【2022年カタールへ期待の選手⑮】新天地・トルコで復活へ。「カタールまでは十分時間がある」と3年後に照準を合わせるエースナンバー10/香川真司(ベシクタシュ/MF)
2019.02.14 12:00 Thu
「今季は言うたら『構想外』。競争したくてもできない状況が約1年続いた。体は万全なのにそこに加わらせてもらえない、考えられてないっていうのは非常に屈辱的で、悔しい気持ちをつねに抱えながら暮らしてきました。でもこの経験値が必ず数年後には自分の糧になって成長できると思っている。今は純粋にサッカーがしたいと心から感じているので、トライしたいですね」
2018年末に一時帰国した際、香川真司(ベシクタシュ)はメディアの前で苦しい胸の内をしみじみと吐露した。今季ドルトムントでの公式戦出場はわずか4試合。2018年ロシア・ワールドカップで得た自信と手ごたえも薄れかけていた。本人はスペイン行きを熱望していたが、とにかく試合に出られる環境をいち早く見出さなければ、選手としてのキャリアも下降線を辿りかねない。そんな危機感を大いに強めていたに違いない。
それから1カ月。悩みに悩んだ香川が赴いたのはトルコだった。憧れのスペインからのオファーは届かず、モナコ移籍話もギリギリで立ち消えになった。そこで浮上したのがベシクタシュ。欧州5大リーグで足掛け10年過ごした男にしてみれば「都落ち感」は否めなかっただろうが、1年前に同国に新天地を見出した長友佑都(ガラタサライ)がイキイキと躍動している姿に背中を押された部分はあったはず。トルコサッカーの異様な熱狂にも突き動かされたことだろう。現地入りした時の笑顔には迷いを吹っ切った男のスッキリ感が伺えた。
彼の選択は今のところ間違っていなかったようだ。デビュー戦となった2月2日(日本時間3日)のアンタルヤスポル戦での3分間2ゴールで強烈なインパクトを残した香川は、続く9日(同10日)のブルサスポル戦では後半22分から出場。着実にプレー時間を伸ばしている。後者ではトップ下の定位置を担っているセルビア人MFアデム・リャイッチが左サイドに移動。背番号23をつける日本人ファンタジスタがトップ下に入る形を取った。トルコを2002年日韓ワールドカップ3位へと導いた名将、シェノール・ギュネシュ監督は17歳のサイドアタッカー、ギュヴェン・ヤルチンらを含めて2列目の組み合わせを流動的に入れ替えながら戦う意向のようで、今後は香川がトップ下以外でプレーする可能性も考えられる。ベシクタシュがリーグ3位というポジションから順位を上げていくためにも、攻撃陣が多彩なバリエーションからゴールをこじ開けていくことが重要になってくるのだ。
ただ、基本的に香川はセンターのポジションで輝きを放つ選手。それはドルトムントやマンチェスター・ユナイテッド、日本代表でも証明されている。過去2度参戦したワールドカップを見ても、2014年ブラジル大会は左サイドが主戦場。4年間指揮を執ったアルベルト・ザッケローニ監督から「(アレッサンドロ・)デルピエロになれる」と期待を寄せられながら、全くと言っていいほど精彩を欠いた。しかし2018年ロシア・ワールドカップは本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)との競争に勝って本職のトップ下に君臨し、コロンビア戦(サランスク)のPKなど記憶に残る仕事をした。左サイドに陣取った乾貴士(アラベス)との連携も効果的で、「キャプテン翼の翼君と岬君」とさえ評されたほど。2019年アジアカップ(UAE)の際も「香川は間のギャップに入り込むのに非常に長けたアタッカー。それがいなかった分、日本は苦戦した」と分析した解説者もいて、やはり香川が真ん中で卓越した仕事のできる選手であることを再認識するいい機会となった。
日本代表で10番に返り咲けるかどうかもベシクタシュでの働き次第ではないか。森保一監督率いる新生ジャパンは発足当初から中島翔哉(アル・ドゥハイル)がエースナンバー10をつけていて、アジアカップに追加招集された乾でさえも「自分は翔哉の代わりで10番をつけているだけ」と語っていた。中島は新天地・カタールで試合に出られないということはないだろうから、当面は代表から外れることはないだろうし、10番も背負い続ける見通しだ。となれば、香川が復帰した時、どうなるかという疑問が浮上する。本人が「代表でも23番をつけたい」などと、かつて18から4番に自ら変更を申し出た本田のような姿勢を示せば問題はないだろうが、香川自身も10番には特別な思い入れを持っているはず。ただ、「自分自身がクラブで異彩を放っていなければ10番は相応しくない」と考えるタイプでもあるだけに、やはりベシクタシュのトップ下に君臨し、代表でも華々しい復活を果たすというが理想的なシナリオではある。
「次のワールドカップまでは十分時間があると思っている」と長期的なビジョンに立って代表を捉えている香川。肝心な3度目の大舞台で大輪の花を咲かせるためにも、まずは今の1日1日を大切にすること。そこに集中してほしいものだ。
【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
2018年末に一時帰国した際、香川真司(ベシクタシュ)はメディアの前で苦しい胸の内をしみじみと吐露した。今季ドルトムントでの公式戦出場はわずか4試合。2018年ロシア・ワールドカップで得た自信と手ごたえも薄れかけていた。本人はスペイン行きを熱望していたが、とにかく試合に出られる環境をいち早く見出さなければ、選手としてのキャリアも下降線を辿りかねない。そんな危機感を大いに強めていたに違いない。
彼の選択は今のところ間違っていなかったようだ。デビュー戦となった2月2日(日本時間3日)のアンタルヤスポル戦での3分間2ゴールで強烈なインパクトを残した香川は、続く9日(同10日)のブルサスポル戦では後半22分から出場。着実にプレー時間を伸ばしている。後者ではトップ下の定位置を担っているセルビア人MFアデム・リャイッチが左サイドに移動。背番号23をつける日本人ファンタジスタがトップ下に入る形を取った。トルコを2002年日韓ワールドカップ3位へと導いた名将、シェノール・ギュネシュ監督は17歳のサイドアタッカー、ギュヴェン・ヤルチンらを含めて2列目の組み合わせを流動的に入れ替えながら戦う意向のようで、今後は香川がトップ下以外でプレーする可能性も考えられる。ベシクタシュがリーグ3位というポジションから順位を上げていくためにも、攻撃陣が多彩なバリエーションからゴールをこじ開けていくことが重要になってくるのだ。
ただ、基本的に香川はセンターのポジションで輝きを放つ選手。それはドルトムントやマンチェスター・ユナイテッド、日本代表でも証明されている。過去2度参戦したワールドカップを見ても、2014年ブラジル大会は左サイドが主戦場。4年間指揮を執ったアルベルト・ザッケローニ監督から「(アレッサンドロ・)デルピエロになれる」と期待を寄せられながら、全くと言っていいほど精彩を欠いた。しかし2018年ロシア・ワールドカップは本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)との競争に勝って本職のトップ下に君臨し、コロンビア戦(サランスク)のPKなど記憶に残る仕事をした。左サイドに陣取った乾貴士(アラベス)との連携も効果的で、「キャプテン翼の翼君と岬君」とさえ評されたほど。2019年アジアカップ(UAE)の際も「香川は間のギャップに入り込むのに非常に長けたアタッカー。それがいなかった分、日本は苦戦した」と分析した解説者もいて、やはり香川が真ん中で卓越した仕事のできる選手であることを再認識するいい機会となった。
その本職でベシクタシュでも輝こうと思うのなら、ロシアで本田から定位置を奪ったように、リャイッチからポジションを奪取するしかない。ただ、今季頭からチームの攻撃の軸をになってきた彼をギュネシュ監督も簡単には外しづらい。ヤルチンやイェレマイン・レンスといった周囲のアタッカー陣も彼に合わせて動くような組織が築き上げられている。それだけにシーズン途中加入の香川がいかにしてその中に入り込むのかが難しいテーマになってくる。ギュネシュ監督も近い将来、背番号23をトップ下に据えてスタートから起用する機会を作るだろう。そこが彼にとっての大きなチャンス。それをつかむかどうかで今後の動向は大きく変わってきそうだ。
日本代表で10番に返り咲けるかどうかもベシクタシュでの働き次第ではないか。森保一監督率いる新生ジャパンは発足当初から中島翔哉(アル・ドゥハイル)がエースナンバー10をつけていて、アジアカップに追加招集された乾でさえも「自分は翔哉の代わりで10番をつけているだけ」と語っていた。中島は新天地・カタールで試合に出られないということはないだろうから、当面は代表から外れることはないだろうし、10番も背負い続ける見通しだ。となれば、香川が復帰した時、どうなるかという疑問が浮上する。本人が「代表でも23番をつけたい」などと、かつて18から4番に自ら変更を申し出た本田のような姿勢を示せば問題はないだろうが、香川自身も10番には特別な思い入れを持っているはず。ただ、「自分自身がクラブで異彩を放っていなければ10番は相応しくない」と考えるタイプでもあるだけに、やはりベシクタシュのトップ下に君臨し、代表でも華々しい復活を果たすというが理想的なシナリオではある。
「次のワールドカップまでは十分時間があると思っている」と長期的なビジョンに立って代表を捉えている香川。肝心な3度目の大舞台で大輪の花を咲かせるためにも、まずは今の1日1日を大切にすること。そこに集中してほしいものだ。
【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
|
関連ニュース