【2022年カタールへ期待の選手vol.99】選手権に始まり、A代表・U-21・高校選抜・そして海外。規格外の17歳DFの未来は?/チェイス・アンリ(尚志高校/DF)
2022.03.10 21:00 Thu
「我々はパリ経由A代表ではない。A代表に所属しながら五輪に行くんだということも選手たちに伝えています」
高い目標設定を強調した大岩剛監督率いるU-21日本代表が、2年4カ月後のパリ五輪に向けて3月7~9日の千葉合宿から本格始動した。今回は試合間隔の短い鹿島アントラーズ勢や海外組を除く国内組のみの招集となったが、今季絶好調の鈴木唯人(清水)が「自分はA代表を目指している」と公言するなど、全員がギラギラ感を押し出し、生き残りをアピールした。
とりわけ、2004年生まれの最年少DFチェイス・アンリ(尚志高)が目の色を変えて練習に取り組む姿は目を引いた。今月24日に誕生日を迎える彼はまだ17歳。にもかかわらず、2022年突入後は高校サッカー選手権に始まり、1月のA代表合宿のトレーニングパートナー参戦、2月の富士フィルム・スーパーカップ前座の高校選抜対川崎フロンターレU-18戦出場、そして今回のU-21代表参加と幅広いカテゴリーに身を投じた。貴重な日々の中、体得したものを最大限出し切らなければいけないと本人も強く思ったことだろう。
実際、1月のA代表合宿は彼にとって「異次元の世界」に他ならなかった。国際Aマッチ133試合の大ベテラン・長友佑都(FC東京)から連日、「アンリ・アンリ」といじられながら、攻守の切り替えや技術、戦術眼のギャップを埋めようと必死に駆け回った。絶対的1トップ・大迫勇也(神戸)に吹っ飛ばされた時には、世界基準の球際と寄せの厳しさを痛感したに違いない。
「プレーのスピードが全然違った。体の使い方や判断のスピードを改善しないと通用しない。そのためには毎日サボらず練習したり、自主練しないとダメ。まだまだだと思います」と高校選抜でキャプテンマークを巻いた2月、彼は神妙な面持ちで語っていた。
「前は全然、声が出ていなかったけど、この合宿ではそういうところがよくなったと思います。(センターバックコンビを組んだ)鈴木海音(栃木)との関係も、1人がしっかりプレスに行って、もう1人がカバーしに行く。その距離感を大事にして、近い距離感でカバーしあいながらやりました」
最終日9日の横浜F・マリノスの若手との練習試合後、チェイス・アンリは自身の変化をこう表現した。そうやって自分からどんどん発信していかなければ、自己主張の強い外国人選手の中で生き抜くのは難しい。
Jクラブからのオファーを全て断った彼は18歳の誕生日を待って欧州へ赴くと言われる。新天地として有力視されるのが、遠藤航、伊藤洋輝のプレーするシュツットガルト。2人の日本人選手がいるとはいえ、彼自身が貪欲に這い上がっていかない限り、成功はない。そういう覚悟を持ってドイツに渡るはずだ。
中京大中京高校を卒業してグルノーブル入りした伊藤翔(横浜FC)、同校からアーセナル入りし、フェイエノールトにレンタルで赴いた宮市亮(横浜FM)と、高校からダイレクトに欧州にチャレンジした選手は過去に何人かいた。が、そのいずれも大成功には至らなかった。
しかしながら、アメリカ人の父と日本人の母を持つチェイス・アンリは日本語よりも英語の方が長けていると言っていいほどの国際派。コミュニケーション力は問題ないし、年齢に関係なくフレンドリーに誰とでも接することができる。
しかも、強さや速さといったフィジカル面は通常の10代をはるかに超えたレベルにある。身長183㎝とは思えないほどのバネと競り合いの強さ、一瞬の速さ、走力は絶対的な武器。こういった強みを前面に出し、新たな環境で認めてもらえれば、セカンドチームから瞬く間にトップチームに這い上がった伊藤洋輝のような足跡を辿ることも夢ではなさそうだ。
仮に、2022-23シーズン開幕からコンスタントに公式戦に出場するような状況になれば、日本代表の森保一監督の心も動くかもしれない。A代表のDF陣はキャプテン・吉田麻也(サンプドリア)を筆頭に、冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(シャルケ)、谷口彰悟(川崎F)といった猛者が揃っているが、化け物級の能力を見せつける18歳が出現すれば、指揮官も放っておくことはできなくなる。それだけの爆発的な成長曲線をチェイス・アンリが辿ってくれれば、今年11月に開幕するカタールW杯も非常に興味深いものになる。
もちろん、その前に日本代表は本大会出場権を確保しなければならないし、チェイス・アンリ自身も力強いプロキャリアの一歩を踏み出さなければいけない。全てが順風満帆に行くとは限らないが、今年に入ってからの3か月間に幅広いカテゴリーでプレーした経験はきっと役立つはずだ。
