岡山学芸館の巧妙なゲーム運びに感動/六川亨の日本サッカーの歩み
2023.01.10 20:45 Tue
1月9日の第101回全国高校サッカー選手権、岡山学芸館(岡山県)対東山(京都府)の決勝戦には5万868人の大観衆が観戦に訪れた。
しかし、やはり交通のアクセスの良さは新国立競技場に勝るものはないのだろう。前回大会から国立開催となり、ファンも戻ってきたようだ。そして9年前と同様に初の日本一を目ざす両チームの激突は、最後まで目の離せない好ゲームとなった。
今大会は岡山学芸館の試合を見る機会が多かった。3回戦の國學院久我山(東京)との試合こそテレビ観戦となったが、準々決勝、準決勝、決勝と取材した。理由は簡単で、今大会は神村学園を追いかけていたため、隣のブロックにいる岡山学芸館と試合会場が重なったからだ。
神村学園のFW福田師王やMF大迫塁のような年代別代表選手や、卒業後にJリーガーとなるような選手もいない。しかし“穴"もなく、2年生ながらGK平塚仁はハイボールに安定したキャッチングを見せ、1トップの今井拓人は献身的なポストプレーとチェイシング、そしてトップ下の田口裕真は気の利いたパス出しで攻撃陣を牽引した。
ところが東山との決勝戦の前半は、これまで見て来たサッカーとはまったく違うスタイルを選択した。
記録上のスタメンの平均身長と体重で、両チームに差はほとんどない。しかし東山は昨年の大会の準々決勝で、優勝した青森山田(青森県)に1-2と敗れた際、フィジカルコンタクトの差を痛感したそうだ。その反省を生かして選手権の大舞台に戻ると、決勝戦では体幹の強さや巧妙な身体や手の使い方で岡山学芸館を圧倒した。
見事だったのは、それを見越したのか岡山学芸館は前半、ほとんどパスをつなごうとせず、自陣からロングパスを1トップの今井に当てるカウンターに徹したことだ。
高原良明監督は「前半は単調な攻撃が多くてマイボールを失っていた」と語ったが、東山のCKやロングスローに対し、GK平塚がキャッチするとすかさずライナー性のキックを前線に残る田口裕に出してカウンターを狙った。その割り切り方はカタールW杯の森保ジャパンを彷彿させるほどだった。
そして25分にはカウンターから単身ボールを運んだ今井がOGを誘発して先制に成功する。前半終了間際に追いつかれた岡山学芸館が後半はどんなサッカーを見せるのか期待したところ、やはりスタイルを変えてきた。
ロングキックから一変、本来のパスをつなぐスタイルで東山にプレッシャーをかけに行った。後半7分の木村匡吾の決勝点、ヘディングシュートはまったくのフリーだったが、準決勝の神村学園との試合で先制点を決めた田口裕もフリーで決めたように、2列目からの走り込みによるゴールも岡山学芸館の得意とするところ。
そして東山の反撃に一進一退の攻防を繰り広げつつ、岡山学芸館は後半20分過ぎになるとCKやロングスローのチャンスに両CBがゴール前に攻め上がり、貪欲に3点目を狙いにいった。その姿勢からは、『このまま2-1で逃げ切るのではなく3点目を取らないと勝てない』という決意を感じた。
実際、東山は14分にはゴール前の決定機にシュートを上に外したり、29分には阪田澪哉がクロスバー直撃のヘディングシュートを放ったりするなど、同点のチャンスは2度ほどあった。
そんな東山に対し、後半40分に右ロングスローから木村匡がダメ押しの3点目を奪って勝利を決定づける。
印象的だったのはタイムアップの瞬間で、勝った岡山学芸館の選手がピッチに倒れ込んだ。12月29日の1回戦から、ほぼ同じスタメンで戦ってきただけに、疲労困憊だったのだろう。そして試合後の表彰式では普通の高校生に戻っていた。
今大会のPK戦での左右上スミを狙った精度の高いキックも驚きだった。例えGKが読んだとしても弾けないコースである。指導した平清孝GMは、かつては東海大五(現東海大学付属福岡高)の監督として東福岡と火花を散らした名将でもある。かつては一見すると、かなり怖い監督だったが、実際はとても腰の低い紳士的な指導者だった。長年の苦労が、こうした形で報われたことは嬉しい限りだ。
そして岡山学芸館の初優勝で、岡山県のサッカー勢力図に変化がもたらされるのか。それはまた、来年の楽しみということにしよう。
