元日本代表FW巻誠一郎氏が語る“フットサルの重要性”と子どもたちの“育て方”「勝ち負けにこだわりすぎるのは僕の教育理念ではない」

2025.08.22 15:02 Fri
©超ワールドサッカー
8月15日から17日の3日間、駒沢オリンピック公園総合運動場でJFA バーモントカップ 第35回全日本U-12フットサル選手権大会が行われた。観客席からカベッサ熊本の選手たちを真剣に見つめるひときわ大きな人物がいた。元日本代表の巻誠一郎氏だ。

現役時代は、地元熊本の名門・大津高校から駒澤大学を経て、ジェフユナイテッド千葉やロアッソ熊本でプレー。2006年にはドイツW杯に選出されるなど日本代表としても活躍した。

引退後は、熊本地震を機に立ち上げたNPO法人「ユアアクション」の代表理事として地域に寄り添う。同時にサッカースクール「カベッサ熊本」を創設し、熊本の子どもたちにサッカーを通じて学びと夢を与えるなど教育活動にも熱心に取り組んでいる。
今回は、カベッサ熊本のスタッフとして、バーモントカップに参戦。ベンチに入らず、スタンドから真剣な眼差しで子供たちのプレーを見守る巻氏に、育成年代における“フットサルの意義”や、自身の教育理念など話を伺った。

取材・文=溝口優輝、青木ひかる
──大会を通していかがでしたか?

「全国は広い」というのを知る意味で、すごく大きな経験でした。今までは「これくらいでいいのかな」という自分たちの基準がありましたが、大会に出場したことでより細かな部分に気をつけるきっかけになりました。いい刺激だったのかなと。

──熊本県内との違いについては?

全く強度も違いました。簡単にはボールを持たせてもらえない。シュートも打たせてもらえない。僕が幼かった時よりも、止める、蹴るのレベルが非常に高くなっていると思います。

──主に技術面のレベルが向上していると感じる?

そうですね。シュートの意識などもフットサルで培えるなと感じました。

──サッカーとフットサルは競技の違いがありますが、フットサルを学ぶことでサッカーに生かせる部分は?

僕に足りなかったものがフットサルに詰まっているかなと。相手よりも遠くにパスを出すことや、ボールの止め方や運び方。そういうことが僕にもできたら、世界でもっと活躍できたなと思いましたね。大人になってからそういうものをスタートさせようとしましたが、ちょっと遅かった。そういう経験があるので、子どもの時から技術も含めてフットサルのトレーニングをすることは大きいと思ってます。

──小学生年代から積み上げていくものが大事になる?

僕はサッカーを始めるのが遅くて、こういうこと(フットサル)をやらないまま大人になってしまった。だからこそ小さい時からトレーニングすることは大事だと思っています。試合を見ていても、この経験は小さい時にしかできないなと。中学生年代になってくると、コートが広くなりますし、フィジカル的なところに育成の焦点が当たりがちになる。だからこそ、小学生年代には技術的な部分が大事だと思います。

──一方で近年のサッカー界のトレンドはフィジカルになっているようにも感じます。

基礎的な技術を持たずにフィジカルを持ったとしても、なかなか今の世界では通用しない。そこは僕が一番感じている部分です。フィジカルを活かすためにも技術は欠けてはいけない。この大会でも、フィジカル的に優れた子が活躍していますが、やっぱり自分のフィジカルを生かすための技術がしっかりある選手だなと。ただ大きい、速いだけだとどうしても難しくなる時代ですね。

──今は子供たちの育成に携わる巻さんですが、どのような指導をされていますか?

今は動画やYoutubeなどで、いろいろな情報が簡単に手に入ります。でも、動画を見ただけで知った気になっちゃう。本物に触れて、体感する経験が少なくなってるなと。今回でいうと、全国の一流の子どもたちに触れるという、すごくいい勉強になっていると思いますし、こういう経験をたくさんさせてあげることが、子どもたちの成長につながるのではないかと思います。

今回、僕たちは全敗したんですよね。でも、真っ向勝負でした。ちょっとでも失点を少なくするためにとか、そういう試合をしませんでした。どんどん前から奪いにいこうって話をして、たくさん点を取れたんですけど、失点も多かった。これがサッカーだし、フットサルだし、未来に繋がると思っています。こういう指導をしていきたいなと。

勝とうが負けようが、今の小学生にとっては小さなことだと思います。勝ち負けにこだわりすぎるのは僕の教育理念ではない。子どもたちが自分で悔しい気持ちや嬉しい気持ちを持つのが大事だし、負けたくないという気持ちを持つのは大事。ですが、その感情をコーチや親が持っても仕方ありません。今の時代、コーチがそういう気持ちを持つことが多いですが、本当は子どもが持つべきなんですよ。

──巻さんは試合中にベンチに入られていません。そこにもこだわりがあるのでしょうか?

こうやって、子どもたちは自分たちで話しているんですよ。(カベッサ熊本の選手たちをしばらく見つめて)これは財産だなと思います。だから僕はベンチに入らないんです。コーチも育てたいし、子どもたちも育てたい。僕がベンチに入ると皆んな僕の顔色を伺って、僕の指示を待っちゃう笑。それで上で見てたんです笑。

──今後どのようにチームを指導していきたいですか?

子どもたちが今の時期にしかできないことを積み重ねて、燃え尽きずにもっと上手くなりたいという気持ちになれるように、経験をさせてあげる指導をしたいな思います。

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日本代表の背番号11/六川亨の日本サッカー見聞録

アジアカップはカタール代表の初優勝で終わり、5度目の戴冠を期待された日本代表は残念ながら準優勝に終わった。準決勝のイラン代表戦では今大会でベストのパフォーマンスから3-0の快勝を収めただけに、後手に回った決勝戦での前半の戦いぶりが悔やまれる。 そのカタール戦、ハーフタイムに控えの選手がピッチでボールを蹴っていたが、乾貴士と遠藤航の姿がなかった。0-2とリードされていただけに、「後半から乾と遠藤の2枚替えか。遠藤がボランチに戻れば守備を立て直すことができるが、体調は大丈夫なのか?」と期待したものの、森保一監督は動かなかった。 最初の交代カードは後半16分、原口元気に代えて武藤嘉紀を起用した。すると19分と21分に武藤が立て続けにヘッドでゴールを狙ったものの、シュートはクロスバーを越え、同点のチャンスを逃してしまった。決めていれば2011年カタール大会決勝の李忠成のようなヒーローになれただけに、武藤にとっては悔いの残るシュートだっただろう。 ただ、最初の交代カードで武藤を抜擢したが、彼の武器であるスピードはスペースがあってこと生きるタイプだ。カタールは自陣のゴール前を固めてカウンター狙いだったため、ゴールをこじ開けるにはクロスに対しガムシャラに飛び込む北川航也の方が効果的ではなかったかと疑問が残る。 それまで5試合に起用し、サブ組のFWでは最長の出場時間だっただけに、なぜ最後までベンチに温存したのか。北川が森保監督の期待に応えることができなかったと言われればそれまでだし、結果論にすぎないという反論もあることは百も承知だ。 そして改めて思うのは、北川は運がないということ。それは北川だけに限らず、今回彼が背負った日本代表の「背番号11」はなぜか結果に恵まれないということだ。 北川の前に「背番号11」を背負っていた選手が誰かと聞かれても、即答できるファンは数少ないのではないだろうか。ロシアW杯での「背番号11」は宇佐美貴史だったが、ほとんど活躍できなかった。 その前は豊田陽平であり、その前はというと柿谷曜一朗、原口元気、ハーフナー・マイク、前田遼一、玉田圭司、播戸竜二、佐藤寿人、巻誠一郎、鈴木隆行、黒部光昭、松井大輔、鈴木隆行、中山雅史、三浦淳寛、呂比須ワグナー、小野伸二、三浦知良らが「背番号11」を背負ってきた。 彼らの中で記憶に残るゴールを決めた選手となると、2002年日韓W杯の初戦ベルギー代表戦(2-2)で同点ゴールを決め、W杯で初めて勝点1をもたらした鈴木くらいではないだろうか。あとは“キング・カズ”の存在感が圧倒的だった。 もともと「背番号11」は左ウイングに与えられるナンバーだったものの、ポジションが流動化した現代サッカーでは9番と10番と同様に攻撃的な選手、ストライカーに与えられる番号でもある。にもかかわらず、日本代表の歴代「11番」は、カズ以降ストライカーとしての輝きを放てていない。 果たして3月に再招集される森保ジャパンにおいて、誰が「背番号11」を受け継ぐのか。そしてゴールという結果を出すことができるのか。23人のメンバーとともに注目したいと思っている。 2019.02.05 16:45 Tue

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