【コラム】ビエルサ・マルセイユの確かな実力と、PSGが見せた泥臭さ

▽9日にパルク・デ・プランスで行われたリーグ・アン第12節、2位のパリ・サンジェルマン(PSG)と、首位のマルセイユによる“フランス・ダービー”は、PSGが2-0で勝利した。

▽リーグ2連覇中のPSGと、鬼才・ビエルサの下で革新的なプレーを見せるマルセイユのダービーは、互いに持ち味を発揮した好勝負となった。その中で、マルセイユがビッグマッチでの経験不足を露呈した一方、PSGはスター軍団らしからぬ泥臭いプレーで勝利を掴んだ。

◆負傷明けのイブラはベンチスタート、マルセイユは[4-2-3-1]を採用
▽かかとのケガで直近の公式戦9試合を欠場していたFWイブラヒモビッチは、この試合で先発出場するとの噂もあったが、ブラン監督は慎重を期してエースをベンチスタートとした。また、負傷離脱中のDFファン・デル・ヴィールとMFモッタの代役には、DFオーリエとMFパストーレを起用した。
【パリ・サンジェルマンの布陣】

▽対するマルセイユは、累積警告による出場停止のMFロマオと負傷中のDFモレルに代わって、MFレミナとDFファンニがスタメン入りを果たした。注目のシステムに関しては、PSGが3トップを常用していることもあり、相手が2トップを採用する際に使っている[3-3-3-1]ではなく、[4-2-3-1]の布陣を採用した。

【マルセイユの布陣】

◆攻守の距離感抜群のマルセイユが圧倒
▽試合序盤は開始直後から果敢なハイプレスを仕掛けたマルセイユが主導権を握る。PSGは、国内リーグで自陣深くに引いた相手との対戦が多いため、相手の激しいプレッシャーに面を食らった様子だった。加えて、中盤と前線で圧倒的なキープ力を誇るモッタ、イブラヒモビッチの不在も響き、持ち味である後方からの丁寧なビルドアップが全く機能しなかった。▽一方、今シーズンのマルセイユはオールコートマンツーマンこそ採用していないものの、FWジニャックが「仲間が常に近くにいてくれる」と語ったように、ビエルサ直伝の前線からの連動したプレッシングは健在。卓越した運動量と絶妙なポジショニング、スムーズなマークの受け渡しでPSGを前からハメていった。開始5分には、トヴァンの右CKからニアに飛び込んだジニャックがヘディングシュートを放ったが、このシュートはクロスバーを叩き、早々の先制点とはならなかった。

▽「前半25分過ぎまでは非常に厳しかった」と、ブラン監督が語ったとおり、その後も前線から素早く囲い込む攻撃的な守備、数的優位を生かしたサイドアタックを軸にマルセイユの時間が続いた。だが、ビッグマッチ特有のプレッシャーに気圧されたマルセイユの選手たちは、フィニッシュの場面で必要以上に焦ってしまい、決定機をことごとく逸した。27分にはジニャックが相手ボックス付近でDFチアゴ・シルバからボールを奪い、FWペイエに絶好のゴールチャンスをお膳立てしたが、ボックス内でフリーだったペイエは判断をもたつきフィニッシュまで持ち込めなかった。

◆大一番で見せた意外な形からのゴール
▽序盤から思うような試合運びができなかったPSGは、キャプテンのチアゴ・シルバを中心に最後の場面で身体を投げ出すなど、泥臭いプレーで失点を凌いだ。だが、攻撃の場面では前線のFWカバーニになかなかボールが収まらず、流れの中でのチャンスは皆無だった。

▽それでも、耐え続けたPSGは38分に意外な形から先制点を奪った。ハーフウェイライン付近でボールを持ったチアゴ・シルバが左サイドに好フィードを送る。これを頭でカバーニの足下に落としたFWラベッシが、すかさずボックス左に走り込み、リターンパスをダイレクトで折り返すと、最後は相手DFメンディの背後から飛び出したFWルーカス・モウラがワンタッチでボールを押し込んだ。

▽今シーズン、個の能力に依存した形のフィニッシュが目立っていたPSGだったが、このゴールシーンではチアゴ・シルバのフィードをスイッチに、流れるようなダイレクトプレーでゴールを陥れた。とりわけこの重要なダービーで、以前からオフ・ザ・ボールの動きに問題を抱えていたルーカス・モウラが質の高いフリーランでフィニッシュに絡んだ事実こそ、ビッグマッチにおける勝負強さ、チームの積み重ねを実感させるものだった。

◆エースのプレゼンス
▽ワンチャンスを活かしたPSGの1点リードで迎えた後半は、より拮抗した試合展開となった。その中で両チームのエースの存在感が試合結果に大きな影響を与えた。開幕12試合で10ゴールを記録し、首位を走るマルセイユをけん引してきたジニャックだったが、この試合では献身的なプレーで守備に貢献したものの、エースに求められる決定的な仕事ができなかった。52分にはボックス付近で相手GKシリグのプレゼントパスを受けたが、焦りから強引に放ったループシュートは難なくシリグにキャッチされてしまい、絶好の同点機を逸した。

▽一方、追加点を期待されて66分に投入されたイブラヒモビッチは、本調子からほど遠いものの、圧倒的な存在感で相手の注意を引き付け、周囲の選手に対するプレッシャーを取り除くと共に、チームのゲームコントロールを助けた。さらに79分、やや厳しい判定で相手MFインビュラが退場となり、数的優位を手にすると、86分にイブラヒモビッチが試合を決定づける2点目を演出した。相手陣内中央でDF3枚を引き付けたイブラヒモビッチは、右サイド深くに走り込んだオーリエに絶妙なフィードを通す。そして、オーリエからのセンタリングをカバーニがヘディングで流し込んだ。

◆ベロ・ドロームでのリベンジに期待
▽白熱の“フランス・ダービー”が終了した直後の会見でビエルサ監督は「(敗戦という)結果は妥当なものだと思っている」と、素直に敗戦を受け止めた。だが、この試合で見せたマルセイユのパフォーマンスは、間違いなくPSGの脅威となっていたはずだ。それは試合中に見せたブラン監督のいくつかの行動にも表れていた。

▽この試合の57分、PSGのクリアがベンチサイドのタッチラインを割った際に、ブラン監督はボールを拾って素早くリスタートを狙う相手DFジャ・ジェジェに対して、必死の形相を浮かべながらブロックし、あわや退席処分という、らしくない遅延行為をした。さらに、2点のリードに加え数的優位を手にした試合終盤には、守備固めのためにMFパストーレを下げてDFマルキーニョスを投入する、普段では考えられない慎重な交代策まで行っていた。今回はPSGの強(したた)かな戦いぶりに屈したマルセイユだが、“ビエルサイズム”がより浸透しているであろう来年4月のリターンマッチではリベンジを果たす可能性も十分に考えられる。

▽なお、今節の結果を受けて、首位・マルセイユ(勝ち点28)と2位・PSG(勝ち点27)の勝ち点差は、わずか「1」に縮まった。また、絶好調のラカゼット、フェキルがけん引する3位・リヨン(勝ち点26)も虎視眈々と首位の座を狙う。開幕前はPSGの独走が予想された今季のリーグ・アンだったが、ビエルサ・マルセイユの台頭によって今後も白熱のタイトル争いが楽しめそうだ。