【現地対談】日本代表が“南米の壁”に挑んだ90分 北健一郎×難波拓未が語るパラグアイ戦
2025.10.11 21:00 Sat
10月10日、パナソニックスタジアム吹田で行われたキリンチャレンジカップ2025、日本代表対パラグアイ代表。
日本は後半アディショナルタイムに上田綺世の同点弾で追いつき、2-2の引き分けに終わった。
ワールドカップに向けて残り9カ月、ケガ人続出の中で挑んだ南米勢との一戦を、現地で取材した超WORLDサッカー!編集部の北健一郎と難波拓未の2人が振り返る。
■W杯優勝を目指すチームとして
北:日本代表、パラグアイとの国際親善試合は2-2の引き分けでしたね。どんな印象を持ちましたか?
北:確かに。最終予選を早々に突破して以降は、完全にワールドカップを見据えた準備期間に入っています。今回のパラグアイ戦はその流れの中で行われたわけですが、ケガ人が多く、攻撃陣も久保建英(ベンチ入りしたものの出場なし)や三笘薫が不在という状況でした。その中で新戦力のテストというより、「どうやって底上げを図るか」という難しい位置づけの試合でしたね。
■鈴木淳之介の落ち着きと勇敢さ
北:守備陣のケガが特に深刻でした。本来のレギュラーである板倉滉、富安健洋、伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大といった主力が軒並み不在。そんな中で、DFラインは平均出場数の少ないメンバー構成でした。守備の出来はどう見ましたか?
難波:初めて組む選手が多かったと思いますが、その中でも個人でどれだけ守れるかが問われる試合でした。攻撃的なウイングバックを採用するなら、センターバックが1対1で耐える力は必須。その意味で渡辺剛や鈴木淳之介の奮闘は評価できます。特に鈴木は勇敢でしたね。タックルにも迷いがなく、アグレッシブな守備が最後まで見られました。
北:鈴木淳之介がスタメンというのは少しサプライズでしたね。代表でのプレーは2試合目でしたが、森保一監督が「センターバックの新しい軸」を探す中でトライした起用だと思います。試合後の会見でも監督の評価は高かった。前半はやや硬さがありましたが、後半になるにつれて持ち味のビルドアップや前への推進力が出てきました。
難波:そうですね。前でボールを奪いに行く判断が良くて、迷いがない。行くと決めたらやり切る。だから味方も連動しやすかった。守備面でも、相手を自由にさせず、球際で何度も潰していました。
北:彼の魅力は、相手の動きを読むセンス。プレスの矢印を外すビルドアップも秀逸でした。顔を上げたまま両足で運べるので、どちらにも展開できる。冷静さと強気さが同居しているタイプですよね。
難波:メンタルの強さも印象的でした。ミスしても引きずらない。どんな相手でも堂々とプレーしていた。ワールドカップの舞台が想像できる選手だと思います。
■佐野海舟が放った存在感
北:次にボランチの佐野海舟。今回は遠藤航と守田英正が不在の中で出場機会を得ましたが、ようやく「代表でも自分のプレーが出せた」という印象でした。
難波:自分も同じように思いました。ボール奪取の強さに加えて、奪った後の前進が素晴らしかった。バックパスではなく前に運ぶ意識が常にあって、リズムを生み出していました。身体をぶつけながらキープする場面も多く、クラブで見せていた躍動感をそのまま代表で再現できた試合だったと思います。
北:ボールを奪ったあとの判断が速い。インターセプトから一気に前進して、テンポを変える。1点目の起点になったプレーも象徴的でしたね。
難波:あのルーズボールを相手よりも一瞬早く触ってワンタッチで小川航基に送った判断は絶妙でした。彼のプレーからチーム全体が押し上がる流れが生まれていました。
北:ボランチの層は厚いですが、彼のように守備と推進力を兼ね備えたタイプは貴重。ワールドカップまでの9カ月で、遠藤航の代役ではなく“共存”できる選手として位置づけられるかもしれませんね。
■フィニッシャー・小川航基
北:攻撃面で言えば、小川航基の同点弾も印象的でした。本人も「入るとは思っていなかった」と話していましたが、あの右足の振り抜きは見事でした。
難波:そうですね。距離もありましたし、あの一瞬の判断力はストライカーならでは。もともと小川は途中出場が多く、“ジョーカー的存在”としての印象が強かったですが、今回は先発で85分間プレーし、センターフォワードとしての役割を全うしました。
北:現状、上田綺世が絶対的な存在ですが、タイプが異なる。小川はペナルティエリア内で勝負する純粋なフィニッシャー。足元の技術は突出していないものの、ゴール前での嗅覚と決定力は代表の中でもトップクラスです。
