スペイン戦振り返りとラウンド16展望/六川亨の日本サッカー見聞録

2022.12.03 17:00 Sat
Getty Images
グループリーグが終わってみれば、“波乱の主役”は日本だったと言っても過言ではないだろう。フランスがチュニジアに、ブラジルがカメルーンに負けたのも意外だったが、すでにグループリーグ突破を決めており、両チームともスタメンを9人も入れ替えたのだから「必然」とも言える。

同じ過ちは日本もコスタリカ戦で犯したが、同じミスを結果的にスペインも犯した。左SBジョルディ・アルバに代えて19歳のアレハンドロ・バルデを初スタメンに起用した。若返りに積極的なルイス・エンリケ監督だけに、バルセロナでの実績からバルデを起用したのも頷ける。
しかし後半3分、トラップが大きくなったところを伊東純也に突かれ、こぼれ球を拾った堂安律に同点弾を叩き込まれる。さらに3分後、堂安のタテへの突破から逆転ゴールを許すことになった。

以前の堂安は、カットインしてからも相手を完全に抜き去ろうとボールを持ちすぎる傾向が強かった。久保建英と違い、タテに突破する回数が少ないことでカットインを読まれることも多かった。

しかし今シーズンの彼は、タテへ持ち出して右足でクロスを上げることも増え、シュートのタイミングも以前より早くなった。コースさえあれば、相手を抜き去る前に打つなど、すでにフライブルクでも欠かせない戦力になっている。
W杯でのゴールは、その後のサッカー人生を変える。それは稲本潤一鈴木隆行本田圭佑らが証明しているだろう。まだ大会は途中だが、年明けの移籍マーケットで堂安やブンデスリーガ2部の田中碧、さらには快足ドリブラーの三笘薫にどのようなオファーが届くのか楽しみでもある。

ドイツに続きスペインも撃破したことで、日本はグループEを首位で通過した。前半30分過ぎからの日本は、最終ラインを高く保ち、ガビアルバロ・モラタらが下がってボールを受けようとしても、谷口彰悟吉田麻也らがマンマークで食らいついてティキ・タカを封じようとした。

前半終了間際には2人ともイエローカードを受けたが、これくらいしないとティキ・タカは止められない。ドイツが試合の流れを引き寄せるため、スペイン戦の後半開始直後に見せたプレーでもあった。

日本がグループリーグを首位で突破したのは02年日韓大会以来2度目の快挙である。当時の日本は、第3戦のチュニジア戦を大阪で戦った。グループリーグを「2位通過」と想定し、ラウンド16ではグループC1位のブラジルとの対戦が濃厚だが、それもやむを得ないとして決戦の会場を神戸にした。大阪から神戸なら移動のストレスがないからだ。

ところが日本はグループHを首位で通過したため、ラウンド16は仙台でトルコと対戦することになった。FW柳沢敦を体調不良で起用できなかったことも痛かったが、フィリップ・トルシエ監督はノルマのグループリーグ突破を果たしたことでトルコ戦は「ボーナス」と言い、西澤明訓とアレックス(後の三都主アレサンドロ)を初スタメンに起用。しかし“奇策”は実らず0-1で敗退した。

幸いカタールW杯はほとんどがドーハ市内か近郊の都市で開催されているため、移動のストレスはない。そして当コラムでも指摘していたが、ドイツ戦とスペイン戦の行われたハリファ国際スタジアム(厳密にはドーハ郊外のアル・ラーヤンにある)は11年のアジアカップ決勝で、延長戦の末にオーストラリアを倒した縁起のいいスタジアムでもある。

当時のハリファ国際スタジアムは開催国のカタールがグループリーグで使用したため、日本は決勝までプレーすることはなかった。今大会ではラウンド16の1試合と3位決定戦しか使用されないため、日本がここでプレーするにはクロアチアとブラジル対韓国の勝者を撃破しなければならない。

そんなスタジアムの“験担ぎ”に頼らず、まずは実力でクロアチアを倒して欲しいところ。会場は初めてプレーするアル・ジャヌーブだが、条件はクロアチアも同じ。ノックアウトステージは延長、PK戦もあるだけに総力戦の戦いになることは間違いない。

唯一の気がかりは、前回のロシアW杯でクロアチアは決勝以外の3試合で3度の延長戦を経験していることだ(うち2試合はPK戦の勝利)。できれば日本は90分間で決着をつけたい。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた

関連ニュース

クラブライセンス取得で熱を帯びる昇格争い/六川亨の日本サッカー見聞録

Jリーグは9月26日の理事会後に記者会見を開いて、『シーズン移行』と『2024シーズンのJ1、J3ライセンス判定結果』について報告した。『ライセンスの判定結果』に関しては、すでに当サイトでも26日に報告済みだ。 J1ライセンスは新たに、いわき、藤枝、讃岐の3チームが取得し、合計49クラブとなった。ただし岩手、秋田、いわき、水戸、金沢、藤枝、鹿児島、琉球の8クラブはスタジアムに不備があり、「施設基準の例外適用申請」クラブとして今後の改善が求められている。 そして金沢は北陸初となる1万席(1万5千席まで拡張可能)の新フットボールスタジアムが9月末に竣工予定で、24年2月から供用を開始する。広島は市内の中央公園広場に約2万8500席の新フットボールスタジアムを建設中で、長崎も約2万席の新フットボールスタジアムを建設中だ。 こうした動きを踏まえて今シーズンのリーグ戦終盤を眺めてみると、J2リーグの藤枝は15位、いわきは19位と、自動昇格の2位以内に入る可能性はなく、J1昇格のためにはプレーオフ圏内の4位〜6位以内というのが目標となる。しかしながら両チームともにJ2残留も決まっていないだけに、リーグ終盤戦はこちらの方がより現実的な目標ではないだろうか。 J1昇格争いに関しては、11位の山形まで予断を許さない勝点差となっている。11チーム中8チームにJ1での経験があり、全クラブがライセンスを保有しているだけに昇格争いは今後ますます激化するに違いない。 そしてJ2リーグと同様にJ3リーグも混戦模様となっている。一時は愛媛(勝点54)が頭一つ抜けたかと思われたが、9月22日の第28節では鹿児島に0-2と完敗。鹿児島(同45)は2位に浮上し、さらに例外適用とはいえJ1クラブライセンスを取得したのだから、昇格へ向けて選手のモチベーションと地元の期待も高まっていることだろう。 さらに3位の今治(勝点44)はすでにJ2ライセンスを取得済みだし、4位のFC大阪(同43)と7位の奈良(同40)は現在J2ライセンスを申請中のため、上位2位以内に入れば昇格の可能性がある。5位の富山(同43)、8位〜10位の岐阜、松本、鳥取(同40)もJ2ライセンスは取得しているため、こちらも残り試合での大逆転を狙っている。 そうした中で唯一J2ライセンスを申請していないのが6位の沼津(勝点42)だ。ホームである愛鷹広域公園多目的競技場は観客席(5104人収容)、屋根、大型ビジョンなどがJ2基準に満たないため申請できずにいる。沼津としてはスタジアムを新設する方向で検討しているようだ。 26日の会見では、JFL所属の青森、新宿、三重、ヴェルスパ大分にもJ3クラブライセンスが交付され、10月の理事会でJリーグ入会が審査されることになった。また滋賀と高知については継続審議となった。現在のJFLは「アマチュアの門番」と言われるHondaが勝点42で首位に立ち、同じくアマチュアのソニー仙台(同32)が2位につけている。しかし3位・青森(同32)、4位・新宿(同31)、5位・V三重(同29)、6位・滋賀(同29)、7位・高知(同28)、9位・V大分(同28)と2位以下は大混戦だ。 上位陣で唯一Jのクラブライセンスを申請していないのは8位の浦安(勝点28)だが、浦安は今シーズン久しぶりにJFLへ復帰したばかり。シーズン序盤は勝ちきれない試合が続き下位に低迷していただけに、それも仕方のないことだろう。転機となったのは、都並敏史監督も敵わないと思っていた筑波大に天皇杯の1回戦で3-2と競り勝ったことかもしれない。6月以降は負け知らずで順位を上げてきた。高知も天皇杯2回戦でG大阪に2-1、3回戦では横浜FCに3-1とジャイアントキリングを演じたことが「選手の自信につながった」と西村昭宏GMは話していた。 Jはもちろんのこと、JFLも終盤に入り熱を帯びてきているのは間違いない。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2023.09.28 20:20 Thu

浦和の天皇杯参加資格が剥奪に/六川亨の日本サッカー見聞録

さて浦和である。JFA(日本サッカー協会)は19日の規律委員会で、8月2日の天皇杯4回戦の名古屋戦後、浦和サポーターによる管理規定違反行為(相手サポーターへの暴力・威嚇など)があったとして、浦和の24年度の天皇杯の参加資格剥奪とけん責(始末書の提出)という懲罰を決定した。 過去の天皇杯で、選手が出場停止処分を受けたことは何回もある。しかしチームが参加資格を剥奪されるのは初めてのことであり、前代未聞の出来事だろう。 かねてより、浦和の来年度の参加資格剥奪は噂されていた。なぜなら今年度はすでに敗退しているからだ。もしも勝ち進んでいたら、今年度に起きた不祥事だけに、出場資格の剥奪ということでケリをつけることができたかもしれない。しかし敗退しているし、ペナルティーをリーグ戦に持ち込むわけにはいかない。“落としどころ”として来年度の参加資格剥奪が浮上した。 ただ、以前にこのコラムでも書いたが、問題を起こしたのはサポーターであり、事前の警備体制と事後報告の認識が甘かったクラブスタッフの不手際であって、選手に罪はない。来シーズンは新たに移籍してくる選手もいることだろう。そうした選手の出場機会を奪うことにもなる参加資格剥奪ではなく、“無観客試合”を提案した。 しかしJFA規律委員会の下した判断はかなり厳しいものだった。その理由をHPで次のように解説している。 「これまでにも、対象者(注:浦和)のサポーターが引き起こした問題行動による懲罰事案は、Jリーグ及び天皇杯を含めて2000年以降だけでも11件にも上る。サポーターの問題行動が起こるたびに、対象者が、再発防止に向け、様々な取組みを行ってきたことは一定程度評価するものの、残念ながら、そのような取組みにもかかわらず、対象者のサポーターによる問題行動は繰り返され、それらの問題行動は改善を見せるどころか、本件のような集団的に暴徒化するという許されざる暴挙にまで至っている。このような実態を直視すると、対象者による取組みは十分ではなかったといわざるを得ず、対象者にさらなる猛省と実効性のある再発防止策の策定及び実施を促すには、これまでと同様に罰金の処分を重ねたとしても、十分な効果は得られないと考えられる。 さらに、対象者のサポーターによる問題行動に係るJリーグによる直近の懲罰事案(2022年7月)においては、対象者は、罰金2000万円の懲罰を科されるとともに、『対象者が再びサポーターの行為に起因する懲罰事案を発生させた場合、無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性がある』と強い警告を受けていた。本件はこの警告にもかかわらず発生したものである」 簡単に言えば、「サポーターの問題行動に対して効果的な取り組み・改善がなされていない」と浦和の処罰や再発防止策にJFAは“ノー”を突きつけたことになる。 JFAの処分を受けて、浦和は19日付けのリリース『浦和レッズサポーターによる違反行為について(第四報)』の■再発防止策2.で次のように報告している。 「発生した違反事案の内容に応じ、処分および処分解除決定の運用プロセスとして、クラブ内のコンプライアンス委員会(新設)および社外有識者による検討プロセスを追加いたします。新たな処分基準と同様、2023年10月までにコンプライアンス委員会構成メンバーおよび外部有識者の選定を行います」 この文章を読む限り、これまでは「処分および処分解除決定」は誰が運用してきたのか不明である。こうした責任の曖昧さが、ビッククラブゆえの腰の重さとも相まって、クラブとしての判断に“緩み”が出たのではないだろうか。 浦和には、JFAの「同じことを何度も繰り返すな」という警告をしっかりと受け止めて、実効性のある再発防止策の策定に取り組んで欲しい。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2023.09.21 20:00 Thu

