【2022年カタールへ期待の選手vol.112】大迫勇也に再び暗雲が立ち込める中、森保監督は大ベテランに日本代表を託すのか?/岡崎慎司(シントトロイデン/FW)

2022.08.29 22:00 Mon
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©STVV
2022年カタール・ワールドカップ(W杯)の日本代表の初戦・ドイツ戦(11月23日)まで3カ月を切った。森保ジャパンに残された強化の場は9月23・27日のアメリカ・エクアドル2連戦(デュッセルドルフ)だけ。そのメンバーは9月14日発表予定だが、指揮官も本番を見据えた26人で挑む思惑のようだ。

そこで満を持して復帰すると見られていたのが絶対的FWの大迫勇也(神戸)。しかし、8月18日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16の横浜F・マリノス戦で先発した後、再びケガが悪化。8月28日の神戸の全体練習に参加しておらず、9月3日の京都サンガF.C.との下位直接対決を回避せざるを得ない状況のようだ。当面の公式戦に出られないとなると、9月の代表2連戦帯同も絶望的。本番での大迫不在がいよいよ現実味を帯びてきたと言っていいだろう。

6月シリーズでは、浅野拓磨(ボーフム)、古橋亨梧前田大然(ともにセルティック)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)の4人がテストされたが、ブラジル、チュニジアといったW杯出場国相手にゴールへの道筋を見出せなかった。森保一監督の評価が一番高い浅野は近年フィジカルが強くなり、前線で起点を作れるようになってはきたが、今季ドイツではノーゴールにとどまっている。古橋と上田はそれぞれのクラブで得点したが、W杯でドイツやスペインと対峙することを考えると、彼らに1トップを任せるのはリスクが高い。
そこで浮上するのが、岡崎慎司(シント=トロイデン)ではないか。

36歳のベテランFWはご存じの通り、8月19日に同クラブと正式に契約し、20日のオーステンデ戦でいきなり先発フル出場を果たした。この試合では香川真司と2トップを組んだが、しばらく公式戦から遠ざかっていたとは思えないほど動きにキレがあり、得意の裏への飛び出しも何度か見せていた。前線からの守備やタメを作る動きも日本代表常連だった頃と変わりない印象だった。ゴールこそ奪えなかったものの、「岡崎ここにあり」を色濃くアピールしたと言っていい。

続く27日のメへレン戦も連続スタメンでピッチに立ち、今回はケガから復帰した林大地と2トップを組んだ。香川を含めた3人の距離感がよく、岡崎も何度かゴール前に飛び出していた。ジャンニ・ブルーノが奪った2点目の場面も最初のシュートに岡崎も反応していて、背番号30のゴールになっていてもおかしくなかった。さすがかつてドイツ・ブンデスリーガで2シーズン年連続2ケタゴールを奪った選手。前線での嗅覚は衰えていない。2戦続けてフル出場したところを見ても、体力的には全く問題なさそうだ。

「もともと自分が海外に行ったのは、代表で活躍するため。世界で戦うためには海外にいないとアカンと考えて、2011年に出ていった。だから、俺の中では日本に帰るのは、代表を降りることと同じだと思ってます」

昨年11月のインタビュー時にこう語っていた岡崎。今回のシント=トロイデン入りも「カタールW杯行きの可能性が少しでもあるなら、それに賭けたい」と考えたからだろう。ちょうど、森保監督も24日から渡欧しており、欧州組を視察している。代表のコアメンバーの1人と目されるシュミット・ダニエルがいる同クラブには近日中に訪れるだろうし、岡崎本人とも話をするのではないか。その会談と今後のパフォーマンス次第では、逆転メンバー入りもないとは言い切れないのだ。

「森保さんの中ではたぶん、FWってポジションじゃなくて、大迫という人間をその位置に据えてきたんだと思うんですよ。『サコを外して古橋を先発にしたらどうか』という意見もあるけど、そういう考えがあるならもっと前にやっていたんじゃないかな。仮にサコがダメだったら、ゴール前で体を張れるタイプの人間が呼ばれる。そういう意味では、自分にもまだチャンスがあるのかなとは思いますけどね」

彼はこんな話もしていたが、まさに今の日本代表に足りないのは最前線でターゲットになれる人材だ。しかも、ドイツ、イングランド、スペインで戦い抜いてきた百戦錬磨の岡崎ならその大役を託すに値する。