難波:今日もクロスに合わせる動きが何度も見られました。中村敬斗や伊東純也のクロスにタイミング良く飛び込む姿は、チームに新たなオプションを与えたと思います。
北:現体制のプランBとして、彼の存在は重要ですね。相手が守備を固める時に、クロスから高さで勝負できる武器を持っている。今日の試合でその有効性が証明されたと思います。
■空回りだった斉藤光毅
北:後半は交代策がポイントでしたね。南野拓実や中村に代えて鎌田大地と斉藤光毅を投入、さらに町野修斗や相馬勇紀を入れて攻撃のバリエーションを増やした。
難波:そうですね。特に斉藤光毅はA代表デビュー戦でしたが、少し空回りした印象でした。ドリブルで仕掛ける場面はあったものの、ボールロストやミスが目立ち、本人も「全然ダメでした」と反省していました。
北:彼のポテンシャルは高いですが、代表でのタスク整理に戸惑いが見えましたね。所属クラブではアタッカーですが、代表ではウイングバックとしての役割を求められた。守備も攻撃も両立しなければならないポジションなので、難しいデビューになりました。
難波:試合後には名波浩コーチから声をかけられていました。「1人目を抜いて2人目も抜きに行ったシーンについて、中央には2人FWがいたのでクロスを上げた方がチャンスになる」というアドバイスをもらったそうです。でも、ドリブル突破を止められる回数が少なくなかった中で、「一度に2人を抜き切れば、(うまくいかなかったプレーのことを)誰も言わないと思う」と言っていて、自分の判断で強気な選択をしたようです。「クロスを上げてチャンスメイクできれば、そっちが正解になったと思いますけど、自分が正しいと思う選択をしていきたい」とチームと個人の結果の両立も消化していました。うまくいかなくてもトライを続けた。そのメンタリティは海外で磨いたものなのかなと思いますし、ここでの経験が今後に生きるはずです。
■ブラジル戦に向けて
北:次は14日に東京スタジアムでのブラジル代表戦ですね。間違いなく今日より厳しい相手になります。
難波:そうですね。韓国を5-0で下したばかりのチームですから。守備ではどれだけ粘れるか、そして少ないチャンスをいかに決め切るかが鍵になります。堂安選手も言っていましたが、「ゴール前でのアイディアやひらめき」が必要です。
北:パラグアイが“ベスト16の壁”なら、ブラジルは“ベスト8以上の壁”。失点の仕方を考えても、ワンプレーでやられる脆さが残っていました。まずは簡単に先制を許さないこと。守備陣がどこまで踏ん張れるかが試金石になるでしょう。
難波:そうですね。攻撃では久保建英の復帰にも期待です。彼が入ることで、右サイドのコンビネーションがどう変化するか。現状のベストメンバーで世界トップにどれだけ通用するかを試す絶好の機会になると思います。
北:結局、守備の安定と攻撃の質、その両輪をどれだけ高められるか。ブラジル戦は、森保ジャパンが“世界で戦うための現在地”を示す一戦になりそうですね。
日本は後半アディショナルタイムに上田綺世の同点弾で追いつき、2-2の引き分けに終わった。
ワールドカップに向けて残り9カ月、ケガ人続出の中で挑んだ南米勢との一戦を、現地で取材した超WORLDサッカー!編集部の北健一郎と難波拓未の2人が振り返る。
北:日本代表、パラグアイとの国際親善試合は2-2の引き分けでしたね。どんな印象を持ちましたか?
難波:正直、勝ってほしかったです。W杯アジア予選は順調に突破して、「史上最強の日本代表」と言われていますが、メキシコやアメリカには勝てなかった。今回の試合は結果で示してほしいという気持ちがありましたね。もちろんケガ人が多いという事情はありますが、優勝を目指すチームとしては物足りない結果だったと思います。
北:確かに。最終予選を早々に突破して以降は、完全にワールドカップを見据えた準備期間に入っています。今回のパラグアイ戦はその流れの中で行われたわけですが、ケガ人が多く、攻撃陣も久保建英(ベンチ入りしたものの出場なし)や三笘薫が不在という状況でした。その中で新戦力のテストというより、「どうやって底上げを図るか」という難しい位置づけの試合でしたね。
■鈴木淳之介の落ち着きと勇敢さ
北:守備陣のケガが特に深刻でした。本来のレギュラーである板倉滉、富安健洋、伊藤洋輝、町田浩樹、高井幸大といった主力が軒並み不在。そんな中で、DFラインは平均出場数の少ないメンバー構成でした。守備の出来はどう見ましたか?
