【東本貢司のFCUK!】ファーガソン時代再興のために
2015.12.11 13:30 Fri
▽捲土重来を期すチャンピオンズ・グループリーグでもたつくマン・ユナイテッドが、先週末のホームゲーム(対ウェスト・ハム)をゴールレスドローで終えたとき、メディアやファン(知ったかぶりも含む)の反応はことさらに冷ややかだった。ただし、それはあくまでも結果本位のものだったようだ。ごく一部(!)の現地リポートが指摘しているように、最近のファン・ハール・ユナイテッドには確実に有意義な進歩の跡が見て取れるはずだからだ。そのキモは、中盤のパスワーク。一言でいえば、中距離ダイレクトパスの多用である。ハマーズ戦では、得点にこそ至らなかったものの、中盤の攻防に限ればユナイテッドのパフォーマンスには胸のすくスピード感とダイナミズムを感じた。そして、それはチャンピオンズ/ヴォルフルブルク戦でも引き続き健在だった。結果にさえ目をつぶれば……。
▽すなわち、ファーガソン時代との決定的な差とは、プレー内容の良し悪しにかかわらず、むずかしい試合でも最後には何とかものにしてしまう底力ということになろうか。忘れもしない、99年の奇跡の連鎖。FAカップ準決勝・対アーセナル、チャンピオンズ決勝・対バイエルン。絶体絶命のピンチを跳ね返してもぎとった勝利の味。ヴォルフルブルク戦敗退後、帰途に就いた機内にてファン・ハールのそばで沈鬱に首を垂れるライアン・ギグスは、どうしてもちらつくかつての幻影との落差に身をよじる思いだったかもしれない。彼には多分“見えて”いる。就任2年目、しかも英国圏以外ではクラブ史上初の異邦人監督、ふと気がつけばレギュラー陣にめっきり外国人が増え、生え抜きのアカデミー上がりは今や数えるほど(実は現状なんとリンガードしかいない)。少なくとも「まだしばらく時間がかかる」……それが真に熟すのはファン・ハールが去って自らが後を継いでからなのか?
▽ただ、外野の素朴な目からはやはり奇異に映る。バルセロナはともかくも、レアル・マドリード、バイエルン、パリ・サンジェルマン、ユヴェントス、いやさ、マン・シティー、チェルシー、アーセナルでさえ、大物外国人新戦力を年次継ぎ足してきているのに! ユナイテッドというクラブにはやはり特殊な、いわば“多国籍化ウィルス”を受け付けない免疫のようなものがあるのかも……いやいや、この疑問はまだ仮説の域にとどめておこう。例えば、もしも仮に、ファン・ハールを早期に見限ってグアルディオラ招聘となって“好転”したりした日には、話の筋はガラリと違ってくる。あるいは、ファン・ハール自身が(物欲しげに?)示唆する通りに、ネイマールとクリスティアーノを引っ張ってこれた場合、何がどう変わるかによっても。デビュー当時のフレアがさっぱり不発状態のマーシアルと忘れた頃に仕事をするデパイに、真価の“定着”が進めば結果も少しは違ってこよう。
▽いずれにせよ、ファーガソンが目を光らせている限り、ユナイテッドはファン・ハールにもうしばらく拘るはず、いや、そうでなくてはならない。今のところ目立った発言は聞こえてこないが(多分“癪に障る”からではないか?)、サー・アレックスは現在のスパーズにかつて自分が築き上げつつあった理想形を見ているのではないかと思う。ケイン、メイソン、ベンタレブ、ローズ、ダイアー、タウンゼントに、売り出し中のアリを加えたほぼ同期の若い精鋭たちは、ギグス以下の「クラス・オヴ・92」を髣髴とさせる。ポチェッティーノもあと少しで、ファーガソンが初タイトルをもたらした「4年目」にさしかかる。もっとも、その「4年目」のユナイテッドはまだギグス以外の「クラス・オヴ・92」が羽ばたく前だったし、当時と違って上位の高い壁がいくつもあって簡単には「来季・再来季の頂点」とは行くまい。だが、チームの継続的成長性においてスパーズの魅力は最上級だ。
▽そしてこの数年を振り返ってみると、スパーズには(ファーガソン時代の再来を期す)ユナイテッドが教訓にしてしかるべき「試行錯誤の跡」が見えてくる。ギャレス・ベイル放出後、その売却益でごっそり、およそ期待値優先の無名に近い異邦の助っ人を雇い入れ、そのうち何人かが戦力として計算できるようになった頃、ケインらを表舞台に引き上げた経緯だ。その“同じ轍”をユナイテッドが踏んでいく可能性はかなりあるはずだ。問題は、キャリントンのアカデミークラスにいかほどの才能が眠り、飛躍の時を待っているか。その数は。ギグスの仕事の半分は(将来“そのとき”が来る時のためにも)その辺りの目配りにある。盟友スコールズ、バット、あるいはスペイン武者修行に出向いたネヴィル兄弟や、マイアミでクラブを立ち上げるベッカムも、陰日向に協力、アドバイスを惜しまないだろう。その日までにせめて一つ、二つ、ファン・ハール政権でタイトルを、というのがファーガソンを含む上層部の願いだとすれば、今回のCL敗退も貴重な教訓となるはずだ。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽すなわち、ファーガソン時代との決定的な差とは、プレー内容の良し悪しにかかわらず、むずかしい試合でも最後には何とかものにしてしまう底力ということになろうか。忘れもしない、99年の奇跡の連鎖。FAカップ準決勝・対アーセナル、チャンピオンズ決勝・対バイエルン。絶体絶命のピンチを跳ね返してもぎとった勝利の味。ヴォルフルブルク戦敗退後、帰途に就いた機内にてファン・ハールのそばで沈鬱に首を垂れるライアン・ギグスは、どうしてもちらつくかつての幻影との落差に身をよじる思いだったかもしれない。彼には多分“見えて”いる。就任2年目、しかも英国圏以外ではクラブ史上初の異邦人監督、ふと気がつけばレギュラー陣にめっきり外国人が増え、生え抜きのアカデミー上がりは今や数えるほど(実は現状なんとリンガードしかいない)。少なくとも「まだしばらく時間がかかる」……それが真に熟すのはファン・ハールが去って自らが後を継いでからなのか?
▽ただ、外野の素朴な目からはやはり奇異に映る。バルセロナはともかくも、レアル・マドリード、バイエルン、パリ・サンジェルマン、ユヴェントス、いやさ、マン・シティー、チェルシー、アーセナルでさえ、大物外国人新戦力を年次継ぎ足してきているのに! ユナイテッドというクラブにはやはり特殊な、いわば“多国籍化ウィルス”を受け付けない免疫のようなものがあるのかも……いやいや、この疑問はまだ仮説の域にとどめておこう。例えば、もしも仮に、ファン・ハールを早期に見限ってグアルディオラ招聘となって“好転”したりした日には、話の筋はガラリと違ってくる。あるいは、ファン・ハール自身が(物欲しげに?)示唆する通りに、ネイマールとクリスティアーノを引っ張ってこれた場合、何がどう変わるかによっても。デビュー当時のフレアがさっぱり不発状態のマーシアルと忘れた頃に仕事をするデパイに、真価の“定着”が進めば結果も少しは違ってこよう。
▽そしてこの数年を振り返ってみると、スパーズには(ファーガソン時代の再来を期す)ユナイテッドが教訓にしてしかるべき「試行錯誤の跡」が見えてくる。ギャレス・ベイル放出後、その売却益でごっそり、およそ期待値優先の無名に近い異邦の助っ人を雇い入れ、そのうち何人かが戦力として計算できるようになった頃、ケインらを表舞台に引き上げた経緯だ。その“同じ轍”をユナイテッドが踏んでいく可能性はかなりあるはずだ。問題は、キャリントンのアカデミークラスにいかほどの才能が眠り、飛躍の時を待っているか。その数は。ギグスの仕事の半分は(将来“そのとき”が来る時のためにも)その辺りの目配りにある。盟友スコールズ、バット、あるいはスペイン武者修行に出向いたネヴィル兄弟や、マイアミでクラブを立ち上げるベッカムも、陰日向に協力、アドバイスを惜しまないだろう。その日までにせめて一つ、二つ、ファン・ハール政権でタイトルを、というのがファーガソンを含む上層部の願いだとすれば、今回のCL敗退も貴重な教訓となるはずだ。
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1953年大阪府生まれ
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