超過密日程、5人交代で出場機会増へ。一気にブレイク狙う西川潤ら期待の若手たち

2020.06.26 12:50 Fri
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©︎J.LEAGUE
「自粛期間は自宅でサッカーの動画を見て、戦術の勉強をしたり、トレーニングも毎日の日課にしてました。Jリーグ再開後は日程が過密になるし、総力戦になることは自分もよく分かっています。交代枠も5人になるので、よりチャンスの幅が広がりますし、いい準備をしてのぞんでいきたいと思います」2020年期待のルーキー・西川潤(セレッソ大阪)が6月初旬のオンライン取材で語気を強めたように、コロナ禍を経て再開される今季Jリーグは若い世代にとって絶好のアピールの場となるだろう。


7月4日からリスタートするJ1をとってみても、7月だけでリーグ6試合、8月はリーグとYBCルヴァンカップを合わせて8試合が組まれている。ロティーナ監督(C大阪)も「選手層の厚いチームが有利」と断言したが、真夏の連戦を年齢層の高い主力だけでは戦い抜くことは困難だ。当然のごとく、西川のような粗削りの若手がピッチに送り出されるケースも多くなる。そこでインパクトを残せば、一気にブレイクすることも可能なはず。目の前に転がっているチャンスをつかむべく、フレッシュな面々は今、モチベーションを高めているに違いない。

とりわけ、97年生まれ以降の東京五輪世代にとっては、今季のパフォーマンスが大舞台に直結するだけに、1つ1つのゲームの重要度がより高くなる。日本サッカー協会の反町康治新技術委員長も「五輪代表活動は年末に再開できたらいい」という見通しを述べていて、チーム作りはゼロからの再出発を余儀なくされるため、生存競争もフラットな状態に戻ることになる。森保一監督が2019年コパ・アメリカ(ブラジル)など過去の代表活動でコンスタントに招集していた杉岡大暉(鹿島アントラーズ)らが新天地で出番を得られず苦しんでいるように、これまでの序列が維持されるとは限らない。北海道コンサドーレ札幌から湘南ベルマーレにレンタル移籍中の岩崎悠人が「1年という時間ができたことは正直、ラッキー」と前向きにコメントした通り、確固たる地位をつかんでいない選手は虎視眈々と1年後を見据えていくはずだ。

こうした中、有利になるのが、直近のリーグ戦でコンスタントに出場機会を得る選手。森保体制で招集歴のある森島司や大迫敬介(サンフレッチェ広島)、田中碧、旗手怜央、三苫薫(ともに川崎フロンターレ)、渡辺剛(FC東京)、橋岡大樹(浦和レッズ)、相馬勇紀(名古屋グランパス)、岩田智輝(大分トリニータ)などは各クラブで重要な役割を担っているため、この調子で着実に結果を積み上げていけば、東京五輪に大きく近づくのは間違いない。

ただ、これまでほとんど実績のなかったグループにも存在感が急上昇しそうな者はいる。その筆頭が安部柊斗、紺野和也、中村帆高のFC東京大卒ルーキー三人衆。彼らは長谷川健太監督から重要戦力と位置付けられていて、悲願の初優勝を狙うチームのキーマンになるかもしれない。そういう意味でも再開後のプレーを注視すべきだろう。急激な若返りを図っているサガン鳥栖の松岡大起、本田風智らも非常に興味深い。伸び盛りの意外なタレントが熾烈な五輪代表争いを展開し、Jリーグ全体を活性化してくれれば面白い。

一方で、J2にいる東京五輪世代の一挙手一投足も見逃してはいけない。ジュビロ磐田にはエースFW最右翼と目される小川航基がいるし、レノファ山口FCにも高宇洋、小松蓮といったダークホースがいる。FC町田ゼルビアへレンタル移籍している安藤瑞季、高江麗央、小林友希らも成長著しい若手たちだ。安藤と高江に関しては、6月13日の浦和レッズとの練習試合でもゴールを奪い、ひと際大きなインパクトを残した。もちろん相手とのコンディションや実戦感覚の差はあったものの、切れ味鋭い飛び出しやゴールへの貪欲さは大いに目を引いた。東京ヴェルディにも「柴崎岳(ラコルーニャ)2世」の呼び声高い藤本寛也、組み立てに秀でた井上潮音がいる。若手はちょっとしたきっかけで飛躍的成長を遂げることが往々にしてある。試合数の多いJ2にはそんなチャンスがゴロゴロ転がっている。だからこそ、より一層、しっかりと動向をチェックしていく必要がありそうだ。

過去2年半の森保監督の東京五輪チーム作りは、堂安律(PSV)や冨安健洋(ボローニャ)、板倉滉(フローニンヘン)といったA代表経験のある欧州組に偏りがちだった。しかしながら、彼らの多くが新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リーグによっては長期間実戦から離れる形になっていて、パフォーマンスやコンディションが未知数な部分もある。久保建英(マジョルカ)のように4カ月の休止期間を有効活用して以前よりキレのあるプレーを取り戻した選手もいるが、全員が同じような軌跡を辿るとは限らない。コロナの第2波・第3波次第ではこの先、彼らを代表活動に招集することさえ困難になるかもしれない。

そういった複雑な事情を踏まえると、やはり国内組をベースにチーム再構築を進めていくのが現実的。そこで欧州組を超えるような勢いと爆発力を持ったタレントが次々と出てきてくれれば、指揮官も安心できるのではないだろうか。大きな期待を寄せる森保監督に向けて、「自分が堂安や久保を蹴散らして大舞台に立つんだ」というギラギラ感を前面に押し出すJの若手選手が何人出てくるのか。一気にブレイクする人間は果たして誰なのか。予想もしなかった逸材の出現を今から楽しみに待ちたいものだ。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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【2022年カタールへ期待の選手vol.70】「化け物」酒井宏樹の牙城を崩すべく、2年目の川崎でも圧倒的存在感を示し続ける!/山根視来(川崎フロンターレ/DF)

2月20日の富士ゼロックススーパーカップでガンバ大阪を3-2で撃破してからというもの、2021年シーズン突入後は無敗街道を驀進している川崎フロンターレ。2月26日に開幕したJ1でも優勝争いのライバルと目された横浜F・マリノスを2-0で寄せ付けず、2020年YBCルヴァンカップ王者・FC東京との多摩川クラシコでも4-2で圧勝。圧倒的な強さが光っている。 シーズンスタート前は「昨季限りでレジェンド・中村憲剛(現川崎FRO)が引退し、アンカーの守田英正(サンタ・クララ)も移籍したこともあって、今年は去年のようにはいかないだろう」という見方も根強かったが、ふたを開けてみると、チーム力に磨きがかかった印象だ。4月18日のサンフレッチェ広島戦までに12試合を消化して10勝2分の勝ち点32。向かうところ敵なし状態と言っても過言ではないだろう。 その一翼を担うのが、右サイドバック(SB)の山根視来。湘南ベルマーレから移籍加入1年目から31試合出場4ゴールという実績を残し、Jリーグベストイレブンに選ばれた27歳の遅咲きDFは、チーム唯一の公式戦全試合フル出場を果たしている。鬼木達監督はアタッカー陣を試合ごとに入れ替え、谷口彰悟とジェジェウの両センターバック(CB)も超過密日程を考慮して休ませる試合があったが、鉄人右SBだけはスタメンから外そうとはしなかった。まさに「代えの利かない選手」として絶対的な信頼を寄せられているのだ。 直近の広島戦も、14日のアビスパ福岡戦から中3日のハードスケジュールだったが、右サイドを献身的にアップダウンし、要所要所で攻撃にも参加していた。最たる例が前半38分の先制点の場面。三笘薫が思い切りよくドリブルで前進しているのをしっかりと見極めた山根はペナルティエリア内を斜めに走り、スルーパスを受け、左足を一閃。これはU-24日本代表守護神・大迫敬介に弾かれたものの、自らこぼれ球を拾って脇坂泰斗に展開。それが家長昭博につながり、ゴールが生まれた。 前半終了間際にも、右SBの低い位置からゴール前までロングスプリントを見せ、家長のクロスに反応しかけたチャンスもあった。それだけダイナミックな走りとゴールへの意欲を示す右SBは滅多にいない。かつて攻撃的右SBとして世界に羽ばたいた内田篤人(JFAロールモデルコーチ)でさえもで、そこまでの大胆さは持ち合わせていなかった。日本代表デビュー戦となった3月25日の日韓戦(日産)でいきなりゴールを奪ったのも、決して偶然でなく、日常のプレーの延長戦上だったのだろう。 この勢いであれば、酒井宏樹(マルセイユ)と室屋成(ハノーファー)の牙城を一気に崩しそうな予感もある。だが、本人はそこまで楽観的ではないようだ。3月代表活動の一発目に吉田麻也(サンプドリア)から「Jリーグでいつも行っている1.5倍くらいの力で行かないとダメだ」と言われたことで、国内組と海外組の現然たる差を改めて痛感させられたという。 「サッカーの映像を見るだけでも海外のスピードはメチャメチャ早いし、ゆっくりしてる時間がほとんどないというイメージだった。日本代表の試合に出て、やっぱりこれだけ違うのかと感じたし、すごい刺激を受けました。酒井宏樹選手に関しては、昨年10・11月の試合を見て、3バックでもSBでも強度や対人のところの強さは圧倒的だし、正直、『代表の中でも化け物だな』とテレビで見て思ったので。普段の(フランス)リーグでもネイマール(PSG)とかを相手に止めてる選手なんで、違いはかなりあると思います」と山根は神妙な面持ちでコメントしていた。 確かにドイツ・ブンデスリーガ1部で4シーズン、リーグアンで5シーズンを戦ってきた百戦錬磨の先輩と差があるのは事実だ。2011年U-17ワールドカップ(W杯=メキシコ)や2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪の舞台に立ち、現在ドイツ・ブンデスリーガ2部で奮闘中の室屋と比べても、国際経験値では劣っていることは認めなければならないだろう。 ただ、ここまで無印だった山根にはまだまだ伸びしろがある。湘南で恩師の曺貴裁監督(現京都)から徹底的に世界基準の球際やデュエルの重要性を学び、川崎でボールを止める蹴るの大切さを再認識した今、彼はフットボーラーとしての確固た土台を身に着けた状態だ。そこに国際経験を積み重ねていけば、凄まじい成長速度で高みに到達する可能性もあるのだ。 そうなるように、まずは川崎で他を寄せ付けないパフォーマンスを見せ続ける必要がある。全試合フル出場の継続はもちろんのこと、攻守両面で大きなインパクトを残し続ければ、海外へ打って出る道も開けるかもしれない。仮にJリーグに居続けることになっても、国内組で2018年ロシアW杯に参戦した昌子源(G大阪)のようなケースを目指せばいい。昌子も年代別代表実績は皆無に近かったのだから、山根にもチャンスはあるはず。成功を信じて前進を続けることが肝要なのだ。 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の日程変更によって川崎は4月29日まで2週間近く試合が空く。この空白期間を最大限有効活用し、自分自身を磨くことができれば、山根はもっともっと強い輝きを放つだろう。短期間でスターダムにのし上がるべく、流れが来ている今を逃す手はない。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2021.04.20 20:00 Tue
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【2022年カタールへ期待の選手vol.69】19歳でのカタール行きはあるのか?「ポスト・長友佑都」の呼び声高き17歳!/中野伸哉(サガン鳥栖/DF)

「俺の見立ては結構当たるんだよね。彼はA代表になる可能性が非常に高い選手の1人。クオリティも人間性も抜群だからね」 槙野智章(浦和)や菅原由勢(AZ)、久保建英(ヘタフェ)など数々の名選手を育てたU-17日本代表の森山佳郎監督が太鼓判を押した“彼"というのは、3月のU-24アルゼンチン2連戦に17歳で初招集された中野伸哉(鳥栖)。日本サッカー界で最も不足していると言われる左利きの左サイドバック(SB)だ。 とはいえ、左利きと言っても、右足も同レベルに蹴れるのが逸材の強み。だからこそ、左右のどちらのサイドに入っても全く違和感がない。4月7日のJ1・川崎フロンターレ戦を見ても、スタート時は3バックの右に入っていたが、攻撃時は右SB同等の高い位置を取ってプレー。最前線の酒井宣福目がけて蹴り込んだ前半10分のクロスに象徴されるように、攻撃姿勢を鮮明にしていた。 後半に入り、最終ラインの中央に位置していた田代雅也がレアンドロ・ダミアンの決定的機会を阻止して一発退場になった後は、4バックの左SBへ移動。敵のポジションを見ながら自らも上がっていく。得点機をお膳立てするようなラストパスやクロスは出せなかったものの、2020年J1&天皇杯王者を敵に回してもまるで物怖じすることなくプレー。90分フル出場を果たした。 これで今季開幕からリーグ戦8試合連続スタメン。J1初黒星を喫した2日のセレッソ大阪戦後には「シンプルな技術ミスが多くて修正できなかった。後ろにいる僕らがしっかりとコントロールしていかないといけない」と反省の弁も口にしていた。向上心がひと際高い分、目につくのは収穫より課題の方。その謙虚さが森山監督の言う「優れた人間性」なのだろう。 将来有望の若武者が頭角を現したのは、鳥栖U-15に所属していた13歳の時。2016年にU-13Jリーグ選抜で中国遠征に参加し、2017年ナショナルトレセンU-14に参加。同年から森山監督率いるU-15代表入りし、2019年U-17ワールドカップ(W杯)まで軸を担うなど、順調に階段を駆け上がってきた。そして2020年には16歳で2種登録され、8月1日のFC東京戦でプロデビュー。影山雅永監督率いるU-19日本代表のコアメンバーにも位置付けられた。 だが、ご存じの通り、新型コロナウイルスの影響で同代表が参戦するはずだったアジア予選も2021年U-20W杯(インドネシア)の中止が決定。鳥栖の先輩である松岡大起や本田風智ら2001年世代は大きな打撃を受けた。 しかしながら、2003年生まれの中野はその次のU-20W杯を目指せる年齢だ。むしろ今の時期は鳥栖の活動に専念した方がベターかもしれない。 「1年後には海外に行き、2~3年後にはA代表に入りたい」と野望を抱く本人にとっても、クラブで実績を残して近未来の欧州行きを叶える方が先決。そう考えながら今季は目の前のゲームを1つ1つこなしている状況ではないか。 川崎戦で示した通り、Jリーグトップと肩を並べられるパフォーマンスを維持しているのは確かだ。普通の17歳であれば、ブラジル代表歴のあるレアンドロ・ダミアンらと戦えば萎縮したり、強度で見劣りしたりするものだが、強心臓の男にはそんな素振りを一切、見せない。 U-24代表合宿でも、2つ上の久保から「先輩には敬語じゃなくていいよ。僕も敬語を使っていないから」とアドバイスされたというが、そんな助言がなくても、彼にはプレッシャーも気負いも遠慮もない。そのメンタルに実績と経験値が伴ってくれば、本当に2~3年後のA代表入りはあるかもしれない。場合によっては、1年7カ月後の2022年カタールW杯滑り込みもないとは言えない。 実際、2008年から13年間、日本代表の左SBを担い続けてきた長友佑都(マルセイユ)の後継者探しは本当に深刻なテーマだ。3月代表シリーズでも、FC東京の後輩・小川諒也が抜擢され、代表定着への一歩を踏み出したところだが、「欧州組との差を感じた」と本人も述懐する通り、まだ超えなければならないハードルは少なくない。U‐24代表の方でも旗手怜央(川崎)、古賀太陽(柏)がテストされたが、旗手は守備に難を抱え、古賀は攻撃面で物足りなさを感じさせた。 こうしたライバルに比べると、中野伸哉は多彩な役割をこなせるし、両足で正確なキックを蹴れて、攻撃のお膳立てにも関与できるという魅力がある。さらに際限ない伸びしろがある。 「僕が目指す海外の選手はリバプールの(アンドリュー・)ロバートソン選手です」 こう公言する中野にしてみれば、目指すべき領域は高いが、貪欲に前へ前へと突き進んでいくはず。そうやって世界に羽ばたく彼の姿をぜひとも見てみたい。 10代から注目される日本人選手は、小野伸二(札幌)にしても、香川真司(PAOK)にしても、久保にしても、何らかの挫折を味わうケースが多い。中野もそういう時期は来るだろうが、それを乗り越えてこそ、本物のワールドクラスになれる。近い将来の長友超えを果たすべく、今を大事にしてほしい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2021.04.10 19:35 Sat
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【2022年カタールへ期待の選手vol.68】アルゼンチン相手に値千金の先制弾。岡崎慎司同様、結果で成り上がるストライカー/林大地(サガン鳥栖/FW)

主導権を握りながら均衡を破れないまま、スコアレスで折り返そうとしていた29日のU-24アルゼンチン戦(北九州)。そんな前半終了間際に最終ラインを統率する瀬古歩夢(C大阪)から絶妙なタテパスが出た。最前線に陣取っていた背番号8・林大地(鳥栖)は迷わず前線に飛び出し、DF2枚の背後へ出て、GKの位置を見ながら右足を一閃。喉から手が出るほどほしかった先制点を叩き出した。 「歩夢からすごいいいボールが来た。その前も味方同士でしっかりつないで僕のところに来たので、決めないといけない責任がFWにはある。しっかり裏に出てゴールを決められてよかったなと思います」 「ビースト(野獣)」の異名を取る23歳のFWは歓喜の雄叫びを上げた。この一撃で勢いに乗った日本は強豪を3-0で撃破。26日の第一戦(東京)のリベンジを果たしたのである。 そもそも今回の彼は堂安律(ビーレフェルト)の負傷離脱によって追加で呼ばれた選手。今季開幕から3ゴールを挙げ、目下暫定3位につけるサガン鳥栖の快進撃の原動力になっている点が評価され、何とかチャンスを与えられた格好だ。 とはいえ、ここまで輝かしい経歴はほぼなかった。ガンバ大阪ジュニアユース時代は同期に初瀬亮(ヴィッセル神戸)や市丸瑞希(FC琉球)、1つ下に堂安と食野亮太郎(リオ・アヴェ)がいたが、彼らの陰に隠れてユース昇格を断念。田中駿汰(北海道コンサドーレ札幌)とともに履正社高校から大阪体育大学と回り道してプロになった。 田中駿汰の方は大学時代から森保一・日本代表監督や横内昭展U-24代表監督の目に留まり、過去に何度も代表招集を受けてきたが、林は2019年ユニバーシアード(ナポリ)に名を連ねるのが精一杯。2020年に鳥栖入りした時点でも金崎夢生(名古屋グランパス)筆頭に優れた点取屋がひしめいており、厳しい競争を強いられた。が、金崎がリーグ中断期間中に移籍したことも追い風になり、ルーキーイヤーの同年はチーム最多の9ゴールをマーク。結果を残して必死に這い上がり、鳥栖のエースFWの座をつかんだと思われた。 ところが、プロ2年目の今季も競争は厳しく、ジェフ千葉から加入した山下敬大が重用され、林といえども毎試合スタメンという状況には至っていない。雑草魂を持つ野獣はそんな中でも決して腐らず前向きにトライし続けられる。こうした貪欲さと泥臭さはこれまでの東京五輪代表に足りなかった部分。エリート集団にはないハングリーさを彼は力いっぱい持ち込んでくれたと言っていい。 ゴールを奪い続けて成り上がるという意味では、日本代表の偉大な先輩・岡崎慎司(ウエスカ)と重なる部分が少なくない。岡崎もプロ入り当初は清水エスパルスでFWの8番手で右サイドバックを打診されるところからのスタートだった。技術的にも下手で、洗練されたタイプとは対極に位置していたが、22歳だった2008年に10ゴールを奪い、一気に北京五輪代表に滑り込んだ。直後の2010年南アフリカワールドカップアジア最終予選で抜擢され、2009年に代表16試合で15ゴールという驚異的なゴールラッシュを披露。一気に主力FWの座をつかんだのだ。 林の場合は岡崎より1年遅れのペースだが、このままJリーグでゴールを量産すれば、4カ月後の東京五輪本大会でメンバー入りも夢ではない。実際、FW陣は第1戦で先発した田川亨介(FC東京)、ケガで選外となった上田綺世(鹿島アントラーズ)、前田大然(横浜F・マリノス)含めて絶対的存在が不在だ。オーバーエージで大迫勇也(ブレーメン)が抜擢される可能性が大きいと見られるが、森保・横内両監督は最終的に一番乗っている点取屋を選ぶはず。岡崎を抜擢した反町康治技術委員長が後ろについているのだから、「旬なFWを選ぶ」という傾向はより強まるだろう。 そこで林がチャンスをつかみ、ここ一番で決定的な仕事をし続ければ、岡崎の系譜を歩むことも不可能ではないはず。今回のアルゼンチン戦の先制弾を見れば、そうなりそうな予感も少なからず漂ってくる。 「タケ(久保建英=ヘタフェ)は技術がすごいあるし、僕はどちらかというと前に張ってガチャガチャやるので、『自分の周りをウロチョロしておいてほしい』と言われました」 林は久保との関係をこう評したが、かつての岡崎もテクニックに秀でた中村俊輔(横浜FC)や遠藤保仁(ジュビロ磐田)、中村憲剛(川崎FRO)に生かされていた。そういう意味では環境的にも似ている。自分をうまく使ってくれるハイレベルなメンバーに囲まれながら、数字を残し続けていくことで、いつか必ず道は開けるはずだ。 ガンバ大阪ジュニアユース出身という観点で見ると、本田圭佑(ネフチ・バクー)や昌子源(ガンバ大阪)、鎌田大地(フランクフルト)に象徴される通り、回り道した人間の方がなぜか大成功するという法則がある。無印の林は大きな期待がかかるところ。勝負を左右する重要局面でゴール取れる勝負強さに磨きをかけ、五輪に滑り込みを果たし、先々にブレイクする…。そんな成功街道を歩んでくれることを楽しみに待ちたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2021.03.30 20:20 Tue
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【2022年カタールへ期待の選手vol.67】評価急上昇で東京五輪滑り込みへ。「ポスト・大迫」候補に名乗りを挙げた点取屋/田川亨介(FC東京/FW)

「デュエルの面では非常に前線で戦ってくれて、守備もしっかり相手のディフェンスラインにプレッシャーをかけ、よく走ってくれた。攻撃面でもうまくタテパスを引き出そうとポジションを取り、動いてくれていました。数多くボールを引き出すことはできませんでしたが、努力はしてくれていたと思います」 0-1で惜敗した26日のU-24アルゼンチン戦(東京)。横内昭展監督が前向きに評価した選手の1人が、1トップに入った田川亨介(FC東京)だった。これまで東京五輪世代の最前線に位置していた上田綺世(鹿島)、前田大然(横浜FM)の2人が揃って負傷し、チャンスが回ってきた大型FWは屈強で老獪なアルゼンチンDF陣に真っ向からぶつかっていった。 前線から守備のスイッチを入れ、献身的に走り、競り合いでも奮闘した。シュートは2本にとどまったが、前半32分に遠目から打ちに行った1本目には「俺がゴールを取るんだ」という貪欲さがにじみ出ていた。 「チームの役割だったりをしっかりやりつつ、FWなんで得点にこだわること。それは一番のアピールですね」と試合前にもゴールにこだわる姿勢の重要さを口にしていたが、その意識は随所に出ていた。 そもそも今季は非常に好調だ。ここまでJ1・3ゴールを奪っており、勝負強さと得点感覚に磨きがかかってきた。182㎝の長身に加え、100mを6秒フラットで走るスピードを併せ持った男のポテンシャルはサガン鳥栖アカデミーに在籍していた頃から高く評価され、2017年U-20ワールドカップ(W杯=韓国)に飛び級で参加。2019年U-20W杯(ポーランド)にも連続出場している。だが、エース級の1人として参戦した後者では決勝トーナメント行きのかかった勝負のイタリア戦で負傷。不完全燃焼のまま世界舞台を去ることになった。 その後、2019年12月のEAFF E-1選手権(釜山)でA代表初招集され、香港戦で初ゴールを奪うなど、いい時期もあったが、好調が長く持続しない傾向が強かった。 「彼は背後への飛び出しなどのストロングポイントを持っていますし、それを生かして欲しい。ただ、そればかりでスペースを消されることもある。そういう時にはしっかりポストに入ってボールを収める、味方に預けてもう1回背後に出るという仕事が必要。そこの精度をもう少し上げてほしい」と横内監督も語っていたが、前線で収める仕事も1つの課題となっていた。 FC東京でも何度かケガに悩まされ、絶対的レギュラーを勝ち取れずにここまで来ていたが、プロ5年目の今季はついに覚醒しつつある。彼のようなフィジカル能力の高いFWの台頭を日本代表・森保一監督も待ち望んでいたはず。そういう意味でも、彼は今、非常に期待される存在なのだ。 東京五輪の登録枠はご存じの通り、18人。FWは多くて2人だろう。森保・横内両監督は上田に絶大な信頼を寄せていて、彼が復調してくればメンバーに戻すだろう。両サイドと前線をこなせる前田大然も今季5試合6ゴールと爆発中で、この勢いが続けば滑り込みの確率は高い。つまり、田川がその間に割って入ろうと思うなら、彼ら以上の爪痕を残さなければならないということだ。 それはズバリ、強豪・アルゼンチン戦でのゴールだろう。26日のゲームでは結果を残せなかったものの、まだ29日の2戦目が残っている。今回もスタメン起用されるか分からないが、もう1人のFW食野亮太郎(リオ・アヴェ)は体を張ってターゲットになるタイプではない。田川の連続出場はあり得るはずだ。そこで得点に加え、課題とされていた収める仕事、連続して飛び出すプレーを発揮できれば、評価は間違いなく上がるはず。長年の夢である東京五輪を射止めるためにも、何としても実力を証明しなければならない。 この壁を超えることで、A代表入りの道も開けてくる。25日の日韓戦(日産)でも分かった通り、大迫勇也(ブレーメン)が最前線に陣取っているか否かで、日本の攻撃は劇的に変化する。大迫が今季所属クラブで思うような働きができていないこともあり、彼の状況が危惧されていたが、全く問題ないことが証明された。 ただ、それによって、日本代表の「大迫依存症」がさらに深刻化する恐れも否定できない。彼の後継者になりえる人材のメドをつけておかなければ、今秋から始まる2022年カタールW杯最終予選で何らかのアクシデントが起きた時に対処できなくなる。これまで鈴木武蔵(ベールスホット)や永井謙佑(FC東京)らが試されてきているが、フィジカル的なポテンシャルのある田川はぜひ名を連ねてほしい人材と言っていい。 「そういう高みを一気に見るんじゃなくて、ちょっとずつ辿り着ければいいと思ってます。そのためには結果を出し続けることですかね。ストライカーとしてもっともっと得点感覚を研ぎ澄ませ、試合に出続けて結果を出すこと。とにかく得点です」という本人の中には長期ビジョンはない様子。その天然さがいかにも田川らしい。他の選手と自分を比べるのではなく、あくまで自分自身と向き合い、地道に国際経験を積み重ねていくのが、22歳のFWのスタイルなのだ。 いずれにしても、次戦・アルゼンチン戦は五輪・A代表のかかる重要な試金石。「上田や前田がいなくても大丈夫」と周囲を安心させるような圧倒的パフォーマンスを期待したい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2021.03.28 14:15 Sun
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【2022年カタールへ期待の選手vol.66】ポスト・長友佑都の"正統な"後継者候補。左利きの強みを生かして一気に代表定着へ/小川諒也(FC東京/DF)

「長友(佑都=マルセイユ)選手以降は(日本代表の左サイドバック=SBに)定着した選手がいない。1回呼ばれるだけで満足することなく、今後も呼ばれるように、定着できるような活躍をしたいです。左利きなんで、左足での得点の演出、攻撃参加って部分を見てもらいたい。強みを前面に押し出したいと思います」 2019年11月のベネズエラ戦(吹田)以来の国内での国際試合となる25日の日韓戦(横浜)と30日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・モンゴル戦(千葉)。このメンバーに滑り込んだ1人が24歳の小川諒也。FC東京の左サイドバックという長友の"正統な"後継者候補である。 ご存じの通り、日本代表の左SBは2008年に長友が台頭してから、その牙城を崩す者はなかなか現れなかった。2010年南アフリカW杯では両サイドをこなす駒野友一(FC今治)、2014年ブラジル・2018年ロシアの両W杯までは酒井高徳(神戸)がバックアップ役と位置付けられたが、インテルで7シーズン戦い抜いた高度な経験値には誰も敵わなかった。 森保一監督就任後は本田圭佑(ネフチ・バクー)や香川真司(PAOK)ら同世代が外れたのものの、彼は30代半ばになっても君臨。安西幸輝(ポルティモネンセ)や佐々木翔(広島)も高い壁を越えられなかった。2020年の代表4試合ではボランチ兼任の中山雄太(ズヴォレ)もテストされ、まずまずの仕事を見せたが、本職でないのは確か。指揮官も「早く左利きのスペシャリストに出てきてほしい」と強く願っていたに違いない。 「FC東京に入ってから、つねに日本代表の先輩が身近にいたので、その道がどういうものかはイメージできていました。19歳の時に2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪の代表候補に選ばれたことがありますけど、あの時より試合経験を積み重ねて、試合の中での冷静さだったり、判断スピード、ボールスピードも上がった。それに自分は左利き。長友選手には海外でやってる経験値と球際の強さ、激しさがあると思いますけど、自分もその課題を意識しながら取り組んでいきたいと思います」と小川は至って冷静にこう語っていた。 その落ち着きは所属クラブでの立ち位置の変化によるところが大だろう。2015年にプロ入りした頃は大ベテランの石川直宏(FC東京クラブコミュニケーター)や梶山陽平(同スクールコーチ)らがいて、後ろをついていくだけだったが、彼らが引退し、武藤嘉紀(エイバル)、橋本拳人(ロストフ)、室屋成(ハノーファー)といった代表クラスが続々と海外へ移籍。2020年夏の時点ではサイドバック最年長になっていた。 「これまでは自分が一番下くらいの年齢でやらせてもらっていたけど、成君が抜けて自分が年下に伝えないといけないことが増えた。今までやりやすいように自由にやれてたのは年長のサイドバックのおかげ。自分が経験を伝えていかないといけない」と昨夏にも神妙な面持ちで話していたが、その自覚が彼自身を変えたのだろう。 さらに主力としてアジアチャンピオンズリーグ(ACL)を戦い、1月4日のYBCルヴァンカップ決勝で柏レイソルに勝ってタイトルを手にしたことで、トップ選手に相応しい存在になったはずだ。 「ACLではブラジル代表クラスの選手ともマッチアップしましたし、自分自身、見直すべき点があった。国際舞台になると、守備面での強さやスピードは日本人選手とは違うんで、対人や寄せのところをしっかりやらないといけないと思います」 それを日韓戦で出せれば理想的なシナリオだ。現状での序列は森保監督の秘蔵っ子・佐々木の方が上だろうが、チャンスメークやリスタートのキッカーとしての能力を発揮できるレフティの彼は一味違ったプレーをチームにもたらせる。そこは特筆すべき点だ。日韓戦という国家の威信を賭けた大一番で潜在能力をいかんなく発揮することができれば、それこそ代表定着、カタールW杯も見えてくるのではない。 「韓国戦に出られたとしたら、やっぱり攻撃の違いを見せないといけないと思います。無難にこなしていたら次はもう呼ばれない。定着も難しいと思います。攻撃的に行って、何か印象に残るプレーをしないといけない」と本人も語気を強めていた。 流通経済大学付属柏高校時代の恩師・本田裕一郎監督(現国士舘高校テクニカルディレクター)にしてみれば、教え子でA代表としてW杯に参戦したのは玉田圭司(長崎)1人。奇しくも小川は同じレフティだ。実際、左SBとして左利きという強みは文句なしに強い。彼が生き残るとすれば、そこを強く前に押し出すしかない。千載一遇のチャンスをモノにすべく、今回は遠慮せずにガンガン行ってもらいたい。 <hr>【文・元川悦子】<br/><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2021.03.20 15:30 Sat
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