難波:初めて組む選手が多かったと思いますが、その中でも個人でどれだけ守れるかが問われる試合でした。攻撃的なウイングバックを採用するなら、センターバックが1対1で耐える力は必須。その意味で渡辺剛や鈴木淳之介の奮闘は評価できます。特に鈴木は勇敢でしたね。タックルにも迷いがなく、アグレッシブな守備が最後まで見られました。
北:鈴木淳之介がスタメンというのは少しサプライズでしたね。代表でのプレーは2試合目でしたが、森保一監督が「センターバックの新しい軸」を探す中でトライした起用だと思います。試合後の会見でも監督の評価は高かった。前半はやや硬さがありましたが、後半になるにつれて持ち味のビルドアップや前への推進力が出てきました。
難波:そうですね。前でボールを奪いに行く判断が良くて、迷いがない。行くと決めたらやり切る。だから味方も連動しやすかった。守備面でも、相手を自由にさせず、球際で何度も潰していました。
北:彼の魅力は、相手の動きを読むセンス。プレスの矢印を外すビルドアップも秀逸でした。顔を上げたまま両足で運べるので、どちらにも展開できる。冷静さと強気さが同居しているタイプですよね。
難波:メンタルの強さも印象的でした。ミスしても引きずらない。どんな相手でも堂々とプレーしていた。ワールドカップの舞台が想像できる選手だと思います。
■佐野海舟が放った存在感
北:次にボランチの佐野海舟。今回は遠藤航と守田英正が不在の中で出場機会を得ましたが、ようやく「代表でも自分のプレーが出せた」という印象でした。
難波:自分も同じように思いました。ボール奪取の強さに加えて、奪った後の前進が素晴らしかった。バックパスではなく前に運ぶ意識が常にあって、リズムを生み出していました。身体をぶつけながらキープする場面も多く、クラブで見せていた躍動感をそのまま代表で再現できた試合だったと思います。
北:ボールを奪ったあとの判断が速い。インターセプトから一気に前進して、テンポを変える。1点目の起点になったプレーも象徴的でしたね。
難波:あのルーズボールを相手よりも一瞬早く触ってワンタッチで小川航基に送った判断は絶妙でした。彼のプレーからチーム全体が押し上がる流れが生まれていました。
北:ボランチの層は厚いですが、彼のように守備と推進力を兼ね備えたタイプは貴重。ワールドカップまでの9カ月で、遠藤航の代役ではなく“共存”できる選手として位置づけられるかもしれませんね。
■フィニッシャー・小川航基
北:攻撃面で言えば、小川航基の同点弾も印象的でした。本人も「入るとは思っていなかった」と話していましたが、あの右足の振り抜きは見事でした。
難波:そうですね。距離もありましたし、あの一瞬の判断力はストライカーならでは。もともと小川は途中出場が多く、“ジョーカー的存在”としての印象が強かったですが、今回は先発で85分間プレーし、センターフォワードとしての役割を全うしました。
北:現状、上田綺世が絶対的な存在ですが、タイプが異なる。小川はペナルティエリア内で勝負する純粋なフィニッシャー。足元の技術は突出していないものの、ゴール前での嗅覚と決定力は代表の中でもトップクラスです。
難波:今日もクロスに合わせる動きが何度も見られました。中村敬斗や伊東純也のクロスにタイミング良く飛び込む姿は、チームに新たなオプションを与えたと思います。
北:現体制のプランBとして、彼の存在は重要ですね。相手が守備を固める時に、クロスから高さで勝負できる武器を持っている。今日の試合でその有効性が証明されたと思います。
■空回りだった斉藤光毅
北:後半は交代策がポイントでしたね。南野拓実や中村に代えて鎌田大地と斉藤光毅を投入、さらに町野修斗や相馬勇紀を入れて攻撃のバリエーションを増やした。
難波:そうですね。特に斉藤光毅はA代表デビュー戦でしたが、少し空回りした印象でした。ドリブルで仕掛ける場面はあったものの、ボールロストやミスが目立ち、本人も「全然ダメでした」と反省していました。
北:彼のポテンシャルは高いですが、代表でのタスク整理に戸惑いが見えましたね。所属クラブではアタッカーですが、代表ではウイングバックとしての役割を求められた。守備も攻撃も両立しなければならないポジションなので、難しいデビューになりました。
難波:試合後には名波浩コーチから声をかけられていました。「1人目を抜いて2人目も抜きに行ったシーンについて、中央には2人FWがいたのでクロスを上げた方がチャンスになる」というアドバイスをもらったそうです。でも、ドリブル突破を止められる回数が少なくなかった中で、「一度に2人を抜き切れば、(うまくいかなかったプレーのことを)誰も言わないと思う」と言っていて、自分の判断で強気な選択をしたようです。「クロスを上げてチャンスメイクできれば、そっちが正解になったと思いますけど、自分が正しいと思う選択をしていきたい」とチームと個人の結果の両立も消化していました。うまくいかなくてもトライを続けた。そのメンタリティは海外で磨いたものなのかなと思いますし、ここでの経験が今後に生きるはずです。
■ブラジル戦に向けて
北:次は14日に東京スタジアムでのブラジル代表戦ですね。間違いなく今日より厳しい相手になります。
難波:そうですね。韓国を5-0で下したばかりのチームですから。守備ではどれだけ粘れるか、そして少ないチャンスをいかに決め切るかが鍵になります。堂安選手も言っていましたが、「ゴール前でのアイディアやひらめき」が必要です。
北:パラグアイが“ベスト16の壁”なら、ブラジルは“ベスト8以上の壁”。失点の仕方を考えても、ワンプレーでやられる脆さが残っていました。まずは簡単に先制を許さないこと。守備陣がどこまで踏ん張れるかが試金石になるでしょう。
難波:そうですね。攻撃では久保建英の復帰にも期待です。彼が入ることで、右サイドのコンビネーションがどう変化するか。現状のベストメンバーで世界トップにどれだけ通用するかを試す絶好の機会になると思います。
北:結局、守備の安定と攻撃の質、その両輪をどれだけ高められるか。ブラジル戦は、森保ジャパンが“世界で戦うための現在地”を示す一戦になりそうですね。
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キックオフ直後から、気合という燃料を積んでいることは明らかだった。このチャンスを、モノにしてやるんだ。攻守両面でのアグレッシブなプレーから、この試合に懸ける思いは全身から溢れ出ていた。タフに右サイドを守りながら、同学年のMF久保建英と一緒に決定機も演出した。サイドバックを本職とする選手が生み出すハーモニーが顔を覗かせていたからこそ、後半開始のピッチに背番号2の姿がなかったことに驚き、ガッカリしてしまった。 誰よりも落胆していたのは本人だろう。もっとプレーしたかった。まだまだアピールしたかった。あの時、ああいう選択をしていれば──。後悔に似た気持ちは、自分の中を隅々まで探せばキリがないかもしれない。 それでも、試合後のミックスゾーンで悔しさに引っ張られている様子はあまり感じられなかった。下を向いて言葉を探す場面も少なくはなかったが、要所要所で顔を上げ、成長や向上を誓っていた。その瞳は真っ直ぐで、力強いものだった。 DF菅原由勢が日本代表の先発に名を連ねたのは、約8カ月ぶりのことだった。前回は2025年3月25日に行われたW杯アジア最終予選の第8節サウジアラビア代表戦まで遡る。その後は代表の常連とは言えない時期を過ごした。9月の北米遠征では招集されるも、プレータイムはアメリカ代表戦で後半から途中出場した18分のみ。ブラジル代表を撃破した10月シリーズでは招集されなかった。今回の11月シリーズでは、初戦のガーナ代表戦で出場機会を得るも、68分からのプレーであり、すでに2-0と勝負が決まっている状況だった。 失意のベスト8に終わったAFCアジアカップ2024以降、システムが4バックから3バックに変更した影響もあり、明らかに出場機会を減らしていた。カタールW杯後の第二次森保ジャパン発足時、右サイドバックという本職のポジション自体がなくなることを想像していただろうか。敵地でのドイツ代表撃破にもアシストで貢献していただけに、、まさか「当落線上」という言葉が付き纏うことになるとは……。 生き物のように変化が目まぐるしい代表チームで、もう一度、自分の居場所を確保するために──。5万人以上が駆けつけた国立競技場でのボリビア代表戦、キックオフの笛がピッチ内にいる自身の心臓を震わせた。 ■先制点を生んだ堅守 開始直後に左サイドでボールの奪い合いが発生する中、右サイドのタッチライン沿いに立ち、両手を広げてボールを呼び込む。GK早川友基からのハイボールに対し、フルパワーで落下地点に向かって走る。目の前の相手に構うことなくジャンピングヘッドを狙う。わずかにボールに当たらなかったが、最後尾に向かって親指を立てた。 意気軒昂と右サイドを走ると、開始早々の4分のことだった。 FW小川航基からのパスを目の前で相手選手にカットされたが、すぐさま右足を踏ん張り、一気に寄せた。持ち上がりを阻むだけでなく、左半身側からの密着マークで中央へ誘導。その先にいたMF遠藤航がボールを回収した。そしてMF久保建英に縦パスが入り、MF鎌田大地の先制点が生まれた。 「相手がけっこう縦に蹴ってくるという分析があったので、縦の選択肢を切った。そうなった時、中にもドリブルするという癖もあったので。誘いながら、うまく来てくれて、(遠藤)航くんとの距離感も良かったので、良い形で守備はできたのかなと思います」 電光石火の先制点を生み出す舞台を整えた狙い通りの守備は、横のスライドを駆使し味方と連携して守るサイドバック本職の選手らしいプレーでもあった。 「まずは個人で勝っていくところが大前提ですけど、ハメに行く中では素晴らしい相手だった。組織で守ることも同時にやっていかなきゃいけない中では、良い距離感でやれたと思います」 5バック時のウイングバックは、縦スライドを駆使して目の前の相手の突破を阻むという個人での守備力を求められる場面が多い。しかし、4バック時のサイドバック経験が豊富な菅原だからこそ、攻撃に出ようとしたところからの守備対応にもかかわらず、臨機応変に賢く守ることができた。 ■クロス光るも、前半45分で無念の交代 幸先よくチームに貢献した後も、積極的なプレーを続けた。切磋琢磨し共闘してきた同世代の久保と一緒に、プレッシャーを掛けていく。苦し紛れのロングボールを蹴らせた時には、テクニカルエリアの森保監督も拍手を送っていた。15分には縦パスを受ける相手選手のトラップ際にガツンとアプローチ。ファウルと判定されたが、指揮官の目の前でファイトした。 「サイドバックの選手なので、そこでやられていたら、自分の存在価値はないと思っていたので。そこはしっかりやろうとは思ってました」 そして、23分には真骨頂を発揮する。同学年のDF瀬古歩夢からのサイドチェンジに反応すると、久保の落としを収め、右サイドのスペースに抜け出す久保へ絶妙なスルーパスを出す。そのまま久保を猛然と追いかけ、外側から追い越してリターンパスを受け、ワンタッチでクロス。ニアに飛び込んだ小川の頭にピタリと届けた。惜しくもシュートはクロスバーを叩いたが、座席から身体が浮くような決定機を作り出した。 しかし、その2分後には後ろから相手選手を倒してイエローカードを提示された。「ヨーロッパの試合でもそうだし、ああいう部分でカウンターを防ぐとか、前に運ばれて相手が勢いづくというのを考えたら、止める判断をして、僕は今良かったと思っています」と口にしていたが、その直前のプレスを掻い潜られた場面では背中と正面に相手選手が1人ずついる中で後ろのサイドハーフを捨てて前に出る選択をしていた。一瞬の迷いやプレスのオーガナイズの部分で後手に周り、ワンタッチで剥がされ、ボールは一度捨てたサイドハーフの選手のもとへ。プレスバックして追いかけたのは集中していたが、自分のけつを自分で拭くことは回避できたかもしれない。 警告が理由だったかどうかは断言できないものの、前半45分のみで交代となった理由に結びつけることもできてしまう。本大会では勝利のために汚れ仕事を請け負わなければならない状況があるかもしれないが、少しでも多くアピールしたい現状において適切だったとは言い切れない。 「(交代の理由は)監督に聞いてみないとわからない。もちろん試合に勝つためにオーガナイズしていかなきゃいけないというところで、いろいろな理由はあると思いますけど、自分がもっと良いパフォーマンスをしていたらもう少し出れたなというのはあるので、まずはしっかりと試合を見て振り返って反省したいなと思います」と冷静に自分を見つめていた。 「クロスまで行けてるシーンもありましたし、あんまりネガティブじゃないかなと思っています」と45分を振り返ったように、自分のプレーを出せていた感覚はあったはず。その中で、ハーフタイムに唯一の交代。不完全燃焼という言葉がよぎるし、後半にもっとギアを上げてアピールしたかったに違いない。立場を想像すれば、唇を噛みちぎりたくなってしまう。 ■自問自答の連続で、本大会へ しかし、菅原はヤワではない。試合後は同ポジションのライバルであるMF堂安律と抱擁し、健闘を称えていた。その姿に負の感情はないように見えた。W杯本大会まで残すところ5カ月。弱音を吐き、後ろを振り返る時間はない。自分のすべきことは明確だから。 「最終予選からチームとしての形を試してやってきて、素晴らしい結果を手にしているし、その中で自分の立ち位置はわかっている部分もある。ナーバスにならずに、自分の良さを見失わずに、しっかりとチームでやることが大事。自分を良くするために毎日、謙虚に、小さいことも積み重ねながらやっていくことが大事だと思います。代表が、代表がという見方じゃなくて、チームがあっての代表というのは間違いない。今は僕自身もチームで信頼して使ってもらっている部分があるし、自分がやれている部分も課題の部分も試合に出ながら学べている。チームで試合に出ること、出た時にしっかりと自分の存在価値をチームでも見せていくことが代表につながってくると思います。とにかく、自分自身が成長して良い選手になれば、自ずと代表での立ち位置もチームでの立ち位置も変わってくるので、毎日毎日自分と向き合って、自分に負けずにやっていくことが大事だなと思います」 強みのクロスで決定機を作ったという事実に驕るつもりもない。求めているのは、ハッキリとした結果だから。 「入る時もあれば入らない時もあるし、あれを続けていくことが大事だと思う。紙一重のところを合わせていく作業は、自分自身、チームでもやらなきゃいけないし、もっともっとプレーの精度や質は上げられる部分があると思うので。ただ、結果が出る出ないというのは、その時の運もあるんでね。しっかりと日頃から自分を見つめ直して続けていくことが大事だと思います」 右ウイングバックは堂安、伊東純也に加え、望月ヘンリー海輝も成長中で、鈴木淳之介もプレー可能だろう。ライバルとのメンバー争いは熾烈を極めている。もう一度チャンスを得るためには、自問自答を繰り返しながらブンデスリーガの舞台を戦っていくしかない。その先にW杯本大会のピッチがあると信じて。茨の道であっても、菅原由勢は力強く歩み続ける。 取材・文=難波拓未 2025.11.20 21:00 Thu4
完封勝利の裏に「もっとやれた」。早川友基、“第3GK”からW杯へのロードマップ
ガーナ戦のピッチに立った鹿島アントラーズの守護神・早川友基。正GK鈴木彩艶の負傷、第2GK大迫敬介の不在の中で巡ってきたチャンスを、無失点という最高の形で終えた。だが、試合後のミックスゾーンに現れた早川の表情に、満足の色はなかった。代表2戦目にして、“守るだけ”のGKでは終わらない次のステージを見据えていた。 ■ピッチで感じた想像以上の「圧」 先発出場を告げられたのは試合の2日前だったという。 「今まで培ってきたものをピッチで出すだけだと思っていました」 鹿島で見せる特徴は、セービングだけではない。足元の技術と配球判断、そして試合を読む力だ。しかし、この日感じたのは、想像以上の「圧」だった。 「トラップしてからの駆け引きとか、出しどころを消される感覚。持ち運ぼうとした瞬間にプレッシャーがかかる。そのスピード感と背後を狙う走力はすごかった」 それでも、背後の対応では冷静だった。 「足の速い選手が背後を狙ってくると聞いていたので、試合を通じてカバーを意識できました」 早川は身体能力で上回る相手にも、読みとポジショニングで対抗した。後半も集中を切らさず、チームを完封へ導いた。 ■“第3GK”が描く、W杯への道筋 試合後のコメントには、自己評価の厳しさがにじむ。 「欲を言えば、もっとやれた。パスの質、長短の判断、その精度はまだ上げられる」 無失点でも課題を口にするのは、すでに次を見ているからだ。 「みんなとも話したんですけど、代表の試合にでてこそ得られる経験値があるなと。僕自身も今までにない緊張感はありました」 そう語る早川の目には、明確なターゲットがある。 「目指しているのはワールドカップ。そこがぶれることはないです」 ミックスゾーンでは何度も“成長”という言葉を繰り返した。 「こういう経験ができたのは素晴らしいと思いますし、しっかり振り返って、また次の試合につなげていきたい」 無失点という結果の裏にあるのは、静かな決意だ。“第3GK”から、“守護神”へ。そのロードマップは、もう動き始めている。 取材・文=北健一郎 2025.11.18 15:30 Tue5
