【2022年カタールへ期待の選手vol.108】輝きを放った2007年U-17W杯から15年。父・貴史さんと同じA代表に上り詰めた右サイドのクロスマスター/水沼宏太(横浜F・マリノス/MF)

2022.07.17 13:30 Sun
twitterfacebookhatenalinegplus
photo
©︎J.LEAGUE
「サッカー選手である以上、A代表というのはずっと目指してきたところ。この年になってもできることを示せたんで、年長者らしくやっていきたいですね。ただ、特に自分を変えることはないし、プレーを評価してもらって、代表に選んでもらったので、思い切り武器を表現したい。『諦めずにひたむきに』というのが僕のモットーなので、そういうのをしっかり表現できればいいと思ってます」7月19日の香港戦(鹿島)から幕を開ける2022年E-1選手権。32歳にして初めて日本代表に抜擢された水沼宏太(横浜)を目を輝かせながら、新たな意欲を口にした。

日本代表の若返りを志向する森保監督はなぜ、わざわざ30代の彼を初招集したのか…。13日の会見で思惑の一端を明かしている。
「水沼は再度で起点になってクロスを入れられるし、ゴール前に入っていける。さらにハードワークもできる。チームを勝たせられる存在感を発揮しているので選びました」

この発言を見ると、本当にフラットに今季J1での活躍を認めて選出したということだろう。「実力があれば年齢は関係ない」と彼が心底、思っているのであれば、年齢層の高い面々にとって刺激は大きいはず。森保監督と日本リーグ時代やJリーグ初期に同じピッチに立ったことがある代表OBの父・貴史さん(解説者)も素直に喜んだことだろう。

その水沼だが、もともとマリノスのアカデミーで育ち、U-15年代から日の丸を背負ってきた逸材だった。U-17日本代表時代は柿谷曜一朗(名古屋)と並ぶ攻撃の看板選手として日本攻撃陣をけん引。走力と献身性、クロスの精度、シュート力という部分では同年代で群を抜いていた。

彼が初めて世界舞台に立ったのが、2007年U-17ワールドカップ(W杯)だった。日本はハイチ、ナイジェリア、フランスと同組で31勝2敗の3位。ただ、3戦終了時点では他組の動向次第ではラウンド16に進める可能性があった。結果を待つ時間にメディア対応が行われ、5〜6人の記者で21人の選手を取材するという珍しい状況になってしまった。

筆者もその中の1人で、水沼ともじっくり話したのだが、「宏太君が幼い頃、お父さんが『息子にはサッカーをやってほしい。サッカーには喜びや苦しみなど全てが詰まっているから』と話していたよ」と声をかけると「その気持ちはよく分かっています」と神妙な面持ちで語っていたのをよく覚えている。

「父に追いつけ追い越せ」という目標は、2007年にマリノスでトップ昇格してからずっと彼の脳裏に刻まれてきたことだろう。

しかしながら、日本屈指の名門クラブで早い段階からスターダムにのし上がるのはやはり困難だ。そこで、2010年にJ2・栃木SCへのレンタル移籍を決断。ある程度の実績を残すと同時に、2010年アジア大会(広州)の優勝メンバーに名を連ねることに成功する。2012年ロンドン五輪の候補にも浮上したが、J1で活躍する清武弘嗣(C大阪)や東慶悟(FC東京)、海外組の大津祐樹(磐田)らがひしめくアタッカー陣に割って入るのは、想像以上にハードルが高かった。本人も2012年に赴いたJ1・サガン鳥栖で猛烈な追い上げを見せたが、惜しくも落選。予備登録にとどまり、ここから10年間、代表という場所から遠ざかることになってしまったのである。

「いつから日の丸を背負ってないんだろうと考えた時、10年くらい経ってるんですよね。それまで日本代表をずっと目指してきたけど、なかなか辿り着くことはできなかった。その後、鳥栖、FC東京、セレッソ大阪、マリノスといろんなチームに行って、いろんな方と出会った。それは自分にとって大きなことで、それがなければ今の自分はいない。自分の人生に関わってくれたみなさんに感謝だなと思います」と水沼は20〜30代の紆余曲折に思いを馳せた。