日本代表の球技を見て感じたユニホームの不思議/六川亨の日本サッカーの歩み

アフリカにカーボベルデという国があることを知ったのは、今月上旬に日本で開催された男子バスケットボールのワールドカップだった。ちょっと新鮮な発見だった。日本はカーボベルデに80対71と競り勝ち、76年モントリオール五輪以来48年ぶりに五輪の出場権を獲得した。そして9日からはフランスでラグビーのワールドカップが開幕。日本は初戦でチリを圧倒したものの、イングランドには善戦及ばす今大会初黒星を喫した。さらに先週末からはパリ五輪予選を兼ねたバレーボールのワールドカップもスタートし、女子代表はペルーを一蹴するなど9月は“球技”の日本代表が大活躍である(もちろんサッカーも欧州遠征で2連勝と絶好調だった)。 そんな他競技の試合を見て、昔から疑問に思っていたことがある。ラグビーで対戦したチリは、赤いジャージに青のパンツと、伝統のユニホームだ。あの取り合わせを見ると、ついイバン・サモラーノを思い出してしまった。女子バレーボールでは、控えの選手が白地に赤タスキという、これもペルー伝統のユニホームを着ていた。 今年6月のキリンチャレンジカップで対戦した際のペルーは、オールレッドのユニホームだったが、やはりペルーといえば赤タスキだろう。残念ながらW杯は82年スペイン大会を最後に40年あまりも遠ざかり、前回カタール大会もオーストラリアとのプレーオフでPK戦の末に涙を飲んだ。 この南米2チームに限らず、ユニホームのカラーは基本的に国旗をベースに、サッカーだけでなく他の競技のユニホームも同じであることが多い。ところが日本は、競技によってユニホームのカラーも組み合わせばてんでバラバラだ。サッカーは“サムライブルー”の名の通り青がベースだし、ラグビーは横縞のラガーシャツになるのは当然として、ピンクと白の組み合わせで“桜のジャージ”と名称が変わる。日本の国旗に近いのはバレーボールのユニホームではないだろうか。 では、サッカー日本代表のユニホームがなぜブルーになったのか? 1992~94年の広島アジアカップからいわゆる“ドーハの悲劇”の時代、日本代表のユニホームは右肩と正面左側に波のような模様が入っていた。当時、JFA(日本サッカー協会)の広報に、「なぜ日本代表のユニホームはブルーが基調なのか」と質問した。すると、「確かなことはわかりませんが」と断った上で、「日本は四方八方を海に囲まれているからブルーになったと聞いています」と続けた。これらも“都市伝説”の類いかもしれない。 近年、サッカージャーナリストの後藤健生さんが、日本代表が編成された1930年代当時は東京帝国大学(現東京大学)の選手が多く、東京帝国大学のライトブルーのユニホームがそのまま日本代表のユニホームとして採用されたのではないかと推察した。実際、1936年のベルリン五輪1回戦で、優勝候補のスウェーデンに3-2の逆転勝利を収めた試合のユニホームが保存されており、こちらは襟と袖が白で、それ以外はライトブルーという組み合わせだ。 そして88年に横山謙三監督率いる日本代表が、国旗とおなじ赤を基調としてユニホームに変更したことがある。しかし赤のユニホームといえば、すでに韓国と中国が長年採用しているし、タイなど東南アジアも赤をホームカラーにしているチームが数多くある。このためオフトジャパンになって再び青を基調としたユニホームで今日に至っている。そして日本の球技団体が同じユニホームでプレーすることは、未来永劫ないだろう。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2023.09.19 10:00 Tue

日本代表、10月の2試合は国内組にもチャンスを/六川亨の日本サッカー見聞録

森保ジャパンはドイツに続きトルコも4-2と撃破した。日本はターンオーバーで、トルコは主力選手のケガなどで互いにベストメンバーではなかったものの、それぞれの“現在地”を確認できた、有意義な試合だったのではないだろうか。トルコは途中交代でインテルのMFチャルハノールが中盤に入ることで、細かい動き直しによりパスワークがスムーズになった。今シーズンからレンヌへ加入したCFユルドゥルムは、ストライカーらしい気の強さがうかがえたし、こぼれ球をきっちり決めて結果を残した。2人とも新シーズンの活躍が楽しみな選手でもある。 そんな日本対トルコの試合以上に気になったのが、U-22日本対U-22バーレーンの試合だった。日本は勝てばもちろん、引分けでも来年4月にカタールで開催されるパリ五輪アジア最終予選に進出できる。しかしバーレーンは伝統的に背が高く、フィジカルコンタクトの強い難敵だ。試合は日本が押し気味に進めながらもゴールを奪えず0-0のドローで終了。この結果、日本は2勝1分けで堂々のグループD首位通過を果たした。 むしろ意外だったのは、初戦でパレスチナがバーレーンに1-0と勝ったことだ。FIFAランクも94位と低い。ただ、パレスチナは2015年にオーストラリアで開催されたアジアカップに初出場すると(グループリーグで日本に0-4)、続く19年のカタールでのアジアカップにも連続して出場するなど、近年は急速に力をつけているようだ。今年11月から始まるW杯アジア2次予選では、どんな波乱があるのかこちらも楽しみである。 その日本代表についてである。10月は13日に新潟でカナダと、17日には神戸でチュニジアと対戦する。そして約1ヶ月後の11月16日、吹田でのミャンマーとマカオの勝者との対戦でW杯予選がスタートする。21日にはアウェーでのシリア戦も控えている(場所は未定)。 10月の2試合は“壮行試合”となるだけに、森保一監督もベストメンバーで臨みたいだろう。チケットを購入したファンはもちろんのこと、テレビで観戦するファンも、中継するテレビ局も、スポンサーとなる企業も三笘薫や久保建英らベストメンバーでの試合を期待するはずだ。実際、日本は海外組を抜きにしてチーム編成ができなくなっている。しかし、国内での2試合だけに、今回の海外遠征のように多くの海外組を招集する必要があるのかどうか一考の余地があるのではないだろうか。少なくともケガをしている選手には無理して招集する必要はないと思う。 例えば今回は招集されながらも何らかの理由で起用されなかった森下龍矢や、6月は招集されたもののケガで辞退した川村拓夢らを再招集して、国内組のセカンドグループの底上げを図るのはどうだろうか。同時期にはU-22日本も海外遠征が予定されているが、五輪チームとの融合を図りつつ選手層の拡充に充ててもいいだろう。ネックとなるのは、時期的に国内もJリーグは優勝争いと残留争いで佳境を迎えていること。このためチームによっては選手を出したくないと思うかもしれない。 それでも、現在の代表の1トップに大迫勇也がいたら日本の攻撃陣はどうなるのか。見てみたいと思うのは私だけだろうか。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2023.09.14 18:30 Thu

