のリーグ再開後は京都サンガに勝利からスタート。セレッソ大阪、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島という上位陣相手に3戦連続ドローと8月無敗で乗り切っており、チーム状態が右肩上がりなのは間違いないだろう。 そんなチームを力強くけん引している1人がパリ五輪世代のエースFW細谷真大だろう。今季は紛れもなく最前線の大黒柱と位置づけられている細谷だが、今季序盤は思うようにゴールを重ねられずに苦しんだ。 しかしながら、7月以降は一気に決定力がアップ。直近6戦で4ゴールの固め取りを見せ、ここまで9得点。昨季の8ゴールを早くも上回ったうえ、J1得点ランキングでも8位タイまで上がってきており、存在感を増しているのだ。 「もちろんゴール数ってところは前半戦に比べて増えましたし、攻撃のクオリティが上がったり、時間帯も増えてきたんで、うまくそこはゴール数と比例しているのかなと思います」と本人もチームの復調が自身の結果につながっているという見方をしている。 細谷の特筆すべき点は、FWの選手にも関わらずフル稼働が続いていること。これだけの酷暑の試合が続けば、前線アタッカーを入れ替えながら戦う監督が増えるのも当然のこと。だが、井原監督は彼に絶大な信頼を寄せているのか、90分近い時間プレーさせることが多い。本人も「暑さできついっていうのはあんまり感じないし、チームのために戦うっていうのが自分の特徴だと思うので、もっと走りたいと思います」と過酷な環境にめげることなく逞しさを前面に押し出す構えだ。 こうしたタフさはU-22日本代表の大岩剛監督にとっても頼もしい点に他ならないだろう。ご存じの通り、U-22日本代表は9月に五輪1次予選を兼ねたAFC・U-23選手権2024予選(バーレーン)を戦うことになっている。9月のバーレーンは最高気温37度、最低気温29度が平均で、今の首都圏より厳しいかもしれない。そういう環境下で、日本は9月6日にパキスタン、9日にパレスチナ、12日にバーレーンとの連戦を強いられるのだから、細谷のような選手が重要になってくるのは間違いない。 加えて言うと、パリ五輪世代の面々が今夏、次々と海外移籍に踏み切っており、コンディション的に未知数という不安要素もある。アタッカー陣を見ると、試合にある程度出ている小田裕太郎(ハーツ)はまだしも、鈴木唯人(ブレンビー)、佐藤恵允(ブレーメン)はほとんど公式戦を戦っていないため、どこまでプレーできるか分からない。だからこそ、国内組の細谷にかかる期待は大きい。 本人も強い自覚を持って挑むという。 「レイソルで試合に出続けられてますし、本当にコンディションは良いので、自分の良さをパリ世代の方に持っていけたらいいですね。ここでやっていることをそのまま大岩さんの下でできればベスト。パリ五輪も予選に勝たないと出れないわけですし、先を見るんじゃなくて、目の前の1試合1試合をしっかり勝っていかないといけない。自分がチームを勝たせられたらいいかなと思ってます」と彼は日常を大事にしながら9月に向かっていくつもりだ。 欧州移籍市場は8月31日まで開いているため、細谷も海外挑戦の可能性がゼロというわけではないが、彼自身は「レイソルでしっかりと結果を残し続けることが第一」と慎重なスタンスを取っている。 「多くの選手がこの夏、欧州へ行きましたけど、自分の性格上、あんまり気にしないタイプなので、今はここで頑張ろうと思っています。J1でまだ結果らしい結果を出せていないと思うので、やっぱりここで結果を出すことが欧州への近道。いつかは向こうでやってみたいとは思いますけど、まずはレイソルを勝たせて、タイトルを取らせるような存在になれるように頑張っていきます」 実にFWらしからぬ堅実なキャラクターの細谷。こういう地に足に着いた若武者は少しずつ階段を登っていくスタイルが合っているのだろう。柏のエースという重責を担う今はとにかくチームをJ1に残留させ、少しでも順位を上げるように務めることが一番だ。 地道な点取屋の確かな成長を楽しみに待ちたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.08.27 13:05 Sun

ユナイテッドのオファーを固辞して出場機会にこだわる!日本屈指の若手GKはどう飛躍する?/鈴木彩艶(シント=トロイデン)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.19】