試合から遠ざかった時期もあれば、サブが指定席だった時代もある。苦労人はその全ての糧にして、飛躍につなげた。そしてここから、より高い領域に上り詰めようとしている。今回のE-1はまさに新たなキャリアのスタートと言っていい。

「今回のメンバーを見た時、自分が一番上なのかと(笑)。だからこそ、年長者らしくやっていきたい。マリノスでやっていることを代表でも思い切り見せられれば、ポジティブな存在になれると信じてます」

「右サイドにはいろんなタイプの選手がいるけど、自分は今回の代表になかなかいないタイプ。今まで代表に選ばれている選手とは違ったプレーをしていきたいですね」

本人がこう語ったように、[4-3-3]の右サイドを主戦場とするのは、今回のメンバーの中では彼1人と見ていい。もちろんチームメートの宮市亮や東京五輪代表の相馬勇紀(名古屋)は両サイドをこなせるし、山根視来(川崎)のようにサイドバックながらウイング的な仕事を得意とする選手はいるが、水沼のようなクロスマスターではない。自らゲームを作り、右から得点をお膳立てし、さらに16日の鳥栖戦で見せたような鋭いゴールも奪えるというベテラン選手が今回、圧倒的存在感を示してくれれば、日本は2度目のE-1優勝に大きく近づくはずだ。

4カ月後のカタールW杯滑り込みの布石を打つ意味でも、水沼には圧倒的なパフォーマンスを披露してほしいものである。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。


1 2

関連ニュース
thumb

【新しい景色へ導く期待の選手】右のスピードスターがドイツを切り裂く。最終予選のスターからW杯のスターへ!/伊東純也(スタッド・ランス/FW)

