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イランは「借りてきた猫」のはずが大変身/六川亨の日本サッカーの歩み
2024.02.05 20:10 Mon
アジアカップカタール2023の日本は、準々決勝でイランに1-2の逆転負けを喫して5度のアジア制覇は果たせなかった。試合は前半28分にFW上田綺世のリターンパスを受けた守田英正が、ドリブルで左サイドから中央へと突破。最後はゴール正面からの右足シュートで日本に先制点をもたらした。
しかし後半はイランの猛反撃に遭い、浅くなったDF陣の背後を突かれて失点すると、後半アディショナルタイムにはCB板倉滉のファウルからPKを与えて逆転を許す。その後は反撃らしい反撃をできる時間もなくタイムアップを迎えた。
今大会は決勝トーナメントに入ってからアディショナルタイムでの劇的なゴールが多く(タジキスタン対UAE、ヨルダン対イラク)、先制したチームが逆転負けやPK戦で敗れたケースも目立った(韓国対サウジアラビア、韓国対オーストラリア)。まさか日本もそのパターンを踏襲するとは思わなかった。
日本がイランに敗れたのは2005年3月25日にテヘランのアザディ・スタジアムで行われたドイツW杯アジア最終予選以来19年ぶりのこと。当時は10万人を越す観衆のすべてが男性で(女性がスタジアムに入ることは禁止されていた)、「イ~ラン」という野太い大合唱がスタジアムを揺るがせた。
ジーコ・ジャパンが中田英寿や中村俊輔、小野伸二、高原直泰、小笠原満男ら“黄金世代”を擁して「史上最強」と言われれば、イランも英雄アリ・ダエイを筆頭にハシュミアン、カリミ、ネコナム、マハダビキアら最強メンバーが揃っていた。試合は福西崇史のゴールで一時は同点に追いついたものの、ハシュミアンの2ゴールで1-2と敗れた。
そのイメージがあったせいか、今回も試合が始まってからのイランに怖さは感じなかった。慎重に試合を進めているといえば聞こえはいいが、「借りてきた猫」のようにどこかビクビクしているというか、自信なさげな印象を受けた。
3人掛けの記者席の両隣りはイラン人の記者だったが、左隣りの記者は前田大然がプレスバックでボールを奪うたびに机を叩いて怒りを表した。そして右隣りの記者は守田のゴールが決まると飲みかけのコーヒーを置いたまま席を立ってどこかへ行ってしまった。
ところがイランが同点に追いつくと席を立ったはずの記者が戻ってきて、猛攻を続けるイランに声援を送るかスマホを操作するか、ほとんどサポーター状態。そして日本は後半アディショナルタイムにPKを与えて力尽きた。
前半のイランは日本を恐れているように見えた。そのイランに自信を取り戻させたのも日本だった。後半6分の上田のヘディングシュートが決まっていたとしても、勝負の行方はわからなかっただろう。
それだけ日本は、攻守に運動量が少なく、スプリントの回数と距離で劣り、球際のデュエルでも後手に回り、勝利への執念や気迫でもイランに及ばない最低の試合をしてしまった。とてもFIFAランク17位のチームの試合とはいえず、イランが抱いていたであろう“苦手意識”の払拭に貢献してしまった。
日本のパフォーマンスがここまで低下した原因はどこにあるのか。今大会はW杯を見据えて多くのスカウティング・スタッフを現地はもちろん国内でもスタンバイさせて全チームを分析したはずだ。しかしそれらが試合で効果的に生かされたとは思えない。なぜならセットプレーからの失点が多かったからだ。
敗戦や失点からも学ぶことは多い――残念ながら、これがアジアカップ2023の収穫ということになるだろう。
【文・六川亨】
しかし後半はイランの猛反撃に遭い、浅くなったDF陣の背後を突かれて失点すると、後半アディショナルタイムにはCB板倉滉のファウルからPKを与えて逆転を許す。その後は反撃らしい反撃をできる時間もなくタイムアップを迎えた。
日本がイランに敗れたのは2005年3月25日にテヘランのアザディ・スタジアムで行われたドイツW杯アジア最終予選以来19年ぶりのこと。当時は10万人を越す観衆のすべてが男性で(女性がスタジアムに入ることは禁止されていた)、「イ~ラン」という野太い大合唱がスタジアムを揺るがせた。
ジーコ・ジャパンが中田英寿や中村俊輔、小野伸二、高原直泰、小笠原満男ら“黄金世代”を擁して「史上最強」と言われれば、イランも英雄アリ・ダエイを筆頭にハシュミアン、カリミ、ネコナム、マハダビキアら最強メンバーが揃っていた。試合は福西崇史のゴールで一時は同点に追いついたものの、ハシュミアンの2ゴールで1-2と敗れた。
それ以来、日本はイランに負け知らずだった。これは個人的な印象だが、前回UAEでのアジアカップ準決勝、大迫勇也の2ゴールなどで日本が3-0で勝ったイラン戦はほとんど印象に残っていない。初戦のトルクメニスタン(3-2)やラウンド16のサウジアラビア戦(1-0)、準々決勝のベトナム戦(1-0)はスコアだけでなく内容的にも大苦戦した記憶があるだけに、イラン戦はたいして苦戦はしなかったということになる。
そのイメージがあったせいか、今回も試合が始まってからのイランに怖さは感じなかった。慎重に試合を進めているといえば聞こえはいいが、「借りてきた猫」のようにどこかビクビクしているというか、自信なさげな印象を受けた。
3人掛けの記者席の両隣りはイラン人の記者だったが、左隣りの記者は前田大然がプレスバックでボールを奪うたびに机を叩いて怒りを表した。そして右隣りの記者は守田のゴールが決まると飲みかけのコーヒーを置いたまま席を立ってどこかへ行ってしまった。
ところがイランが同点に追いつくと席を立ったはずの記者が戻ってきて、猛攻を続けるイランに声援を送るかスマホを操作するか、ほとんどサポーター状態。そして日本は後半アディショナルタイムにPKを与えて力尽きた。
前半のイランは日本を恐れているように見えた。そのイランに自信を取り戻させたのも日本だった。後半6分の上田のヘディングシュートが決まっていたとしても、勝負の行方はわからなかっただろう。
それだけ日本は、攻守に運動量が少なく、スプリントの回数と距離で劣り、球際のデュエルでも後手に回り、勝利への執念や気迫でもイランに及ばない最低の試合をしてしまった。とてもFIFAランク17位のチームの試合とはいえず、イランが抱いていたであろう“苦手意識”の払拭に貢献してしまった。
日本のパフォーマンスがここまで低下した原因はどこにあるのか。今大会はW杯を見据えて多くのスカウティング・スタッフを現地はもちろん国内でもスタンバイさせて全チームを分析したはずだ。しかしそれらが試合で効果的に生かされたとは思えない。なぜならセットプレーからの失点が多かったからだ。
敗戦や失点からも学ぶことは多い――残念ながら、これがアジアカップ2023の収穫ということになるだろう。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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