【コラム】「ガンバのプライド」と「清々しい負け」に見えた今足りなかったもの
2016.10.16 23:00 Sun
▽ガンバ大阪は、15日に埼玉スタジアム2002で行われた2016Jリーグ YBCルヴァンカップ決勝の浦和レッズ戦に臨み、120分の激闘を経て、PK戦の末に力尽きた。しかし、G大阪側の試合後会見では、予想外のコメントを耳にした。「清々しい負けは初めて」――。G大阪を率いる長谷川健太監督は、クラブ史上10冠目を逃した直後の会見でそう語り、悔しさではなく達成感を口にした。
▽その先発は、先の横浜F・マリノスとの準決勝第2戦から藤本に代えて大森を起用したのみ。長谷川監督は、3大会連続の決勝を見据えつつ、衝撃的な敗戦を喫した先の浦和戦で狂った歯車に微調整を施していたのだ。そして、2週間後に到来した再戦では現状のベストメンバーで臨み、一角を除いて真っ赤に染まった完全アウェイの雰囲気の中、大敗した前回の戦いぶりを忘れさせるほど大きく改善されたパフォーマンスを披露した。
◆[4-3-1-2]の守備ブロック
▽その策は、ボールの散らし役を担うMF阿部勇樹やMF柏木陽介の中盤と、FW興梠慎三、MF高木俊幸、MF武藤雄樹の1トップ+2シャドーの孤立化を誘発。そして、「ハメる守備」の機能が、勢いと活力をもった速攻をチームの攻め手として導き出したことで、17分に記録したアデミウソンによる約50m独走の先制弾に繫がった。結果的に、前半のシュート本数はG大阪が4本、浦和が3本。G大阪の攻めが機能していた証だろう。
◆井手口と今野が守備の体現者
▽また、アグレッシブな守備の体現者として中盤で存在感を示していた井手口と、今野は1点リードで迎えた後半も突出したボールハンターぶりを発揮。ビハインドの浦和が立ち上がりから攻撃のギアを上げたことでピンチのシーンが増えたが、試合当初から描いていたプラン通りの戦いを続けた。しかし、66分に長谷川監督が講じたアデミウソンから長沢にスイッチした交代策が結果的にハマらなかった。
◆アデの途中交代は浦和の好都合
▽長谷川監督には、ターゲットマンの長沢を投入することで、ロングボール主体の攻撃でチーム全体の押し上げを図ろうとの考えがあったのだろう。正直、それはこれまでも見受けられてきた鉄板の交代策だ。しかし、浦和のディフェンス陣にとっては、最も脅威となっていたアデミウソンがベンチに下がったことは好都合。期待された長沢のポストワークも不十分で、その後に投入された藤本も攻め手になり切れない展開が続いた。
◆G大阪の勝ちパターン崩壊
▽攻守に迫力を失い始めたG大阪は76分、柏木の右CKから75分に投入されたFW李忠成に被弾。これまでもチャンピオンシップ準決勝や、昨年の天皇杯決勝などで描き続けてきた「先制→浦和が攻め急ぐ→2点目→試合終了」というこれまでの対浦和戦におけるG大阪の勝ちパターンが崩壊した。その長く続いた悪しき流れを断ち切った浦和からしてみれば、勢い付かない理由はない。
◆“策を尽くした”状態に
▽それでも、呉屋は後半アディショナルタイムにDF森脇良太の好カバーがなければどうかという右ポスト直撃のシュートで見せ場を作るなど、できる限りのパフォーマンスを披露したが、PK戦でチーム唯一のミスキック。チームがタイトルを落とした要因になったことは間違いない。ただ、大卒ルーキーに全てを託さざるを得なかったチームに、今の浦和に対抗できるだけの戦力が整っていなかったことが主因だろう。
▽PK失敗で敗戦の責任を負うこととなった呉屋のメンタル面が気がかりだったが、試合後のインタビューで、「泣きたくはなかった。僕よりも悔しい思いをしている人がいるから。それよりあの悔しさを噛み締めて次に繋げたかった」とルーキーとは思えないコメントを残し、大器を片りんさえうかがわせるほど堂々たる姿でメディアの対応に応じていた。
◆井手口や呉屋の存在がチームの未来
▽前日会見で長谷川監督が述べた言葉――。「ガンバのプライド」に関して、チームは見事に有言実行してみせた。ただ、結果は2大会連続の準優勝。常勝軍団としてはいただけない結末だ。とはいえ、このタイトルマッチで輝きを放ったユース出身の井手口や、呉屋のような生え抜きの姿を見る限り、チームの未来は明るい。彼らがより絶対的な選手として台頭し、タイトルをもたらす存在になることに期待したい。
《超ワールドサッカー編集部・玉田裕太》
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▽正直、その言葉を耳にした当初は、違和感を覚えた。ただ、PK戦を含めた120分間の激闘を振り返ってみると、長谷川監督の言葉に自然と理解を示すことができた。まず、G大阪としては良い状況下で浦和との決勝戦を迎えたわけではなかった。1日のリーグ戦で浦和に0-4と叩きのめされてから、わずか2週間後に巡ってきた再戦だっただけに、チーム、選手にとって、小さくない不安を抱いて臨まざるを得ない状況だった。◆準決勝第2戦から1名のみ先発変更(C)CWS Brains,LTD.
▽ただ、長谷川監督はまず先発メンバーのテコ入れで、さすがの修正力を発揮した。1トップのFWアデミウソンを後方からフォローすべくMF遠藤保仁をトップ下に起用し、中盤4枚に右からMF倉田秋、MF井手口陽介、MF今野泰幸、MF大森晃太郎を配置。そして、ベンチにはFW長沢駿、FW呉屋大翔、MF藤本淳吾といった多彩な攻撃陣の他、DF岩下敬輔、DFオ・ジェソクの守備陣を温存した。◆[4-3-1-2]の守備ブロック
(C)CWS Brains,LTD.
▽試合の流れは、G大阪のペース。それを一番感じさせたのは、立ち上がりから個々が見せた球際への鋭い寄せと速攻だ。まず特筆すべきは、守備時の陣形。前回対戦を含めて基本的に守備時は、1トップを最前線に残した[4-4-1-1]のブロックで相手の攻撃に備えていたが、今回は井手口、今野が横に並ぶだけでなく、ときおりいずれかが並列するアデミウソンと遠藤の後方にポジションを取り、[4-3-1-2]の布陣で対応した。◆G大阪の攻めが機能していた証
▽その策は、ボールの散らし役を担うMF阿部勇樹やMF柏木陽介の中盤と、FW興梠慎三、MF高木俊幸、MF武藤雄樹の1トップ+2シャドーの孤立化を誘発。そして、「ハメる守備」の機能が、勢いと活力をもった速攻をチームの攻め手として導き出したことで、17分に記録したアデミウソンによる約50m独走の先制弾に繫がった。結果的に、前半のシュート本数はG大阪が4本、浦和が3本。G大阪の攻めが機能していた証だろう。
◆井手口と今野が守備の体現者
▽また、アグレッシブな守備の体現者として中盤で存在感を示していた井手口と、今野は1点リードで迎えた後半も突出したボールハンターぶりを発揮。ビハインドの浦和が立ち上がりから攻撃のギアを上げたことでピンチのシーンが増えたが、試合当初から描いていたプラン通りの戦いを続けた。しかし、66分に長谷川監督が講じたアデミウソンから長沢にスイッチした交代策が結果的にハマらなかった。
◆アデの途中交代は浦和の好都合
▽長谷川監督には、ターゲットマンの長沢を投入することで、ロングボール主体の攻撃でチーム全体の押し上げを図ろうとの考えがあったのだろう。正直、それはこれまでも見受けられてきた鉄板の交代策だ。しかし、浦和のディフェンス陣にとっては、最も脅威となっていたアデミウソンがベンチに下がったことは好都合。期待された長沢のポストワークも不十分で、その後に投入された藤本も攻め手になり切れない展開が続いた。
◆G大阪の勝ちパターン崩壊
▽攻守に迫力を失い始めたG大阪は76分、柏木の右CKから75分に投入されたFW李忠成に被弾。これまでもチャンピオンシップ準決勝や、昨年の天皇杯決勝などで描き続けてきた「先制→浦和が攻め急ぐ→2点目→試合終了」というこれまでの対浦和戦におけるG大阪の勝ちパターンが崩壊した。その長く続いた悪しき流れを断ち切った浦和からしてみれば、勢い付かない理由はない。
◆“策を尽くした”状態に
(c)J.LEAGUE PHOTOS
▽追いつかれた長谷川監督は、88分に最後のカードとして倉田を下げて大卒ルーキーの呉屋を投入。しかし、この交代策は、試合後会見で残した長谷川監督の「もう一歩、突き放せる駒や力がチームに欠けていた」との言葉から推測するに、MF阿部浩之、FWパトリックの負傷組を起用できない状況を受けての静かなるエクスキューズだったように思えてならない。そうであれば、この時点で“策を尽くした”状態だったということだ。▽それでも、呉屋は後半アディショナルタイムにDF森脇良太の好カバーがなければどうかという右ポスト直撃のシュートで見せ場を作るなど、できる限りのパフォーマンスを披露したが、PK戦でチーム唯一のミスキック。チームがタイトルを落とした要因になったことは間違いない。ただ、大卒ルーキーに全てを託さざるを得なかったチームに、今の浦和に対抗できるだけの戦力が整っていなかったことが主因だろう。
▽PK失敗で敗戦の責任を負うこととなった呉屋のメンタル面が気がかりだったが、試合後のインタビューで、「泣きたくはなかった。僕よりも悔しい思いをしている人がいるから。それよりあの悔しさを噛み締めて次に繋げたかった」とルーキーとは思えないコメントを残し、大器を片りんさえうかがわせるほど堂々たる姿でメディアの対応に応じていた。
◆井手口や呉屋の存在がチームの未来
▽前日会見で長谷川監督が述べた言葉――。「ガンバのプライド」に関して、チームは見事に有言実行してみせた。ただ、結果は2大会連続の準優勝。常勝軍団としてはいただけない結末だ。とはいえ、このタイトルマッチで輝きを放ったユース出身の井手口や、呉屋のような生え抜きの姿を見る限り、チームの未来は明るい。彼らがより絶対的な選手として台頭し、タイトルをもたらす存在になることに期待したい。
《超ワールドサッカー編集部・玉田裕太》
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