2018年9月の森保ジャパン発足から4年2カ月。その集大成となる2022年カタール・ワールドカップ(W杯)が23日の初戦・ドイツ戦からついにスタートする。 98年フランスからの過去6大会を見ても、初戦で勝ち点を奪った2002年日韓、2010年南アフリカ、2018年ロシアの3大会は決勝トーナメントに進出している。史上最高のベスト8の壁を越えようと思うなら、初戦から勢いがつくような好ゲームを見せ、最低引き分け以上の結果を手にすることが必要不可欠だ。 4度目出場の川島永嗣(ストラスブール)、長友佑都(FC東京)らが中心となって、その重要性をチーム全体に徹底させていることだろう。 対するドイツは、2021年夏のハンジ・フリック監督就任以降、攻守の切り替えと連動性が大いに高まった。とりわけ、バイエルン・ミュンヘン勢を主体とした中盤は世界最高峰との評価もある。ボランチのヨシュア・キミッヒ、レオン・ゴレツカ、トップ下のトーマス・ミュラーらは同じチームというメリットを生かし、高度な連携連動とトランジションを体現してくる。 日本としては、その相手を捕まえながら、高い位置でボールを奪い、数少ない得点機をモノにするというしたたかな戦い方を成功させることが肝要だ。 特にドイツの守備陣はハイラインを取るうえ、攻撃時には3枚になるため、背後のスペースが大きな狙い目になる。16日のオマーン戦(マスカット)でも何度も繰り返し相手に背後を突かれ、決定機を作られていた。オマーンの暑さと時差に苦しんだ部分はあったものの、鎌田大地(フランクフルト)が「ドイツ代表はバイエルンより強くない」と語ったように突きどころは必ずあるのだ。 そこで、キーマンの1人と位置づけられるのが、右サイドの伊東純也(スタッド・ランス)。彼のタテのスピードは、強豪国と言えどもそうそう止められないはずだ。 「シンプルにいい形で奪ったら、ワンタッチで出して、サイドの背後のスペースを狙っていくのがいいんじゃないかという話になっている。自分はそこをうまく突けるように狙っていきたいなと思います」と本人もタテへの推進力を前面に押し出す構えだ。 確かに、右サイドでDF陣を引っ張れれば、中が空いて、鎌田や左サイドに陣取るであろう久保建英(レアル・ソシエダ)らが飛び出せる。鎌田は世界的名守護神、マヌエル・ノイアー(バイエルン)が要注意選手に挙げたほど、ドイツ全体が警戒してくる。その彼にマークが集まれば、伊東自身が中へ切り込んでフィニッシュに持ち込めるシーンも生まれそうだ。むしろ、彼にとっては、そうやって高度な決定力を発揮するチャンスが訪れるのは望むところだろう。 「6月のブラジル戦もそうだったけど、強豪は少ないチャンスでもしっかり決めて、そこから流れを作ってきますからね。(2020年11月に)メキシコとやった時も決定力の差をしみじみ感じた。今回はドイツやスペインと当たるわけだから、しっかりチャンスをモノにできるようにしたいです」 本人もこう意気込んでいただけに、今こそ「イナズマ純也」の切れ味鋭いシュート力を見せつけるべき時である。 「もともと自分はそんなに点を取るタイプじゃない」とも謙遜する伊東だが、最終予選では最終予選4ゴール・2アシスト・PK奪取。全12得点の半分以上に絡んだ。そのポテンシャルをアジアレベルにとどめるのではなく、世界の大舞台でも示せれば、本当に理想的。そのうえで、日本のエースに躍り出てくれれば最高のシナリオだ。 同じ金髪で12年前の南アフリカの地でブレイクした本田圭佑は1つの見本と言っていい。 「W杯のエースと言われると、日本ではやっぱ本田さんのイメージがありますよね。何だかんだで点を取るのはホントにすごい。本田さんのゴールで一番覚えているのは、南アのデンマーク戦のFK。俺はまだ大学生だったけど、テレビで見てて『すげえ』って」 W杯初出場19人というフレッシュな森保ジャパンにはまだ本田や中田英寿のような頭抜けたスターはいない。が、カタールでブレイクした人間がその系譜を継ぐことになる。鎌田、久保あたりが有力候補と見られるが、伊東にも大きなチャンスが広がっている。 「正直、学生の頃はここまで来られるイメージは湧いていなかったですね。もちろんプロになって代表になってW杯に出てやろうという気持ちはありましたけど、学生の頃は本当にプロになるぞって気持ちだけでした」 神奈川大学時代までそれほど日の当たるキャリアを歩んでこなかった遅咲きの男は、謙虚さの中にも野心をみなぎらせている。そういった部分も本田に通じるところがある。 いずれにせよ、伊東がやらなければいけないのは、ドイツを震撼させるようなゴールに直結するプレー。矢のような推進力で敵をキリキリ舞いすれば、いつか必ず得点チャンスが巡ってくる。それを仕留めて、日本を勝利へと導くこと。29歳の遅咲きのアタッカーには普段通りの自然体を貫き、大仕事を遂行してほしい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2022.11.23 10:00 Wed
twitterfacebook
thumb

【2022年カタールへ期待の選手vol.118】「強い日本を見せることが人気向上の一番の近道」。21歳・最年少レフティが示した本気と覚悟/久保建英(レアル・ソシエダ/FW)

