歴史は繰り返す~イスラエルの入国拒否でインドネシアの開催権を剥奪/六川亨の日本サッカー見聞録

2023.03.31 14:30 Fri
Getty Images
「スポーツと政治は別物」と言われたが、それは幻想に過ぎないことをサッカーの歴史が証明している。さらに最近ではIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が、ロシアとベラルーシの選手について、個人参加であればパリ五輪に出場できる可能性を示唆して欧州から猛反発を食らっている。

サッカーに関して言えば、2月14日のコラムでイスラエルの歴史を紹介した。中東勢の反発にあい、五輪やW杯の予選で東アジアやオセアニアに組み込まれたり、日本のホームゲームにもかかわらず警視庁が安全を保証できないとして、韓国で日本のホームゲームを開催したりした。

その後はヨーロッパのグループに入りW杯予選を戦っているが、一度も予選を突破したことはない。
ところが今回、U-19イスラエル代表がUEFA U-19欧州選手権の予選を突破して2度目となる本大会に出場すると、グループリーグを突破してベスト4に進出。この時点で5月20日からインドネシアで開催されるU-20W杯の出場権を初めて獲得した。さらに準決勝ではフランスを2-1と下し、決勝戦こそイングランドに1-3と敗れたものの初の準優勝を果たした(U-20W杯には他にイタリアとスロバキアの5か国が出場権を獲得)。

そして3月31日にはインドネシアで組分け抽選会が行われる予定だったが、突如延期される。そのニュースを聞いた時は嫌な予感がしたが、30日0時4分にFIFA(国際サッカー連盟)から届いたメールで嫌な予感は的中した。
すでに当サイトのニュースでも既報のように、FIFAはU-20W杯の開催権をインドネシアから剥奪した。

インドネシアはイスラム教徒の人口が世界一で、かねてからパレスチナを支持していたし、イスラエルとは国交も樹立されていない。このため同国ではイスラエルの参加禁止を求める抗議活動が活発化していた。「政治的な背景」に加え「宗教的対立」も絡んできたのである。過去にもインドネシアは1962年にジャカルタで開催したアジア大会(サッカー競技の優勝はインド、準優勝が韓国)で、イスラエル選手団の入国を拒否した例がある。

こうした混乱を収拾するためジャンニ・インファンティーノFIFA会長は、インドネシアサッカー連盟のエリック・トヒル会長と会談。現状を憂慮しつつ、騒動が拡大することを恐れてインドネシアでの開催権を剥奪する決断を下した。予選を突破した国を、政治的・宗教的な理由から閉め出すことはフェアプレー精神に反するだけに、当然の措置だろう。

FIFAは声明で「現在の状況により2023年のU-20W杯の開催国としてインドネシアを除外することを決定した。新しいホスト国はできる限り早く発表されるが、トーナメント日程は変更されていない」と発表した。

気になる代替地だが、大会招致に立候補していたのはカタールとアルゼンチンだった。しかしカタールは、インドネシアと同じ理由でイスラエルの入国を認めないだろう。同じアジアで開催できる国として、予選のホスト国を務めたウズベキスタンもあるが、こちらも国民の90パーセント以上がイスラム教徒のため開催は不可能だろう。宗教的に問題がないのは過去の例と同様、東アジアということになる。しかし日本を始め、韓国も中国もそんな余裕はない。

となると消去法から開催地はアルゼンチンということになるが、FIFAはインドネシアへの制裁を含めてどのような決断を下すのか。イスラエルに罪はないのだが、改めて“アジアの嫌われ者”を証明する形になってしまった。

U-20イスラエル代表の関連記事

U-23日本代表は3日、AFC U23アジアカップ決勝でU-23ウズベキスタン代表と対戦し、1-0で勝利を収めた。 今大会無失点のウズベキスタン相手に苦しんだ中、後半アディショナルタイムに山田楓喜(東京ヴェルディ)が左足ミドルシュートで先制ゴールを奪った。 ついにウズベキスタンの無失点を打ち破ったが、その後 2024.05.04 08:30 Sat
欧州サッカー連盟(UEFA)は23日、ユーロ2024プレーオフの組み合わせ抽選を実施した。 スイスのニヨンで行われた抽選会。12カ国が出場し、3つの枠を争うこととなる。 4カ国が3つに分かれてトーナメント方式で開催。準決勝は2024年3月21日、決勝は3月26日に予定されている。 パスAでは、ポーラン 2023.11.23 22:30 Thu
マインツとの契約を解除された元オランダ代表FWアンワル・エル・ガジ(28)が、クラブに対して法的措置を講じるようだ。 エル・ガジは、10月15日、イスラエル・ハマス紛争を受け、自身のインスタグラムのストーリーを通じて、パレスチナ寄りの投稿を行った。すぐさま当該投稿を削除したが、クラブはこの行動を問題視。17日にト 2023.11.16 09:35 Thu
イスラエル代表のユーロ2024予選の2試合が、ハンガリーで代替開催されることが決定した。欧州サッカー連盟(UEFA)が発表している。 イスラエル・ハマス紛争の影響で先月のユーロ2024予選グループIのコソボ代表戦が開催延期となっていたイスラエル。 その後、国際サッカー連盟(FIFA)によって新たに発表された 2023.11.01 22:35 Wed
イスラエル男女代表チームの延期された試合日程が発表された。 現在、イスラエルとハマスによる紛争が続くなか、今月のインターナショナルウィークに予定されていたイスラエル代表の2試合は、欧州サッカー連盟(UEFA)によって延期された。 今回、国際サッカー連盟(FIFA)によって新たに発表された代替日程では、イスラ 2023.10.24 22:42 Tue

U-20イスラエル代表の人気記事ランキング

1

今日の誕生日は誰だ! 3月31日は、超有名超能力者からのアドバイスでチェルシーへ?! プレミア渡り歩いたイスラエル代表DF

◆タル・ベン・ハイム 【Profile】 国籍:イスラエル 誕生日:1982/3/31 所属:マッカビ・テルアビブ 身長:180cm 体重:74kg ▽『今日の誕生日は誰だ!』本日、3月31日はチェルシーなどに所属した現マッカビ・テルアビブのイスラエル代表DFタル・ベン・ハイムだ。 ▽母国の名門マッカビ・テルアビブでサッカーを始めたベン・ハイムは、2004年にボルトン・ワンダラーズに移籍してトップリーグ入り。2シーズン目には素晴らしい守備を披露して評価を上げると、チェルシー、トッテナム、ウェストハムなどからの関心が取り沙汰されることに。 ▽結局、ベン・ハイムは2007年夏にフリートランスファーでチェルシー入り。しかし、同選手が憧れを口にしていたジョゼ・モウリーニョ監督(現・マンチェスター・ユナイテッド)は入れ替わるように、新天地へ。ベン・ハイムは、当時新しく就任したアブラム・グラント監督あまり出場機会を与えられず。監督を批判したことで騒動が巻き起こり、8万ポンド(現在のレートで)の罰金が科された。 ▽結局、チェルシーでは公式戦9試合のみの出場に終わったベン・ハイムは、2008年に退団。その後、マンチェスター・シティ、サンダーランド、ポーツマス、ウェストハム、QPR、スタンダール・リエージュ、チャールトンを渡り歩き、2015年に育ったクラブであるマッカビ・テルアビブに帰還した。 ▽そんなベン・ハイムには、ある意外な人物と交友関係がある。移籍先をニューカッスルにするかチェルシーにするか、その人物に相談したという。その意外な人物とは、超能力者として一世を風靡したユリ・ゲラー氏だ。その際は、「チェルシーでも能力を発揮できる」というアドバイスをもらったようだが、その後の同選手のチェルシーでの扱いを考えれば、助言に未来視や透視などの超能力は使われなかったと思われる。 ※誕生日が同じ主な著名人 カール=ハインツ・シュネリンガー(元サッカー選手/西ドイツ代表) セザール・サンパイオ(元サッカー選手/サンフレッチェ広島など) パブロ・ピアッティ(サッカー選手/エスパニョーラ) アンガス・ヤング(ギタリスト/AC/DC) ユアン・マクレガー(俳優) ルネ・デカルト(哲学者) アーサー・グリフィス(政治家) 朝永振一郎(物理学者) 大島渚(映画監督) 舘ひろし(俳優) 戸川純(歌手) 小川直也(柔道家) 宮迫博之(お笑い芸人/雨上がり決死隊) 佐々木優介(お笑い芸人/磁石) 2018.03.31 07:00 Sat
2

ロシアがAFCへ? イスラエル転籍の歴史/六川亨の日本サッカーの歩み

去る2月1日、バーレーンのマナマで第33回AFC(アジアサッカー連盟)コングレス2023が開催され、JFA(日本サッカー協会)の田嶋幸三会長がアジア選出のFIFAカウンシル(理事会)メンバーに再選された。 任期は2027年までの4年間で、3選は元JFA会長の小倉純二氏の2選を抜いて最多。2016年にJFA会長に就任した田嶋氏は、来年で4期8年の任期を終え、その後は名誉会長に就任予定だが、FIFAカウンシルのメンバーとしての公式活動は今後4年間続くことになる。 アジア選出のFIFA理事選には定員5名に対し7名が立候補した。満票は45票で、過半数を取らないと理事として認められない。田嶋会長は39票を獲得して7人中2番目で当選した。他にはカタール、サウジアラビア、フィリピン、マレーシアの4人が理事に選出され、中国と韓国の2人は過半数に届かず落選した。 このAFCコングレスには、UEFA(欧州サッカー連盟)からAFCへの転籍が噂されるロシアサッカー協会の会長も出席したことを田嶋会長は明らかにした。その上で「まだ最終的な議論をするまでには至っていません。かつてイスラエルの例もあったが、同じにしていいとは思わない。スポーツと政治は分けて考えるべきだと思う」と私見を述べた。 そのイスラエル、現在はUEFAに所属しているが、かつてはAFCに属していた。 アジアのチームがW杯に出場したのは54年スイス大会の韓国が初めてだった(38年フランス大会のオランダ領東インド=現在のインドネシアは除く)。次が66年イングランド大会の北朝鮮で、グループリーグでイタリアを倒してベスト8に進出したのは長らくアジアの最高成績だった。 そして3番目にW杯に出場したのがイスラエルで、70年メキシコ大会ではイタリアと0-0、スウェーデンと1-1で引き分ける健闘を見せたがグループリーグで敗退した。 そのイスラエルと日本は73年の西ドイツW杯予選で初めて対戦。ソウルでの集中開催だったが、組分け予選で1-2と負けたものの南ベトナムに4-0で勝って準決勝に進出。しかしイスラエルとの再戦となった準決勝では延長戦の末0-1で敗れた。アジア予選を勝ち抜いたのは韓国だったが、オセアニアとの最終予選でオーストラリアに敗れてW杯出場はならなかった。 このイスラエル、本来なら中東のグループに所属するはずだった。しかし67年の第三次中東戦争でイスラエル軍がパレスチナ自治区を占領したことで起こったパレスチナ問題やその後の中東戦争などにより周辺のアラブ諸国との関係が悪化。アラブ諸国はもちろん北朝鮮や中国、イスラム教徒の多いインドネシアなどもイスラエルとの対戦を拒否したため、消去法から予選は東アジアと対戦することになった。 彼らは64年に自国開催のアジアカップで初優勝を飾ったが、72年のタイ大会から出場辞退を余儀なくされ、74年にはクウェートの主導による投票の結果、賛成17、反対13、棄権6によりAFCから除名され、地域連盟に未加盟の状態が続いた。 それでも76年3月のモントリオール五輪予選、77年3月のアルゼンチンW杯予選で日本はイスラエルと対戦。いずれも韓国との3か国によるホーム・アンド・アウェーの対戦だったが、日本はイスラエルの来日に際して安全を保証できないとの理由から、モントリオール五輪予選のホーム・ゲームはソウル(0-3、1-4)で、W杯アルゼンチン予選は2試合ともテルアビブ(0-2、0-2)で開催され、完敗を喫したのだった(通算対戦成績は7戦7敗)。 その後、“さまよえる"イスラエルは一時期UEFA(82年スペインW杯予選)やOFC(オセアニアサッカー連盟)の暫定メンバーとなり、86年メキシコW杯と90年イタリアW杯の予選はオセアニアで戦った。90年大会ではオセアニア代表としてコロンビアとのプレーオフに臨んだものの2試合合計0-1で敗れてオセアニア代表としてのW杯出場はかなわなかった。 そんなイスラエルが長年望んでいたのが、距離的にも近いUEFAに加盟することだった。ようやく92年にUEFAに受け入れられると、94年からは正式なメンバーとして昨年のカタールW杯まで8度の欧州予選に参加。EUROにも96年イングランド大会から参加しているものの、いずれも予選で敗退している。 果たしてウクライナ侵攻によりヨーロッパで孤立しているロシアのサッカーがアジアに転籍してくるのか。パリ五輪の参加資格も含めて注視したい。そして3月24日に国立競技場で開催されるキリンチャレンジカップ2023の対戦相手はウルグアイに決まったが、日本代表のレベルアップのためには日本がUEFAに転籍することも一考ではないだろうか。 2023.02.13 23:00 Mon

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly