インサイドハーフの新たな可能性…原口元気、鎌田大地という選択肢が持つ意味/日本代表コラム

2022.06.06 06:40 Mon
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世界一のチームと言っても良いブラジルと対戦する日本代表。これまで12試合を戦い、2分け10敗と歯が立っていない。

しかし、ワールドカップ(W杯)開催の年に、それも大会に向けた準備が進んでいる段階で対戦するのは初めて。今まで以上に、豪華な主軸が顔を並べている。
カタールW杯では、日本はドイツ代表、スペイン代表と世界でも有数の強豪国とグループステージで同居している。いわゆる、“死の組”と言われても良いようなグループだ。

もう1チームはニュージーランド代表かコスタリカ代表かはまだ決定していないが、下馬評はドイツとスペインの勝ち上がりであることは間違いない。実力的に考えても当然の結果と言える。

しかし、その壁を打ち破るべく日本は準備。「ワールドカップでベスト8」という目標を掲げているが、その目標を達成するには遅かれ早かれ、世界の強豪国と対戦することにはなる。
その大きな2試合を前に、ブラジルと対戦できることは、現在地を測るという意味でも非常に大きい。そして、何が通用し、何が通用しないのか。どの戦い方ならば勝機が見出せるのかを見つけるにも良い機会と言えるだろう。

その中で1つポイントとして見たいのが、インサイドハーフの選択だ。

2日に行われたキリンチャレンジカップ2022のパラグアイ代表戦では、控えメンバーが中心となり、原口元気(ウニオン・ベルリン)と鎌田大地(フランクフルト)がインサイドハーフで起用された。

7大会連続7度目のW杯出場に黄信号が灯った日本は、それまでの[4-2-3-1]から[4-3-3]にシステムを変更。それに伴い、インサイドハーフには守田英正(サンタ・クララ)と田中碧(デュッセルドルフ)を起用。アンカーの遠藤航(シュツットガルト)との3人の中盤で守備の強度をあげ、中盤を制圧することに成功した。

この3人は、元々ボランチでプレーしており、守備の強度が高く、運動量も豊富。さらに、後方からのビルドアップの能力に長けており、ポジションを前後しながらも互いに補完しあい、チームとしてスムーズにビルドアップして流れを掴むことができていた。

ボールを握る時間が長くなるアジアでの戦いには確かに適しており、中盤で守備強度をあげ、奪って一気にカウンターという戦い方も合っていた。サウジアラビア代表やオーストラリア代表といったアジアの強豪に手こずることが多かった日本だが、[4-3-3]が成熟した結果、今まで以上にコントロールでき、アウェイでのオーストラリア戦初勝利でカタールW杯行きを決めたということからも、安定感が増したことはわかる。

ただ、世界の強豪と戦う上では、それだけでは物足りないと言える。

確かにビルドアップ能力だけでなく、守田も田中もポジショニングが優れていたり、それぞれの特徴を持っている。しかし、ボールを握る時間は強豪相手には確実に減る。さらに、ビルドアップも思うようにさせてもらえないだろう。中盤の強度という点では五分に近い形で戦える可能性はあるが、アジア仕様の人選と言える可能性もある。

そこで注目したいのがパラグアイ戦でプレーした2人。クラブではインサイドハーフでもプレーしながら、代表ではほとんど試されることがなかった。いや、試せる状況でもなかったと言えるのかもしれない。

ただ、原口はレギュラーとして1年間戦い、ウニオン・ベルリンはブンデスリーガで5位フィニッシュ。鎌田も決定的な仕事が増え、特に優勝したヨーロッパリーグでは数字も残していた。

この2人、今回の合宿ではトレーニングでも常にと言って良いほど横にいて、よく話したり絡んでいる姿を見た。さらに、クラブでの充実感から来るものなのか、顔つきがこれまでの代表活動とは違い、鎌田は自信がついたのかリラックスしながらも精悍な顔つきに、原口も闘志を秘めた良い顔をしていた。

その結果、パラグアイ戦で原口は2アシスト、鎌田は1ゴール1アシストを記録。インサイドハーフでもパフォーマンスが出せることを示しただけでなく、日本にとって新たなパターンを生み出す可能性を見せたのだ。

守田、田中に比べ、確実に前のポジションでのプレー経験が多い原口と鎌田は、攻撃面で圧倒的に違いを出せることを証明した。ボックス付近で絡むだけでなく、ボックス内にまで入っていくプレーを何度となく行い、ゴールに近いポジションでプレーするという、本来インサイドハーフに求められるプレーを見せた。

そこで言えるのが、戦い方を相手によって変えるために、インサイドハーフの組み合わせを変えるということだ。

ビルドアップ力に長け、守備の強度を高められる守田と田中、ボックス内でのプレーも厭わず、より攻撃に絡むことが得意な原口と鎌田。この4人が組み合うことができると大きな作用が生まれるはずだ。

パラグアイ戦の後半途中に選手交代の流れで鎌田と田中がインサイドで組む時間があった。田中は森田に比べてパスで局面を変えることができ、攻撃への判断が早いため、ボックス付近にポジションをとった鎌田を生かしていた。また、ミドルシュートでゴールを決めた田中だが、そのパスを送ったのは鎌田。互いの特徴を理解し、ポジションを取れれば、いつもと違う組み合わせでも結果を出せるのだ。

また、ボールを保持する時間が減り、ビルドアップも簡単に行かないことが想像される強豪国との対戦では、奪ってからのショートカウンターという選択肢もある。守備強度の高い2人を使って奪う力を増すのか、攻撃的にプレーできる2人を使って、よりカウンターの推進力を増すのか。最終予選では試せなかった戦い方のトライをぜひ見てみたい。

ブラジル相手にも攻撃タイプのインサイドハーフが通用するのかは、限られた時間帯でも見て見たいものだ。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》

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新境地に入った日本代表、5年目のチームが見せる9カ月の積み上げと選手の成長を感じたドイツ戦の完勝…そして監督は解任【日本代表コラム】