「マンチェスター・ユナイテッド(ユナイテッド)からオファーを受けた日本人GK」として今夏、世界に名を馳せたパリ五輪世代の守護神・鈴木彩艶。結局、彼はイングランドの名門クラブ行きを選ばず、ベルギー1部・シント=トロイデンへ赴く決断をした。 「ユナイテッドからオファーがあったのは事実です。本当にこの決断は非常に迷いました。サッカー選手として、1人の人間として何も考えなかったかと言えば、もちろん違います」 「でも今の自分は日本で試合に出られていない。そういう中で、ユナイテッドは(アンドレ・)オナナ選手を(インテルから)獲得した。そこで自分が出れるレベルにあるかどうかを考えた時、なかなか難しいなと自己評価しました」 「ユナイテッドもシント=トロイデンも素晴らしいクラブというのは間違いないので、今、(夢の)プレミアリーグに行けなくても、必ず数年後には行きたいと思っている。着実にステップアップするために、今回の移籍を決めました」と離日直前の6日、メディアの取材に応じた本人は覚悟を強い口にした。 確かに鈴木彩艶は2021年の浦和のトップ昇格後、西川周作という偉大なGKの壁に阻まれ続けた。1年目はJ1・6試合、2年目の2022年は2試合、そして今季はリーグ戦出場ゼロという苦境にあえいでいた。もちろんYBCルヴァンカップ5試合・天皇杯1試合には出ているものの、U-15代表の頃から飛び級で日の丸を背負い、U-17・U-20両W杯と東京五輪を総なめしてきた20歳の守護神にしてみれば、現状は決して満足できないはずだ。 今、ここでユナイテッドに行ったとしても、試合に出られない状況がさらに続けば成長が頭打ちになるリスクが高い。より現実的になって考えた時、試合に出られる可能性の高いシント=トロイデンへ行った方がベターだ。その判断は決して間違ってはいないだろう。 目下、同クラブにはシュミット・ダニエルが在籍しているが、8月中には他クラブへ移籍する見通しで、そうなれば鈴木彩艶の障害はなくなる。間もなく21歳になる日本人守護神がベルギー1部で圧倒的な能力を見せつければ、ユナイテッドのみならず、欧州トップクラブも関心を寄せるに違いない。そういった成功ロードを歩めれば、鈴木彩艶にとっては理想的なのである。 「一部報道で『パリ五輪のために移籍する』というの目を気にしたんですけど、それはちょっと違った話で、パリ五輪があるから移籍するわけではないんです。僕自身はA代表を目指してますし、ワールドカップ(W杯)を目指してますし、その先の世界一というところを目指している。パリ五輪のために決断したっていうのは間違いだと伝えておきたい。もちろんその通過点としてパリ五輪は大事な大会。目指していく気持ちは変わりません」 「いずれにしても、そういう目標を果たすために、自分はとにかく試合に出ることが大事。世界の舞台でプレーすることが大事だと思う。これから本当に厳しい戦いが待っていますけど、早くコンディションを整えて、新チームのサッカーに馴染むことが大事だと思ってます」と鈴木彩艶はまだ20歳とは思えないほどしっかりと進むべき方向を見定めている。 シント=トロイデンの立石敬之CEOも「彩艶のポテンシャルはこれまでの日本人GKと比較しても突出している。ああいう逸材が試合に出ないのは本当にもったいない」と以前から話していた。立石CEOのみならず、元ヴィッセル神戸のトルステン・フィンク監督は日本人選手の特性やストロングをよく理解しているし、岡崎慎司ら百戦錬磨のベテランも後押ししてくれるだろう。さらに同じパリ世代の山本理仁、藤田譲瑠チマもほぼ同じタイミングで加入した。お互いの特徴やキャラクターをよく知る面々と共闘できる環境ということもあり、適応はスムーズに進みそうだ。 シント=トロイデンは今季が創設100周年。過去3シーズン遠ざかっているプレーオフ出場はクラブとしてもマストだ。そのためには鋭い反応と広い守備範囲、攻撃の起点になれる万能型GKが必要不可欠だ。鈴木彩艶はそれだけの能力を備えた人材。ここで一気に頭角を現せば、近い将来のA代表入りも見えてくるに違いない。 U-22日本代表の大岩剛監督も「A代表経由パリ行き」を選手たちに求めているが、それを果たしているのは現時点で久保建英(レアル・ソシエダ)くらい。あと1年間で這い上がっていく若手がどんどん増えなければ、日本代表の底上げにもつながらない。 GKは特に混とんとした状況で、飛び抜けた人材がいないだけに、鈴木彩艶にとってはチャンス。新天地でどこまで彼が突き抜けていくのか…。まずはベルギーデビューがいつになるのかを待ちたいところだ。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.08.10 18:30 Thu

開幕先発も「もっとできた」。日本屈指の技巧派MFは2ケタ得点・アシストの目標を達成できるか?/伊藤涼太郎(シント=トロイデン)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.18】