2022年カタールワールドカップ(W杯)前最後のテストマッチとなる17日のカナダ戦(ドバイ)が迫ってきた。日本代表は11日から練習拠点「アル・サッド」で事前調整を続けてきたが、最初から帯同しているのは国内組7人だけで、欧州組は15日に合流した選手たちも多い。主力級ながらも試合間隔が短い鎌田大地(フランクフルト)や伊東純也(スタッド・ランス)らはスタメンから外れる可能性が高そうだ。 こうした中、12日深夜にドーハに到着し、13日から練習に参加している久保建英(レアル・ソシエダ)は、比較的良い状態でこの一戦を迎えられそうだ。 「状態は良いと思います。(クラブで)試合もさせてもらったんで、もう準備はバッチリだと思います」と同日の練習後、報道陣に囲まれた彼は清々しい表情を見せた。 10月27日のUEFAヨーロッパリーグ(EL)のオモニア・ニコシア戦で負った左肩脱臼も全く問題ない様子。 「肩だったんで、痛くてもやればいいかなと思ったんで、比較的、楽観視はしてましたけど。この(直前合宿の)期間に良い状態に持っていければ良いと思います」と11月23日の初戦・ドイツ戦までには万全の状態に仕上がる見通しのようだ。 その久保だが、6月4日の21歳の誕生日には「自分の(低い)立ち位置は客観的に分かっている。でも人は3カ月もあれば変われる」とW杯メンバーの当落選上にいることを認めたうえで、半年間に全てを賭けていた。 その言葉通り、今夏、レアル・ソシエダを新天地に選び、開幕ゴールからシーズンをスタート。その後もスペイン1部で10試合先発とハイペースで実績を積み重ねていった。ELの負傷は計算外だったかもしれないが、公式戦3戦を休んだだけで復帰。カタールW杯26人にも文句なしに名を連ね、本番では左サイドのレギュラーをつかめそうなところまで一気に上り詰めてきた。 「環境を変えたことによって、今回はいい方向に転んだのが大きい。レアル・ソシエダっていうクラブが僕をいい選手にしてくれたと思うので、いい監督、いいチームメートに恵まれたことに感謝したいなと思ってます。(W杯メンバー発表も)ラ・リーガで3位のチームでレギュラーで出ている選手が代表に選ばれないことはまずないだろうと楽観視できていた。強いチームで試合に出ることの重要性に改めて気づかされました」 彼は神妙な面持ちでこう強調。過去3シーズンのようにレアル・マドリーからのレンタルではなく、完全移籍で異なる環境に赴いたことで、強い覚悟と決意を持ってサッカーに向き合えたことが大きかったのだろう。 加えて言うと、ソシエダで格上相手に互角以上の戦いを見せる術を体得したことも大きい。今大会で日本が対峙するのは、ご存じの通り、ドイツ・スペインという強豪国。彼らから勝ち点を取らないと上にはいけない。