スウェーデンに惜敗も気になったディテールの3プレー/六川亨の日本サッカー見聞録
2023.08.12 11:30 Sat
なでしこジャパンが2011年のドイツW杯で優勝し、翌年のロンドン五輪でも銀メダルを獲得。さらに15年のカナダW杯でも準優勝を果たした。しかし16年のリオ五輪は出場権を逃し、19年のフランスW杯は決勝トーナメント1回戦で敗退。21年の東京五輪もスウェーデンに1-3と敗れてベスト8で終わった。
その原因としては、澤穂希ら傑出したタレントの代表引退に加え、ヨーロッパ勢が急速に力をつけてきたことが上げられるだろう。しかも、それまでフィジカル中心のサッカーだったのが、日本のようにていねいにパスをつなぐようになった。
一方の日本は、若年層の育成に力を注ぎつつ、21年にはプロリーグ(WEリーグ)もスタートさせた。若年層の育成は選手の海外移籍につながり、プロ化との相乗効果もあったのが、現在オーストラリアとニュージーランドで開催されているW杯での快進撃につながったのだろう。
ところが、そのW杯で異変が起きている。FIFAランク2位のドイツがグループリーグで敗退し、東京五輪金メダルのカナダ(FIFAランク7位)もグループリーグで姿を消した。さらに「スカートを穿いたペレ」ことマルダを擁し、かつてアメリカを五輪連覇に導いたピア・スンドハーゲ監督率いるブラジルもグループリーグで涙を飲んだ。
ドイツは東京五輪の出場権を逃したし、アメリカも東京五輪では銅メダルに終わった。アメリカは直近のW杯で3大会連続して決勝に進出していたが、今大会は決勝トーナメント1回戦でスウェーデン(東京五輪は銀メダル)にPK戦で敗れた。両国ともかつての勢いは失われつつあるのだろうか。こちらについては現地で取材している記者の報告を待ちたい。
ただし、ディテールを見ていくと日本にはミスとまでは言えないまでも悔やまれるシーンが散見された。まず32分のスウェーデンの先制点。これはCB熊谷紗希が1トップのブラックステニウスを倒して与えたFKからの失点だった。それまでもスウェーデンはブラックステニウスの足元にパスを入れて単独突破やポストプレーにトライしていたが、彼女はボールが足に着いていないようでドタバタしていた。
熊谷は慌てる必要はなく、相手のコントロールミスを待てばいいのにと思ったものの、後ろから倒してFKを与えた。高さを武器にする相手には与えていけないアドバンテージである。もしかしたら熊谷は、7分前に右SBビョルンのタテパスからブラックステニウスに走り負けてシュートを打たれたシーンがあったため、それが焦りにつながったのかもしれない。経験豊富なキャプテンらしくないプレーでもあった。
この1点で、スウェーデンは後ろの人数を揃えて日本のカウンターを警戒しつつ、「プレッシャーをかけに行くと裏に走られたり、高さを使われたり」と池田太監督が振り返ったように、リスクヘッジしながら追加点を狙った。正直、この時点でスペイン戦で演じた日本のゲームプランは崩れ、後半開始直後のCKからのVAR判定でPKを与えて失点したことで、絶望的な気分になった。
GK山下杏也加は左右にステップを踏み、両手を頭上で揺らしてキッカーを惑わそうとしたものの、190センチ近い身長で威圧感があるならともかく、170センチの身長でどれだけ効果があるのか疑問だった。せめてキッカーが蹴る瞬間はステップを止めて、両方向に飛べるようにして欲しかった。でないと簡単に逆を取られてしまうだろう。それまでの再三の好セーブは、最後までシュートの軌跡を見極めたからだと思ったからでもある。
0-2となり、日本のシュートはいまだ0本。日本の快進撃もこれまでかと思った。ところが失点直後の7分にFW田中美南に代えて植木理子を投入すると、フレッシュな植木の動きに連動して日本の攻撃が活性化したのだから驚いた。19分には右FWの藤野あおばが初シュート。ここから日本の攻勢が続き、ボランチ長谷川唯や藤野が惜しいシュートを放ち、29分には植木がドリブル突破からPKをゲットする。
ところが植木はザンビア戦と同じような軌跡のシュートをクロスバーに当てて失敗。ザンビアGKが前に出たためにやり直しとなったPKのように、せっかく成功体験があったのに、なぜGKの逆を突いて右下に流し込まなかったのか歯がゆかった。
熊谷はボールを奪取できると思ったのかもしれない。GK山下はPKストップの、植木も決める自信があったのだろう。特にGK山下と植木は劣勢の状況だっただけに、過度のプレッシャーにさらされてのプレーの選択でもある。自信のあるプレーを選択するのも当然だ。しかし、一瞬でもいいからそこで相手の心理を読む“数秒の間"が欲しかった。
3選手にはずいぶんと厳しいことを言ったが、それだけ“したたかなプレー"ができる選手だと思うからでもある。悔しい思いは人一倍だろうが、リベンジのチャンスがないわけではない。来年のパリ五輪、まずは出場権を獲得することだ。そうすれば、勝ち上がれば嫌でもスウェーデンと再戦する機会は巡ってくるだろう。そこでの再戦を楽しみに待ちたい。
その原因としては、澤穂希ら傑出したタレントの代表引退に加え、ヨーロッパ勢が急速に力をつけてきたことが上げられるだろう。しかも、それまでフィジカル中心のサッカーだったのが、日本のようにていねいにパスをつなぐようになった。
一方の日本は、若年層の育成に力を注ぎつつ、21年にはプロリーグ(WEリーグ)もスタートさせた。若年層の育成は選手の海外移籍につながり、プロ化との相乗効果もあったのが、現在オーストラリアとニュージーランドで開催されているW杯での快進撃につながったのだろう。
ドイツは東京五輪の出場権を逃したし、アメリカも東京五輪では銅メダルに終わった。アメリカは直近のW杯で3大会連続して決勝に進出していたが、今大会は決勝トーナメント1回戦でスウェーデン(東京五輪は銀メダル)にPK戦で敗れた。両国ともかつての勢いは失われつつあるのだろうか。こちらについては現地で取材している記者の報告を待ちたい。
前置きが長くなってしまったが、日本対スウェーデンの準々決勝は2-1でスウェーデンが準決勝に勝ち上がった。スコアは接戦だったし、日本も後半はよく盛り返して惜しいシーンを作った。それは決定機の数が4対4と互角だったことが証明している。
ただし、ディテールを見ていくと日本にはミスとまでは言えないまでも悔やまれるシーンが散見された。まず32分のスウェーデンの先制点。これはCB熊谷紗希が1トップのブラックステニウスを倒して与えたFKからの失点だった。それまでもスウェーデンはブラックステニウスの足元にパスを入れて単独突破やポストプレーにトライしていたが、彼女はボールが足に着いていないようでドタバタしていた。
熊谷は慌てる必要はなく、相手のコントロールミスを待てばいいのにと思ったものの、後ろから倒してFKを与えた。高さを武器にする相手には与えていけないアドバンテージである。もしかしたら熊谷は、7分前に右SBビョルンのタテパスからブラックステニウスに走り負けてシュートを打たれたシーンがあったため、それが焦りにつながったのかもしれない。経験豊富なキャプテンらしくないプレーでもあった。
この1点で、スウェーデンは後ろの人数を揃えて日本のカウンターを警戒しつつ、「プレッシャーをかけに行くと裏に走られたり、高さを使われたり」と池田太監督が振り返ったように、リスクヘッジしながら追加点を狙った。正直、この時点でスペイン戦で演じた日本のゲームプランは崩れ、後半開始直後のCKからのVAR判定でPKを与えて失点したことで、絶望的な気分になった。
GK山下杏也加は左右にステップを踏み、両手を頭上で揺らしてキッカーを惑わそうとしたものの、190センチ近い身長で威圧感があるならともかく、170センチの身長でどれだけ効果があるのか疑問だった。せめてキッカーが蹴る瞬間はステップを止めて、両方向に飛べるようにして欲しかった。でないと簡単に逆を取られてしまうだろう。それまでの再三の好セーブは、最後までシュートの軌跡を見極めたからだと思ったからでもある。
0-2となり、日本のシュートはいまだ0本。日本の快進撃もこれまでかと思った。ところが失点直後の7分にFW田中美南に代えて植木理子を投入すると、フレッシュな植木の動きに連動して日本の攻撃が活性化したのだから驚いた。19分には右FWの藤野あおばが初シュート。ここから日本の攻勢が続き、ボランチ長谷川唯や藤野が惜しいシュートを放ち、29分には植木がドリブル突破からPKをゲットする。
ところが植木はザンビア戦と同じような軌跡のシュートをクロスバーに当てて失敗。ザンビアGKが前に出たためにやり直しとなったPKのように、せっかく成功体験があったのに、なぜGKの逆を突いて右下に流し込まなかったのか歯がゆかった。
熊谷はボールを奪取できると思ったのかもしれない。GK山下はPKストップの、植木も決める自信があったのだろう。特にGK山下と植木は劣勢の状況だっただけに、過度のプレッシャーにさらされてのプレーの選択でもある。自信のあるプレーを選択するのも当然だ。しかし、一瞬でもいいからそこで相手の心理を読む“数秒の間"が欲しかった。
3選手にはずいぶんと厳しいことを言ったが、それだけ“したたかなプレー"ができる選手だと思うからでもある。悔しい思いは人一倍だろうが、リベンジのチャンスがないわけではない。来年のパリ五輪、まずは出場権を獲得することだ。そうすれば、勝ち上がれば嫌でもスウェーデンと再戦する機会は巡ってくるだろう。そこでの再戦を楽しみに待ちたい。
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