【六さんのアムールフットボール】ユーロ2016 ~vol.5~

2016.06.29 07:25 Wed
[ボグバ、このプレーがPKとなった]

▽フランス対アイルランド戦は予想外な展開で始まった。開始直後、ボグバがペナルティエリア内で相手選手を倒してしまった。主審は副審の判断も仰いだのか、ジャッジに一瞬の間があった。なにしろ、相手は開催国フランスである。そしてペナルティスポットを指差した。PKだ。
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▽そのシーンが起こったのは、集合写真を撮って、ゴール横の自分のカメラマン席に戻ってきた直後である。70ミリ―200ミリのレンズで撮った最初のカットが、PKとなるプレーになるとは。長年「ここ」を仕事場にしているが、初めての経験だ。ましてや世界最高の大会である。ちなみにゴールラインとカメラマンエリアは、日本の場合「とんでもなく」離れているが、ヨーロッパスタンダードでは限りなく近い。ユーロしかりである。ただしサン=ドニは、ゴール裏だけが、なぜか日産スタジアム仕様である。
[ヘンドリクのドリブルとサイドチェンジがアクセントをもたらした]
▽アイリッシュの一念は、如何にスペースを突くか。そのテーマに合わせた速くてシンプルなサッカーは、見ていて潔い。ボグバ筆頭に身体能力があふれた選手を擁するフランスは、あの手この手でゴール前に迫るが、城塞のような「外壁」がそれを阻む。まさか! が頭をよぎり始めたころ、期待されたエースが、外壁を破った。グリエーズマンである。なにやらアメリカン・コミックのヒーローのような名前であるが、正真正銘、本物のヒーローとなった。
[グリーエズマン同点となるヘディングシュートを放つ]
[2点目を決めたグリエーズマン]
▽刺したつもりが、刺されたアイルランド。勝ち点3、ベスト8進出という奇跡は起こらなかったが、それに匹敵する光景が試合後、スタド・デ・リュミエールで、繰り広げられた。悔し涙をこらえながら、サポーター達の前に挨拶に来た選手たちを、彼らは手拍子で讃え、コールを繰り返し、いつまでも、いつまでも、絶えることなく声を上げていた。選手達はその思いを、ひたすらそこにスタンディングすることで、受け止めていた。青い空に緑のピッチ、そこに緑の選手と緑のサポーターが混然一体となって輝いていた。
[コールするサポーターたちの前で、選手たちが何を思う]

【六川則夫】(ろくかわのりお)
1951年、東京生まれ。
40年近くピッチレベルでサッカーを撮り続けてきている重鎮フォトグラファー。「蹴る、観る、撮る」の順序でサッカーを愛し、現在も取材の合間にボールを蹴るという根っからのサッカーボーイでもある。

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