【2022年カタールへ期待の選手vol.110】欧州関係者が「E-1最大の収穫」と認めた大型FW。近未来の代表1トップへ飛躍を!/町野修斗(湘南ベルマーレ/FW)

2022.07.30 15:15 Sat
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「この(EAFF)E-1選手権は集まった時からチームとして優勝を目指していたので、まず目標を達成できたこと、そして、個人としての3ゴールとしての目標を達成したことを嬉しく思っています」

27日に豊田で行われた韓国との優勝決定戦。この大一番でダメ押しとなる3点目をゲットし、3-0の勝利とタイトル獲得の原動力となった町野修斗(湘南)は安堵感を吐露した。

後半27分のゴールシーンは藤田譲瑠チマ、西村拓真、小池龍太という横浜F・マリノス勢の連携から右サイドを攻略する形から生まれたもの。最前線に飛び込んだ町野は押し込むだけでよかったが、「『中で待っているからね』とリュウ君と話をしていたので、狙い通りのゴールだった」と意思疎通を重ねた成果だったことを明かした。
年代別代表経験ゼロのストライカーが短期間でここまでの適応力を発揮するとは、森保一監督も驚いたに違いない。今季開幕時点では全くの無印だった男が、4カ月後に迫った2022年カタールワールドカップ(W杯)への挑戦権を得たのは確かだろう。

新星FWの経歴を改めて振り返ってみると、99年生まれの町野は三重県伊賀市出身。中学生までは地元のクラブチームに所属し、大阪・履正社高校へ。林大地(シント=トロイデン)や田中駿汰(札幌)は2つ上の先輩に当たる。そういう環境の中で1年から試合に出場。横浜のスカウトの目に留まり、2018年にはマリノス入りを果たした。

しかしながら、ウーゴ・ヴィエイラらがひしめく名門で18歳の大型FWが出番を得られるほど甘くない。案の定、リーグ戦出場ゼロに終わり、2019年にはJ3のギラヴァンツ北九州へレンタルに赴く。そこで町野を鍛えたのが、小林伸二監督(現SD)だ。

「J3へ移籍した時には『見返してやる』っていう気持ちでした。基本的な走るところだったり、戦うところ、攻守の切り替えをかなり積み上げることができた」と本人も言うように、原点回帰を図れたのが大きかった。

1年目はJ3で8ゴールを挙げてJ2昇格に貢献し、2年目の2020年はJ2で7ゴールと着実に実績を残すことに成功。その活躍に目を付けた湘南ベルマーレが獲得オファーを出す。かつて自身も点取屋だった坂本紘司強化部長も壮大なスケールとポテンシャルを感じ取ったからこそ、補強に踏み切ったのだろう。

2021年から完全移籍でJ1参戦を果たした町野。しかしながら、湘南での1年目は4ゴールと突出した結果は残せなかった。チーム内でもウェリントン、大橋祐紀らと横一線の状況で、スタメンに定着できたとは言い難かった。

その序列は今季開幕前も同じ。「今季J1・5位」という大目標を掲げた湘南にしてみれば、誰が得点源になるのかは最重要テーマに他ならなかった。山口智監督も当初は新戦力の瀬川祐輔やウェリントン、大橋らを使い回しながら打開策を探っていたが、町野は開幕2戦目のサガン鳥栖戦、4節目の京都サンガ戦でゴール。一歩リードし始めた。

流れに拍車がかかったのが、5月21日のヴィッセル神戸戦だ。アンドレス・イニエスタが最後の最後に直接FKを決めながら認められず、主審に詰め寄った乱戦で、町野は2ゴールをゲット。勝利請負人として大仕事を果たす。続く5月25日の川崎フロンターレ戦でも2発を叩き出し、一気に勢いに乗った。その後、FC東京や京都からもゴールし、6月末時点では8ゴール。E-1選出が有力視されるところまで急浮上した。

ところが、7月2日の名古屋グランパス戦の終了間際に右足首負傷。松葉杖をついて帰る羽目になり、代表入りに黄信号が灯った。森保監督も「1トップの選考が難しくなった」とコメントするなど、動向が懸念された。が、ケガは軽傷で済み、すぐに公式戦に復帰。今回のE-1でのブレイクにつなげた。