大岩監督の言う「A代表に所属しながらパリ五輪に行く」という大目標を彼ならば果たせそうな予感が漂う。壮大なスケールを秘めた17歳のDFの未来が楽しみで仕方がない。
【文・元川悦子】
高い目標設定を強調した大岩剛監督率いるU-21日本代表が、2年4カ月後のパリ五輪に向けて3月7~9日の千葉合宿から本格始動した。今回は試合間隔の短い鹿島アントラーズ勢や海外組を除く国内組のみの招集となったが、今季絶好調の鈴木唯人(清水)が「自分はA代表を目指している」と公言するなど、全員がギラギラ感を押し出し、生き残りをアピールした。
実際、1月のA代表合宿は彼にとって「異次元の世界」に他ならなかった。国際Aマッチ133試合の大ベテラン・長友佑都(FC東京)から連日、「アンリ・アンリ」といじられながら、攻守の切り替えや技術、戦術眼のギャップを埋めようと必死に駆け回った。絶対的1トップ・大迫勇也(神戸)に吹っ飛ばされた時には、世界基準の球際と寄せの厳しさを痛感したに違いない。
「プレーのスピードが全然違った。体の使い方や判断のスピードを改善しないと通用しない。そのためには毎日サボらず練習したり、自主練しないとダメ。まだまだだと思います」と高校選抜でキャプテンマークを巻いた2月、彼は神妙な面持ちで語っていた。
それから1か月が経過した今回、自ら率先して声を出し、周りを動かそうという意識がより鮮明になっていた。
「前は全然、声が出ていなかったけど、この合宿ではそういうところがよくなったと思います。(センターバックコンビを組んだ)鈴木海音(栃木)との関係も、1人がしっかりプレスに行って、もう1人がカバーしに行く。その距離感を大事にして、近い距離感でカバーしあいながらやりました」
最終日9日の横浜F・マリノスの若手との練習試合後、チェイス・アンリは自身の変化をこう表現した。そうやって自分からどんどん発信していかなければ、自己主張の強い外国人選手の中で生き抜くのは難しい。
Jクラブからのオファーを全て断った彼は18歳の誕生日を待って欧州へ赴くと言われる。新天地として有力視されるのが、遠藤航、伊藤洋輝のプレーするシュツットガルト。2人の日本人選手がいるとはいえ、彼自身が貪欲に這い上がっていかない限り、成功はない。そういう覚悟を持ってドイツに渡るはずだ。
中京大中京高校を卒業してグルノーブル入りした伊藤翔(横浜FC)、同校からアーセナル入りし、フェイエノールトにレンタルで赴いた宮市亮(横浜FM)と、高校からダイレクトに欧州にチャレンジした選手は過去に何人かいた。が、そのいずれも大成功には至らなかった。
しかしながら、アメリカ人の父と日本人の母を持つチェイス・アンリは日本語よりも英語の方が長けていると言っていいほどの国際派。コミュニケーション力は問題ないし、年齢に関係なくフレンドリーに誰とでも接することができる。
しかも、強さや速さといったフィジカル面は通常の10代をはるかに超えたレベルにある。身長183㎝とは思えないほどのバネと競り合いの強さ、一瞬の速さ、走力は絶対的な武器。こういった強みを前面に出し、新たな環境で認めてもらえれば、セカンドチームから瞬く間にトップチームに這い上がった伊藤洋輝のような足跡を辿ることも夢ではなさそうだ。
仮に、2022-23シーズン開幕からコンスタントに公式戦に出場するような状況になれば、日本代表の森保一監督の心も動くかもしれない。A代表のDF陣はキャプテン・吉田麻也(サンプドリア)を筆頭に、冨安健洋(アーセナル)、板倉滉(シャルケ)、谷口彰悟(川崎F)といった猛者が揃っているが、化け物級の能力を見せつける18歳が出現すれば、指揮官も放っておくことはできなくなる。それだけの爆発的な成長曲線をチェイス・アンリが辿ってくれれば、今年11月に開幕するカタールW杯も非常に興味深いものになる。
もちろん、その前に日本代表は本大会出場権を確保しなければならないし、チェイス・アンリ自身も力強いプロキャリアの一歩を踏み出さなければいけない。全てが順風満帆に行くとは限らないが、今年に入ってからの3か月間に幅広いカテゴリーでプレーした経験はきっと役立つはずだ。
大岩監督の言う「A代表に所属しながらパリ五輪に行く」という大目標を彼ならば果たせそうな予感が漂う。壮大なスケールを秘めた17歳のDFの未来が楽しみで仕方がない。
【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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