未知数な若手を選ぶのか。それとも計算できるベテランに代表を任せるのか…。

森保監督は今、大きな岐路に直面していると言っても過言ではないのだ。

岡崎が最後に代表に来たのは2019年のコパ・アメリカ(ブラジル)。あれから3年以上の時が経過し、当時はサブだった伊東純也(スタッド・ランス)や大学生だった三笘薫(ブライトン)がエース級になった。田中碧(デュッセルドルフ)や東京五輪世代とのプレー経験も少ないが、コパ・アメリカに参戦していた板倉滉(ボルシアMG)や久保建英(レアル・ソシエダ)らと面識があり、すぐに合わせられる関係性があるのは強みだ。

しかも、明るくオープンなキャラクターはチームを前向きにしてくれる。そういう人材だからこそ、指揮官も最後の最後まで悩むのではないか。

いずれにしても、岡崎がやるべきなのは、早く新天地初ゴールを挙げること。数字で人生を切り開いてきた男にはその重要性が誰よりもよく分かっているはずだ。

さしあたって9月3日の次戦の相手はベルギー1部首位を走るヘンクが相手。そこで目に見える結果を残せば、風向きも大きく変わるかもしれない。そういう期待を込めて、大ベテランの一挙手一投足を見守りたい。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。

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「代表選出で気負い過ぎている…」から一転、京都戦で50m独走弾。速さと強さで違い示す/川村拓夢(サンフレッチェ広島/MF)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.13】

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U-20日本代表で数少ない南米経験者。環境適応力を武器にゴールを取りまくる!/熊田直紀(FC東京)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.11】

5月21日(日本時間22日)の初戦・セネガル戦を皮切りに、U-20ワールドカップ(W杯)のタフな戦いに挑むU-20日本代表。 今回は本番1か月前に開催国がインドネシアからアルゼンチンに変わるという予期せぬ事態に見舞われたが、冨樫剛一監督は「世界一の目標は下げません。今の若い選手たちは夢じゃなく目標として世界一を語っている。本気で目指します」と強調。小野伸二(札幌)や高原直泰(沖縄SV)ら傑出したタレントを揃えた99年ナイジェリア大会でも手の届かなかった頂点に上り詰めるべく、貪欲にトライしていく構えだ。 8、9日に2段階で発表されたメンバー21人は3月のAFC・U-20アジアカップ(ウズベキスタン)に参戦した面々がベース。欧州組のチェイス・アンリ(シュツットガルト)と福井太智(バイエルン)、福田師王(ボルシアMG)の3人が加わったものの、既存戦力中心の陣容と言っていい。 ただ、FW陣を見ると、主力の1人と位置づけられる坂本一彩(岡山)は長期離脱で4〜5月の公式戦に一度も出ていない。 エースナンバー10をつける北野颯太(C大阪)も公式戦でいまだ得点を奪えておらず、プロの壁にぶつかっている印象だ。 9日に追加招集された福田もこのチームではほとんどプレーした経験がなく、コンビネーションの部分で不安は拭えない。国際経験ではアドバンテージはあるものの、やはり未知数なのは確かだ。 彼らに比べると、3月のアジアカップで5ゴールを挙げて大会得点王に輝いた熊田直紀(FC東京)は計算できそうな存在だ。