その最適解を久保自身が導き出せる状態にいるのは、森保ジャパンにとっても朗報に他ならないだろう。 「クラブでも決めきれずに悔しい思いをした試合が何試合かあった。代表も必ずチャンスを作れると思います。そのチャンスを決め切って、試合を終わらせるところを大事にしないといけない」と数少ない得点機をモノにすることに久保は集中していくという。 初戦・ドイツ戦をイメージすると、彼が左サイドで出た場合、相手の右サイドにはヨナス・ホフマン(ボルシアMG)やセルジュ・ニャブリ(バイエルン)らが陣取り、右サイドバック(SB)にはルーカス・クロスターマン(ライプツィヒ)やティロ・ケーラー(ウエストハム)といった強力な面々が並ぶだろう。こうしたタレントたちと対峙すれば、日本はどうしても守勢に回る時間帯が長くなる。が、背後を突けたり、ペナルティエリア付近でフリーになれる場面が皆無とは言い切れない。今の久保にはそこを一刺しできる鋭さがある。それは日本にとって非常に力強い要素だろう。 「ドイツのサイドアタッカーは速いのが2〜3枚いて、すごく攻撃に自信を持っている。その分、ある種、エゴもある。規律のちょっとした抜け目のところだったりを僕らが突いていければいいのかな」と若武者も虎視眈々と狙い目を絞り込んでいる模様だ。 21歳とは思えない戦術眼とインテリジェンス、巧みな駆け引きを持ち合わせている逸材が活躍し、日本が強豪揃いのグループを勝ち上がって躍進すれば、日本国内の関心は一気に高まるはずだ。昨今はサッカー人気低迷が懸念されているが、「それを変えるには、自分たちが結果を出すしかない」と久保は良い意味で割り切っている。 「日本は他の国と比べてサッカーに対する熱がないなっていうのを、僕はW杯が近づくにつれて感じています。日本は豊かなので、サッカーでしか成り上がれない国じゃない。今、自分が何かを言ったところでサッカー熱を持ってくれる子供は多くないと思いますね。だからこそ、今大会で強い日本を見せていくのが人気向上の一番の近道。ブラジルやスペイン、ドイツの子供たちはサッカー以外にやりたいことの選択肢が少ない。列強って言われる国に日本がなっていくしか、人気を取り戻すのは難しいんじゃないかと思います」 彼の言葉は実に的を得ている。日本が世界トップ10に入るような国なら、人々は自然とサッカーを見る。そういう環境に変えていくためにも、21歳・最年少のレフティが中心となって歴史を変えていくしかない。 まずは直近のカナダ戦で異彩を放つこと。背番号11にはそこから始めてもらいたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2022.11.16 20:00 Wed
twitterfacebook
thumb

世界舞台で忍者ポーズを届けられるのか?追加招集・町野修斗に託されるもの

長期リハビリ中の浅野拓磨(ボーフム)、板倉滉(ボルシアMG)の復帰がズレ込み、冨安健洋(アーセナル)や遠藤航(シュツットガルト)という主力級の面々までアクシデントに見舞われている日本代表。11月23日の2022年カタールワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ戦(ドーハ)まで約2週間という押し迫った時期に、チームが野戦病院状態に陥っているのだ。 そんな中、最終予選を通して左サイドバック(SB)として存在感を高めていた中山雄太(ハダースフィールド)のアキレス腱負傷は特に衝撃的なニュースに他ならなかった。森保一監督は最初から大ベテランの長友佑都(FC東京)と昨季1シーズンで大きく成長した伊藤洋輝(シュツットガルト)を招集していたものの、東京五輪世代のレフティ離脱というのは想像以上に大きなダメージだった。 そこ本来ならば、同ポジションの佐々木翔(広島)、あるいはDFの瀬古歩夢(グラスホッパー)らを呼ぶのがセオリー。だが、指揮官は「全ポジションの選手が対象」と語り、最終的にFWの町野修斗(湘南)を抜擢した。 これには本人も驚きを隠せなかったという。 「7日の夕方、(湘南強化部長の)坂本紘司さんから電話がありましたけど、ホントに呆然とした感じでした」と本人も9日の代表選出記者会見でコメントしたという。 4カ月前のEAFF E-1選手権で代表デビューを飾ったばかりの23歳の若き点取屋にしてみれば、自分がカタールに行けるとは想像していなかったはず。チャンスを与えられた9月のアメリカ戦(デュッセルドルフ)で、不慣れな粘土質のピッチと屈強なDF陣との対応に苦慮したことも、本人の自信を失わせたように映った。「町野は4年後のエース候補。カタールW杯には間に合わない」といった声も高まり、11月1日に発表された26人から漏れたのはある意味、やむを得ないという見方をされていた。 しかしながら、森保監督はバックアップメンバーを打診した大迫勇也(神戸)の辞退、浅野のケガが不透明な部分を加味して、FWをもう1枚増やす決断を下したのだろう。 「日本人得点王で今季J1で13点を取っていて、献身性もすでに確認している」と指揮官は選出理由を語った模様。確かにリーグ終盤の町野は得点感覚が研ぎ澄まされ、凄まじい勢いが前面に出ていた。湘南のJ1残留請負人にもなった。それをカタールに持ち込んでほしいという期待と願いを込めての選出なのだろう。 彼が加わったことで、今回のFW陣は浅野、前田大然(セルティック)、上田綺世(セルクル・ブルージュ)の4枚。ドイツ戦は「鬼プレス」を武器とする前田のスタメンが有力視される。浅野がケガから復帰できれば12月1日のスペイン戦(ドーハ)には出ると見られるため、町野にチャンスがあるとすればこの2戦の途中から、あるいは11月27日のコスタリカ戦(同)になってくる。 特にコスタリカは堅守をモットーとするチーム。6月のニュージーランドとのプレーオフでは[4-4-2]からスタートし、早い時間帯に先制点を奪うと、後半からは[5-4-1]にシフト。37歳の英雄、ブライアン・ルイスを入れてチームに活力を与え、最後の最後まで虎の子の1点を守り切った。 「勝ち点3のためならどんな手でも使う」という泥臭い中米の難敵と対峙する場合、日本はドイツ・スペイン戦よりボール支配率が上がるはず。だからこそ、前線で起点になれる選手がほしい。そこで上田と町野が候補になるが、上田はタメを作るプレー以上に「ザ・ストライカー」として多彩な得点の形を示す方が輝ける。スタートは町野で行って体を張って攻守両面で頑張り、相手が落ちてきた時に上田、あるいは別のカードを切る方が日本は勝利に近づくはず。町野にとっては大きなチャンスなのだ。 実際、東京五輪でも、当初予備登録だった林大地(シント=トロイデン)がコンディション不良の上田や左右のサイドでも併用されていた前田を追いやり、レギュラーを確保した前例もあるだけに、期待は高まる一方だ。 「自分には失うものはないと思ってますし、思い切って勢いを持ってプレーするだけ。自分はFWなのでゴールという結果を残したい。前線で起点になるプレーと背後への抜け出し、右足・左足・頭とどこでも点を取れるところをぜひ見てほしい。自分次第で世界を切り開いていけると思っています」と本人も力を込めた様子。本当にW杯は何が起きるか分からないだけに、町野というサプライズ人材が日本の救世主になるかもしれないのだ。 2010年南アフリカW杯2ゴールの本田圭佑、2018年ロシアW杯2ゴールの乾貴士(清水)を思い返しても、彼らは大会前はそこまで注目されていなかった。乾などはケガで直前まで試合に出られるかどうか分からなかったくらいだ。そういう人間でも1つチャンスをつかみ、ゴールという結果を残せるのがW杯という舞台。町野も「何かやってくれる」という期待感を漂わせている。 W杯でゴールを奪えれば、彼の看板とも言える「忍者ポーズ」を世界に届けることも可能になる。三重県伊賀市出身の誇りを胸に秘め、大舞台で躍動する大型FWの一挙手一投足が非常に楽しみである。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2022.11.15 12:30 Tue
twitterfacebook
thumb

【2022年カタールへ期待の選手vol.117】10月に入ってアーセナルでもフル稼働。満を持してカタールW杯に挑む若き守備の大黒柱/冨安健洋(アーセナル/DF)

「なかなか(代表でもクラブでも)コンスタントに試合に出ていない中で、あれだけ通常通りのパフォーマンスを出せるというのは、やっぱり実力のある選手だなと思います。あとはケガをしないでほしいですね」 9月23日のアメリカ戦(デュッセルドルフ)。キャプテン・吉田麻也(シャルケ)が神妙な面持ちでこう語った通り、2021年11月のオマーン戦(マスカット)以来、10か月ぶりに日本代表センターバック(CB)に入った冨安健洋(アーセナル)が、堂々たるプレーを見せてくれた。 彼の現状を見極めた森保一監督は、試合終盤から右サイドバック(SB)でもトライ。「ご存じの通り、所属チームでそのポジションをやっていますし、今回試すことの1つかなと。トミが6月にケガでプレーできない状態でなければテストしていました。チームの幅を広げるためのオプションとして考えられると思います」と前向きにコメントしていたほどだ。 実際、彼は今季アーセナルで左右のSBにCB、3バックのDFと守備のあらゆるポジションをこなしている状態。高いレベルでどこでも穴を埋められる存在がいるというのは、チームにとっても非常に心強いポイントだ。 目下、負傷離脱中の板倉滉(ボルシアMG)が回復傾向にあるとはいえ、いきなり強度の高いW杯本番で復帰するとリバウンドが来る可能性も否定できない。だからこそ、冨安にはフル稼働してもらわなければ困るのだ。 「1月、2月、3月くらいはずっとケガしていて、その時が一番きつかった。6月の代表の時もケガでしたけど、その時よりも1〜2月の方がキツかった。そこと比べると、今はシンプルにサッカーができているというか、練習できていること、試合に出られるフィットネスの状態である。それがまず1つ、ポジティブだと捉えています。代表とクラブでポジションが変わることで頭の切り替えも必要ですね。特に感覚の部分。ピッチの上で自分の価値を証明するしかないんで、ピッチ上でやるべきことをしっかりやるだけだと思っています」と冨安本人は自信を取り戻した状態で、来るべき大舞台を見据えている様子だ。 さらに朗報なのは、10月に入ってアーセナルでの出番がより増えていること。10月1日のトッテナム戦こそラスト1分間の出場にとどまったものの、6日のUEFAヨーロッパリーグ(EL)・FKボデ・グリムト戦第1レグ、9日のリバプール、16日のリーズ戦と試合間隔の短い3つのゲームで90分フル出場を果たしているのだ。 その間に入っていた13日のFKボデ・グリムとのEL第2レグは後半25分からの出場だったが、ミケル・アルテタ監督はこれだけの超過密日程でも彼を連続してピッチに送り出している。冨安のフィジカルコンディションが上がっているという確証があるからこそ、大胆な起用に踏み切れるのだ。 もともと守備能力の高さには太鼓判を押していた指揮官も、体力面の不安があったからこそ、シーズン序盤は慎重な姿勢を示さざるを得なかった。その障害がなくなった以上、ここからは「どんどん冨安を使いたい」と思っているに違いない。 世界的名将から信頼を寄せられる24歳のDFがフル稼働できるとなれば、森保監督も本当に心強い。ご存じの通り、カタールW杯は中3日ペースとこれまでのW杯より日程がタイト。しかもグループステージの相手はドイツ、コスタリカ、スペインという強豪国ばかりだ。 「特に初戦のプレッシャーや相手の力を踏まえた時、普段よりも想像以上に大きなエネルギーを使うことになる。心身ともに中3日で回復できない試合をしなければ、勝ち点3を取ることは難しいと思います」と指揮官が言うように、ドイツ戦から凄まじいパワーを使うのは確実だ。 当然、ターンオーバーも視野には入れているだろうが、吉田、酒井宏樹(浦和)ら守備陣の主軸はそう簡単には代えられない。大黒柱の1人と言っていい冨安ももちろんその1人。ケガで不完全燃焼に終わった東京五輪の二の舞だけは許されないのだ。 本人も「この1年間、チームに迷惑をかけた分、恩返しをしたい」という思いが非常に強いはず。ここまで貯えてきた経験値と戦術眼、ゲームを読む力を発揮すべきなのは、まさに今なのだ。 冨安が世界基準のパフォーマンスを示してくれれば、相手がドイツやスペインでもそうそうやられるはずがない。無失点に抑えれてさえいれば、必ず日本にも勝機が訪れるに違いない。 史上初のベスト8入りを実現するためにも、冨安がリーダーシップを示し、チーム全体を統率することが肝要だ。少し前までは「吉田に頼っている若手」という印象だったが、そこから脱皮することも彼に求められたタスク。「真の闘争心溢れるDF」へ変貌を遂げる姿をカタールで強烈にアピールしてほしいものである。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2022.10.23 19:10 Sun
twitterfacebook
thumb

【2022年カタールへ期待の選手vol.116】[4-2-3-1]への布陣変更で序列低下も「今に見てろよ」と燃える若きボランチ/田中碧(デュッセルドルフ/MF)

