【日本サッカー見聞録】国内リーグとW杯のジャッジ基準の違い

▽ゼロックス・スーパーカップを2日後に控えた2月26日、毎年恒例となっているメディア向けのレフェリング・カンファレンスが開催された。冒頭では20のプレーの映像を見ながら、それぞれのプレーについて「ノーファウル」、「どちらかのチームの反則」、「どちらかのチームの反則+イエローカード」、「どちらかのチームの反則+レッドカード」を選択するテストを実施した。

▽全20問で、各5点のため満点は100点となるが、今年も100点満点の記者は一人もいなかった(難易度はかなり高いため)。で、これらのプレーから今年ジャッジの変更点はというと、「得点機会阻止」は一発レッドに変わりはないものの、サイドからのクロスに対してブロックに行ったDFがハンドリング(ハンドの正式名称)の反則を犯した場合は、ゴール前で味方選手がフリーでいるかどうかなどの状況と合わせて判断することになると、国際サッカー連盟(FIFA)もアジアサッカー連盟(AFC)も共通の見解を出した点だ。

▽カバーのDFがいたり、FWをマン・マークしていた場合は、当該反則は「得点機会阻止」ではなく「ハンド」としてイエローの対象外になることもある。そしてレッドカードの反則は原則アドバンテージを取らない(ゴール前で、フリーでプッシュすれば得点というようなケースを除く)、ホールディングやシミュレーションには厳しく臨むというFIFAやAFCの姿勢も確認された。
▽1月のアジアカップでも、ホールディングやシミュレーションには厳しいジャッジが下され、イエローをもらった選手には罰金も科された。この点について、カンファレンス後の懇親会で西村雄一主審に聞いたところ、「ホールディングもシミュレーションも、無意識に身体が反応した反則ではなく意図的な反則のためFIFAもAFCも厳しく罰則するように通達しています。同様のことはハンドリングにも言え、偶然、手に当たったハンドではなく、意図的に手を使った場合のハンドリングと、ルールブックには明記してあります。そしてスピッツ(唾吐き)も相手を侮辱する行為としてイエローやレッドの対象になります」ということだった。

▽アジアカップの話が出たので、Jリーグでは厳しいジャッジも、アジアカップでは武藤への足裏キックがレッドカードではないなどレフェリーの技術にバラつきがある。特にプロリーグのない国のレフェリーはジャッジングの基準が甘いのではないかと質問した。▽すると西村主審はブラジルW杯の例を取り、次のように説明してくれた。「W杯は全世界のファンに最高の娯楽を提供する場です。主役はもちろん選手でありレフェリーではありません。J1リーグは年間18試合あるため、レッドカードで次戦に出場停止になってもその次の試合に復帰できます。しかしW杯は決勝まで7試合、アジアカップは6試合しかありません。そこでレッドカードを出すには、世界中の誰が見ても明らかにレッドというプレーでないと出せないのです。長丁場の国内リーグと短期決戦の国際大会、そしてクラブチームと代表チームの戦術の変化、特に近年の代表チームはカウンターを武器にするチームが増えているなどの違いなどもあって、FIFAやAFCの原則的なルールは変わらないものの、適用方法に差が出てきます」というものだった。

▽この他にも「目から鱗」の話はたくさんあった。また機会があったら紹介したいと思う。懇親会でレフェリーの方々と話ができたのは今回が初めてのこと。普段はなかなか直接、話を聞く機会はないのでとても貴重な場であったし、レフェリーがジャッジに対して多大な努力をしていることも知ることができた。

▽ちなみに、冒頭のペパーテストの結果はというと、残念ながらホールディングとハンドリングでのジャッジが甘くイエローにしなかったため、20問中12問正解の60点だった。同席した超ワールドサッカーのH記者の得点は聞き忘れたので、この原稿に自己申請で追加してくれることを期待したい。

編集部追記:私(編集部H)は、ボディコンタクトとハンドリングのジャッジが甘くイエローにしなかったため、20問中13問正解の65点でした……(笑)

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【六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。