今季FC東京ではJ1・1試合、YBCルヴァンカップ3試合に出場しただけだが、3月26日の京都サンガF.C.戦でゴールを奪っている。長友佑都、森重真人らとともに日々、強度の高いトレーニングを積めているのもプラス要素だろう。 もう1つ、大きいのはU-20代表のキャプテン候補・松木玖生と共闘している点。フィジカル・メンタルに秀でる1つ年上のMFが近くにいることで、熊田は実力を発揮しやすい環境にいるのは確かだ。 「玖生君とはよく喋るし、ピッチに入ったら自分のことをしっかり見てくれるんで、すごく大きな存在だと思います」と熊田もしみじみ言う。2人の連係を冨樫監督も心強く感じているに違いない。 2004年生まれの熊田は福島県出身。エストレージャスFCに所属していた小学校6年の時に出場したフットサルの全国大会・バーモントカップでFC東京のスカウトの目に留まり、中学進学と同時にFC東京U-15むさし入り。中学3年の時にはクラブユース所属選手のオールスター戦に当たるメニコンカップ2019・日本クラブユースサッカー東西対抗戦にも参戦。イースト唯一のスコアラーにもなっている。 同年にはU-15日本選抜の一員としてブラジルにも遠征。今回ともにメンバーに名を連ねた松村晃助(法政大)とともに貴重な南米経験を積んでいる。ご存じの通り、翌2020年からのコロナ禍で彼らの世代は2年以上、海外遠征に行けなかった。北野や坂本ももちろん南米には行っていない。それだけに、熊田の経験値は大きな強みになるはずだ。 「開催地がアルゼンチンに変わって、飛行機がちょっとしんどいなと思いました(苦笑)。南米は芝とかグランドのコンディションが日本より全然悪いと思うので、そこにしっかりチームとして合わせていくことが大事ですね」 本人もこうコメントしていたが、丸1日がかりの長距離移動に時差、ガタガタのピッチに雑草のような長い芝生というのは、整った環境で育ってきた日本の若者たちにとって相当な負担だろう。その厳しさを身を持って経験してきた熊田のタフさと逞しさはイザという時に頼りになる。口数は多くない男だが、ピッチ上で大暴れしてくれれば理想的である。 「(U-20W杯で対戦するセネガル、コロンビア、イスラエルは)アジア予選で戦った相手よりも強く速い相手が揃っていると思う。自分としてはフィジカルが強みだと思っているので、そこで負けないようにしたい。今の日本は個々で剥がせる選手がサイドに多いんで、クロスの攻めも増えてくる。自分はヘディングも武器なんで生かしてゴールを奪えるようにしたいです」と本人も明確に自分の役割を描いている様子だ。 フィジカルに長けたセネガル、ボール扱いや球際のバトルに秀でるコロンビア、欧州2位のイスラエルは難敵揃いだが、彼らを倒さなければ先はない。本気で世界一をつかみにいくつもりなら、熊田がゴールという結果を残して、チーム全体を引っ張らなければいけない。アジアカップ得点王にはそれだけの重責が託されるのだ。 柳沢敦(鹿島ユース監督)や高原、堂安律(フライブルク)、久保建英(レアル・ソシエダ)といったU-20W杯を経てA代表、海外へと羽ばたいた先輩の系譜を継ぐべく、銀髪にイメチェンした187㎝の大型FWには大ブレイクを期待したいものである。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.05.09 21:00 Tue
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2026年北中米W杯を本気で狙う! U-22代表期待の大学生FWが見据える「三笘ロード」/佐藤恵允(明治大学)【新しい景色へ導く期待の選手/vol.10】

2024年パリ五輪まであと1年あまり。新型コロナウイルス感染拡大で1年延期となった東京五輪とは違い、日本代表の強化期間は3年しかない。 2021年12月の大岩剛監督就任後、2022年6月のAFC U-23アジアカップ(ウズベキスタン)や同年9・11月、2023年3月の3度の欧州遠征などに赴いて強化を続けているが、フルメンバーのA代表を経験したのはバングーナガンデ佳史扶(FC東京)と半田陸(G大阪)くらいだ。 攻撃陣の方は2022年カタールW杯の主力だった伊東純也(スタッド・ランス)、鎌田大地(フランクフルト)、三笘薫(ブライトン)、堂安律(フライブルク)ら欧州組がひしめいており、若手アタッカー陣にとっては非常に高い壁というしかない。 とはいえ、本当の勝負は3年後。現時点でA代表経験がなかったとしても、突き抜けてくる人材がいないとも限らない。我々の全く予期せぬ人材が頭角を現すかもしれない。98年フランス大会一世を風靡した中田英寿、2002年日韓大会で2ゴールをマークした稲本潤一(南葛SC)、2010年南アフリカ大会で世界の度肝を抜いた本田圭佑といった過去のスターたちも、W杯3年前の時点では数多くいる候補の1人でしかなかったのだ。 今やトップスターに上り詰めた三笘にしても、3年前の2019年は筑波大学の学生だった。川崎フロンターレでプロキャリアをスタートさせたのは2020年。最初は体力面や守備力の課題に直面し、先発で使ってもらえないことが多かった。A代表デビューは東京五輪後の2021年11月のオマーン戦(マスカット)。それからわずか1年あまりで日本のエースに躍り出たのだから、凄まじい成長曲線には驚かされるばかりだ。 その「三笘ロード」を歩もうとパリ世代の面々も虎視眈々と狙っているに違いない。 候補者筆頭と目される1人が、目下、明治大学4年の佐藤恵允(けいん)だろう。大学2年だった2021年11月にU-22日本代表の1人として1月のAFC U-23アジアカップ予選(福島)に参戦してから、彼はコンスタントに日の丸を背負ってきた。大岩監督就任後も昨年のウズベキスタン、9月の欧州遠征に参戦。今年3月のU-22ドイツ・ベルギー2連戦にはいずれも出場し、2戦連発という離れ業をやってのけたのだ。 そして4月23〜26日にかけて行われたU-22代表候補合宿にも参加。今回は新顔18人を加えた28人での活動となったが、実績面で頭抜けている佐藤の存在感は圧倒的で、最終日の11対11の紅白戦でもゴール。常連メンバーの意地とプライドを見せつけた。 「僕はこれまで代表にコンスタントに選ばせていただいている身。今まで積み重ねてきたシームレス(な攻守の連動)だったり、インテンシティってところを自分が示していかないといけない。それに攻撃の選手なんで、得点に絡む仕事をしないと生き残っていけない。そこはもっと磨いていきたいです」と本人は強調していたが、最後まで高い意識を見せつける形になった。 コロンビア人の父、日本人の母を持つ佐藤は2001年7月生まれ。東京都世田谷区出身で、実践学園高校から2020年に明治大学に進んだ。明治では入学当初は試合に出られず、苦い思いも味わったというが、栗田大輔監督から口を酸っぱくして言われた「人間性の部分」を大事にしながら、ここまで這い上がってきたという。 「自分の中で大学に入ってからテーマにしていたのは『素直な気持ち』と『謙虚さ』。あとは『気を使える選手』になりたいと思って、ここまで努力してきました」 「まずは人の意見を聞いて、それが自分にとって必要なのかどうかを考え、噛み砕いて落とし込んでいく。その作業が大切だとすごく感じたし、それを繰り返してきました」 「1つの例が守備。明治に入った頃は守備が全然ダメだと言われて悩んだんですけど、今では自分の特徴になっている。大岩監督も前線からチームを助ける泥臭い守備と対人の強さが評価されて、ここに呼んでもらっていると思います」と佐藤は大学生らしい冷静かつ客観的な分析力で自己評価をしてみせた。 こういった表現力の高さは三笘に通じる部分がある。サイドアタッカーでドリブル突破が武器という共通点もあるため、「ネクスト三笘」という呼び声も高い。 「三笘さんは同じ大学経由の選手というのもありますし、ポジションも同じ。1対1の仕掛けとか相手との駆け引きが非常にうまいんで、すごく参考になります。自分は1年後のパリ五輪に行って、2026年北中米W杯に出るのが目標ですけど、そのためには三笘さんを超えないといけない。そうなるような日々の積み重ねをしていかないといけないと思っています」と彼は語気を強めていた。 壮大な夢を現実にするためにも、明治大学からどういうルートを歩むかが肝心。彼のところには数多くのJクラブからオファーが殺到しているが、本人は「プロ1年目で活躍できる環境」というのを第一に選択していくつもりだ。 確かに今のA代表の軸を担う伊東、守田英正(スポルティング・リスボン)、三笘ら大卒選手たちはプロ1年目から圧倒的なインパクトを残していた。そういう人材でなければW杯に行けないということだ。 賢い佐藤は厳しい現実をよく分かっているはず。まずは最適な進路を選択し、U-22代表での地位を固めていくことが肝心である。ここからの飛躍が大いに楽しみだ。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.04.27 18:30 Thu
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セネガル、コロンビア、イスラエルと同組。U-20W杯で貴重なJ経験を発揮したい山根陸【新しい景色へ導く期待の選手/vol.9】

5月20日の開幕1カ月前に、突如として開催地がインドネシアからアルゼンチンに変わるという前代未聞の事態が起きた2023年U-20ワールドカップ(W杯)。その組み合わせ抽選が21日に行われ、日本はセネガル、コロンビア、イスラエルと同組に入った。 21日の初戦、24日の第2戦・コロンビア戦はブエノスアイレスから近郊のラプラタが会場で、27日の第3戦・イスラエル戦はチリ国境に近いメンドーサに移動することになる。 とはいえ、年代別代表を含めた日本代表がアルゼンチンで国際大会を戦うのは、2001年U-20W杯(当時はワールドユースと呼ばれていた)以来。2011年コパ・アメリカも当初、参加予定だったが、東日本大震災のためにキャンセル。それだけ日本サッカー協会(JFA)の経験値が乏しいということだ。 22年前のU-20W杯の1次リーグの会場はロサリオで、JFAの小野剛技術委員会副委員長がコーチを務めていたが、当時とは環境や国情も大きく変化していると見られるため、やはり不安要素は少なくない。 「時差調整には通常、1時間当たり1日を要すると言われています。-2時間のインドネシアだったら問題はないのですが、アルゼンチンの場合は-12時間。できれば10日は現地で調整したいところです。が、5月12〜14日のリーグ戦前の選手招集は難しい。頭の痛いところです」と冨樫剛一監督は頭を抱えていた。 しかも、今回のメンバーである2003〜2004年生まれの面々はコロナの影響でユース年代での海外経験が極端に少ない。JFAエリートプログラムU-14やUー15日本代表などで欧州やUAEなどに遠征経験のある北野颯太(セレッソ大阪)も「南米は行ったことがない」と話していた。 「彼らの世代は何も知らない分、思い切って戦える」と冨樫監督も前向きにコメントしていたが、未知なる戦いになるのは間違いない。 3月のAFC U-20アジアカップ(ウズベキスタン)で副キャプテンとして主将の松木玖生(FC東京)をサポートしつつ、中盤を精力的に支えた山根陸(横浜F・マリノス)にとっても、今回が事実上の国際舞台デビューとなるのだ。 「対戦相手はレベル高い国ばかり。イスラエルは欧州で準優勝しているし、未知なる国。コロンビアも昨年のモーリス・レベロ(・トーナメント=フランス)でやられている。セネガルはA代表含めて身体能力が非常に高い。本当に楽しみですし、こういう強い相手とやるために頑張ってきたので、自分たちの積み重ねてきたものをぶつけて、全力で勝ちにいきたいなと思います」と彼は力を込めていた。 U-20代表でもボランチを主戦場とする彼だが、最近の横浜FMでは右サイドバック(SB)でプレーする機会が多い。持ち前の冷静さや戦術眼、攻撃センスを武器に、4月8日の横浜FCとのダービー、15日の湘南ベルマーレ戦などでは良い味を出していた。 しかしながら、22日の首位・ヴィッセル神戸との大一番では、ドリブル突破に秀でる汰木康也とのマッチアップに苦戦。前半19分には自身のヘッドでのバックパスが大きくなり、GK一森純がコントロールできず、汰木に飛び出されて決められるというミスを犯してしまった。 「汰木選手がどこを通るのか、自分の近くを通るのか、外を回られているのかとかが全然分からなかったですね。あのシーンは前にしっかりクリアしておくべきだったと思います」と本人は反省しきりだった。 しかも9分後の大迫勇也の2点目も、山根が汰木にクロスを上げさせた結果、決められている。2失点に絡むというのは本人にとってもショックが大きかったが、タテ関係を形成する水沼宏太らが声をかけてくれたことで奮起。気を取り直すことができた。 そこから山根は勇敢さとアグレッシブさを取り戻し、前への推進力を出せるようになる。横浜前半のうちに2点のビハインドを跳ね返して同点に追いついたこともメンタル的には大きかったのだろう。そして最終的にはアンデルソン・ロペスの決勝点が生まれ、3-2で逆転勝利。19歳の若武者も心から安堵した様子だった。 「『迷惑をかけたな』という気持ちが大きいですね。この経験が後になっていい学びだったと思えるようにつなげていくしかないです。U-20W杯に行ってもうまくいかない時間帯というのは必ずある。神戸戦で後半立て直せたように、早い段階で修正することが重要だと思います。この試合で周りが僕を助けてくれたように、自分がチームメートを助けられるようにならないといけないと思います」 山根は神妙な面持ちで語ったが、同年代ではリーダー格の彼は声出しや統率力で仲間を鼓舞しなければいけない立場。そう自覚できたことは大きいと言っていい。 ポジションに関してはボランチがメインだろうが、屋敷優成(大分)以外の右SB要員が手薄ということもあり、U-20W杯でもクラブと同じようにこの位置で起用される可能性もある。その場合、汰木のように突破力のある相手を確実に封じることが肝要。神戸戦の教訓が必ず生きてくるはずだ。 2017年韓国大会の後には堂安律(フライブルク)、2019年ポーランド大会の後にも菅原由勢(AZ)や中村敬斗(LASKリンツ)らが欧州クラブからオファーを受け、海外挑戦に踏み切り、数年後のA代表入りをつかんでいる。U-20W杯というのはそれだけ重要度の高い大会なのだ。山根も「目の前に転がるビッグチャンスをつかみ取るんだ」という貪欲さと泥臭さを強く押し出すべき。目の色を変えて突き進む彼の姿をぜひ見たい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.04.24 13:30 Mon
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