町田の躍進で期待したいこと/六川亨の日本サッカー見聞録

Jリーグも今シーズンは約2ヶ月を残すのみとなった。J1は神戸と横浜FMが激しいつばぜり合いをしているが、J2では昨シーズン15位の町田が2位の磐田に勝点9差で独走態勢に入りつつある。昨シーズンのオフには大型補強により多くの選手が入れ替わった。新監督に元青森山田高校の黒田剛氏を招聘し、さらにヘッドコーチには元鳥栖監督の金明輝氏をヘッドハンティングした。 選手が大幅に入れ替わったことと、指導体制が一新されたことで開幕前は先行きを不安視する声もあったが、手堅いサッカーで結果を出すことにより初のJ1昇格へまい進している。エリキとミッチェル・デュークというJでも実績のある選手に加え、シーズン中には東京ヴェルディから教え子のバスケス・バイロンを引き抜くなど戦力補強に余念がなかった。 さらに8月19日には得点ランク1位(当時)だったエリキが左膝前十字じん帯断裂など全治8ヶ月の重傷で離脱を余儀なくされた。 余談ではあるが、神戸の齋藤未月も全治1年の重傷を負った。確たるデータがあるわけではないが、今シーズンは大けがを負う選手が多いような印象がある。シーズン移行の監督会議では、「夏場のケガと冬場のケガでの特徴や違いはあるのか」といった質問が出たという。酷暑による疲労から注意力が散漫になったことが大けがにつながったのか。大けがにもかかわらず、主審は笛を吹かなかった原因はどこにあったのかなど、今後の検証に期待したい。 町田に話を戻すと、得点源の離脱はかなりの痛手だろう。ところが9月5日、武漢からアデミウソンを完全移籍で獲得した。移籍ウィンドウの閉まる3日前の早業だった。 飲酒運転で日本を離れなければならなかったが、シティ・グループのお眼鏡にかなって横浜FM入りしただけに、その実力は折り紙付き。2016年から20年まではG大阪に所属し、16年と19年にはチーム内最多得点者となっている。そんな実力者を2週間ほどで獲得した町田の資金力とフロントの決断の早さは、神戸や横浜FMと変わらないと言っていいだろう。 町田の残り9試合で厄介なのは5位の長崎と、10位ながらプレーオフ進出に手の届く甲府くらい。残りの7チームの多くは残留争いをしているだけに、油断さえしなければJ1昇格は1試合ごとに近づいてくるはずだ。 むしろ楽しみなのは昇格した際の補強と言える。J1でも当然のことながらリーグ優勝を目標にするだろう。その際にどのようなビッグネームを獲得するのか。そしてそれが、楽天やメルカリ、MIXI、DMM TVがスポンサードする神戸、鹿島、FC東京、福岡といったチームにどのような相乗効果をもたらすのか、こちらも興味深いところである。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2023.09.07 20:00 Thu
NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly