W杯予選組み分け決定/六川亨の日本サッカー見聞録

2021.07.02 22:30 Fri
Getty Images
今週は何かと慌ただしい1週間だった。まず6月30日に東京五輪の男女サッカーと、パラリンピックに出場する5人制ブラインドサッカーのユニホームが統一されたことが発表された。

「それがどうした」と言われてしまうと返す言葉はないのだが、ブラインドサッカーを始めとする障害者サッカーに携わる者にとっては、日本代表と同じユニホームを着て試合をするのは長年の夢だった。近年は障害者サッカーも注目を集めることで、日本代表と同じアディダス社のブルーのユニホームを着ていたが、デザインはまったく別物だった。
理由は簡単。

東京五輪・パラリンピックの開催が決まってから、パラリンピック種目であるブラインドサッカーには多くのスポンサー企業がついた。東京五輪以前は、アクサ生命やアルファ・ロメオなどの外資系企業がスポンサードしていた。ここらあたり、障害者への取り組み・雇用も含め日本企業と外資系企業の違いが如実に表れていたと言っていいだろう。

ところが東京五輪・パラリンピックの開催決定により状況は一変した。多くのスポンサーがブラインドサッカーに協賛した。朝日新聞は日本代表のスポンサーでもあるが、ほかにも日興證券やマルイなど多くのスポンサーがついた。その1つにANA(全日空)もある。
日本代表のスポンサーはJAL(日本航空)のため、海外遠征の際は当然ながらJALで移動する。東京五輪・パラリンピックの開催が決まってからブラインドサッカーのスポンサーが増えることで、“スポンサー・バッティング”により、日本代表と同じユニホームを着ることは「まずあり得ない」(JFA関係者)とされてきた。

自分自身の記憶によると、02年の日韓W杯後に日本で開催された身体障害者による電動クルマ椅子サッカーの大会で、大会関係者が日本サッカー協会に不正な経理をしたことで、JFAは障害者サッカーに関して距離を置いてきた。その後もJFAの言い分としては「ブラインドサッカーを始め障害者サッカーの連盟を統一したら話し合いましょう」というスタンスを貫いてきた。

これに対して障害者サッカーは、「抱えている障害が違うので、一律にはできない」と返答したため、統一することはなかなかできなかった。

それでも時代は変わり、北澤氏が障害者連盟の会長になり、スポンサー・バッティングを乗り越えて今回はブラインドサッカーが、あの迷彩模様のユニホームで試合をする。田嶋会長はアディダス社へのお礼を述べていたが、過去の経緯を知るだけに、画期的な出来事と言っていい。

さて本題のW杯予選であるが、正直、拍子抜けした。グループAの韓国のように5回も中東遠征しなくて済むとはいえ、負ける要素がほとんどない。

オーストラリアは難敵かもしれないが、ポステコグルー監督以来ボールポゼッションにこだわるため、日本が苦手とするロングボールによる「空中戦勝負」がない。そのため苦戦することはないだろう。サウジには19年のアジアカップで防戦一方に苦しめられたが、あの時とは日本もチーム力が違う。

たぶん最速でW杯出場を決めるのではないか――そう思えるほど楽勝な相手ばかりだし、ここで苦戦するようならW杯ベスト8など論外だろう。

01年の釜山での出来事だった。02年日韓W杯の予選組分けの抽選会後、知人のドイツ人記者マーティン・ヘーゲレに「イングランドと同じ組になって大変だね」と言ったところ「W杯予選はこれくらい緊張感があったほうがいい」と笑顔で返された。当時の自分にはそんな余裕なかった。

予選で苦労したぶん、選手は成長して本大会で結果を残せるのかもしれない。それを思い出すと、今回の抽選会は、あまりにラッキーなぶん、本大会で不安を感じずにはいられない。


【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた

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