コロナ禍に見舞われたFC東京の気になるベテラン選手/六川亨の日本サッカーの歩み

2022.03.07 20:45 Mon
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J1リーグは3月6日に8試合を行い、浦和とFC東京がシーズン初勝利をあげた。ACL出場のため過密日程の浦和は、決定機を作りながらも相手GKの好守やシュートミスなどから1分け3敗とスタートダッシュに失敗。しかし湘南戦はエースの江坂任の先制点に続き、後半は交代出場で今シーズン大宮から移籍してきた左SB馬渡和彰が貴重な追加点を奪って勝利を決定づけた。

FC東京は2月18日の開幕戦で川崎Fに0-1で敗れると、その後は新型コロナウイルスの感染により第2節の名古屋戦とルヴァン杯第1節の磐田戦が中止。その後もクラスターに見舞われ選手・スタッフの計25人が感染するなど活動休止に追い込まれた。
C大阪戦の試合前日の会見でもアルベル監督は「まだ3~4人が戻れていない」という状況で、全体練習ができたのも1日だけだった。しかしC大阪戦では4-3-3の3トップが高い位置からプレスをかけてC大阪のビルドアップを阻止。そして前半23分、ルーキーMF松木玖生が素早いプレスで態勢を崩しながらもアダイウトンにつなぐと、最後はFW紺野和也が得意の左足で決勝点を突き刺した。

後半はボランチの青木拓矢が2度の警告で退場となり10人で戦う劣勢を強いられたが、ここで存在感を発揮したのが今シーズン仙台から加入したGKヤクブ・スウォビィクだ。後半だけで8本のシュートを浴び、MF清武弘嗣らの決定的なシュートをことごとく阻止してゴールを死守した。

今週末の12日はホーム開幕戦に広島を迎えるが、初勝利をあげたとはいえまだまだ予断を許さないだろう。というのも、川崎F戦にスタメン出場したCBエンリケ・トレヴィザンとFWレアンドロは、3月2日のルヴァン杯・福岡戦に続きC大阪戦もメンバー外だった。
彼らだけでなく、川崎F戦はベンチスタートだった左SB長友佑都(右SBで途中出場)とDF陣のバックアッパー岡崎慎、GK波多野豪の3人が福岡戦とC大阪戦はメンバー外。さらにMF高萩洋次郎にいたっては、今シーズン一度も試合出場はもちろんベンチ入りも果たしていない。

川崎F戦と福岡戦はメンバー外だった東慶吾がC大阪戦でようやくベンチ入りを果たしたように、コンディションを取り戻すにはかなりの日数を要するのかもしれない。

あるいは4-3-3のシステムで、前線から強度の高い守備を求めるアルベル監督にとって、35歳の髙萩は年齢的にもポジション的にも構想外なのか。昨シーズンは4-2-3-1のトップ下か1トップで起用され、攻撃にアクセントをつけていただけに、構想外であるなら移籍を視野に入れた方がいいだろう。

現在のシステムでは松木のポジションを東、三田啓貴らと争うことになりそうだが、外国人監督は知名度にとらわれず、ベテランよりも若手を重用する傾向が強いからだ。

同じことは長友にも当てはまるかもしれない。ここまでの3試合、スタメンでフル出場はGKヤクブ・スウォビィクと左SB小川諒也の2人だけだからだ。長友が川崎Fとの開幕戦がベンチスタートだったのは、日本代表のキャンプに参加したためチームの沖縄キャンプに参加できなかったことも影響しているだろう。

しかし日本代表として4度目のW杯出場を目指すなら、所属クラブでレギュラーとして試合に出場することは最低限のノルマになる。髙萩同様、コロナの影響によるコンディション不良がベンチ外の理由なのか。

3月16日にはアウェーのオーストラリア戦とホームのベトナム戦に臨む日本代表のメンバーが発表される。その前の12日には広島戦、翌週15日には延期されたルヴァン杯の磐田戦が組まれている。この2試合に長友が出場できるかどうか、密かに注目している次第である。

【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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日韓戦で感じた違和感/六川亨の日本サッカーの歩み