「日本戦でのドイツの恥ずかしい敗北」(ビルト)、「守備のミス、攻撃のアイデアなし」(キッカー)、「日本に大惨敗」(スカイ・スポーツ)。 ドイツのメディアがドイツ代表の日本代表戦での敗戦を伝えた記事の見出しだ。カタール・ワールドカップ(W杯)の初戦で敗れた相手に、ホームでのリベンジを目指して戦ったが、結果は1-4の惨敗に終わってしまった。そして、ハンジ・フリック監督は10日に解任された。 日本の立場からすれば、かつてのW杯チャンピオンに対し、親善試合とはいえW杯の再現を目指して挑んだ。簡単な試合になるとは誰もが思っておらず、W杯の時のように行くと信じ切れた人もどれだけいたか怪しいところだ。 ただ、蓋を開けてみれば前半に押し込まれながらも伊東純也のゴールで先制すると、ドイツに攻め込まれて1失点を喫するも、すぐに上田綺世のゴールで逆転。後半はシステムを変えて[5-4-1]の形にすると、ボールポゼッションこそドイツに渡したが、決定機を作られることはほとんどなく、最終盤に浅野拓磨、田中碧と連続ゴールを決めて4-1で完勝を収めた。 この結果は、世界でも驚かれることに。「危機は深刻化」(イギリス『ガーディアン』)、「ドイツに屈辱を与える」(ポルトガル『レコルド』)、「日本はフリックを崖から突き落とした」(スペイン『アス』)などと報じられた。 <span class="paragraph-subtitle">◆日本が見せた9カ月の進化</span> 日本代表は森保一監督がW杯後も継続して指揮。史上初となる続投を掴み取ると、3月の2試合では勝利できなかったものの、6月の2試合で連勝。そしてドイツ戦を迎えた。 W杯を終え、2023年に入ってからの8カ月は、代表選手たちがそれぞれのクラブで大きく飛躍を遂げた。MF三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)、MF久保建英(レアル・ソシエダ)は日本人として1シーズンのリーグ最多ゴールを記録するとともに、チームを牽引してブライトンは6位でヨーロッパリーグ(EL)に、ソシエダは4位でチャンピオンズリーグ(CL)の出場権を獲得した。 また、FW上田綺世(フェイエノールト)は、W杯で悔しい思いをすると、セルクル・ブルージュでゴールを量産。22ゴールを記録して得点ランキング2位となり、今季はフェイエノールとへステップアップ。FW古橋亨梧(セルティック)は、リーグ得点王に輝き国内3冠に大貢献した。 そのほかにも高いパフォーマンスを見せていた選手たちの中では、MF鎌田大地がラツィオに、MF遠藤航がリバプール、FW中村航輔がスタッド・ランスと今夏の移籍市場でステップアップを果たす。また、移籍はなかったが多くの選手が様々なクラブからターゲットにされていた。 新シーズンに入っても選手たちの輝きは止まらず、三笘は1ゴール3アシスト、久保は3ゴール1アシスト、伊東は1ゴール1アシストを記録。代表合流前の試合では、鎌田と上田が移籍後初ゴール、浅野は2ゴールの活躍など、好調を維持してチームに合流した。 それぞれのクラブでの活躍が、そのままチームの勢いとなり、ドイツ代表撃破に繋がったことは言うまでもない。ここまで多くの選手がクラブで数字という結果を残して集まったことも、これまでではあまりないものだった。 <span class="paragraph-subtitle">◆積み上げたものの成果</span> もう1つは森保監督が4年間積み上げ、それをさらにレベルアップさせているという点だ。これまでの日本代表は最長でも4年で監督が交代。W杯が終われば、新たな選手の下でゼロからチームを作り、4年後の戦いを目指していた。 しかし、今の日本代表は5年目。加えて、森保監督がその前から見ていた、東京オリンピック世代の選手も多く、監督が求めるサッカーを長い期間プレーしている選手が多い。 日本代表歴は浅くとも、今のメンバーには東京五輪組が多く、監督のサッカーを理解するという時間が省けている。そのため、ブラッシュアップ、レベルアップという、今までに日本ができなかったゾーンに入っているのだ。 クラブではそれぞれが高いレベルのサッカーを経験し、チームメイト、リーグ戦、中にはヨーロッパの戦いで自身のプレーを磨き続けてきた。チームとしての進化、戦術の進化、そして選手の進化と3つが揃った結果が、ドイツ戦の快勝劇と言えるだろう。 <span class="paragraph-subtitle">◆攻から守、守から攻</span> 森保監督が常に口にする「良い守備から良い攻撃」というものは、日本はしっかりと体現していたが、ドイツは全くと言っていいほどできていなかった。 前半から日本は前からプレスをかけてドイツのビルドアップを抑えに行く。センターバックの2人でボールを回しつつ、サイドバックとボランチが絡んで前進しようとするが、効果的なビルドアップはほとんどできず、中盤にボールを入れては、遠藤と守田英正(スポルティングCP)が寄せて封じることに。もう1つ前に入っても、板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)の両センターバックが安定したパフォーマンスを見せた。 ドイツの選手たちも、三笘の突破や伊東の仕掛けは警戒していたが、それを打ち破ったのは最終ラインの選手。1点目、2点目ともにゴールの起点となったのは冨安の大きな展開となったパス。そして、どちらも右サイドバックの菅原由勢(AZ)のクロスからゴールが生まれた。守備でしっかりと対応しつつ、攻撃時には効果的なプレーを見せるという、まさに監督が求める形だったのではないだろうか。冨安の存在の大きさはゴールの起点となるパスだけでなく、カウンターで抜け出された時のシュートブロック、相手のパスカットなど攻守で感じさせられた。 そして特筆すべきは久保の活躍だ。後半途中から出場するも、ボールを保持するドイツの前にほとんど良さは出せていなかった。入ってから早い段階ではフィジカルコンタクトで負けてボールロストからカウンターを受けるが、自ら追い続けて完結させなかった。 極め付けは3点目のシーン。相手の横パスが弱くなると、パスを受けたロビン・ゴセンスのもたつきを予測した久保が猛然とプレス。慌てたゴセンスからボールを奪うと、そのまま独走。最後はGKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンとの一対一で冷静にパスを選択し、浅野のゴールをアシストした。まさに守から攻という状況。ドイツの息の根を止めることとなった。 <span class="paragraph-subtitle">◆心配なドイツの状況</span> もちろん、上田が2回、浅野が1回とビッグチャンスを逃したという反省点もある。守備でも、相手が間で受けた時に中央に寄せ過ぎてしまい、失点に繋がったこともある。相手の精度が高ければ、違う結果になっていたこともあるだけに、まだまだ突き詰めていきたいところだ。 ただ、心配なのはドイツの状況。日本に敗れたことで親善試合3連敗。2023年の6試合でわずか1勝に終わっており、フリック監督へのプレッシャーがさらに高まることとなった。そして一夜明けての解任劇。2024年のユーロ開催国が決断し、12日のフランス代表戦は暫定体制で臨むこととなった。 ドイツは、3バックを試すなどし、選手も入れ替えてトライを続けている。他国はユーロ予選を戦っている中、親善試合が続くドイツとしては、2大会連続でW杯グループステージ敗退という屈辱をそろそろ止めなければいけない状況。改革に乗り出している。 しかし、結果が全く伴っておらず、選手もこれまでの主軸が多くいながら、パフォーマンスは落ちている。1つはGKマヌエル・ノイアーがいないということもあるだろう。ただ、W杯ではノイアーがいても敗れてしまった。これまで絶対的なストライカーがいたが、その選手たちがいなくなったということもあるかもしれない。ミロスラフ・クローゼ、マリオ・ゴメスと軸になるストライカーが今はいない。前線でボールが収まらないというのも要因の1つとも言えるだろう。 理由は1つではないだろうが、多くのことが重なり、確実に上手くいっていない。キャプテンでもあるMFイルカイ・ギュンドアンは日本戦後に「現時点で僕たちが十分ではないことは明らかだ。おそらく僕たちは、自分たちが実際よりも優れていると考えているのかもしれない」と、自分たちが過信し過ぎている可能性を指摘。副キャプテンのMFジョシュア・キミッヒは「僕たちには、彼らを苦しめる手段がほとんどなかった」、「後半は何もできなかった。僕たちはピッチ上で全くクオリティを発揮できていない。多くの不安が見て取れる」と語り、完敗を認めた。 ビッグセーブを見せたテア・シュテーゲンも「なぜ僕たちがチームとしてピッチ上でできないのか、今のチームとしての実力はどうなのか。僕には疑問だ」と、パフォーマンスが上がらないことで自分たちの実力にも疑念を抱いている。 世界でも屈指の強豪国として名を馳せてきたドイツ。日本に勝ちに行ったのにも関わらず、完璧にやり返されたことはショックも大きいはず。逆に日本は、この勝利を自信にし、世界の列強と渡り歩けるという気持ちで、更なるレベルアップを目指してもらいたい、 《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》 <span 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改めて感じさせられた遠藤航の存在感、デュエルの強さだけではない冷静さと判断力を持つ偉大なキャプテンへの第一歩【日本代表コラム】

