クラブ経営悪化で生き残りを強いられるベテラン勢。異例シーズンに存在を示すのは誰?

2020.07.04 17:00 Sat
©︎J.LEAGUE
「今季はルールも変わって降格なしが決まって、ベテランの選手はより一層頑張らないといけないですね。僕が監督だったら『若手を使うチャンスだな』とも考える。だからこそ、より危機感を持ちながらトレーニング積む必要があるし、レベルアップをしなければいけない。まだまだ若手には負けられないので、危機感を取り組んでいきます」

浦和レッズのキャプテンマークを巻く西川周作が新型コロナウイルスによるリーグ中断期間に偽らざる胸の内を口にしたように、今季はベテラン選手にとって難易度の高いシーズンになるのは間違いない。

Jリーグ屈指の守護神が指摘するように、降格なしのルールになれば、「若手を積極起用して今後のために経験を積ませよう」と考える指揮官が多くなるのは確か。しかも6月27日に再開・開幕したJ2とJ3、7月4日に再開するJ1ともに夏場の連戦からのスタートとなる。ご存じの通り、前後半に1回ずつ飲水タイムが設けられていて、30代に突入した柿谷曜一朗(C大阪)は「おじさんたちにはいいルール」と冗談交じりに語っていたが、やはり無尽蔵のエネルギーを持つ若い選手の方がコンディション・メンタル両面で有利なのは確か。疲労がたまりやすいベテラン選手には非常に辛いが、つねに高いレベルでコンディションを維持し続けなければ、試合出場機会が大幅に減る可能性も否定できない。今こそ奮起が求められる。
もう1つ、ベテランにとって大きなハードルとなるのが、クラブ経営の悪化だ。すでに浦和が営業収益(売上高)の20億円減、今季10億円程度の赤字計上見込みを公表しているが、コロナ禍に見舞われた全クラブが苦境に陥っているのは間違いない。

今季はスポンサーの支援強化や借り入れなどで何とか乗り切れたとしても、複数年契約の選手年俸をどうするかは考えなければいけない。来季以降、コストの高いベテラン選手との契約を維持できるかどうかはJリーグ全体の大きな問題になる」と話すクラブ関係者もいて、存在価値の乏しいベテラン勢が大量にリストラされることもあり得るのだ。
「年齢に関係なく選手をうまく使いながら勝たせられるのが本当のいい監督」と39歳になった松井大輔(横浜FC)は前向きにコメントしていたが、指揮官がそういう考え方でも経営サイドの事情が許さなければ、難しい方向に進むことも考えられる。53歳のカズ(三浦知良)筆頭に、42歳の中村俊輔、40歳の南雄太、39歳の松井大輔とビッグネームを抱える横浜FCのようなチームは結果や選手個々の動向が大いに注目されるところ。西川、阿部勇樹、槙野智章、柏木陽介など年齢層の高い選手を複数抱える浦和なども同様だ。これまで10年以上にわたって日本サッカー界をけん引してきた看板選手たちのパフォーマンスをしっかりと注視していく必要がありそうだ。

数々の難問がのしかかるものの、彼らベテランには、若手とは比較にならないほどの豊富な経験値と卓越した戦術眼がある。そこは特筆すべき点だ。7月4日のセレッソ大阪との「大阪ダービー」でJ1歴代最多出場新記録を樹立する見通しの遠藤保仁(G大阪)を例に挙げても、2月23日の今季開幕の横浜F・マリノス戦で「中盤の並びを変えた方がいい」と試合途中に宮本恒靖監督に進言。その変更によって守備が落ち着き、相手の猛攻をしのぎ切り、勝ち点3を手にする形になっている。

「ヤットさんのサッカーIQの高さは凄まじい」と倉田秋も神妙な面持ちで話していたが、年長者が重要局面でキラリと光る判断や技術を発揮してくれれば、チーム全体が確実に引き締まる。中村俊輔や阿部勇樹などもそういった仕事ができる面々。一足先に再開したJ2でもヴァンフォーレ甲府の山本英臣や松本山雅の田中隼磨らが仲間たちを力強くけん引し、強固な結束を作り上げていた。だからこそ、彼らは今の年齢まで現役を続行し、チーム内外から信頼を寄せられているのだ。

「コロナ禍でJクラブの過去にないほど経営が厳しくても、やはり彼らのようなベテランは必要」と見る者に強く感じさせられる選手なら、来年以降もピッチに立ち続けられるはず。クラブ側も絶対に引き留めるはずだ。そうやって異彩を放つ選手が1人でも多く出てきてくれれば、未知なる要素の多いイレギュラーな今季も盛り上がるだろう。

遠藤保仁擁するガンバと再開初戦を戦うセレッソ大阪のベテランFW都倉賢も「僕は紆余曲折を重ねてこのクラブに来た。なぜ自分がここでプレーできるのかという答えを示すことが大事。移籍1年目だった去年は右ひざの大ケガを負ってサッカーができず、今年はコロナでサッカーができなかった。その苦しみを乗り越えてポジティブなものを社会やファン・サポーターに示すんだという自覚を持って戦いたい」と力を込めていた。間もなく復帰するであろう中村憲剛(川崎F)も同じような覚悟と決意を持って戻ってくるに違いない。

彼らの年長者の中で誰が強烈なインパクトを残し、チームをタイトルへと導いてくれるのか。そこにフォーカスすることも、2020年の注目点。我々見る側としては、「ベテランの力を味わい尽くすシーズン」にしたいものだ。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
クラブ経営悪化で生き残りを強いられるベテラン勢。異例シーズンに存在を示すのは誰?

「今季はルールも変わって降格なしが決まって、ベテランの選手はより一層頑張らないといけないですね。僕が監督だったら『若手を使うチャンスだな』とも考える。だからこそ、より危機感を持ちながらトレーニング積む必要があるし、レベルアップをしなければいけない。まだまだ若手には負けられないので、危機感を取り組んでいきます」

浦和レッズのキャプテンマークを巻く西川周作が新型コロナウイルスによるリーグ中断期間に偽らざる胸の内を口にしたように、今季はベテラン選手にとって難易度の高いシーズンになるのは間違いない。

Jリーグ屈指の守護神が指摘するように、降格なしのルールになれば、「若手を積極起用して今後のために経験を積ませよう」と考える指揮官が多くなるのは確か。しかも6月27日に再開・開幕したJ2とJ3、7月4日に再開するJ1ともに夏場の連戦からのスタートとなる。ご存じの通り、前後半に1回ずつ飲水タイムが設けられていて、30代に突入した柿谷曜一朗(C大阪)は「おじさんたちにはいいルール」と冗談交じりに語っていたが、やはり無尽蔵のエネルギーを持つ若い選手の方がコンディション・メンタル両面で有利なのは確か。疲労がたまりやすいベテラン選手には非常に辛いが、つねに高いレベルでコンディションを維持し続けなければ、試合出場機会が大幅に減る可能性も否定できない。今こそ奮起が求められる。

もう1つ、ベテランにとって大きなハードルとなるのが、クラブ経営の悪化だ。すでに浦和が営業収益(売上高)の20億円減、今季10億円程度の赤字計上見込みを公表しているが、コロナ禍に見舞われた全クラブが苦境に陥っているのは間違いない。

今季はスポンサーの支援強化や借り入れなどで何とか乗り切れたとしても、複数年契約の選手年俸をどうするかは考えなければいけない。来季以降、コストの高いベテラン選手との契約を維持できるかどうかはJリーグ全体の大きな問題になる」と話すクラブ関係者もいて、存在価値の乏しいベテラン勢が大量にリストラされることもあり得るのだ。

「年齢に関係なく選手をうまく使いながら勝たせられるのが本当のいい監督」と39歳になった松井大輔(横浜FC)は前向きにコメントしていたが、指揮官がそういう考え方でも経営サイドの事情が許さなければ、難しい方向に進むことも考えられる。53歳のカズ(三浦知良)筆頭に、42歳の中村俊輔、40歳の南雄太、39歳の松井大輔とビッグネームを抱える横浜FCのようなチームは結果や選手個々の動向が大いに注目されるところ。西川、阿部勇樹、槙野智章、柏木陽介など年齢層の高い選手を複数抱える浦和なども同様だ。これまで10年以上にわたって日本サッカー界をけん引してきた看板選手たちのパフォーマンスをしっかりと注視していく必要がありそうだ。

数々の難問がのしかかるものの、彼らベテランには、若手とは比較にならないほどの豊富な経験値と卓越した戦術眼がある。そこは特筆すべき点だ。7月4日のセレッソ大阪との「大阪ダービー」でJ1歴代最多出場新記録を樹立する見通しの遠藤保仁(G大阪)を例に挙げても、2月23日の今季開幕の横浜F・マリノス戦で「中盤の並びを変えた方がいい」と試合途中に宮本恒靖監督に進言。その変更によって守備が落ち着き、相手の猛攻をしのぎ切り、勝ち点3を手にする形になっている。

「ヤットさんのサッカーIQの高さは凄まじい」と倉田秋も神妙な面持ちで話していたが、年長者が重要局面でキラリと光る判断や技術を発揮してくれれば、チーム全体が確実に引き締まる。中村俊輔や阿部勇樹などもそういった仕事ができる面々。一足先に再開したJ2でもヴァンフォーレ甲府の山本英臣や松本山雅の田中隼磨らが仲間たちを力強くけん引し、強固な結束を作り上げていた。だからこそ、彼らは今の年齢まで現役を続行し、チーム内外から信頼を寄せられているのだ。

「コロナ禍でJクラブの過去にないほど経営が厳しくても、やはり彼らのようなベテランは必要」と見る者に強く感じさせられる選手なら、来年以降もピッチに立ち続けられるはず。クラブ側も絶対に引き留めるはずだ。そうやって異彩を放つ選手が1人でも多く出てきてくれれば、未知なる要素の多いイレギュラーな今季も盛り上がるだろう。

遠藤保仁擁するガンバと再開初戦を戦うセレッソ大阪のベテランFW都倉賢も「僕は紆余曲折を重ねてこのクラブに来た。なぜ自分がここでプレーできるのかという答えを示すことが大事。移籍1年目だった去年は右ひざの大ケガを負ってサッカーができず、今年はコロナでサッカーができなかった。その苦しみを乗り越えてポジティブなものを社会やファン・サポーターに示すんだという自覚を持って戦いたい」と力を込めていた。間もなく復帰するであろう中村憲剛(川崎F)も同じような覚悟と決意を持って戻ってくるに違いない。

彼らの年長者の中で誰が強烈なインパクトを残し、チームをタイトルへと導いてくれるのか。そこにフォーカスすることも、2020年の注目点。我々見る側としては、「ベテランの力を味わい尽くすシーズン」にしたいものだ。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。

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