欧州23-24シーズンの先陣を切って7月28日に開幕したベルギー1部。現時点で日本人選手16人が挑んでいる同リーグにおいて、ひと際、注目されるのが、2013年J1前半戦で7ゴールを叩き出した伊藤涼太郎(シント=トロイデン)だろう。 「今季の目標は2ケタ得点・2ケタアシスト。攻撃の選手としては数字にこだわらないといけないですし、ボールを持った時の違いも見せていきたいと思っています。(日本とベルギーは)サッカー自体が別物で、日本でやってきた得点数や肩書は通用しないけど、自分のスタイルやストロングは通用するという感覚は今のところ持てている。観客を湧かせられるプレーを見せたいです」 7月20日の開幕前会見の際、彼は新天地での抱負を語っていたが、トルステン・フィンク監督の評価も日に日に高まっていった様子だ。充実したプレシーズンを送れたことで、伊藤は30日のスタンダール・リエージュ戦でスタメン入り。念願の海外デビューを飾ることになったのだ。 昨季までのシント=トロイデンは守備的なスタイルを志向。失点数はリーグトップ5に入っていたが、得点力不足という課題を克服できないまま、レギュラーシーズン12位という結果に終わった。しかしながら、今季から指揮を執るフィンク監督は、ボール保持とパスワークを重視したアクションサッカーを志向。日本人屈指の技巧派である伊藤をキーマンの1人と位置づけている模様だ。 実際、スタンダール戦を見ると、伊藤は当初、ボランチの位置からスタート。マティアス・デロージをサポートしつつ前へ出て、彼とタテ関係になっていった。 その後、時間を追うごとにデロージがアンカー気味になり、伊藤とヤルネ・ストウカースが両インサイドハーフ(IH)的なポジションへ。さらには、前線のアブバカリ・コイタも下がって左サイドに入り、伊藤がトップ下に位置。ダイヤモンド型のような中盤を形成する場面も見られた。こうした変化を見ても分かる通り、今季のシント=トロイデンの中盤はかなり流動的なスタイルを採っているようだ。 こうした中、伊藤は積極的にボールを触って攻めを組み立てようという意識が色濃く感じられた。前半13分のペナルティエリア外からの強烈シュートは1つの象徴。強気で前向きな姿勢はアルビレックス新潟時代と全く変わらない印象だった。 それを継続していれば、いつか必ず結果はついてくるのではないか…。そんな期待感を抱かせるこの日の65分間のプレーだった。 最終的にシント=トロイデンは終盤に1点をもぎ取り、開幕戦を1-0で勝利。白星発進してみせた。順調な歩みを踏み出せたことで、伊藤も安堵感を覚えたのではないか。 「チームとして勝てたのは大事なことですし、嬉しいことですけど、個人的にはもっとできたなと思います。嬉しい反面、悔しい気持ちもあります」 試合後のインタビューで率直な思いを口にした伊藤。やはり目に見える結果を残さなければ生き残れないという危機感が強いのだろう。そんな試合を通して、課題に直面したことも認めていた。 「自分がターンした時にボールをさらわれてしまう場面があったので、そこの強度やスピード感には少しビックリした部分もありました」と彼はストレートに言う。 欧州に行けば、マークに来る選手の寄せや間合いの詰め方が違うというのは多くの選手が語っていること。国際経験の少ない伊藤は改めて厳しさを感じたことだろう。 ただ、「攻撃のビルドアップや相手をかわすところは多少できていた」と手ごたえも感じた様子。それを積み重ねて自信にしていけば、ゴールやアシストという結果につながってくるはずだ。 むしろ、ベルギー1部では目覚ましい結果を残してこそ、初めてステップアップの道が開けてくる。彼自身がシント=トロイデン移籍を決断したのは、同クラブから冨安健洋(アーセナル)、遠藤航(シュツットガルト)、鎌田大地といった面々が飛躍していったから。自らもその軌跡を歩むことを彼は思い描いているのだ。 特に同じ攻撃的MFの鎌田は伊藤にとっての理想モデルではないか。鎌田のように欧州5大リーグへ駆け上がり、UEFAヨーロッパリーグ制覇を経験し、さらにはUEFAチャンピオンズリーグの舞台にも立てるようになれば、日本代表入りも十分可能になる。 25歳という年齢は決して若くないだけに、彼には足踏みしている時間はない。一気に突き進むべく、貪欲に高みを目指していくべきだ。 今回のスタンダール戦はそういった決意を新たにするいい機会になったはず。ここからの伊藤涼太郎の本領発揮を楽しみに待ちたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.08.01 11:30 Tue
NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly