「代表選出で気負い過ぎている…」から一転、京都戦で50m独走弾。速さと強さで違い示す/川村拓夢(サンフレッチェ広島/MF)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.13】
2023.06.05 19:30 Mon
「(サンフレッチェ)広島でJリーグのトップグループで戦っていて、チームのダイナモとして、攻守ともに幅広くプレーに関わりながら存在感を発揮している。特に守備から攻撃に移った時のダイナミックな動きから、自らペナルティボックスに入っていけるし、ミドルシュートも打てる。周りも活かせる。アグレッシブなプレーで違いを見せている」
森保一監督から日本代表6月シリーズ初選出の理由をこう評された23歳の若武者・川村拓夢。2019〜2021年にかけて広島からJ2・愛媛FCにレンタルされていた男が、2022年の大ブレイクによってA代表に上り詰めたのは、ある意味、驚きに値する出来事だったと言えるだろう。
本人もそういう認識なのか、「代表に選ばれたことで、どうしても気負い過ぎているというか、最近、自分のプレーができなくなってしまっている」と5月31日の浦和レッズ戦後に顔を曇らせていた。
実際、この日は森保監督が直々に視察に訪れた重要ゲームだったが、川村は同タイプのボランチ・伊藤敦樹(浦和)とマッチアップし、良さを消され、彼に1ゴール1アシストという目覚ましい活躍を見せつけられてしまったのだ。「本当に僕がやりたいプレーを伊藤選手にやられてしまったなという感じです」と心底、悔しがっていた。
圧巻だったのは、2-1で迎えた後半ロスタイムの3点目。ハーフウェーライン手前でボールを奪った川村は3人のDFを次々とかわしてドリブルで独走。50mを一気に持ち上がり、GK太田岳志の位置をしっかりと見て、左足を豪快に振り抜き、ゴール左隅に突き刺したのだ。
これはオフサイドの疑いがあり、VAR判定へと持ち越されたが、最終的には認定。彼の今季リーグ3点目とともに広島が2試合ぶりの白星を飾ったのである。
このプレーこそが、森保監督の言う「守備から攻撃に移った時のダイナミックな動きから、自らペナルティボックスに入っていけるし、ミドルシュートも打てる」というストロングなのだろう。
確かに、これだけの推進力と決定力を備えた選手は今の日本代表には少ない。しかもボランチと2列目を柔軟にこなせるレフティでもある。中盤の複数ポジションを担える点では鎌田大地(フランクフルト)と共通するが、技巧派の鎌田は川村ほどの強さと迫力はない。遠藤航(シュツットガルト)と比較しても、川村の方がより攻撃的にプレーできる。代表MF陣に新たなエッセンスをもたらせる新星と言ってもよさそうだ。
才能は間違いなく今の主力たちに負けじとも劣らないが、懸念材料があるとすれば、大舞台に慣れていない点ではないか。川村は広島アカデミー時代からそこまで注目された存在ではなく、プロ入り後も地味なキャリアを過ごしてきた。だからこそ、日の当たる場所にあまり行ったことがない。今回のA代表初選出で本来の自分を一時的に出せなくなってしまったのも、メンタル的な部分によるところが大だろう。
6月12日からスタートする日本代表合宿には、今をときめく三笘薫(ブライトン)を筆頭に堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)のような自分の意見を遠慮なく口にできる面々がひしめいている。川辺駿(グラスホッパー)や大迫敬介(広島)とは共闘経験があるというものの、森保監督とも「ほとんど『初めまして』に近い状態」で、未知なる世界に身を投じることになる。
しかも、メディアやファンの数も広島にいる時とは比べ物にならない。そういった物々しい環境に戸惑うようだと日本を背負って戦い抜くことはできない。まずは堂々と自分を出し切るところからスタートしてもらいたい。
6月シリーズは15日のエルサルバドル戦(豊田)と20日のペルー戦(吹田)の2試合。1シーズンを戦い抜いた直後の欧州組は疲労があるため、プレー時間が制限されると見られる。その分、国内組にはチャンスが訪れるはずだ。
川村がボランチ、2列目のどちらで起用されるのか、誰と組むのかも全くの未知数だが、ピッチに立つ機会が訪れたら、持ち前のダイナミックさとアグレッシブさを遺憾なく発揮すべき。それが代表定着への第一歩となる。
大器の予感を漂わせる男には、見る者の度肝を抜くパフォーマンスを示し、強烈なインパクトを残してほしいものである。
【文・元川悦子】
本人もそういう認識なのか、「代表に選ばれたことで、どうしても気負い過ぎているというか、最近、自分のプレーができなくなってしまっている」と5月31日の浦和レッズ戦後に顔を曇らせていた。
実際、この日は森保監督が直々に視察に訪れた重要ゲームだったが、川村は同タイプのボランチ・伊藤敦樹(浦和)とマッチアップし、良さを消され、彼に1ゴール1アシストという目覚ましい活躍を見せつけられてしまったのだ。「本当に僕がやりたいプレーを伊藤選手にやられてしまったなという感じです」と心底、悔しがっていた。
しかしながら、この屈辱を糧にすぐさま結果を出せるのが、今の川村だ。浦和戦から中3日で迎えた6月4日の京都サンガF.C.戦。同じくA代表初選出の川﨑颯太との直接対決ということで注目される中、背番号8をつけた男は2シャドウの一角で先発。代表指揮官が高評価したアグレッシブさを前面に押し出し、強烈なインパクトを残し続けたのだ。
圧巻だったのは、2-1で迎えた後半ロスタイムの3点目。ハーフウェーライン手前でボールを奪った川村は3人のDFを次々とかわしてドリブルで独走。50mを一気に持ち上がり、GK太田岳志の位置をしっかりと見て、左足を豪快に振り抜き、ゴール左隅に突き刺したのだ。
これはオフサイドの疑いがあり、VAR判定へと持ち越されたが、最終的には認定。彼の今季リーグ3点目とともに広島が2試合ぶりの白星を飾ったのである。
このプレーこそが、森保監督の言う「守備から攻撃に移った時のダイナミックな動きから、自らペナルティボックスに入っていけるし、ミドルシュートも打てる」というストロングなのだろう。
確かに、これだけの推進力と決定力を備えた選手は今の日本代表には少ない。しかもボランチと2列目を柔軟にこなせるレフティでもある。中盤の複数ポジションを担える点では鎌田大地(フランクフルト)と共通するが、技巧派の鎌田は川村ほどの強さと迫力はない。遠藤航(シュツットガルト)と比較しても、川村の方がより攻撃的にプレーできる。代表MF陣に新たなエッセンスをもたらせる新星と言ってもよさそうだ。
才能は間違いなく今の主力たちに負けじとも劣らないが、懸念材料があるとすれば、大舞台に慣れていない点ではないか。川村は広島アカデミー時代からそこまで注目された存在ではなく、プロ入り後も地味なキャリアを過ごしてきた。だからこそ、日の当たる場所にあまり行ったことがない。今回のA代表初選出で本来の自分を一時的に出せなくなってしまったのも、メンタル的な部分によるところが大だろう。
6月12日からスタートする日本代表合宿には、今をときめく三笘薫(ブライトン)を筆頭に堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)のような自分の意見を遠慮なく口にできる面々がひしめいている。川辺駿(グラスホッパー)や大迫敬介(広島)とは共闘経験があるというものの、森保監督とも「ほとんど『初めまして』に近い状態」で、未知なる世界に身を投じることになる。
しかも、メディアやファンの数も広島にいる時とは比べ物にならない。そういった物々しい環境に戸惑うようだと日本を背負って戦い抜くことはできない。まずは堂々と自分を出し切るところからスタートしてもらいたい。
6月シリーズは15日のエルサルバドル戦(豊田)と20日のペルー戦(吹田)の2試合。1シーズンを戦い抜いた直後の欧州組は疲労があるため、プレー時間が制限されると見られる。その分、国内組にはチャンスが訪れるはずだ。
川村がボランチ、2列目のどちらで起用されるのか、誰と組むのかも全くの未知数だが、ピッチに立つ機会が訪れたら、持ち前のダイナミックさとアグレッシブさを遺憾なく発揮すべき。それが代表定着への第一歩となる。
大器の予感を漂わせる男には、見る者の度肝を抜くパフォーマンスを示し、強烈なインパクトを残してほしいものである。
【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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