このように町野は要所要素で運にも恵まれ、「ポスト大迫勇也(神戸)最右翼」というポジションを勝ち得るところまで来たのである。

「E-1は東アジアの大会。世界基準で見るとどうしてもレベル的には落ちるが、その中で今後への大きな可能性を示したのは町野だ。185センチの長身でスピードと技術があり、いろんな仕事をこなせるし、今後が楽しみ」と欧州在住の日本人関係者も高く評価。2022年シーズン終了後の海外移籍の可能性も出てきたと言っていい。

ただ、その前にカタールW杯があることを忘れてはいけない。森保監督も「9月の欧州遠征にE-1組の何人かを連れていきたい」という意向を示しており、MVPの相馬勇紀(名古屋)や町野は有力候補ということになる。

22歳の大型FWが限られた枠に本当に食い込もうと思うなら、7月30日のジュビロ磐田戦から再開されるJ1でさらなる結果を残すことが肝要だ。もちろん大迫のコンディション次第という部分もあるが、彼がコンスタントにゴールを奪い、名実ともにJリーグトップの地位を勝ち得れば、大舞台への道が開けてこないとも限らないのだ。

「優勝はもう過去の話。Jリーグで自分が持ち味を出してチームを勝利に導くことが、W杯や代表招集につながってくる」と本人もギラギラした野心を押し出している。そういう部分は非常に頼もしい。ここから劇的な成長曲線を描くことを大いに期待したい。
【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。

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わずか4分でも大きな一歩。A代表デビューで「絶対生き残る」と決意した中村敬斗の今【新しい景色へ導く期待の選手/vol.7】

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ベルギー1年目で13ゴール、得点王も視野に。上田綺世は新生・代表FW陣の軸を担うのか?【新しい景色へ導く期待の選手/vol.5】

