最後かもしれない、レジェンド監督2人のマドリード・ダービー。その戦いは各性格を反映したものに-木村博嗣コラム(WOWOW)
2018.04.06 23:00 Fri
ジダンとシメオネ、クラブのレジェンドというだけでなくチームのプレースタイルをも代表するような2人の顔合わせは、今週末4月8日(日)のマドリード・ダービーで最後かもしれない。
先に退団の噂があったのはシメオネの方だった。2020年までの契約期間を本人の希望で2018年に短縮し去就が注目されていたが、昨年9月改めて2020年まで契約を更新し、腰を据えてアトレティコ・マドリードの指揮を執ることになった。
とはいえ、一抹の不安がよぎるのは、クラブの彼へのバックアップ体制が揺らいでいるところ。先の冬の移籍市場でカラスコ、トニ・モヤ、ガイタン、アウグスト・フェルナンデス、ビエットと準レギュラー級がごっそり抜け、選手登録枠25人より6人も少ない19人での戦いを強いられているのだ。これがシメオネの意向だったとは思えないから、シーズン終了後フロントとの間にひと悶着あってもおかしくない。
一方、ジダンの方は会見に出る度に去就についての質問が飛ぶ状態になっている。クラブ内部事情に詳しい記者によると「今季限りでの退団を決意している」。彼が見据えているのはフランス代表監督の座だという。確かにレアル・マドリードでCLを連覇しクラブレベルで頂点を極めた彼がステップアップするとすれば、もう祖国の代表監督しか残っていない。ベストの選手を選択しベストの布陣で気持ち良くプレーさせる、というマネージャータイプの監督(レアル・マドリード監督からスペイン代表監督になったデル・ボスケを思い出させる)であるジダンには適職でもある。
モウリーニョやグアルディオラの足取りを見ればわかる通り、監督のサイクルは3年と言われる。タイトルを獲得し目標を達成する度に違う環境で自分を試してみたいという野心は、名監督になるには不可欠のものなのだ。今週末のマドリード・ダービーを、両監督の次のステップを念頭に置きながら見ていきたい。
それはカリスマを生かしたマネージメント能力を極めることだろう。
超一流ゆえのエゴがぶつかり合う“世界一やっかいなロッカールーム”と呼ばれる選手たちをジダンは選手時代の威光で平伏させ、ソフトな人当りでうるさいマスコミを黙らせた。戦術面では、カゼミーロをアンカーに置き、モドリッチとクロースをダブルゲームメイカーに配してCBコンビ、GKと合わせて6人で守り、5人(両SB+3トップあるいはSB+トップ下+2トップ)で攻める、というベストの攻守バランスを見出したことが最大の功績である。
アトレティコ・マドリード戦でも6人は不動(ケイラー・ナバス、ヴァラン、セルヒオ・ラモス、カゼミーロ、モドリッチ、クロース)、両SBもカルバハルとマルセロで決まり、3トップ(クリスティアーノ・ロナウド、ベンゼマ、ベイル)なのか、ベイルの代わりにイスコを入れた2トップ+トップ下なのか、だけが戦術バリエーションになる。
週中にCLユベントス戦があり、控えのアセンシオ、ルカス・バスケス、バジェホもここにきて調子を上げている。誰を先発させどこで交代させるかという采配にも注目したい。とはいえ、迷った時は原点に戻る、という慎重な性格からして策を弄せず、大らかに受ける立場で試合に臨むだろうと予想する。
■開始直後からラッシュをかけて主導権を握る、それがシメオネスタイル
“闘将”と呼ばれても“戦術家”と呼ばれることがなかったのは、彼の代名詞がカウンターサッカーだからだが、今季、特に後半戦は違うスタイルにもチャレンジしている。注目すべきは中盤の顔ぶれだ。MF陣はドリブラーのビトロを除けばテクニシャンばかり。しかも彼らはみな右でも左でも、前でトップ下的にも後ろでアンカー的にもプレーできるポリバレントさも持ち合わせている。中でプレーするタイプのMFを集めたことで中央の守りが厚くなったことはもちろん、中盤のキープ力と構成力が上がり、ロングカウンター一辺倒ではなく、短いクサビを使った速攻や遅攻もできるようになった。
レアル・マドリード戦では、ホームでのダービー同様、相手のボール回しを寸断する布陣で臨んでくるだろう。具体的には、中盤をトップ下(グリーズマン)+2インサイドMF(コケ、サウール)+2ボランチ(トーマス、ガビ)の5人で構成して数的有利を作るという形だ。その前後をトップのジエゴ・コスタ、DFリュカ、ゴディン、サヴィッチ、フアンフラン、GKオブラクが固める。相手を零封しながら自分たちも無得点に終わったホームでの試合と違うのは、トップにターゲットとなり得るジエゴ・コスタがいること。彼は右に流れてフィジカル的に優位に立てるマルセロとのマッチアップを狙ってくるだろう。
インターセプト後のボール出しに余裕がなければロングボールでジエゴ・コスタを狙う、というオプションは常にある。だが、シメオネは成功率の低いロングパスを極力避け、数的優位でテクニック的にも信頼できる中盤を使ったパスによる崩しを指示するのではないか。時間帯やスコアに応じてDFラインの高さを変えプレスの強度を変える駆け引きも彼の持ち味。サンティアゴ・ベルナベウでの試合だが、試合開始後からラッシュをかけ一気に主導権を握ろうという、シメオネの気性通りのやり方をしてくるとみる。
(文/木村浩嗣)
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■危うくなった2人の立場先に退団の噂があったのはシメオネの方だった。2020年までの契約期間を本人の希望で2018年に短縮し去就が注目されていたが、昨年9月改めて2020年まで契約を更新し、腰を据えてアトレティコ・マドリードの指揮を執ることになった。
一方、ジダンの方は会見に出る度に去就についての質問が飛ぶ状態になっている。クラブ内部事情に詳しい記者によると「今季限りでの退団を決意している」。彼が見据えているのはフランス代表監督の座だという。確かにレアル・マドリードでCLを連覇しクラブレベルで頂点を極めた彼がステップアップするとすれば、もう祖国の代表監督しか残っていない。ベストの選手を選択しベストの布陣で気持ち良くプレーさせる、というマネージャータイプの監督(レアル・マドリード監督からスペイン代表監督になったデル・ボスケを思い出させる)であるジダンには適職でもある。
モウリーニョやグアルディオラの足取りを見ればわかる通り、監督のサイクルは3年と言われる。タイトルを獲得し目標を達成する度に違う環境で自分を試してみたいという野心は、名監督になるには不可欠のものなのだ。今週末のマドリード・ダービーを、両監督の次のステップを念頭に置きながら見ていきたい。
■迷った時は原点に戻る、慎重なジダン
Getty Images
まず、ジダンの「次」とは何か?それはカリスマを生かしたマネージメント能力を極めることだろう。
超一流ゆえのエゴがぶつかり合う“世界一やっかいなロッカールーム”と呼ばれる選手たちをジダンは選手時代の威光で平伏させ、ソフトな人当りでうるさいマスコミを黙らせた。戦術面では、カゼミーロをアンカーに置き、モドリッチとクロースをダブルゲームメイカーに配してCBコンビ、GKと合わせて6人で守り、5人(両SB+3トップあるいはSB+トップ下+2トップ)で攻める、というベストの攻守バランスを見出したことが最大の功績である。
アトレティコ・マドリード戦でも6人は不動(ケイラー・ナバス、ヴァラン、セルヒオ・ラモス、カゼミーロ、モドリッチ、クロース)、両SBもカルバハルとマルセロで決まり、3トップ(クリスティアーノ・ロナウド、ベンゼマ、ベイル)なのか、ベイルの代わりにイスコを入れた2トップ+トップ下なのか、だけが戦術バリエーションになる。
週中にCLユベントス戦があり、控えのアセンシオ、ルカス・バスケス、バジェホもここにきて調子を上げている。誰を先発させどこで交代させるかという采配にも注目したい。とはいえ、迷った時は原点に戻る、という慎重な性格からして策を弄せず、大らかに受ける立場で試合に臨むだろうと予想する。
■開始直後からラッシュをかけて主導権を握る、それがシメオネスタイル
Getty Images
一方、シメオネの「次」とは戦術の幅を広げることだ。“闘将”と呼ばれても“戦術家”と呼ばれることがなかったのは、彼の代名詞がカウンターサッカーだからだが、今季、特に後半戦は違うスタイルにもチャレンジしている。注目すべきは中盤の顔ぶれだ。MF陣はドリブラーのビトロを除けばテクニシャンばかり。しかも彼らはみな右でも左でも、前でトップ下的にも後ろでアンカー的にもプレーできるポリバレントさも持ち合わせている。中でプレーするタイプのMFを集めたことで中央の守りが厚くなったことはもちろん、中盤のキープ力と構成力が上がり、ロングカウンター一辺倒ではなく、短いクサビを使った速攻や遅攻もできるようになった。
レアル・マドリード戦では、ホームでのダービー同様、相手のボール回しを寸断する布陣で臨んでくるだろう。具体的には、中盤をトップ下(グリーズマン)+2インサイドMF(コケ、サウール)+2ボランチ(トーマス、ガビ)の5人で構成して数的有利を作るという形だ。その前後をトップのジエゴ・コスタ、DFリュカ、ゴディン、サヴィッチ、フアンフラン、GKオブラクが固める。相手を零封しながら自分たちも無得点に終わったホームでの試合と違うのは、トップにターゲットとなり得るジエゴ・コスタがいること。彼は右に流れてフィジカル的に優位に立てるマルセロとのマッチアップを狙ってくるだろう。
インターセプト後のボール出しに余裕がなければロングボールでジエゴ・コスタを狙う、というオプションは常にある。だが、シメオネは成功率の低いロングパスを極力避け、数的優位でテクニック的にも信頼できる中盤を使ったパスによる崩しを指示するのではないか。時間帯やスコアに応じてDFラインの高さを変えプレスの強度を変える駆け引きも彼の持ち味。サンティアゴ・ベルナベウでの試合だが、試合開始後からラッシュをかけ一気に主導権を握ろうという、シメオネの気性通りのやり方をしてくるとみる。
(文/木村浩嗣)
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