【東本貢司のFCUK!】新版・カンプノウの奇跡
2019.03.09 20:00 Sat
「パリSGは何も学んでいなかった」……どこかで読んだか聞いたかしたそんな文言に、ふと恐ろしく引っかかった。あらばあえて問うが、「ではどうすればよかったのか」、あるいは今後に「どう(その教訓を)生かせばいいのか」? いわんや、フットボールマッチに限らず、いやスポーツであろうと何であろうと、その手の“決まり文句"的な後付け評価はごまんと垂れ流されている。単なる言いぐさで(あるいは見様見真似で?)つぶやく、吐き捨ててしまう輩の口に戸は立てられない。が、曲がりなりにもそれを生業にしているはずの“業界筋"からは、できることなら聞きたくない“身もふたもない無責任な軽口"ではないか。おっと、ややこしい、およそ理屈っぽいケチのつけ方はもうやめておこう。つまりは、いわゆるあの「カンプノウの悲劇」のことだ。えーと、間違いないかな?
「学んでいないはずはない」からだ。もしくは、「圧倒的優位に立ち、ホームのファンを背負って、ベストチームもろくに組めないマン・ユナイテッドを相手取った」フランスの王者が、そんな精神的ハンディを胸にゲームに臨んだはずなどないからだ。まさか、監督トゥヘルがわざわざ「おいみんな、間違っても2年前のあの屈辱の再現はごめんだぞ」などと言い含めるはずなどないし、もしも仮にプレーヤーの誰かがつい“思い出して"しまったとしても、現実のゲームの最中にくよくよとマイナス思考にひたる“ゆとり"なんぞあるわけがない。違う。ピッチ上のパリのメンバーは、ファーストレッグをオールド・トラッフォードで勝ち取った「良き記憶こそに学んで」意気揚々だったはずなのだ。そこで筆者は今にして思う。その「意気揚々」が、一瞬のミスによる早い失点とすぐに取り返すというドタバタ展開によって、未知の「意気過剰」に変化してしまったのではないか、と。
平たく言えば、ルカクの先制点を何事もなかったように“忘れて"しまえば、それこそ普段通りのパリに戻れていればよかったのだ。ところがそうはならなかった。終始7割以上ボールを支配し続けていながらも、また「どこかから思いがけない一発」が飛んで来るのではないかと、びくびくし続けたそのあげく……! 誰あろう、名手ブッフォンが目測を誤ったように“とりこぼし"て、またしてもやらずもがなの失点。その前後から、観戦中の筆者の目には、パリのプレーヤーの身のこなし、ひいては心の襞のあちこちから「どこか硬い何か」が見え隠れするようになる。ムバッペはなぜかゴール前からあまり動かず、ファーストレッグの影の支配者だったマルキーニョスはそれこそ影が薄く、その他に至っては、えーと誰だっけ、という始末。むろんユナイテッド贔屓ゆえの、一種のけだるさのようなものだったが、これはもう“動く"こともないのかな、と悲観気味だったのだが。
問題のPKは、それがそう判定されるまでの“かったるさ"もあって、実際にゴールネットが揺れる直前まで“半信半疑"だったし、思えばユナイテッドの3ゴールのすべてが“むずがゆい"印象のまま今もふんわり漂っている。“いただきもの"という感触も薄いし、奪い取ったという確かな手ごたえも弱い。強いて言えば「昔ながらの貫禄の賜物」? そうか、これも“スールシャール・マジック"なのか。この試合に限らず、ゴールが決まるたびに副官キャリック、ファーギー時代の鬼軍曹ウィーラン、知恵袋のマッケナらと、まるでいたいけない女の子たちのように無邪気に肩を抱き合う、スールシャールならではの“チャーム・マジック"。そういえば、試合後、駆け付けたゲスト“出演"のファーガソン、およびカントナとの3ショットも、時空を超えた懐かしさを醸し出していた。
そう、これは「カンプノウの悲劇」じゃない。それをいうなら、もっと時をさかのぼった「カンプノウの奇跡」の方を引き合いに出すべきだ。“あのとき"も、スタンドには我が物顔にふるまうカントナのごつい笑顔があった。これでは、いくらトゥヘルやネイマールがなんのかんのと(PKに)ケチをつけてもとうてい太刀打ちできないよな。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
「学んでいないはずはない」からだ。もしくは、「圧倒的優位に立ち、ホームのファンを背負って、ベストチームもろくに組めないマン・ユナイテッドを相手取った」フランスの王者が、そんな精神的ハンディを胸にゲームに臨んだはずなどないからだ。まさか、監督トゥヘルがわざわざ「おいみんな、間違っても2年前のあの屈辱の再現はごめんだぞ」などと言い含めるはずなどないし、もしも仮にプレーヤーの誰かがつい“思い出して"しまったとしても、現実のゲームの最中にくよくよとマイナス思考にひたる“ゆとり"なんぞあるわけがない。違う。ピッチ上のパリのメンバーは、ファーストレッグをオールド・トラッフォードで勝ち取った「良き記憶こそに学んで」意気揚々だったはずなのだ。そこで筆者は今にして思う。その「意気揚々」が、一瞬のミスによる早い失点とすぐに取り返すというドタバタ展開によって、未知の「意気過剰」に変化してしまったのではないか、と。
平たく言えば、ルカクの先制点を何事もなかったように“忘れて"しまえば、それこそ普段通りのパリに戻れていればよかったのだ。ところがそうはならなかった。終始7割以上ボールを支配し続けていながらも、また「どこかから思いがけない一発」が飛んで来るのではないかと、びくびくし続けたそのあげく……! 誰あろう、名手ブッフォンが目測を誤ったように“とりこぼし"て、またしてもやらずもがなの失点。その前後から、観戦中の筆者の目には、パリのプレーヤーの身のこなし、ひいては心の襞のあちこちから「どこか硬い何か」が見え隠れするようになる。ムバッペはなぜかゴール前からあまり動かず、ファーストレッグの影の支配者だったマルキーニョスはそれこそ影が薄く、その他に至っては、えーと誰だっけ、という始末。むろんユナイテッド贔屓ゆえの、一種のけだるさのようなものだったが、これはもう“動く"こともないのかな、と悲観気味だったのだが。
そう、これは「カンプノウの悲劇」じゃない。それをいうなら、もっと時をさかのぼった「カンプノウの奇跡」の方を引き合いに出すべきだ。“あのとき"も、スタンドには我が物顔にふるまうカントナのごつい笑顔があった。これでは、いくらトゥヘルやネイマールがなんのかんのと(PKに)ケチをつけてもとうてい太刀打ちできないよな。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
マンチェスター・ユナイテッドの関連記事
|
マンチェスター・ユナイテッドの人気記事ランキング
1
ユナイテッドがアーセナル育ちの19歳DFヘヴンを獲得! 1stチームに即合流、今季2人目の引き抜きに
マンチェスター・ユナイテッドは1日、アーセナルからU-19イングランド代表DFエイデン・ヘヴン(18)の完全移籍加入を発表した。 契約期間は2029年6月までで、1年の延長オプションが付帯。ファーストチームに加わる。 ヘヴンは189cmの左利きセンターバックで、2019年11月にウェストハムの下部組織からアーセナルの下部組織に移籍。今シーズンはU-21チームに所属し、プレミアリーグ2で8試合、EFLトロフィーで1試合に出場していた。 ファーストチームでもベンチ入りし、2024年10月に行われたEFLカップ(カラバオカップ)4回戦のプレストン・ノースエンド戦でデビュー。出場はこれが唯一となっている。 また、世代別イングランド代表ではU-18、U-19でプレー。U-19では2試合に出場している。 ユナイテッド入りが決まったヘヴンは、クラブを通じて思いを語った。 「マンチェスター・ユナイテッドに加入できたことをとても誇りに思う。この夢の実現に協力してくれたすべての人に感謝する」 「達成したいことはたくさんある。成長を続け、最高の選手になれるよう全力を尽くすよ」 なお、ユナイテッドは2024年10月にはU-18デンマーク代表FWチド・オビ=マルティン(17)をアーセナルから移籍。2人目のアカデミー生獲得となった。 2025.02.01 21:26 Sat2
「キャリントンに行くと…」ルーニー氏が後輩ラッシュフォードの境遇を直に目撃…改めて退団を推奨「新たなスタートを切ろう」
ウェイン・ルーニー氏が“後輩”マーカス・ラッシュフォードに対し、改めてマンチェスター・ユナイテッドからの退団を勧める。イギリス『スカイ』で語った。 マンチェスター・Uの新旧の背番号「10」、ルーニー氏とラッシュフォード。 27歳の後者は現在、少年時代から過ごすクラブで不遇を極め、昨秋就任したルベン・アモリム監督とは口もきかないほど険悪な関係とも。26日のフルアム戦で遠征メンバーから外れ、30日のヨーロッパリーグ(EL)も帯同しない。 そんななか、昨年末に監督業を離れ、フリーとなったルーニー氏が、息子たちを連れて古巣ユナイテッドを訪問。トップチームがフルアム戦の遠征で不在だった26日、練習拠点キャリントンを訪れ、ある光景を目撃したという。 「このあいだの日曜日(26日)、子どもと一緒にキャリントンへ行ったんだ。すると、マーカスがフィットネスコーチを伴ってトレーニング場にいるんだよ」 「彼は子どもたち(育成年代の選手)の練習を観に来た親が通り過ぎる場所のすぐ近くにいるんだ。私は彼を見て、その場所でどんな気持ちになっているのか、彼の心境を考えてしまった」 「以前ならマーカスが苦境に陥ったら驚きを禁じ得なかった。しかし、今や驚くべきことではない。マーカスには最近何度か伝えているんだが、もうユナイテッドを去る必要がある」 「ユナイテッドの現状はもはや関係ない。彼は以前と同じ立場ではなく、新たなスタートを切るためにユナイテッドを去るべきだ。しかし、これだけは言いたい。(アモリム)監督が公の場で選手の練習態度に言及するのは間違いだ」 2025.01.30 21:16 Thu3
ユナイテッドがアーセナル育ちの若手DF獲得へ、今季2人目の引き抜きか
マンチェスター・ユナイテッドが、アーセナルの若手選手の獲得に迫っているようだ。 イギリス『スカイ・スポーツ』によると、ユナイテッドが狙っているのはアーセナルU-21に所属するU-19イングランド代表DFエイデン・ヘヴン(18)とのことだ。 ウェストハムの下部組織からアーセナルの下部組織に加入。今シーズンはプレミアリーグ2で8試合に出場。EFLトロフィーでも1試合に出場していた。 ファーストチームでもEFLカップで1試合に出場し、デビューを果たしていた。 ユナイテッドはアーセナルのアカデミー出身であるU-17デンマーク代表FWチド・オビ=マルティン(17)を獲得しており、2人目のアカデミー生獲得になる。 2025.01.28 23:15 Tue4
ラッシュフォードがアストン・ビラへ買取OP付きレンタル、7歳からプレーするユナイテッドに別れ
アストン・ビラは2日、マンチェスター・ユナイテッドのイングランド代表FWマーカス・ラッシュフォード(27)を今季終了までのレンタルで獲得したことを発表した。イギリス『BBC』によれば4000万ポンド(約76億3000万円)の買い取りオプションが付いているとのこと。給与に関しては75%以上をビラが負担するという。 ラッシュフォードは自身のインスタグラムにて「このレンタル移籍を実現させてくれたマンチェスター・ユナイテッドとアストン・ビラに感謝したい。幸運なことに幾つかのクラブからオファーがあったが、ビラへの移籍は簡単に決められた。今季のビラのプレーぶりと監督の野望には本当に感心している。自分はただサッカーがしたいだけだからプレーするのを楽しみにしている。ユナイテッドには今季の成功を祈っている」とコメント。 7歳でユナイテッドのアカデミーに加入したラッシュフォードは公式戦426試合で138ゴール63アシストを記録。FAカップ1度、EFLカップ2度、ヨーロッパリーグ(EL)1度制覇に貢献した。 しかし、昨年11月に就任したルベン・アモリム監督にトレーニングに臨む姿勢などが問題視され、12月12日のELビクトリア・プルゼニ戦に出場して以降、公式戦12試合でメンバー外となっていた。 一方、ビラでは今季公式戦12ゴールを挙げていたFWジョン・デュラン(21)がアル・ナスルに完全移籍していた。 2025.02.03 07:50 Mon5