とても奇妙な前半戦だった。パリ五輪のアジア最終予選を兼ねたU-23アジアカップのグループB最終戦、日本と韓国は勝点6、得失点差+3で並び、両国の直接対決でグループBの1位と2位が決まる。1位抜けなら準々決勝はグループA2位のインドネシア、2位だとホストカントリーのカタールと対戦する。できればカタールとの対戦は避けたいところ。とはいえ、準々決勝で勝ったとしてもパリ五輪の出場権は獲得できない。そんな微妙な背景で試合は始まった。 日本は第2戦のUAE戦から7人のメンバーを代えた。GK野澤大志ブランドンら3選手は今大会初出場だ。対する韓国も10人の選手を入れ替えてきた。グループリーグを1位で抜けようと2位になろうとも、準々決勝はパリへの通過点に過ぎない。主力選手をターンオーバーで温存するのは当然の策でもあった。 そして前半は、奇妙なほど攻め手を欠く大凡戦だった。韓国が中盤での争いを避け、ロングボールによるカウンター狙いは今に始まったことではない。フィジカルの強さと空中戦での優位を生かし、セットプレーに活路を見いだすのも常套手段である。 対する日本も攻め手を欠いた。CBの高井幸大と鈴木海音、ボランチの川﨑颯太と田中聡は安全第一なのか、それともポストプレーヤーが見つけられなかったのか、急所を突くようなタテパスは皆無で、サイドに開いた平川悠や藤尾翔太の足元に緩いパスをつなぐだけ。とはいえ両選手とも三笘薫や伊東純也のようなドリブラーではないため、決定機を演出するまでにはいたらない。 互いに負けたくないという心理状態が色濃く反映された前半は、82年スペインW杯1次リーグの“出来レース"と言われた西ドイツ対オーストリアの試合(初戦でアルジェリアに負けた西ドイツが2次リーグに進むには最終戦のオーストリア戦を2点差以内で勝つしかなく、西ドイツが前半にリードすると後半は互いに無理をせず時間が過ぎるのを待った)を彷彿させる退屈な45分間だった。 ところが後半に入り13分過ぎから両チームとも選手交代をしたところ、突然攻撃が活性化した。日本は川﨑と田中に代えて藤田譲瑠チマと松木玖生を投入。やはり彼らが大岩剛監督にとって選択肢のファーストチョイスなのだろう。松木は後半26分にミドルサードで2人の選手に囲まれながらもフィジカルの強さを生かしてボールをキープすると、1トップの内野航太郎に決定的なスルーパス。安全を優先したプレーでは、組織的な守備を崩せないことを自ら証明した。 彼らと山本理仁、レフティーモンスターの山田楓喜が現チームの主力であり、準々決勝のカタール戦ではスタメンに名前を連ねると思う。そして、大岩監督の気持ちはわからないでもないが、野澤大志ブランドンは肉体的な資質は申し分ないものの、鈴木彩艶と同様にA代表やU-23代表で起用するには経験不足は否めないのではないだろうか。野澤は元々キックに難点があり、左足は得意ではないためトラップして右足に持ち替えることが多い。韓国戦でも冷やっとしたシーンがあったし、なんでもないシュートを後ろにそらしてOGの危険性もあった。 これまで2試合でチームを救った小久保怜央ブライアンを使っていれば、CKに飛び出てクリアするでもなく、中途半端なポジショニングで何もできずに失点したシーンも何とかできたのではないかと思ってしまう。期待するのは悪いことではない。しかし、その見極めを誰がいつするのか。これは個人的な見解だが、鈴木彩艶は今年のアジアカップで、野澤大志ブランドンは韓国戦のプレーをシビアに検証すべきだろう。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> <span class="paragraph-title">【動画】日韓戦は韓国に軍配! 低調な試合も後半は一変</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="TMihrmhQQbc";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2024.04.23 14:30 Tue

