【東本貢司のFCUK!】持ち味をとことん突き詰めよ

2016.07.08 11:51 Fri
Getty Images
▽かくしてユーロ2016準決勝2試合は、おおよそ似通ったゲーム進行とまったく同じスコアラインで完結した。双方を分かつ違いといえば、試合を決定づけたという観点においての、先に終了した方の1点目と2点目の“時間差”と、後の方が理想的な得点推移(前半終了間際と後半半ば)と言っていいだろう。が、FCUKの管理人たる筆者には、よりセンティメンタルでロマンティックな要素の方が、ことさらぶ尾を引いてしまっている。ポルトガル-ウェールズは、その“絵面”の大半が、クリスティアーノ・ロナウドとギャレス・ベイルの、多分にメロドラマっぽいライバル同士の(ある意味では“友情”といってもいい)相克だった。この僚友2名を軸に、すべての場面が始まり、紡がれ、一つの答えに行き着いた。それは、かつてのルーニーとロナウドよりも、はるかに感傷的で感動的で記憶に焼き付いた。だからこそ思う。もうしばらくの間は、苦しみながらヨーロッパ最強の座に就いたばかりのクラブで、わくわくドキドキのドラマを演じ続けてほしい、と。

▽フランス-ドイツの方は・・・・あえて“告白”しよう。フランスがウェールズに敵を取ってくれた―――が言い過ぎなら、このFCUKの面目を決勝まで持ちこたえてくれた、と。なんとなれば、現フランス代表こそ、いわばとことん「エキゾティックなFCUK」そのものなのだから。ドイツ戦のスタメンを振り返っていただこう。この中でユムティティをマンガラに替え、ポグバとマテュイデイをカンテとカバイェ、あるいはシュネイデランに替えるだけで、グリーズマンを除けばほ~ら、あのベルギーすらも凌駕する立派なプレミア選抜軍ができあがる。エヴラは違うだろ、という無粋ないちゃもんは“あえて”無視させていただく。それに、グリーズマンについては大会前にマン・ユナイテッドが獲得の意向を示していた。合意に至っていれば文句(ほぼ)無しだったが、アトレティコに残るということは、それはそれでロナウド=ベイルと改めて切磋琢磨するということであり、FCUKの“別枠”ドラマはまだ続くのである。そういえばポグバも一応は元プレミアだ!

▽というわけで、フランス-ドイツをおさらいする。一言で片づけるのはむずかしい。何かのタイミング一つ違っていたら(ポルトガル-ウェールズ戦もそうだが)、結果は別になっていたろう。そうは言いつつも、違いを明確に印象付けたのはやはりグリーズマンということになる。なぜなら、ドイツには“グリーズマンらしき存在”が欠けていたから。ゴメスの欠場でワントップになったミュラーだが、そもそもが不調と言うしかない以上に、ただ単に(ゴメスという)型どおりの点取り屋がいなくなっただけで、何かで違いを出したことにはならなかった。そこで首をかしげるのは、あくまでざっくりとした印象だけではあるが、グリーズマン風のゲッツェを、なぜ頭から使わないのか、という心残り。フィットネスに問題があったのかもしれない。だとしても、2年前のブラジルで証明したように、不思議な運をもっている男である。これはひょっとして、ゲッツェはレーヴの描くゲームプランにフィットしないのだろうか。ブラジルでもスーパーサブだったことを思えば。
▽他にも、フメルスの不在は思った以上に大きかったようだ。復調したシュヴァイシュタイガー(ユナイテッドに残るのかな?)や常に頼れるクロースとエジルらで、中盤は十分に対応でき、優位を築くことも多かったが、自陣ヴァイタリエリアに侵入されたが最後、ディフェンスラインの右往左往ぶりは結局致命傷になった。これは、ベン・ディヴィスの累積欠場が重くのしかかったウェールズにも通じる。最近は所属のウェスト・ハムでもめっきり出番の減った老練コリンズには、やはり荷が重かったというべきだろうか。DFの控えの確保は何よりもむずかしい。とっかえひっかえでは守備の統率がぎくしゃくするゆえ、可能な限り固定しておくのが最善。やはり、ここの、特にセンターバック陣の層の厚い薄いが、勝率アップの最大のカギなのだろう。つまり、ウェールズとドイツはこの二点、絶対的な“シャドウポイントゲッター”の不在とディフェンスの質的“降下”に泣いて、フランスを去ることになったのだと思う・・・・あゝ、でもこんな分析ってやはりつまらない!

▽技術的、戦術的云々のあれこれは(筆者にしてみれば)どこまでも空疎に聞こえてくるのだ。ハリルホジッチは「ベルギーはドリブルしかないのか」と切って捨てたそうだが、それならそれでいいじゃないですか。ドリブルの巧みなプレーヤーたちがドリブルを駆使して華々しく勝つ、あるいは敵に上手くしてやられて負ける。どちらに転ぶかは所詮、時の運。勝つだけがフットボールじゃない。そういう、特色見目麗しく、また吹っ切れたチームが存在してこそ、このスポーツはさらに“進化”していくんじゃありませんか? どこもかしこもショートパスとアーリーチェックばっかのポゼッションフットボールをやって、何が面白い? そういう“勝ち目時流”の(筆者には退屈な)戦術居士の鼻を明かすのが何よりの醍醐味でしょうが。ベルギーの“ドリブル主体高速散開”だとか、アイスランドの正統派キック&ラッシュだとか、北アイルランドの全員ボックス・トゥ・ボックス作戦だとか。それを思えば、ホジソン・イングランドはどっちつかずの中途半端な無策で無残に敗れ去ったのです。柄にもないことを真似たっていいことなんてロクにないんだから!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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