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すでに前売りの段階で完売していたと聞いていたので、決勝戦のカードに関係なく老若男女、高校サッカーファンがチケットを買い求めたのだろう。平成25年度(決勝戦は2014年)、第92回大会の富山一(富山県)対星稜(石川県)の決勝戦(3-2)を最後に旧国立競技場は大規模改修工事に入った。その後は決勝の舞台を埼玉スタジアムに移して令和2年度の前々回まで開催されてきた。今大会は岡山学芸館の試合を見る機会が多かった。3回戦の國學院久我山(東京)との試合こそテレビ観戦となったが、準々決勝、準決勝、決勝と取材した。理由は簡単で、今大会は神村学園を追いかけていたため、隣のブロックにいる岡山学芸館と試合会場が重なったからだ。
そして彼らの、ピッチをワイドに使った攻撃的なサッカーに魅了された。敵のバイタルエリアに入ると、忠実にパス&ムーブを繰り返す。このため攻撃をブロックされても、こぼれ球を拾っては攻撃を組み立て直し、サイドからブ厚い攻めを展開した。
神村学園のFW福田師王やMF大迫塁のような年代別代表選手や、卒業後にJリーガーとなるような選手もいない。しかし“穴"もなく、2年生ながらGK平塚仁はハイボールに安定したキャッチングを見せ、1トップの今井拓人は献身的なポストプレーとチェイシング、そしてトップ下の田口裕真は気の利いたパス出しで攻撃陣を牽引した。
ところが東山との決勝戦の前半は、これまで見て来たサッカーとはまったく違うスタイルを選択した。
記録上のスタメンの平均身長と体重で、両チームに差はほとんどない。しかし東山は昨年の大会の準々決勝で、優勝した青森山田(青森県)に1-2と敗れた際、フィジカルコンタクトの差を痛感したそうだ。その反省を生かして選手権の大舞台に戻ると、決勝戦では体幹の強さや巧妙な身体や手の使い方で岡山学芸館を圧倒した。
見事だったのは、それを見越したのか岡山学芸館は前半、ほとんどパスをつなごうとせず、自陣からロングパスを1トップの今井に当てるカウンターに徹したことだ。
高原良明監督は「前半は単調な攻撃が多くてマイボールを失っていた」と語ったが、東山のCKやロングスローに対し、GK平塚がキャッチするとすかさずライナー性のキックを前線に残る田口裕に出してカウンターを狙った。その割り切り方はカタールW杯の森保ジャパンを彷彿させるほどだった。
そして25分にはカウンターから単身ボールを運んだ今井がOGを誘発して先制に成功する。前半終了間際に追いつかれた岡山学芸館が後半はどんなサッカーを見せるのか期待したところ、やはりスタイルを変えてきた。
ロングキックから一変、本来のパスをつなぐスタイルで東山にプレッシャーをかけに行った。後半7分の木村匡吾の決勝点、ヘディングシュートはまったくのフリーだったが、準決勝の神村学園との試合で先制点を決めた田口裕もフリーで決めたように、2列目からの走り込みによるゴールも岡山学芸館の得意とするところ。
そして東山の反撃に一進一退の攻防を繰り広げつつ、岡山学芸館は後半20分過ぎになるとCKやロングスローのチャンスに両CBがゴール前に攻め上がり、貪欲に3点目を狙いにいった。その姿勢からは、『このまま2-1で逃げ切るのではなく3点目を取らないと勝てない』という決意を感じた。
実際、東山は14分にはゴール前の決定機にシュートを上に外したり、29分には阪田澪哉がクロスバー直撃のヘディングシュートを放ったりするなど、同点のチャンスは2度ほどあった。
そんな東山に対し、後半40分に右ロングスローから木村匡がダメ押しの3点目を奪って勝利を決定づける。
印象的だったのはタイムアップの瞬間で、勝った岡山学芸館の選手がピッチに倒れ込んだ。12月29日の1回戦から、ほぼ同じスタメンで戦ってきただけに、疲労困憊だったのだろう。そして試合後の表彰式では普通の高校生に戻っていた。
今大会のPK戦での左右上スミを狙った精度の高いキックも驚きだった。例えGKが読んだとしても弾けないコースである。指導した平清孝GMは、かつては東海大五(現東海大学付属福岡高)の監督として東福岡と火花を散らした名将でもある。かつては一見すると、かなり怖い監督だったが、実際はとても腰の低い紳士的な指導者だった。長年の苦労が、こうした形で報われたことは嬉しい限りだ。
そして岡山学芸館の初優勝で、岡山県のサッカー勢力図に変化がもたらされるのか。それはまた、来年の楽しみということにしよう。
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