第2次政権で2度目の活動となった6月シリーズは、エルサルバドル代表、ペルー代表を相手に2連勝。2試合で10ゴールという結果を残して終えた。 「南米の強豪にこうやって勝てるということを自信に繋げて、次からの活動でもレベルアップを目指していきたいと思います」 試合後の記者会見で森保一監督はこう語ったが、まさに力を発揮できた2試合だったと言えるだろう。 15日に行われたエルサルバドル戦は、キックオフからアグレッシブに入ると、1分で先制。2分で相手が退場し、ほとんどの時間を数的有利な状態で戦った。 ただ、10人になれば相手も戦い方を変えてくる。決して簡単な試合とはならなかったが、選手たちは強度を落とさず、ゴールに向かい、結果として6ゴールを記録した。 そして迎えたペルー戦。エルサルバドル以上に実力を持つ相手との試合だったが、伊藤洋輝(シュツットガルト)のミドルシュートで幸先良く先制すると、見事なつなぎから三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)が追加点。後半に入り、伊東純也(スタッド・ランス)、前田大然(セルティック)とゴールを重ね、4-1で勝利を収めた。 2試合10ゴール、10人の得点者。攻撃に常に課題を抱える日本代表としては、この上ない収穫だったと言える。特に、所属クラブで好調を維持してシーズンを終えた選手たちが多いだけに、そのプレーをしっかりと代表チームでも発揮できたことは良い傾向だ。まだまだ反省点はあるものの、それでも収穫が大きかったと言えるだろう。 ペルー戦に目を向ければ、古橋亨梧(セルティック)、伊東、三笘、鎌田大地(フランクフルト)、旗手怜央(セルティック)と攻撃のユニットはあまり見ない組み合わせとなった。 三笘のみが第2次政権で4試合連続の先発起用。それ以外の選手は大きく変わっている。この試合では、右サイドに入った伊東との両サイドは突破できる脅威を相手に与え続けた。 鎌田と旗手の両インサイドは良いポジションを取り、間でパスを受ける展開に。また、スペースを空ける動きを見せるなど、互いに良さを見せることとなった。鎌田に関しては、下がってボールを受けること、前に出てゴールに迫ることなど、攻守にわたって存在感を見せることとなった。 ◆改めて存在の大きさを感じさせたキャプテン その中でも改めて今の日本代表に欠かせない存在であることを示したのがアンカーで起用された遠藤航(シュツットガルト)だ。 今回の活動で、新体制の日本代表のキャプテンに正式就任。エルサルバドル戦は出番がなかったため、この試合がキャプテンとしてのデビュー戦であり、日本代表通算50試合目の出場となった。 エルサルバドル戦では相手の問題もあったが、アンカーの守田が気を利かせたプレーを見せ続け低田が、この日の遠藤はそれ以上のパフォーマンスを見せていた。 何よりもそこにあるのは安定感と安心感。森保監督がキャプテンを任せることを決断しただけの理由はある。その存在感は、いなかった1試合ではなく、出場した1試合で見せつけた。 「南米のチームは一対一や球際が強い。そこで上回るのが自分の仕事。それは真ん中でやっている以上、見せなければならない」 試合後に遠藤は自身の役割を語った。FIFAランキングでも1つしか違わない相手。実力のある相手であり、プレスの強度や守備のタイトさはエルサルバドルとは比にならなかったが、遠藤は落ち着いて役割を果たした。 ブンデスリーガでデュエルキングに輝いた実力は伊達ではない。ただデュエルに強いのではなく、チームが求めるタイミングで、しっかりと相手を封じる力を持っていることが大きい。 なかなか上手くいかないペルーの攻撃を受けて、百戦錬磨のパオロ・ゲレーロが降りて来れば、しっかりと潰しに行く。相手がカウンターを仕掛けようとすれば、その手前でボールを奪う。両サイドが高い位置を取り、スペースが空けば埋めに行って止める。また、自身が奪い切るだけでなく、チーム全体を促すプレーも見せる。守備においては全てをコントロール。結果、遠藤が下がった直後に日本は何でもないプレーで失点してしまった。遠藤がいたらという仮定の話はしたくないが、谷口彰悟(アル・ラーヤン)がクリアしたボールは、しっかりと回収したかシュートブロックに入っていたのではないだろうか。それだけ安定感があった。 そして、遠藤が素晴らしいだけでなく、周りが生きてくるのも魅力だ。遠藤がアンカーにいることで、バランスを取る鎌田と旗手も自由度が増す。サイドバックの菅原由勢(AZ)も臆することなく高い位置を取れる。前線の5枚が特徴を出す上で、遠藤がいるという安心感が思い切りの良さを引き出せると言える。 「前から行かなくていい時は無理やり相手に持たせる形を取った。前の選手は横パスが入った時にスプリントをかけて行きたくなる所を、我慢してもらって6番を見てもらった」 前線からの守備は追い回してしまいがちだが、遠藤はしっかりとそこも制御。チームとしての戦い方をピッチ上で判断しなければならない以上、ゲームを読み、最善の策を見つけられる選手は必要だ。その点では、遠藤が最も優れた存在と言えるだろう。クラブで厳しい残留争いを2年連続で乗り越えたことも、難しい状況でキャプテンとしてチームマネジメントしたことも、日本代表にとって大きな経験になっているようだ。《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》 <span class="paragraph-title">【動画】南米の実力国、ペルー相手に日本代表が4発快勝!</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="Gird7ijx7EE";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.06.21 12:57 Wed

ラッキーではない6-0の大勝は日本代表が続けたやるべきプレーの成果、ワンランク上のチームへの第一歩【日本代表コラム】

開始1分で先制、2分で相手が退場し、4分で2-0。ピッチ上の人数は11vs10という状況。エルサルバドル代表戦は、日本代表にとって、この上ないスタートとなった。 試合の結果はご存知の通り6-0の圧勝。立ち上がり5分で決着がついたように見える試合だったが、それでもしっかりと戦い切れないのがこれまでの日本だった。しかし、この日は6ゴールを奪い、前半4点、後半2点。選手を入れ替え、新たな取り組みをした上での結果は、評価して良いだろう。 試合後、森保一監督は「選手たちの試合に懸ける思いが結果を良くしたと思います」とコメント。序盤のエクスキューズは、しっかりとチームが生み出したものだと振り返った。 ミックスゾーンでは三笘薫(ブライトン&ホーヴ・アルビオン)も「結果だけを見れば、相手が弱い、簡単だと言われることもあるかもしれませんが、そんなことはない」と語気を強めた。ラッキーが重なっただけの大勝劇ではない。 3月に新体制でスタートした森保ジャパン。ベテラン勢の招集を見送り、カタール・ワールドカップ(W杯)のメンバーからはケガなども含めて11名が呼ばれず。フレッシュな顔ぶれで臨み、新たなビルドアップやコンビネーションを試した中、ウルグアイ代表、コロンビア代表を相手に勝利を掴めなかった。 そして迎えた6月。3月の反省を生かしたい中、選手たちの高みを目指す想いはより一層強くなっている。 新キャプテンに就任した遠藤航(シュツットガルト)は「世界一になるために活動してほしい」と選手たちに伝えた。森保監督も「選手たちが思ってくれていることは嬉しい」と、突破できていないベスト16の壁を越えることではなく、更なる高みを求めて活動できることを喜んでいた。 口で言うことは簡単だろう。ただ、目標を達成するためにどう働きかけるのか。目標を達成できなくとも、成長や進化、ステップアップを果たすために、目に見えて変化を示す必要があった。 そこで迎えたエルサルバドル戦。前述の通り、エクスキューズがあったが、選手たちのパフォーマンスが落ちることはなく、自分たちにフォーカスしてプレーを続けられたことは評価すべきだろう。 先制点に繋がったFKは、左サイドでボールを受けた三笘が仕掛けたことで獲得できた。相手も当然警戒していた中で、ファーストプレーで特徴を出した三笘は「状況を判断して、スペースがあったので、上手くもらうことができました」とプレー選択の理由を語った。結果、それがゴールに繋がった。 アシストを記録した久保建英(レアル・ソシエダ)は「ここのところ良いフィーリングでセットプレーを蹴れていた」と、FKのキッカーを旗手怜央(セルティック)に志願。「角度的にもここはファーなんじゃない」(旗手)という言葉を受けてクロスを上げ、谷口彰悟(アル・ラーヤン)の日本代表初ゴールを生み出した。 そして2点目に繋がったプレー。結果として相手を退場に追い込み、PKで追加点を奪えたが、その前の相手陣内でのプレスが全てだった。 ゲームキャプテンを務めた守田英正(スポルティングCP)は、「自分たちが良い形でプレスをかけて前から嵌めていった結果」と退場に追い込んだプレーを振り返り、「ポジティブに自分たちにとって良かったと捉えています」と11vs11の試合ができなかったことを残念がりながらも、徹底できたプレスがよかったと振り返った。 3点目の久保のゴールについて、アシストした三笘は「狙っていた」と切り替えの部分を狙ったとコメント。その三笘が持ち出してミドルシュートを放ったこぼれ球を決めた堂安律(フライブルク)は「ごめんしかないです笑」とごっつぁんゴールだと認めながらも「こぼれて来ることは意識していた。ラッキーではない」と、インサイドハーフとしての役回りと試合の流れを見ての判断が生んだものだと振り返った。 エルサルバドルのウーゴ・ペレス監督は「最初の3分でこの試合の展開がほぼ決まった」と試合の入りを嘆いた。本来であればハイプレスとポゼッションで対抗したかったと語った監督だが、そうはさせないキックオフからの集中力が全てだった。 FIFAランキングを見れば、エルサルバドルの方が確かに下に位置している。三笘の言葉のように、相手が弱かった、人数が違ったなどということは簡単だが、日本だって集中力を失う可能性もあった。それでも、6ゴールを奪って勝ち切ったことは評価できる。 得点には絡まなかったが、インサイドハーフでフル出場した旗手は圧巻のパフォーマンスを見せた。守備を支え、バランスを取り、ボックス内にも積極的に入った。影のMVPと言って良いパフォーマンスを見せたが、代表での2試合目ということを忘れてはいけない。 後半開始から起用され、久保のお膳立てからゴールを決めたFW中村敬斗(LASKリンツ)も代表2試合目。ほぼデビュー戦という状況で、左サイドで攻守に躍動した。時間は短かったが、25分間プレーしたMF川辺駿(グラスホッパー)はちょうど2年ぶりの代表戦出場に。オフ・ザ・ボールの動きは秀逸で、バランスを取り、強度を保ってチームの中盤を支えた。追加招集し、合流から24時間後に日本代表デビューしたMF伊藤敦樹(浦和レッズ)も慣れないポジションで力を発揮した。“ホーム”で日本代表デビューしたDF森下龍矢(名古屋グランパス)も同様だ。まだまだ世界との差、経験の差はあれど、がむしゃらにプレーした。積極的な攻撃参加を見せ、持ち味を見せつけたと言える。 森保監督が語った「試合に懸ける思い」を、しっかりとピッチで表現し、相手の状況に関係なく、自分たちが求めるパフォーマンスを出し切った日本。「伊東純也選手にももっと取れただろと言われたし、前半2~3回取れたシーンがあったのでそこは悔やまれますね」と久保が語ったが、もっとできたという反省点を次のペルー戦にどう生かすのか。大勝したからこそ、ディテールに目を向けて反省は必要だが、ピッチ上のパフォーマンスでまず示したことは素直に評価すべきだろう。 《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》 <span class="paragraph-title">【動画】3人が代表初ゴール! 日本代表、圧巻の6発ゴールショー</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="ZLvd4VyvZCI";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.06.16 12:30 Fri

世代間の融合と8年の積み上げを…日本代表に必要なのは目先の勝利ではなく、未来へのトライ【日本代表コラム】

「勝利を目指さないといけない戦いですが、未来も同時に見据えて選手起用をしながら、選手個々のレベルアップとチームの全体の選手層を厚くすること、戦い方の選択肢を増やすことは絶対的に必要だと思います」 コロンビア代表戦後、森保一監督が口にした言葉。この言葉こそが全てと言えるだろう。 カタール・ワールドカップ(W杯)でベスト16に進出するも、PK戦の末に敗れた日本。ドイツ代表、スペイン代表という世界の強豪国相手にしっかりと勝利を収めたことで、大きな盛り上がりを見せ、世界に驚きを与えた。 その後、選手たちは各クラブで結果を残し、驚きを与え続けた中、W杯後の最初の活動となったウルグアイ代表戦とコロンビア戦は、チケットが完売し、スタンドが埋め尽くされ、大きな声援が選手たちに送られた。 結果を見れば、1分け1敗。期待に応えていないと言われても仕方ないのかもしれない。森保監督も「まずは結果が大事だと考えている中で残念な気持ちでいます」と会見の冒頭で語った。 当然勝った方が良いに決まっている。そして、監督や選手だけでなく、観客も勝利を望んでいたことは間違いない。ただ、勝利すれば良いのかと言われれば、そうではないだろう。その理由は、冒頭の森保監督のコメントだ。 この2試合に向けて、経験のある選手を外し、経験の浅い選手を招集した森保監督。W杯メンバーもいる中で、「より幅広く選手層を厚くして、強くして最強の日本代表を将来的に作っていけるようにと考えています」とメンバー発表時に語っていた。 カタールW杯でも越えられなかったベスト8の壁。しかし、日本が目指すのは、ベスト8ではなく、世界一。そこに近づくためのステップとして、2026年の北中米W杯を目指していく中で、やらなければいけないことは多い。 この2試合をただ勝ちに行くだけならば、メンバー選考も全く違うものになったはず。コロンビア戦後には「安定だけを求めれば、これまでやれていた選手たちを使うということで、安定と安心という部分はあるかもしれません」と語っており、3年半後にはベストではない選手を呼ぶこともできたはずだ。 ただ、今回の最大の目的はそこではない。3年半後、いやその先の世界一に向けて積み上げるということが最大のテーマ。これまでの日本代表とは、置かれている状況が全く違うことを認識すべきだろう。 <span class="paragraph-title">◆世代間の融合&8年という計画を最大限生かすべき</span> <div style="text-align:center;"><img src="https://image.ultra-soccer.jp/1200/img/2023/jpn20230329_1_tw.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:small;" id="cws_ad" class="desc">Getty Images<hr></div> その大きな違いは、8年間チームを作れる可能性があるということ。もちろん、2026年のW杯までに森保監督がチームを離れる可能性はゼロではない。ただ、現時点ではその可能性は低い。 これまで、どんな監督でも4年が最長。W杯が終われば、別のサイクルが始まり、リセットされた状態から予選に向かい、本大会へと進む流れだった。 しかし、今回は違う。カタールW杯で経験したこと受け、ブラッシュアップして4年間を積み上げられるサイクルに入った。日本では今まで実現しなかったことであり、4年の積み上げの上にさらに4年を積み上げられることはプラスでしかない。 加えて、森保監督は2021年の東京オリンピック世代の監督を務めていたこともあり、未来へと繋がる世代の選手をよく知っている。そして、その選手たちは森保監督のサッカーをよく理解している。だからこそ、ベテランを外し、そしてベースの上に新たなトライをすることができたのだろう。いや、トライしなければいけなかったというのが正しいかもしれない。 今回の2試合では、サイドバックをインサイドに入れたビルドアップを試した。もちろん、そんな簡単に上手くいくことはなく、ただでさえトレーニングの時間がない中で、選手たちに理解させ、連係と動きを落とし込まなければいけない。 2試合を戦い、改善された部分も多少はあるが、まだまだ完成度は低い。ただ、選手たちがこの2試合で感じたことは、間違いなく大きいはず。6月の活動で、さらに精度を上げていけるかどうかは注目すべき点だろう。 これまで「勝利を目指す」というコメントを常に森保監督は口にしてきたが、この2試合に向けてはその数は少なかったように感じる。それは、勝利を目指すことは“当たり前”になっているのかもしれないが、勝利以上に求めたものがあったとも考えられる。進化にはリスクはつきもの。親善試合=テストマッチということが、やっと実現できる機会だったと個人的には思う。 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で、カタールW杯までは予選が立て続けに行われ、親善試合の回数が減っていた。久々に訪れたテストの場を、存分に使い、勝敗が未来に関わらないところでトライするということは、今の日本代表にとって一番重要なことではないだろうか。 勝って反省していく、成長していくというのは理想ではあるが、勝てばいいという次元にはもういないということ。トライをした上で勝っていくことを目指す集団になれるかどうかが、ベスト8を超えていくためには必要になるだろう。 《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》 <span class="paragraph-title">【動画】新たなトライへ、日本代表のミーティングの様子をチェック</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="9rPJwzlIL_o";var video_start = 349;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.03.30 07:45 Thu
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