11月1日の2022年カタール・ワールドカップ(W杯)最終登録メンバー発表まで3週間。選手たちのサバイバルも佳境に突入している。森保一監督が「4年間かけてチーム作りをしてきてからのメンバー選考なので、大枠としては決まっている」とコメントした通り、26人のほとんどが9月のアメリカ・エクアドル2連戦(デュッセルドルフ)帯同組から選ばれると見られる。 エクアドル戦に先発フル出場した田中碧(デュッセルドルフ)も、もちろん重要戦力の1人と目されている。とはいえ、最終予選最大のターニングポイントとなった昨年10月のオーストラリア戦(埼玉)で値千金の先制弾を挙げ、7大会出場権獲得のキーマンとなった男にしてみれば、今現在の序列は芳しいものではない。 ご存じの通り、9月シリーズを機に、森保監督は基本布陣を[4-3-3]から[4-2-3-1]へシフト。ボランチが2枚になり、遠藤航(シュツットガルト)と守田英正(スポルティングCP)がファーストチョイスと位置づけられたため、田中碧が押し出される形になったからである。 「アメリカ戦とエクアドル戦の意味? 僕のポジションで言えば、ハッキリAとBでしょう。別にそれはしょうがないし、W杯グループリーグの3試合で出ないで終わることもあると思う。自分の立場は分かっています。でも『あとは見とけよ』という感じ。今はそれしかないです」と10月1日のアルミニア・ビーレフェルト戦後、24歳の若きボランチは目をギラつかせた。 指揮官は「2チーム分の戦力がいなければ、W杯ベスト8の壁は破れない」と考えているため、グループリーグのドイツ・コスタリカ・スペイン戦を全て同じボランチの組み合わせで戦うとは考えにくい。 その一方で、ボランチはチームの心臓。状況次第では変えづらい部分もある。ドイツ・ブンデスリーガで2年連続デュエル王に輝いた遠藤が大黒柱なのは紛れもない事実だし、今季UEFAチャンピオンズリーグ(UCL)参戦で攻撃力に磨きがかかっている守田も外しづらい。この状況だと、田中は2人のいずれかをバックアップしつつ、要所要所で穴を埋めていく役割を託されるのではないか。 「僕は僕なりの覚悟ができていますし、その時が来たら集中してやればいい。ただ、W杯は実際に行かなきゃ分かんないものなんで、今から考えたところでしょうがない。次のクラブの試合に向けてしっかりやるだけなんで」と本人は良い意味で割り切っている。その前向きなメンタルが田中の強みなのだ。 デュッセルドルフは目下、ブンデス2部の5位。同じリーグで戦う室屋成(ハノーファー)が「球際の強さや激しさは凄まじいものがある。それがあまり日本では伝わっていない」とコメントしていたように、彼が個対個の戦いをベースにした荒々しい環境の中に身を投じているのは確かだ。 「強度の高い中でどれだけできるかというのは、(デュッセルドルフでやるうえで)すごく重要になるなと。それは代表でも同じ。自分にとっての大きな課題でもあると思います」と本人も難しさを口にしていた。 組織的なパス回しや連動性の高い攻撃がウリの川崎フロンターレで育ってきた田中にしてみれば、今の環境は異次元の世界に他ならない。それでも、タフな中で自分らしさを発揮し、ゴールやアシストなど明確な数字を残さなければ、海外では評価されない。それはポジションがボランチだろうが変わらない。実に難しい状況に直面しているのだ。 そんな経験が、W杯のような何が起きるか分からない大舞台で大いに生かされるはずだ。カタールはドイツのようにピッチが悪いことはないだろうが、暑さや乾燥など気象条件を含めて想定外のことが起こり得る。そこで高度な適応力を示して、ピッチで確実に仕事をしなければならない。そういった能力は川崎時代より今の田中の方が確実に高まっている。期待を持って良さそうだ。 「(デュッセルドルフにいて)、ここでどう生き残るかを今は必死に考えています。そういう意味では、すごく楽しいかって言われたら、本来の楽しさではないかもしれない。ただ、苦労してる楽しさはすごくあるんで、色んなところで成長してると思う。できることも増えているので、そこは前向きに捉えています」 本人がこう語るように、プレーの幅が広がったところを1か月半後のカタールで示すべき。オーストラリア戦で日本の流れを一気に変えたような力が田中にはある。舞台が大きくなればなるほど、大仕事ができるのもまた彼のストロングポイントだ。 どんな状況で出番が訪れるか分からないし、誰と組むかもハッキリしないが、遠藤、守田、柴崎岳(レガネス)、原口元気(ウニオン・ベルリン)のいずれがパートナーだったとしても、田中碧はチームをスムーズに機能させ、ダイナミズムを与えることが強く求められる。 長谷部誠(フランクフルト)の系譜を継ぐ背番号17の躍動感あるプレーが、日本の命運を左右すると言っても過言ではない。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> <span class="paragraph-title">【動画】田中碧がクロスに上手く合わせて今季初ゴール!</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="UkhyvyOQ21Y";var video_start = 21;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2022.10.11 21:50 Tue
twitterfacebook
NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly