【東本貢司のFCUK!】嫌われ者に栄光あれ

2015.09.17 08:30 Thu
▽眼を覆いたくなるとはまさにこのことではなかったか。チャンピオンズリーグ・グループリーグの初戦、PSV対マンチェスター・ユナイテッドのファーストハーフ20分過ぎ、ホームチームのディフェンダー、エクトール・モレノのタックルを浴びたルーク・ショーが、文字通り宙を飛んで大地にたたきつけられたあのシーン。ところがその上に、さらに目と耳を疑ったのは、レフェリーがモレノに対してイエローカードすら示さなかったことだ。見紛うことなきれっきとした両足タックル、しかもそのアングルはほぼ背後から。これが退場に値しないというのなら、一体何が退場に値するというのだろうか。それだけではない。翌日、ショーの骨折が確認された後ですら、UEFAは「審議の必要なし」と宣った。神も仏もないとはこのことだ。もう一つ付け加えておこう。終始攻勢に立ち続けたユナイテッドは退場になってしかるべきモレノの同点ゴールが祟ってあえなく逆転負けを喫した。

▽いや、敗戦そのものを恨みがましく振り返るのはよそう。仮にモレノが退場処分を受けたところで、勝敗の帰趨(きすう)はどう転んだかわからない。ユナイテッドにとって何よりの痛手は、脛骨・腓骨のダブル骨折を被ったショーの長期戦線離脱。ご存じの通り、十代のイングランド人としては史上最高額でサウサンプトンから移ってきたショーだったが、初年度の昨シーズンは、故障も災いして大きく期待を裏切った。その屈辱を晴らすべく満を持して臨んだ今季、ここまでの8試合すべてに出場、絶好調を印象づけた。開幕前から「今季はショーの年になる」と太鼓判を押した監督ファン・ハールの期待にたがわぬ活躍を証明していた矢先の、此度(こたび)の悪夢。あくまでも現状の見立てによると、今期は絶望、来年夏のユーロ出場にも間に合いそうにないという。幸いイングランドは早々と予選突破を果たしたが、老練ベインズも故障で復帰の目処が立っていない今、ロイ・ホジソンの眉間のシワが深くなったのは想像に難くない。それほどにショーの重症リタイアは重大な意味を持っている。

▽それにしても皮肉な結果になったものである。シティー、ユナイテッド、アーセナルが揃いも揃って同スコア(1-2)で出足をくじかれる一方で、リーグ戦で最悪のスタートを切ったチェルシーのみ、大勝で緒戦を飾った。相手云々も当然あろう。唯一ホームで星を落としたシティーに一泡吹かせたのは昨シーズン準優勝のユヴェントス。とはいえ、テヴェス、ピルロ、ヴィダルを失ったユヴェントスである。ところで、チェルシーファンがほっと胸をなでおろしたに違いない因果に触れておこう。2007年のちょうど同じ頃、冴えないリーグスタートを切ったブルーズは、ホームでノルウェイのローゼンボリと対戦、1-1のドローに終わり、それから間もなくモウリーニョはスタンフォード・ブリッジを追われるように去った。よもや“同じ轍”を踏んではならない。神に祈る思いで見守っていたブルーズサポーターにとって、アザールがPKを外したときには思わず背筋に冷たいものが走ったことだろう。そして、思い切ったショック療法に出たジョゼへの恨み節も?
▽このゲーム、モウリーニョはテリー、ディエゴ・コスタ、マティッチに加え、衰えが顕著と酷評されているとはいえ、イヴァノヴィッチまでベンチに据え置いた(それぞれの代役はズーマ、レミー、ロフタス=チーク)。この賭けが裏目に出た日には、週末にアーセナル戦を控えていることもあって、間違いなくモウリーニョの進退問題が声高に囁かれることになっていたはずだ。もっとも、モウリーニョ自身は口が裂けても「賭け」とは言うまい。ホームの緒戦、相手は“計算できる”テル・アヴィヴ、数日後にはアーセナル戦。ただ、この試合に先駆け、髪型をショートに変えて臨んだ記者との応対中、しつこく食い下がる記者を「くだらん質問をするな」の一点張りで振り切ったときの心中はいかばかりだったか。それを思うにつけ、彼の中には「賭け」の模索しつつ苦悩する葛藤がやはりあったと思うのだ。何よりもプレーヤー間に蔓延りつつあった鬱屈と不安を一掃せんとして。だからこそ「我はスペシャル・ワン。チェルシーを率いる者は他にいない」と豪語した。

▽逆風をむしろ糧とするもまた、真の名将の条件。過去に何度となくその試練を乗り越え、名声を確固たるものにする糧としてきたモウリーニョにとって、この程度の“嫌われ者扱い”など屁でもないのだろう。筆者は改めて感極まっている。それもこのテル・アヴィヴ戦が始まる前から。なぜなら彼はこう漏らしていたからだ。「ポルトで3年目はなかった。最初のチェルシーでも、次のインテルでもそれは同じだった。しかし、そのいずれもの間、しっかり成果を出してきた」。そして「レアルの場合は・・・・」と少々口を濁した後、「チェルシー史上最高の指揮官」たるべく、新たな歴史を築く自信と決意を示した。おそらく、ロマン・アブラモヴィッチもそれに感じ入ったのだろう、解任の可能性など一切ほのめかしていない。「私の蹉跌(失敗)を誰もが願っている」とうそぶく裏には、それこそが真に価値ある指導者の“勲章”にふさわしいと信じる力強さがにじみ出てはいないか。好き嫌い云々は別にして、筆者もその意気に乗ってみたい。今こそ「嫌われ者」に栄光あれ!

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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