女子W杯はテレビで観戦できるのか?/六川亨の日本サッカーの歩み

2023.06.20 12:00 Tue
Getty Images
なでしこジャパンは今月27日より1次キャンプに突入する。7月14日(金)には仙台でパナマ女子代表との壮行試合を行い、22日(土)に女子W杯オーストラリア&ニュージーランド2023でザンビア女子代表との初戦を迎える。
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すでにW杯に臨むメンバー23名は発表された。2011年のドイツW杯優勝メンバーである岩渕真奈が外れたのは少々以外だった反面、今シーズンのWEリーグ得点王である植木理子ら14人が初のW杯メンバー選出と、若返りは着々と進んでいるようだ。W杯の開幕はまだ1ヶ月ほど先の話のため、テレビなどのマスメディアでほとんど話題に上らないのは仕方のないことだろう。残念ながら今回も取材は諸事情により断念せざるを得なかったため、テレビで「なでしこ」の活躍を楽しみにしているのだが、気になるのはいまだ日本ではテレビ放映が決まっていないことだ。
その原因はFIFA、というよりジャンニ・インファンティーノFIFA会長が高額な放映権料を設定しているにことに他ならない。FIFAは具体的な金額こそ公表していないが(交渉事のため当然と言えば当然だが)、インファンティーノ会長は5月に「女子W杯の視聴率は男子の半数に達する。しかし放送局からのオファーは非常に残念なものだ。男子W杯には1億ドル(約140億円)から2億ドル(約280億円)を支払うのに、女子W杯には100万ドル(約1億400万円)から1000万ドル(約14億円)しか提示しない」と話した。

男女間での格差をなくし、「ジェンダー平等」の実現のために努力することは素晴らしい取り組みだ。実際FIFAは、今回のW杯の優勝賞金を3000万ドル(約42億円)から1億1000万ドル(約154億2000万円)へ増額した。さらに4年後の大会では男子の賞金総額に並べたいと意欲を示した。
しかしながら、女子サッカーの理想や理念と、女子W杯の“コンテンツ”としての市場価値は分けて考えるべきではないだろうか。その点、インファンティーノ会長はとんでもない勘違いをしていると言って差し支えない。女子サッカーで大観衆が詰めかけるのは限られた大会の、限られたチームの対戦であって、いつもスタジアムが満員になるわけではない。このため日本だけでなく、最大のマーケットでもあるヨーロッパでの放映もなかなか決まらなかった。

ようやく6月14日、EBU(欧州放送連合)とイギリス、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアの5か国を含む34か国で女子W杯の無料放送の契約がまとまったとFIFAは発表した。すでに放映の決まっているアメリカと韓国を合わせて36か国で放映される。しかしながら日本では交渉がどこまで進んでいるかも不明で、すでに民放各社は中継を断念したとの噂もある。

男子のW杯は1954年のスイス大会から1978年のアルゼンチン大会まで16か国により開催されてきた。アジアの出場枠は1ないし0という狭き門だった。しかし74年西ドイツ大会直前にFIFA会長に就任したジョアン・アベランジェは、会長選での公約どおりアジアとアフリカの出場枠を増やすため、82年スペイン大会は参加国を16から24に拡大した。

そしてサッカーをそれこそワールドワイドに普及させるため、テレビの放映権料は格安に抑えた。発展途上国では白黒テレビが一般的だったことから、両チームを識別しやすいようにユニホームにも制約を設けた。スペイン大会はマラドーナやプラティニ、ジーコ、ルムメニゲといったスター選手の活躍もあり大いに盛り上がった。

しかしながらアベランジェ会長が勇退し、ジョゼフ・ブラッターが会長に就任すると、テレビ放映権料は大会を重ねるごとに高騰した。そしてそれは、残念ながらインファンティーノ会長にも受け継がれているようだ。

女子W杯に話を戻すと、日本には日本なりの事情も垣間見える。男子のW杯は“世界1”を決める大会として十分に浸透している。それに比べて五輪は“23歳以下”という制約もあり、盛り上がりは欧州や南米を上回るもののW杯の比ではない。ところが女子サッカーは、昔も今も五輪の方が格上と思われている。

今回のW杯は9大会連続出場(第1回大会から連続出場)と男子(7大会連続)を上回るし、過去には優勝・準優勝までしているのに、一般の人にはまだまだ馴染みが薄いようだ。実際、W杯に出場した元JFA女子技術委員長の野田朱美さんも、「日本では五輪の方が一般の方たちにとって知名度も高いので、W杯より五輪で結果を残すこと。メダルを獲得することが女子サッカーの普及につながるとみんなが思っていました」と話していた。メディアの取り上げ方による違いと言って差し支えないだろう。

その言葉どおり、という訳でもないが、メダルを期待された東京五輪はベスト8止まり。その前のリオ五輪はアジア予選で敗退している。リオ五輪予選は主力の高齢化や世代交代の難しさもあった。もしも東京五輪で「なでしこジャパン」がメダルを獲得していれば、今回のW杯もベスト4進出が期待できるとマスメディアが煽ることでもう少し話題を提供できたかもしれない。ただ、それらは過去の話であって、現チームの選手には関係のない話でもある。

19年フランス大会の海外組は2人しかいなかったが、現在のメンバーでは9人と増加。池田太監督の元で初優勝した18年のU-20W杯から7人が代表入りするなど、チームは着実にステップアップしている。国内初のプロリーグ、WEリーグは観客動員に課題を抱えているものの、選手の練習環境は劇的に改善された。それでも、世界との戦いを視野に入れてWEリーグを見ると、スピードで勝負できる選手、高さで勝負できる選手がいないのは今も昔も変わらない。これはWEリーグの課題でもあり、日本の弱点を突いてくる相手にいかに対処するかが今大会の見どころだとも思っている。

前回の19年フランス大会(ベスト16)、15年カナダ大会(準優勝)はかなりの時差がある国での大会だった。しかしニュージーランドとの時差はマイナス3時間のため初戦のザンビア戦は16時キックオフだ。前2大会と比べてテレビ観戦しやすい環境にある。ここは是非とも公共放送のNHKに、放映権の獲得を期待せずにはいられない。


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