またも終盤に失点…東京Vに必要なメンタル/六川亨の日本サッカーの歩み

J1リーグの第8節、東京V対FC東京の、16年ぶりの“東京ダービー”は2-2のドローに終わった。前半で2点をリードし、さらに前半43分にはFC東京に退場者が出て11人対10人になりながら、東京Vはアドバンテージを生かすことができずに追いつかれてしまった。 サッカーでは1人少ないチームが予想外の健闘を見せるのはよくあること。JSL時代のセルジオ越後氏は、「1人少ないとお互いがお互いにカバーしようという意識から、攻守に連動性が出てくることはよくあるよ」と話していた。 FC東京が後半16分に寺山翼と遠藤渓太を投入後はまさにこのような状況で、右SB白井康介がインターセプトからドリブルでカウンターを仕掛け、遠藤の移籍後初ゴールをアシストして反撃のノロシを上げた。 試合は後半アディショナルタイム4分に遠藤のこの日2点目で引き分けに終わったわけだが、東京Vにしてみれば敗戦に近い勝点1だっただけにショックも大きかっただろう。試合後の城福浩監督も、感想を求められると「サポーターには悔しい思いをさせました。申し訳ない。以上です」と言って天を仰いだ。 東京Vは開幕戦で横浜FMに1-0とリードしながら試合終了間際のPKで同点に追いつかれ、アディショナルタイムの失点で1-2と敗れた。第2節の浦和戦も89分に与えたPKで同点に追いつかれるなど、“試合終盤“が鬼門となっていた。初勝利は第6節の湘南戦(2-1)。しかし第7節の柏戦は先制しながら後半に追いつかれ、そしてFC東京戦も2点のリードを守れなかった。 城福監督はFC東京戦後、「このチームはやはり選手層を厚くしていかないといけないと痛感しています。選手が代わったら、落ち着きがなくなるという状況を変えていかないと、ゲームの終盤でやはり我々が痛い思いをすることを繰り返しています」とも語っていた。 選手層を厚くすることは急務だろう。そして、できるならDF陣かボランチにJ1でプレー経験のある選手が必要だとも感じた。今シーズンの東京Vで、FC東京戦で11年アジアカップ決勝の李忠成のような鮮やかなボレーを決めた染野唯月と、ここまで3ゴールを決めている山田楓喜はいずれもJ1経験者。そしてレンタル移籍ながらしっかり結果を残している。やはりJ1とJ2では1対1やチームでの駆け引き、試合運びなどの個人能力で差があるのではないだろうか。 東京V対FC東京戦の翌日はJ3リーグの大宮対沼津戦を取材したが(1-1)、大宮の先制点は杉本健勇がミドルシュートを叩き込んだ。ボールをトラップした瞬間からシュートまで、落ち着き払った動作はシュートを打つ前から決まると思えるほど自信に満ちていた。やはり“レベルの差“はあるのだと痛感したものだ。 そして、これは私のまったくの私見だが、城福監督は昔から喜怒哀楽の激しい指揮官だった。得点には派手なガッツポーズで喜びを表し、失点には悔しがる。相手の納得のいかないプレーには本気で怒りを表すなど感情表現が豊かだ。しかし選手は、得点の際は喜びを爆発させても、失点のたびに落ち込んでいるようなのが気になった。もっと冷静に現実を受け入れつつ、状況に応じGKも含めて時間稼ぎをするとか、リトリートして相手を誘い出し、カウンターを狙うなど柔軟な発想も必要だろう。 すべての試合を勝とうとしてもそれは無理な話。引き分けでよしとしなければならない試合(内容)もあれば、負けることもある。負けるたびに落ち込んでいてはメンタル面もネガティブになり、負の連鎖につながりかねない。どこかで割り切る必要もあるだろう。それにはコーチ陣のフォローも重要だ。 FC東京戦のアディショナルタイムの失点後、天を仰いだりうなだれたりしている選手が多かった。残り時間が少ないとはいえ、まだ数分間プレータイムは残っていたので、すぐさまボールを拾ってキックオフしようという選手がいなかった。「これまでの繰り返し」とショックを受けていたのかもしれないが、だからこそチームを鼓舞するようなベテラン選手が欲しいと思った次第である。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> <span class="paragraph-title">【動画】“東京ダービー”で衝撃の結末…終了まで残り1分の同点劇</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="HZj1w5Oa1Mc";var video_start = 517;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2024.04.15 16:30 Mon

松木玖生の最適なポジションは?/六川亨の日本サッカーの歩み

今月16日、AFC U-23アジアカップ カタールの初戦、中国戦からパリ五輪出場権獲得のチャレンジが始まる。前回のコラムでも、DF陣の経験不足は否めないものの攻撃陣のタレントはバリエーションに富んでいて期待できるという原稿を書いた。そして先週と今週のJリーグを取材して、FC東京の松木玖生の新しい一面を見ることができて、その期待はさらに高まった。 松木といえば、青森山田高時代から、強靱なフィジカルと体幹の強さを生かした球際での勝負強さ、豊富な運動量と労を惜しまない献身的なプレーでチームに貢献してきたし、それはFC東京でも変わらない。そしてボランチのポジションから、時には意外性のある攻撃参加でゴールを決めたり、左足のロング、ミドルシュートで相手ゴールを脅かしたりしてきた。 そんな松木が、4月3日のJ1リーグ第6節の浦和戦では、荒木遼太郎と2トップに近い形で前線に起用された。すると、トップに張るのではなく変幻自在に左右に流れたり、落ちてきたりする荒木との絶妙のコンビネーションで攻撃陣をコントロール。とりわけ左サイドのFW俵積田晃太とSBバングーナガンデ佳史扶との相性は抜群で、意外性のあるパスで彼らの攻撃参加を引き出していた。 アウトサイドにかけたスペースへの絶妙なパスには「こんな技巧的なパスが出せるんだ」と感嘆してしまった。 試合は0-1とリードされた後半、左サイドで俵積田、佳史扶とつないだパスから荒木が同点弾。さらに松木のサイドチェンジを受けた俵積田のクロスをゴール前に走り込んだ松木がボレーで決めて逆転勝利を収めた。 そして4月7日の鹿島戦では、荒木がレンタル移籍のため起用できないものの、1トップに入った仲川輝人とトップ下の松木は好連係から難敵・鹿島に2-0の完勝を収めた。絶えずボールに触るわけではないが、効果的なサイドチェンジやスルーパスで味方を使う。これまでは、どちらかというと『使われる選手』と思っていたが、そのイメージは一新した。 先制点は左サイドからのふわりと浮かしたニアへのパスで仲川の今シーズン初ゴールを演出。そして後半アディショナルタイムにはMF原川力のヘッドによるインターセプトからのタテパスを簡単にさばいて2点目をお膳立てした。いずれも「肩の力の抜けた」ようなアシストに、松木の“変化"を感じずにはいられなかった。 彼をボランチからトップ下にコンバートし、前線には荒木を起用して松木の飛び出しを演出したピーター・クラモフスキー監督の采配は賞賛に値する。やっと1トップのドリブル突破任せのパターン化された攻撃スタイルから脱却できそうだ。 そんな松木を大岩剛監督はどのポジションで使うのか。攻守に効果的な選手だけに、使い出もあるだろうが、できれば攻撃的なポジションで使って欲しいところである。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2024.04.08 22:25 Mon

復活した川崎フロンターレ/六川亨の日本サッカーの歩み

J1リーグは第5節を終了して、初昇格の町田が鳥栖を3-1で下して開幕からの不敗記録を過去最長タイの5試合に伸ばした。札幌、鳥栖に連勝しての首位固めだが、チーム状況からすれば当然の連勝と言えるだろう。過去には02年に仙台が5試合連続不敗の記録を作ったが、町田が不敗記録を更新できるのか。第6節、4月3日の相手は無敗で5位につける難敵・広島だけに、町田の真価が問われる一戦になりそうだ。 さて第5節は等々力競技場での川崎F対FC東京戦を取材した。中断前の第4節でFC東京は福岡に3-1と快勝して今シーズン初勝利をあげた。FW荒木遼太郎を“0トップ"に起用する布陣が奏功し、トップ下のMF松木玖生とのコンビで攻撃陣をリード。長友佑都とバングーナガンデ佳史扶の両SBの攻撃参加から大量3点を奪った。 一方の川崎Fは、開幕戦こそ湘南に2-1と競り勝ったものの、その後は3連敗で15位に沈んでいた。DF陣に負傷者が続出したのと、残留か移籍かで悩んでいた右SB山根視来が年明けにロサンゼルス・ギャラクシーへ移籍したため補強が後手に回ったことも低迷の一因だった。 1月21日にファンウェルメスケルケン際を獲得できたのは好材料で、富士フィルム杯では決勝点をあげたものの、開幕戦で右SBに入ったのは本来左SBの佐々木旭で、第3節の京都戦からはMF橘田健人をコンバートしてのやりくりだった。チーム状況からすればFC東京が有利かと思われたが、川崎FもGKチョン・ソンリョンが3試合ぶりに復帰するなど好材料もあった。 そして鬼木達監督は懸案の右SBに、これまた左サイドが本職の瀬川祐輔を起用。橘田を本来の中盤の戻すと同時に、それまでの逆三角形から橘田と瀬古樹のダブルボランチに代え、脇坂泰斗をトップ下に置く三角形に変更した。 橘田を中盤に戻すことで川崎Fはミドルサードでの強度が増した。素早いトランジションでFC東京の松木玖生、高宇洋、小泉慶にプレッシャーをかけて中盤での自由を奪う。ジェジエウと高井幸大のCBコンビも荒木に仕事らしい仕事をさせず、ハーフライン付近からのシュート1本に押さえ込んだ。 脇坂の先制点こそ、左SB三浦颯太のクロスをCB木本恭生がブロックしたものの、これが左ポストに当たってこぼれるという幸運も重なった。しかしその後の2点は左サイドから崩した川崎Fらしいゴール。GK波多野豪がFWエリソンを倒して一発レッドで数的優位な状況ではあったが、82分に同時交代で出場したMF山内日向汰(Jデビュー初ゴール)とFW山田新が1分後に結果を出すなど、鬼木采配が的中しての快勝だった。 敗れたFC東京は荒木の“0トップ"がジェジエウに完璧に封じ込まれたのは誤算だったかもしれない。荒木は4試合で4ゴールとチームのトップスコアラーだ。いずれのゴールも彼の得点嗅覚とセンスが結実した素晴らしいゴールである。しかしながら、チームとしての形があってのゴールではないところが判断の難しいところ。次の試合もゴールが期待できるかどうかは、その場になってみないとわからない。 これが例えば昨シーズンまで在籍したアダイウトンなら、ハーフラインを越えて彼の足元にパスを出せば、強引なドリブル突破からペナルティーエリアに侵入し、豪快なシュートを決めた。彼の個人技によるゴールとはいえ、いい形でパスを出せば一人で決定機を作れた。 しかし荒木には、どういう形でパスを出せばゴールの確率が高まるのか見えてこないのだ。このため、このまま“0トップ"を採用するのは、相手に研究されている以上、得策とは言えない。さらにディエゴ・オリヴェイラの衰えも気になるところ。それでも1トップとしてのファーストチョイスは彼しかいないのではないだろうか。浦和、鹿島と続く“国立シリーズ"は早くも正念場と言える。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> <span class="paragraph-title">【動画】川﨑Fが復活!FC東京との多摩川クラシコを制する</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="VPmkElpcTXo";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2024.04.01 18:20 Mon

大岩ジャパン国内最後のテストマッチが終了/六川亨の日本サッカーの歩み

大岩ジャパンの集大成となる国内最後のテストマッチが終わった。あとは来月カタールへ乗り込んで、まずはグループリーグを突破。そして上位3カ国に入ればパリへのキップを手にすることができる。とはいえそれが、簡単な道のりではないことを再認識させられたテストマッチ2試合だった。 U-23ウクライナ戦こそ2-0の勝利を収めた。しかし対戦相手は全員が“国内組”。ルスラン・ロタン監督自身「本来は海外組を招集したかったが、それは難しかった」と、五輪チームへの選手の招集には強制力がないことを指摘した。これは世界共通の悩みのタネだけに仕方がないだろう。ましてヨーロッパ勢は五輪にさほど価値を見いだしていない。 このため今回来日したウクライナも、スペシャルなストライカーやパサー、ドリブラーのいない平凡なチーム。国内は戦争状態に陥っているだけに、強化が思うように進まないのも仕方のないところ。それでも真面目に、フェアに闘う姿勢は清々しさすら感じた。 そんなウクライナに対し、日本は久々に代表へ復帰したFW荒木遼太郎が“違い”を見せた。前線に張るのではなく、バイタルエリアにちょっと下がってプレーを開始することでプレッシャーを避け、得意の右足シュートでウクライナ・ゴールを脅かした。もう一人の代表復帰組であるFW染野唯月は前線で張ることが多かったため、東京Vで見せているようなゴールへの嗅覚を発揮することはできなかったのは残念だった。 攻撃陣はそれなりにJリーグでポジションをつかんだ選手が増えて層の厚みが増した印象を受けた。MF小見洋太は後半33分からの出場にとどまったが、もう少し長く見たい選手。その一方で、五輪のエースストライカーと期待される細谷真大はアジアカップ以降、ちょっと精彩を欠いているというか、自信を失っているように感じられてならない。持ち味である強引な突破が陰を潜めている印象だ。 それでも充実しつつある攻撃陣に比べ、ダブル・ボランチ(藤田譲瑠チマと松木玖生)と両SBはともかく、CB陣の人材不足、というか経験不足は明らかだ。これは大岩ジャパンだけでなく森保ジャパンにも共通した悩みのタネでもある。 思い起こせば96年アトランタ五輪と2008年北京五輪はOA枠を使わなかったが、12年ロンドン五輪(吉田麻也、徳永悠平とGK林彰洋)以降、16年リオ五輪(塩谷司、藤春廣輝とFW興梠慎三)、そして21年東京五輪(吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航)と五輪代表はOA枠で守備的な選手をいつも起用してきた。 これも日本サッカーの新たな問題点として検証しつつ、JFAとJリーグは解決策を探す努力をすべきではないだろうか。そしてパリ五輪予選で手遅れにならないといいのだが……。 <hr>【文・六川亨】<br/><div id="cws_ad">1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた</div> 2024.03.26 10:00 Tue
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