【日本サッカー見聞録】CS決勝で攻撃サッカーの醍醐味を堪能

▽これが一発勝負(実際は2試だが、トーナメントの意味)の醍醐味だろうか。CS(チャンピオンシップ)決勝の広島対G大阪の試合は実に劇的なフィナーレだった。

▽まず驚かされたのが、G大阪はパトリックではなく清水から今シーズン移籍した長沢を初スタメンで起用したこと。パトリックは浦和との準決勝で120分間プレーしたため、疲れもあったのだろう。それにしても、リンスという選択肢もあっただけに、長谷川監督の大胆起用には驚かされた。

▽そして長沢は起用に応え、61分に広島DFのミスを突き貴重な先制点を奪う。G大阪は77分にパトリックを投入してさらに攻勢を強めようとした矢先、今度は広島が得意のカウンターから最後はドウグラスが押し込んで同点に追いついた。
▽ところが、このキックオフの流れからつかんだFKでG大阪が再度リードを奪う。遠藤のFKはクリアされたものの、これを中央から今野が蹴り込み、浦和戦に続くゴールだ。こうした短期決戦では“ラッキーボーイ”の存在が明暗を分けることがしばしば起こり得る。今野はもう“ボーイ”ではないが、「持っている男」だけに、これで勝負は決まったかと思った。

▽G大阪にしてみれば81分にオ・ジェソクが退場となっていただけに、ボールをキープして時間の経過を待てばよかった。しかしアディショナルタイムに入った91分、青山のクロスから、失点のきっかけを作った佐々木が意地のヘッドを決め、広島が土壇場で追いついた。年間総合勝点1位、さらにアウェイで2ゴールを奪った広島にすれば、ホームでの第2戦に向けて大きなアドバンテージだ。これで試合は終わったと思ったが……。▽同点でも攻撃の手を緩めない広島は、ボールを奪うと怒涛の攻勢を仕掛け、ついに96分、シュートのこぼれ球を交代出場の柏が決めて逆転に成功した。普段はサッカーを見ない家内や娘も興奮したくらいだから、この試合に限って言えばCSの採用は大成功と言っていいだろう。

▽ただ、全部が全部と言わないまでも、普段のリーグ戦からこのような攻撃的なサッカーを多くのチームが演じれば、サッカーファンも増えるのではないだろうか。自陣でパスを回すのではなく、ゴールを目指して襲い掛かる。サッカーはゴールを奪うスポーツであることを、サッカーの原点を再認識させてくれた広島の素晴らしい戦いぶりだった。

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【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。