24・28日のウルグアイ・コロンビア2連戦(国立・ヨドコウ)に挑む第2次森保ジャパンのメンバー発表が15日と見られる中、日本代表スタッフ陣の選考作業も大詰めになりつつある。森保一監督や名波浩・前田遼一新コーチが特にディスカッションしているのが、最前線を担うFWをどうするかだろう。 ご存じの通り、2022年カタール・ワールドカップ(W杯)では、前田大然(セルティック)がドイツ・スペイン・クロアチアの3試合で先発。途中から浅野拓磨(ボーフム)がジョーカー的に出てきて、フィニッシャーの重責を担うパターンで、8強にあと一歩まで迫った。そのベースを今回の2連戦でも継続するのか、新たな軸を据えるのかは思案のしどころだ。 というのも、前田と浅野は所属クラブで1トップを担っていないからだ。前田は左FW、浅野は右FWが主戦場で、ここ数カ月のブランクがある点はやや不安が付きまとう。 コスタリカ戦に先発した上田綺世(セルクル・ブルージュ)にしても、クラブでは左シャドウに入っている。「自分が1トップをできていないのは、体の強さだったり、求められることの相違だったりが理由。ジレンマはあります」と本人は偽らざる胸中を口にした。 しかしながら、彼は1トップのケビン・デンキーと近い距離感を保ちながら、敵の背後に抜け出したり、こぼれ球に詰めたり、リスタートから打点の高いヘッドをお見舞いしたりとゴールにより近いエリアでプレー。得点感覚を研ぎ澄ませている。ベルギー挑戦1年目で早くも13ゴールをゲット。得点王の可能性も出てきている。それも含めて、他のFWよりアドバンテージがあるのは確か。今後は上田綺世が代表FW陣の軸を担っていく可能性も大いにありそうだ。 「やっぱりFWは点を取ることで一番信頼されると僕は思っている。自分の目指すところは、守備もしながら走って、しっかり攻守において貢献できる選手。環境が変わっても、チームメートが変わっても、ピッチが変わっても点を取れるクオリティを求めていきたい」 こう語り、目の色を変えてゴールに突き進む今の彼は実に頼もしい。 そうやって貪欲に高みを目指す原動力の1つが、W杯での不完全燃焼感だろう。昨夏にあえてリスクを冒して鹿島からセルクル・ブルージュへ赴き、前半戦だけで7ゴールを叩き出して26人枠を射止めたものの、結果的には45分間ピッチに立っただけで終わってしまった。しかも、コスタリカ戦での上田は、本来の能力とはかけ離れたパフォーマンスしか発揮できなかった。 そんな自分自身の現在地をしっかりと認め、再出発したことは大きな意味を持つ。さらなる飛躍への意識も一段と高まったに違いない。 「コスタリカ戦であれくらいしかできなかった自分がドイツ、スペイン戦に出ていたら、一体、何ができたんだろうという考え方もあります。そういう中、大舞台で違いを出せる同世代の薫(三笘=ブライトン)君とか律(堂安=フライブルク)、碧(田中=デュッセルドルフ)に刺激を受けました。彼らは僕よりも早く海外に出て、もがいて、今の立場を築いた。そこには物凄くリスペクトしています。自分自身も今いるセルクル・ブルージュで常に自分自身のアップデートを向き合っていかなければいけないと思っています」と彼は目を輝かせる。 以前から向上心の強い選手ではあったが、欧州に身を投じ、W杯という世界中の人々が注目する大舞台を経験して、上田綺世のギラギラ感は以前とは比べ物にならないほど強くなった。本人は「そうですかね。僕、ギラギラしてます?」と自問自答していたが、成功への野心を抱く各国の若手がひしめくこの国にいれば、彼自身も良い意味で「俺が俺が」とエゴを出すようになって当然。前向きな変化は日本代表にもプラス効果をもたらすはずだ。 日本にも町野修斗(湘南ベルマーレ)や小川航基(横浜FC)などライバルもいるが、今の上田綺世なら誰にも負けない存在感を示せるだろう。仮にこの夏、欧州5大リーグへのステップアップを果たし、新天地で念願の1トップを射止めるようなことがあれば、代表における彼の位置づけはまずまず重要になってくる。 これまでの日本人FWを見ても、欧州5大リーグで最前線で結果を出したのは、フランクフルト時代の高原直泰(沖縄SV代表兼選手)、マインツ時代の岡崎慎司(シント=トロイデン)くらい。大迫勇也(ヴィッセル神戸)でさえも、ケルンやブレーメンではトップ下やボランチで使われたことがあった。技術レベルが高く、起用で献身的な日本人FWはユーティリティ要員と位置づけられることが多いのだ。非凡なポテンシャルを秘めた上田にはそのハードルを乗り越え、何としても絶対的FWに君臨してもらいたい。 「僕はアジア人としての壁を超えたい。アジア人、日本人という枠で見られたくない」と本人も強調していたが、プレミアリーグで昨季得点王に輝いたソン・フンミン(トッテナム)のような最高峰レベルを貪欲に目指し続け、日本代表を未知なる領域へとけん引してほしいものである。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> <span class="paragraph-title">【動画】好調を維持し続ける上田綺世、圧巻のトラップから2ゴール!</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="r-za29dV7o0";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.03.06 22:00 Mon
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カタールW杯メンバー・町野修斗は第2次森保ジャパンの軸になれるのか?【新しい景色へ導く期待の選手/vol.4】

第2次森保ジャパンの初陣となる3月24・28日のウルグアイ(国立)&コロンビア(ヨドコウ)2連戦まで1カ月を切った。森保一監督や名波浩・前田遼一新コーチらの視察も熱を帯びている。今回は2022年カタール・ワールドカップ(W杯)の時とは違って選出人数が23人になると見られ、各ポジションとも激戦になるのは間違いないだろう。 とりわけ、FW陣は選考が難しい。というのも、カタールW杯で主力と位置づけられた前田大然(セルティック)と浅野拓磨(ボーフム)がともに所属クラブで大外を担っているからだ。前田大然は左FWとして快足ドリブラーへと変貌を遂げているし、浅野にしても2列目を柔軟に動きながらチャンスメークに関与することが多いのだ。 さらに言うと、もう1人のW杯メンバーである上田綺世(セルクル・ブルージュ)も2シャドウの一角で使われている。 「センターFWができていないのは、体の強さとか求められることの相違だとかが理由。そこには悔しさはありますけど、どこで出てもつねにゴールを目指すのが自分。点を取ることが一番信頼される」と本人はいい意味で割り切って新ポジションで今季11ゴールという結果を残している。 ただ、上記3人が最前線で日々、経験を詰めないというのは日本代表にとってはマイナス面もないとは言えない。そういう意味で普段からFWに入っている選手にはアドバンテージがあるという見方もできる。 そこで浮上するのが、W杯参戦組の第4の男・町野修斗(湘南)。ご存じの通り、ピッチに立つ機会はなかったものの、「W杯に行って、対人も相当すごかったし、スピード感も全然違った。攻守の切り替えもタテの速さもありましたし、スキがあればどんどんゴールに迫っていくスピード感というのはやっぱりJリーグとは比べ物にならなかった」と本人も世界基準を体感。それをイメージしながら今季J1に挑んでいる。 「Jリーグでは簡単にボールを失ってはいけない。国内でやる時はポストプレーで失う回数がゼロに近いくらいになりたい。これまではペナルティエリアで多少止まってしまうシーンが以前はあったので、動き出しだったり、入っていくスピードであったりはもっと改善できる」と開幕前に語っていた通り、シーズンスタート後はアグレッシブさが非常に目立つ。 小川航基との大型FW直接対決となった2月24日の横浜FC戦でも、町野は攻守両面で豊富な運動量を披露。ドリブル突破からパス出し、前線からのハードワークを含めて、非常に幅広い仕事ぶりを見せていた。それに加えて前半17分の今季初ゴールである。右サイドに開いた小野瀬康介のクロスを大橋祐紀がヘッドで落とし、そこに反応した町野が左にえぐって決めきった形だが、冷静さが際立っていた。 「個人的には取って当たり前だと思われていると思いますし、自分でもそういったプレッシャーの中で取っていきたい。1点じゃ満足できないです。実際、前半には2〜3点取れるチャンスがあった。本当にもったいなかった」と本人は満足するどころか、反省の弁を口にしていた。確かに彼が決めていたら、湘南が最終的に2-2のドローという結果に終わることはなかったかもしれない。エースFWというのはチームを勝たせてナンボなのである。 そういう自覚を町野が強めているのはポジティブな要素と言っていい。現地視察に訪れた森保一監督も「チャンスメーカー、フィニッシャーとして存在感を出していた」と前向きに評していた。ただ、やはり彼が競うのは世界で戦っている面々。上記の前田、浅野、上田はもちろんのこと、今季スコットランドで公式戦24ゴールを挙げている古橋亨梧(セルティック)もいるし、日本に目を向ければベテランの大迫勇也(神戸)も気を吐いている。彼らとの熾烈な競争に打ち勝って、23人枠を射止めるためには、もっともっと目に見える結果が必要。毎試合ゴールを重ねるくらいのことはやらないと、確実とは言い切れないのである。 だからこそ、本人も「今季J1得点王」という大目標を掲げ、貪欲に突き進もうとしている。開幕のサガン鳥栖戦でコンビを組む大橋がハットトリックしたこともあり、「このペースでは足りない」と危機感を募らせているはずだ。とりあえず、横浜FC戦で一歩を踏み出したが、3月15〜16日と言われる代表発表までの間に連続ゴールがほしいところ。特に3月4日の次節・川崎フロンターレ戦では是が非でも結果を残したい。 思い起こせば、昨年5月25日の敵地・川崎F戦で2点を叩き出したことで、町野は一気に勢いに乗り、そこからゴールラッシュを披露。E-1選手権の日本代表入り、そしてカタール行きという成功ロードを歩むことになった。今回も川崎という強豪を叩くことで、新たな希望が見えてくるのではないか。そんな期待を抱きつつ、彼の一挙手一投足を興味深く見守りたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> <span class="paragraph-title">【動画】今季初ゴールはカットインからの鮮やかゴール!</span> <span data-other-div="movie"></span> <script>var video_id ="0qckPe3iouQ";var video_start = 0;</script><div style="text-align:center;"><div id="player"></div></div><script src="https://web.ultra-soccer.jp/js/youtube_autoplay.js"></script> 2023.02.27 22:22 Mon
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森保監督の訪問で刺激。パリ五輪世代の星・鈴木唯人のフランスデビューはいつ?【新しい景色へ導く期待の選手/vol.3】

今年1月の欧州移籍市場で何人かの日本人若手選手が海外挑戦に踏み切ったが、その筆頭が2024年パリ五輪世代の主力アタッカー・鈴木唯人(ストラスブール)だ。 彼はご存じの通り、高校サッカーの名門・市立船橋高校出身。コロナ禍の2020年に清水エスパルス入りすると、ルーキーイヤーから30試合に出場。ゴールこそなかったが、ピーター・クラモフスキー(現山形)、平岡宏章(現新潟アカデミーダイレクター)両監督から才能を買われ、攻撃陣の一翼を担うことができた。 翌2021年も33試合出場2ゴール。その活躍ぶりには日本代表の森保一監督も注目し、2022年1月の国内組合宿に追加招集。長友佑都(FC東京)や大迫勇也(神戸)らW杯経験者とともにトレーニングする機会に恵まれた。 「代表に行ってできると思いました。いろんな選手とやることで、それぞれのよさを学ぶことはありましたけど、特別何を変える必要はないと。自分のサッカーに対する意識や自信を持って、帰ってこれたのは大きかった」と本人も手ごたえをつかんでクラブに戻った。 その成果もあり、2022年は開幕のコンサドーレ札幌・ジュビロ磐田戦で連続ゴールをゲット。「清水のエース」と言っても過言ではないほどの輝きを見せ、2022年カタール・ワールドカップ(W杯)滑り込みもあり得るのではないかと見られるほどだった。 ところが、6月に平岡監督が解任され、ゼ・リカルド監督が後を引き継ぐと、鈴木の立場は一変する。ブラジル人指揮官が乾貴士や北川航也、ヤゴ・ピカチュウらを重用し始めたこともあり、彼の出番が激減。シーズン終盤にジョーカーとしてわずかな時間プレーするだけになってしまった。 6月のAFC・U-23アジアカップ(ウズベキスタン)で日本の得点源として異彩を放ち、さらなる自信をつけて戻った直後のチームでの環境の変化には、彼自身も戸惑いや焦りを覚えただろう。 それでも、鈴木は自らに矢印を向けることを忘れなかった。 「僕自身は大丈夫でしたよ。自分にフォーカスすることだけを考えていたんで。フィジカル強化はもちろん、一歩目を早くする走り方とかいろんなことに取り組んでいました。それにサッカー選手をやっていれば、つねに出られる保証はない。やはり監督の要求に適応できるかどうか。その厳しさは再認識しました」と本人はしみじみと語っていた。 悔しさを糧に新たな飛躍を誓った2023年。鈴木唯人のところに届いたのが、フランス1部・ストラスブールからのオファーだった。同じパリ五輪世代の斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)や田中聡(コルトレイク)らが一足先に欧州挑戦に踏み切っていたこともあり、「いずれは自分も」と考えていたはずの彼にしてみれば、願ってもない話。しかも、欧州5大リーグのクラブである。目下、今季ストラスブールは23試合終了時点で17位と2部降格圏に沈んではいるが、それでもチャレンジしたいという気持ちは変わらなかったはずだ。 そして、1月末から合流。その翌週には森保監督も視察に訪れた。 「2月5日にシュツットガルトの試合に行き、地理的に行ける範囲だったストラスブールの練習を視察できるということで行ってきました」と今月8日にオンライン取材に応じた指揮官は説明したが、それでも鈴木唯人の動向が気にならなかったら、わざわざ足を運ばないはずがない。「近未来のA代表選手」という期待があるからこそ、そういった行動に出たのだろう。 だからこそ、いつ彼が新天地デビューを果たすか気になるところ。2月1日のレンヌ、5日のモンペリエ、12日のリールと3試合連続ベンチ入りはしているものの、まだピッチに立つ機会には恵まれていない。 しかしながら、大先輩の川島永嗣が「彼はすごくオープンな性格。フランス語は分からないだろうけど、その環境の中でできることをやって味方とコミュニケーションを取っている。自分からアクションを起こせる分、適応はすごく早そうですね」と押していただけに、そう遠くない段階にチャンスが巡ってくる可能性は高そうだ。 加えて言うと、ストラスブールの指揮官にかつてガンバ大阪を率いたフレデリック・アントネッティ監督就任したことも追い風と言える。アントネッティ監督は日本人の気質や勤勉さ、技術の高さを熟知しているだけに、鈴木唯人を高く評価することが十分、考えられるからだ。 「海外に行けばいろんな監督がいると乾君にも言われましたけど、とにかく要求にしっかり応えられるかどうかが大事」と本人もやるべきことを冷静に見据えている。その言葉通り、今は新指揮官の下で自分のストロングを発揮することに全神経を注ぐべきである。 21歳の日本人アタッカーが苦境にあえぐフランスの名門を救うような大仕事を果たすことができるか否か。ここからが鈴木唯人の本当の勝負だ。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2023.02.15 21:30 Wed
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