【東本貢司のFCUK!】ドラゴンズ、歴史的快勝

2016.07.02 13:00 Sat
Getty Images
▽ユーロの喧騒の裏で着々と進む補強模様―――てな筋書きで今回は“ウラをかいて”やろうと目論んでいたのだが、もうそれどころじゃない。いやいや“確信”しておりましたよ、東本は。こうなる可能性を。でも、正直に言えば「大善戦/僅差の勝負」程度だったから、やはりここは、我らがウェルシュ・ドラゴンズに深く頭を垂れつつ、これ以上はない歓喜と喝采の言葉を送らねば罰が当たるというもの。確かに、好調ハンガリーを完膚なきまで叩きのめしてヨーロッパ・ナンバー1の実力全開を思わせたベルギー相手では、さすがに荷が重い、順当なら・・・・辺りが大方の(専門メディアも含めた)無難な予想だったとは思う。が、筆者はそれに首をかしげるばかりだった。一つは、ハンガリーの戦いぶり。キャプテン、ジュジャックがさっぱりボールに絡めず、ポルトガル戦までとは大違いのぎこちなさと覇気の無さ。そしてもう一つ、この大会の予選グループでウェールズはベルギーと台頭以上に渡り合っていた。「わかってないよなぁ」が偽らざる筆者の感想でありました。

▽ま、ほんのこの2年間の“ホットな歴史”すら知ってか知らずか、メンバーの名前と統計的なランク付けにべったりもたれかかって、知ったかぶりの解説をなさっている方々には無理もないのかも。そそくさに仕入れた「ベイルとラムジー」しか語るすべを持たずに、よくぞ“専門家”を名乗っておられるのでは、ね。おっと、そんな埒もない批判などどうでもよろしい。どうしてウェールズは勝ち、ベルギーは敗れたのか―――その勘所をごく端的にひもといてみよう。まず、これが一番のポイントだと思うが、主導権をがっちり握ったかに見えたベルギーが同点ゴールを喫したシーンをよ~く思い出していただきたい。素人でもわかることだ。スコアラーのアシュリー・ウィリアムズのマーカーがどこを探しても見当たらなかった。たまたまじゃない。その後も似たようなシーンでウィリアムズはまったくのフリー状態だった。ざっと考えて、その役目はルカクかヴィッツェル辺りに求められてしかるべきだったはず。かくて、この同点弾で形勢は一気にウェールズに傾いた。

▽全軍が躍動した。しっかり、じっくり、試合を最後まで追った方なら必ずや同意してくれるはずだ。イレヴン全員がまったく不足のない、それぞれの役割を十全に果たしていた。現時点で誰が「マン・オヴ・ザ・マッチ」に選ばれたかは知らないが、きっと選者は困り抜いていたことだろう。多分、ウィリアムズかラムジー辺りに落ち着くだろうが、筆者なら“満を持して”ジェイムズ・チェスターを筆頭格に推挙したい。チェスターって誰だっけ? まあそんなところかな。所属はWBA(ウェスト・ブロムウイッチ・アルビオン)、代表でのポジションは陽気で剛毅なウィリアムズの陰に隠れた3バックの右。このチェスターがそれこそ獅子奮迅の献身的プレーで、シュートブロックにマンマーク(あるときはルカク、あるときは侵入してきたアザール・・・・)に大活躍した。続くのは両ウィングバックのクリス・ガンターとニール・テイラー。これはもう、是非に再放送などでご確認を。きっと唸っていただけるはず。それにジョー・レドリーも・・・・いや、これじゃキリがない。
▽さらに強く印象に残ったのは、ロブソン=カヌーの逆転ゴールが決まった後、ドラゴンズが一切守勢に入らなかった事実。これも振り返ってみれば歴然としているが、ラムジーが足しげくベイルやロブソン=カヌーより前線寄りの位置に上がってゴールに貪欲な姿勢を示していたのを見逃すわけにはいかない。さらに、大エースのベイルはと言えば、気が付けばDFラインのすぐ前、かと思えばサイドバックが守備範囲の自陣ワイドと、それこそ神出鬼没のユビキタス。そしてこれが何よりも肝心なところだが、アーセナルでのラムジー、レアルでのベイルと、まさにそのままのプレーぶりなのである。代表戦だからといって乙に済まして型にはまらない。もちろん、それは他のプレーヤーたちにもほぼ百パーセント当てはまる。変な小細工、お仕着せの作戦ごっこなど意に介さずの自由奔放。監督コールマンも無論すべて承知の上だろう。いずれ彼はどこかで漏らすだろう。「だって、それが亡きギャリー(・スピード)が目指したはずのウェールズが進む道なんだから」と。

▽スピードの、悲劇的で今もって不可解な死についてここで詳らかに述べることもない。過去の拙文やしかるべき資料で確かめてもらえればいい。そんなことより、このウェールズ史上に残るスリリングで胸のすく快勝に、心地よい血が騒げば騒ぐほど、沈鬱な後味もまた深まるばかり。もし、この試合のウェールズが、今のイングランドだったなら、万に一つも同じ感動を味わえることはなかったろう、と。つい先日“伏兵”アイスランドに完敗したから言うんじゃない。どう逆立ちしても、現スリー・ライオンズに、先行したベルギーをうっちゃってみせる覇気と底力が見えてこないのだ。一体、何がどう・・・・いや、その辺りを探るのはまた別の機会で。ここは素直にウェールズのさらなる快進撃に期待をかけよう。ラムジーとベン・デイヴィスの累積イエロー欠場は確かに痛いが、なに、トップで孤立するC・ロナウドのポルトガルなら、ベルギー戦同様の“普段着”で押し切れる。ベイルとの直接対決で燃え上がる? なら、それはそれで見応えのある試合になりそうだが。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

ウェールズの関連記事

ブリストル・シティに所属する元ウェールズ代表MFアンディ・キング(35)が、今シーズン限りでの現役引退を発表した。 キングはチェルシーユースからレスター・シティの下部組織に移籍。2007年7月にファーストチームに昇格しプロキャリアをスタートさせた。 レスターでプレーを続け、2015-16シーズンには元日本代 2024.05.04 12:25 Sat
ユベントスのポーランド代表GKヴォイチェフ・シュチェスニー(33)がユーロ出場を逃していたら代表を引退していたと明かした。カタール『beIN Sports』のインタビューで答えた。 26日に行われたウェールズ代表とのユーロ2024本大会出場を懸けたプレーオフでPK戦の末に勝ち抜けを決めたポーランド。シュチェスニー 2024.03.28 06:30 Thu
ウェールズ代表のロバート・ページ監督が、辞任の可能性を否定した。イギリス『スカイ・スポーツ』が伝えている。 ウェールズは26日に行われたユーロ2024予選プレーオフ決勝で、ポーランド代表と対戦。勝てば3大会連続で本大会出場となる試合だったが、120分間で決着はつかずPK戦へ。5人目まで全員が成功する拮抗した展開と 2024.03.27 12:10 Wed
トッテナムのウェールズ代表DFベン・デイビスが、イギリスの大衆紙『サン』にツッコんだ。 トッテナム在籍10シーズン目のデイビス。派手さはないが、本職の左サイドバックだけでなく、3バック採用時は3枚左にも対応可能な頼もしい存在だ。 ウェールズ代表の主軸を担ってからも久しく、初キャップから10年という節目の20 2024.03.26 21:55 Tue
ユーロ2024予選プレーオフ準決勝が21日に欧州各地で行われた。 ユーロ2024予選の各グループにて2位以下となったチームの中から、UEFAネーションズリーグ(UNL)2022-23の結果によって選定された12カ国が参加するプレーオフ。 パスAからCまでの3グループに分かれてミニトーナメントを実施し、各パス 2024.03.22 07:20 Fri

ユーロの関連記事

欧州サッカー連盟(UEFA)は、プレミアリーグの元審判員であるデイビッド・クート氏への処分を発表した。イギリス『BBC』が伝えた。 クート氏は、当時リバプールを指揮していたユルゲン・クロップ氏に対する侮辱的発言により調査を受け、2024年12月にプロ審判協会(PGMOL)から解雇されていた。 さらに、時を同 2025.02.28 22:20 Fri
元イングランド代表監督のガレス・サウスゲイト氏(54)が2025年の大英帝国叙勲で最高位であるナイト(サー)の称号を授与することになった。イギリス『BBC』が報じている。 サウスゲイト氏は2016年にイングランド代表監督に就任。在任8年で102試合を指揮し、61勝24分け17敗の戦績を残した。ワールドカップでは2 2024.12.31 08:30 Tue
元ロシア代表DFのアレクセイ・ブガエフ氏(43)が29日、戦死した。ロシア『RIA』がブガエフ氏の父親による証言を元に報じた。 ブガエフ氏はロシア兵としてウクライナへの軍事侵攻に関わっていたところ亡くなったようだ。 ブガエフ氏はロシア代表として7試合の出場歴があり、ユーロ2004に出場。クラブレベルではトル 2024.12.30 13:00 Mon
バイエルンのドイツ代表MFアレクサンダル・パブロビッチが、紆余曲折あった2024年を振り返った。 ミュンヘン生まれで9歳の頃からバイエルンでプレーする20歳のゲームメーカー。2023年10月にファーストチームデビューを飾ると、そのままレギュラー格となり、2024年6月にはドイツ代表でもデビューした。 さらに 2024.12.25 23:38 Wed
クロアチアサッカー連盟(HNS)は28日、クロアチア代表のレジェンドでもありGKとして活躍したトンチ・ガブリッチ氏の急逝を発表した。63歳だった。 旧ユーゴスラビアの1つでもあるクロアチアは、1990年にクロアチア代表として活動をスタート。イタリア・ワールドカップ(W杯)直後に発足し、1990年10月17日にアメ 2024.10.30 10:55 Wed

ウェールズの人気記事ランキング

1

22歳アンパドゥがチェルシーの最古参選手に…主将アスピリクエタ&ラーマンの退団で

ウェールズ代表DFイーサン・アンパドゥ(22)がチェルシーの最古参選手となった。イギリス『ミラー』が伝えている。 アンパドゥは2017年7月、16歳でチェルシーに加入。チェルシー加入前にエクセター・シティでプロデビューを飾っていたなか、同年9月には早くもチェルシーの一員として公式戦のピッチに立ち、大きく将来が期待された。 しかし、2019-20シーズンからは4年連続でレンタル生活に。RBライプツィヒ、シェフィールド・ユナイテッド、ヴェネツィア、スペツィアと1年ごとにクラブが変わり、今夏ようやくチェルシーへ帰還。契約は2024年6月までとなっており、再びレンタルに出されるかは現時点で不透明だ。 そんななか、チェルシーは2012年から11年間在籍したスペイン代表DFセサル・アスピリクエタ(33)が退団し、10日には2015年の加入からアンパドゥ同様にレンタル移籍が続いたガーナ代表DFババ・ラーマン(29)がPAOKへ完全移籍。これにより、レンタル移籍期間中も含めて6年間チェルシーのファーストチームに籍を置くアンパドゥがクラブの最古参選手になった。 チェルシーでの公式戦出場はアントニオ・コンテ監督、マウリツィオ・サッリ監督が率いた時代の13試合にとどまっているアンパドゥ。2023-24シーズンは最古参選手として意地を見せられるだろうか。 なお、レンタル移籍期間を除いた在籍年数が最も長いのは、2018年から5年間在籍しているスペイン代表GKケパ・アリサバラガとなっている。 2023.07.11 20:40 Tue
2

東京五輪でのイギリス代表復活に難色示すコールマン「混合チームなど作る必要はない」

▽リオ五輪が閉幕し、次の東京五輪に向けてイギリス代表チーム復活が囁かれる中、ウェールズ代表を率いるクリス・コールマン監督はこの動きに否定的な意見を述べている。イギリス『スカイ・スポーツ』が報じた。 ▽五輪では各オリンピック委員会単位での出場しか認めていない。一方でイギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つが独自にサッカー協会を持っているため、五輪に出場することはできない。 ▽しかし2012年に行われたロンドン五輪ではイギリス代表として出場を果たしている。リオ五輪に向けても同様にイギリス代表として出場しようとイングランドサッカー協会(FA)は提案していたが、ほかの3協会が反対して破談となった。 ▽しかし、イギリスメディアによると、FAは2020年に行われる東京五輪で再びイギリス代表を復活させたい意向を示しており、今後は残りの協会を説得していくと報じられている。 ▽この報道に、コールマン監督は「なんのために合同チームを作る必要があるのか。そもそも五輪に出場するためには、今よりもさらに多くの試合に出場しなければいけない」とコメント。さらに次のように続けた。 「選手たちはアイデンティティを持っている。そして自分たちが着るユニフォームに誇りを持っている。自分の国のエンブレム、ユニフォームに忠誠を誓った選手のプレーを見たいものだ。だからこそ混合チームなど作る必要はない」 2016.08.25 10:48 Thu
3

岡崎慎司に続き、レスター“奇跡の優勝”メンバーがまたも引退決断…アンディ・キングが幼少期からファンだったクラブでプロキャリアに終止符「これが完璧な引退の仕方」

ブリストル・シティに所属する元ウェールズ代表MFアンディ・キング(35)が、今シーズン限りでの現役引退を発表した。 キングはチェルシーユースからレスター・シティの下部組織に移籍。2007年7月にファーストチームに昇格しプロキャリアをスタートさせた。 レスターでプレーを続け、2015-16シーズンには元日本代表FW岡崎慎司らと共に、奇跡のプレミアリーグ優勝を経験。チームを支えたものの、その後はスウォンジー・シティ、ダービー・カウンティ、レンジャーズ、ハダースフィールド・タウンとレンタル移籍を繰り返し、2020年7月にレスターを退団。2021年1月にOHルーヴェンに加入すると、2021年7月に幼少期からファンだったブリストルへと完全移籍していた。 レスターでは公式戦通算379試合に出場し62ゴール24アシストを記録。ブリストルでも公式戦63試合で1ゴール5アシストを記録していた。 今シーズンはチャンピオンシップ(イングランド2部)を戦うチームで出番が減り、公式戦17試合で616分間のプレーに終わっていた。 また、ウェールズ代表としてもプレーし、代表通算50試合2ゴールを記録していた。 レスター時代には2008-09シーズンにリーグ1(イングランド3部)、2013-14シーズンにチャンピオンシップでも優勝しており、同一チームで3つのリーグで優勝した最初で唯一の選手となっている。 キングはクラブを通じてコメントしている。 「素晴らしいサポートをしてくれた皆さんに感謝する。ここでの3年間は本当に大好きだった」 「僕が子供の頃から試合を見に来て、何年も過ごしてきたこのフットボールクラブでプレーすることができ、本当に光栄だった」 「自分のためにユニフォームを着て、家族と共にアシュトンゲートを出ることができるのは、僕の子供たちにとっても特別なことだった」 「最後の試合はブリストル・シティのシャツを着たいと思っていたし、それが僕にとって完璧な引退の仕方だと思っている」 2024.05.04 12:25 Sat

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly