また期待外れに終わった…/原ゆみこのマドリッド

2022.12.09 20:00 Fri
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「現地解散って、あんまり印象良くないよね」そんな風に私が首を振っていたのは水曜日、W杯16強対決で敗退が決まったスペイン代表の帰国便に26人の招集選手中、サラビア(PSG)、バルデ、ガビ、ブスケツ、フェラン・トーレス、ペドリ、アンス・ファティ(バルサ)、ラポール(マンチェスター・シティ)、パウ・トーレス、ジェレミー・ピノ(ビジャレアル)、ウナイ・シモン、ニコ・ウィリアムス(アスレティック)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、ダビド・ラジャ(ブレントフォード)ら、14人しか、乗っていなかったと知った時のことでした。いえ、アトレティコの例で言えば、先週木曜にベルギーのグループリーグ敗退が決まったカラスコ、ビッツェルがマハダオンダ(マドリッド近郊)のミニプレシーズン練習に顔を出したのはこの水曜になってからのこと。

翌木曜には、先週金曜にウルグアイの敗退が決まったヒメネス、そしてフィジカル・コーチのプロフェ・オルテガが合流と、W杯参加選手は母国代表の試合が終わった後、それぞれ5日間のバケーションをもらえることになっているようなんですけどね。となると、8時間かけて真冬のマドリッドに戻ってから、わざわざどこかに移動するより、休暇を最大限に活用。折よく家族も来ていることだし、カタール近辺の常夏のビーチでゆっくり過ごしてやろうとコケやモラタ、そしてマルコス・ジョレンテらが思っても仕方ないところですが、家に帰るまでが遠足という概念はこの代表にはない?

まあ、そんなことはともかく、またしても呆気なく終わってしまったスペインのW杯最後の試合がどうだったか、お話ししていくことにすると。いやあ、月曜には彼らを抑えてグループ1位通過した日本がクロアチアと対戦。1-1のまま、ようやく漕ぎつけたPK戦で、それも勝率が絶対的に高い先攻を取ったにも関わらず、南野(モナコ)、三苫(ブライトン)、吉田(FC東京)の3選手がGKリバコビッチ(ディナモ・ザグレブ)に弾かれ、成功したのは浅野(ボーフム)1人。逆にリバヤ(ハイジュク・スプリト)が外しただけだったクロアチアが、フランスとの決勝まで全て延長戦、うちPK戦2回という前回のW杯からの慣れもあったんでしょうかね。土壇場で底力を見せて、1-3で勝った辺りから、何かの予兆だったのかもしれません。
そう、グループ最終戦で日本に負けたおかげで2位通過となり、優勝候補のブラジルやアルゼンチンと決勝まで当たらないブロックに回れたと、火曜の16強対決モロッコ戦までは自らを慰めていたスペインだったんですけどね。試合前夜にも1時間以上のライブ配信に興じ、「チームは昇り調子」と請け合っていたルイス・エンリケ監督もゲンを担いだか、7-0と大勝した初戦のコスタリカ戦から、右SBをアスピリクエタ(チェルシー)ではなく、今大会初出場となるジョレンテに代えただけのスタメンでキックオフ。それがまさか、日本戦後半から発動したボールを持っているだけ、外縁でパスを回しているだけという悪癖がすでに更生不能な域にまで、チームに浸透していたとは!

おかげで前半はほとんど特記に値するプレーがなく、辛抱強く守っているだけのモロッコもモロッコでしたが、ようやくスペインが枠内シュートを放ったのは後半8分になってのこと。オルモがGKボノ(セビージャ)に弾かれたんですが、このままではマズいかもしれないと、さすがにルイス・エンリケ監督も思ったんでしょう。17分にはアセンシオ(レアル・マドリー)、ガビを下げ、ここまで3試合連続得点していたモラタ、そしてカルロス・ソレル(PSG)を投入したものの、だからといって、スペインのプレーに変化は訪れず。31分にはフェラン・トーレスがニコ・ウィリアムスに代わり、やっと動きが出てきたかと期待したのも空しく、試合は0-0のまま、延長戦に入ることに。

その延長戦前半にはガソリン切れのジョルディ・アルバ(バルサ)、オルモがバルデ、アンス・ファティに代わっているんですが、うーん、ルイス・エンリケ監督は「Lo hemos intentado por tierra, mar y aire.../ロ・エモス・インテンタードー・ポル・ティエラ、マル・イ・アイレ(ウチは地上から海上、空中戦までして試みたんだが…)」と試合後、言っていたんですけどね。傍目には同じ周辺ボール回しサッカーをしているようにしか見えず、ポゼッションが70%以上、パス数が1000回を超えていてもシュートもゴールもないって、撃っても撃っても入らない、絶不調時のアトレティコよりひどくない?

逆に延長前半13分など、モロッコのシェディラ(バリ)に至近距離からシュートされ、GKウナイ・シモンがparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いでくれなければ、PK戦にも辿り着けなかったかもしれないんですが、いよいよ後半、残り2分となって、ルイス・エンリケ監督はPKキッカー要員として、ニコ・ウィリアムスに代えて、サラビアを送りこむことに。ロスタイム、その彼がゴール右横から撃ったシュートがポストに嫌われず、入ってくれていたら、あんな悲惨なPK戦を見ずに済んだのにと、今でも残念で仕方ないんですが、結局、両者共、無得点のままで120分間の戦いが終わり…。

いやあ、「Para mí no es una lotería/パラ・ミー・ノー・エス・ウナ・ロテリア(私にとってはくじ引きではない)。選手たちにはPKの宿題を出してあったし、ここでのセッションが終わった後にも皆、練習していた」とルイス・エンリケ監督は言うんですけどね。モロッコの第1キッカー、サビリ(サンプドリア)が成功した後、スペインはサラビアが蹴ったPKが、またしてもポストを直撃。相手は2人目のツィエク(チェルシー)もゴールにすると、いやあ、ソレルもかつてバレンシアにいた頃はマドリー戦でPKハットトリックという偉業も成し遂げているスペシャリスタなんですけどね。その彼がボノに弾かれてしまうんですから、ショックだったの何のって。

モロッコの3人目、ベヌン(アル・アハリ)こそ、ウナイ・シモンが止めてくれたため、僅かに希望が湧いたスペインだったものの、ルイス・エンリケ監督が指名したスペインの3番手、キャプテンのブスケツも易々とボノにキャッチされてしまってはねえ。最後はマドリーのカンテラーノ(RMカスティージャ出身の選手)、今はPSGでエムバペの親友。更にはこんな場面にこそ、いてくれたらと思ってしまうセルヒオ・ラモス(PSG)とも仲良くやっているアクラフが決めて、3-0で負けてしまったとなれば、スペイン人ファンはもう決して、日本代表を格下に見ることはできない?

え、スペインがPK戦で負ける光景は珍しくも何ともないんじゃないかって?そうですね、ロペテギ監督(現ウォルバーハンプトン)が大会開催直前に解任され、当時、サッカー協会のスポーツディレクターを務めていたイエロ代理監督の下で戦った2018年のW杯ロシア大会でも、彼らは16強対決でホスト国とPK戦となり、この時はコケとイアゴ・アスパス(セルタ)が失敗して敗退。昨年開催のユーロ2020でもイタリア戦でオルモとモラタが決められず、決勝を目の前にして涙を飲んでいますし、実際、その前の準々決勝スイス戦では1-3でPK戦を制しているものの、やはりブスケツとロドリが失敗していますからね。となれば、ルイス・エンリケ監督が選手たちにPK練習を課したのも無理はないかと思いますが、本番の緊張感はどうやったって、再現できませんからね。

その辺の事情はPKが決まらず、泣きを見ることが多いシメオネ監督からもよく聞くんですが、試合後、ちょっと気掛かりだったのは、協会との契約がこのW杯で切れるルイス・エンリケ監督が進退を明らかにしなかったことで、しばらく前から、彼はアトレティコの次期監督に就任するんじゃないかとも言われているんですよ。ただ、元来、アトレティコのサッカーはスペイン代表のティキタカ(ショートパスを繋いでいく、メジャータイトル3連覇時代に有名になったスタイル)とはまったくの別系統。

大体がして、あんな悔しい早期敗退をした後でも、「Estoy más que satisfecho con mi equipo, han ejecutado a la perfección mi idea/エストイ・マス・ケ・サティスフェッチョー・コン・ミ・エキポ、アン・エヘクタードー・ア・ラ・ペルフェクシオン・ミ・イデア(チームには満足以上のものを感じている。私のアイデアを完璧に実行してくれた)」(ルイス・エンリケ監督)なんて、ケロリとした顔で言える指揮官では、とてもアトレティコファンの共感は得られないかと。それとも彼が来たら、この1月にも移籍したい意向のジョアン・フェリックスも気を変えてくれるかもしれない?

というのも同じ火曜日、スペインとは真逆でスイスに6-1の大勝。しかもクリスチアーノ・ロナウドを控えにしながら、堂々、準々決勝に進んだポルトガルではジョアンの株がかなり上昇。とうとう、これまでは引き止め一択だったヒル・マリン筆頭株主からも、「シメオネ監督との関係、プレー時間、チームでのモチベーションなどを考えると、移籍のオファーが来れば、検討するのが妥当だろう。Aunque me encantaría que siguiera, esto no es la idea del jugador/アウンケ・メ・エンカンタリア・ケ・シギエラ、エスト・ノー・エス・ラ・イデア・デル・フガドール(私としては残留大歓迎だが、それは選手の考えとは違う)」というコメントが出てきたから。

早くも移籍先候補にはアストン・ビラなどが挙がっていたりもするんですが、ま、以前なら、ジョアンもCLにもELにも出ないチームなんてと、振り向きもしなかったかもしれませんが、今季はアトレティコもヨーロッパからの早期完全敗退で、まったく同じ身分ですからね。この先、どうなるのか、スペインが姿を消し、いよいよ木曜にはルイス・エンリケ監督の契約延長をしないことをサッカー協会が発表。その後、ほとんど間をおかず、2018年からスペインU21代表を率いて、昨年の東京五輪サッカーでは銀メダルをもたらしたデ・ラ・フエンテ監督のA代表昇格が決まったなんてことも。

こうなると12月下旬の公式戦再開まで、あとは私もマドリッドのクラブの選手たちがいる代表を気に掛けるぐらい。ええ、W杯準々決勝、金曜のクロアチア(モドリッチ、ゲルビッチ)vsブラジル(ビニシウス、ロドリゴ、ミリトン)、オランダvsアルゼンチン(デ・パウル、ナウエル・モリーナ、コレア)、土曜のモロッコvsポルトガル、イングランドvsフランス(グリーズマン)戦などを見守っていくばかりなんですけどね。そんな折、久々に木曜にはスタジアム観戦する機会が。ええ、公式戦再開に備えて、もう2週間程、プレシーズン練習をしているヘタフェがコリセウム・アルフォンソ・ペレスで、アトレティコやヘタフェのOBでもあるパウノビッチ監督率いるチバスとの親善試合を行ったんですよ。

生憎なことにキックオフ前から、ドシャ降りの雨に見舞われたこの一戦では、いえ、かなり座席に空きがあったため、クラブが屋根のない席にいたファンに正面スタンドを解放。おかげで助かった人も多かったはずですが、この寒さの中、ズブ濡れになってプレーする選手たちも相当気の毒だったかと。そのせいか、点が入ったのも雨が止んでくれた後半20分のことで、それもチバスのベルトランに先制点を奪われてしまったんですが、やはり先日、最初の親善試合だったバジャドリー戦でケガしたエースのエネス・ウナルが出ていなかったせいでしょうかねえ。

W杯グループリーグ敗退したセルビア勢のマクシモビッチ、ミトロビッチこそ、まだ合流していなかったものの、ほぼチーム全員が揃っていたにも関わらず、ヘタフェはそのまま0-1で連敗となり、親善試合でまで、「Quique vete ya!/キケ・ベテ・ジャー(キケ・サンチェス・フローレス監督、もう出て行け)」のカンティコを聞く破目になろうとは。うーん、今季はほとんどリーガ戦で出番のなかったマタや、歴史的偉業となる初の準々決勝進出を遂げたモロッコに招集してもらえず、悔しい思いをしていたムニルらも頑張っていたんですけどね。

この調子ではリーガ後半戦もヘタフェの課題はゴール不足解消になりそうですが、そうそう、この試合、記者席の前にあるパルコ(貴賓席)では現在、チバスのスポーツディレクターを務める、2018年W杯でスペインの代理監督だったイエロ氏が観戦。直前の監督解任ドタバタ騒ぎがあったチームと、順風満帆にW杯に辿り着いたチームがまったく同じ結果に終わったのにはおそらく、複雑な心境だったと思いますが、スペインは2010年のW杯優勝以来、本大会で3勝しかしていないという体たらく。この低迷状態は果たしてどうしたら、脱出できるんでしょうか。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。



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長かったリーガもようやく終わった…/原ゆみこのマドリッド

「きっと明日から完全に補強FW候補の話ばかりなるわね」そんな風に私が溜息をついていたのは月曜日、リーガ1部最終節のあった怒涛の日曜の余韻に浸る間もなく、アセンシオがもうPSGと契約するためにパリにいる、ベンゼマはアル・イティハドとの2年契約にサインしたというニュースをネットで見つけた時のことでした。いやあ、今季最後となるサンティアゴ・ベルナベウでの試合を目前にして、レアル・マドリーの選手退団comunicado official/コムニカードー・オフィシアル(公式発表)ラッシュが始まったのは、バルデベバス(バラハス空港の近く)での土曜に最後のセッションが済んだ直後からで、第1弾は契約更新をしないことにしたアセンシオが自身のSNSでお別れビデオを流すのと同時だったんですけどね。 それに続いた契約満了となるマリアーノはともかく、残りの1年をまっとうする意志を示していたアザールが契約解消でクラブと同意したというのも驚かされたんですが、爆弾はアスレティック戦当日にやって来ることに。そう、先週は木曜にマルカのレジェンド授賞式で残留を匂わせる発言。更に土曜の記者会見でアンチェロッティ監督も「Benzema tiene un año más de contrato. Nosotros no tenemos dudas/ベンゼマ・ティエネ・ウン・アーニョ・マス・デ・コントラトー。ノソトロス・ノー・テネモス・ドゥーダス(ベンゼマにはまだ1年契約が残っているから、疑いは持っていない)」と言っていたフランス人エースが土曜の夜、いきなり気を変えたんですよ。 それこそ当日、合宿に来てから、「Hablé con él esta mañana y me dijo que se despedía. Que era una decisión tomada/アブレ・コン・エル・エスタ・マナーニャ・イ・メ・ディホ・ケ・セ・デスペディア。ケ・エラ・ウナ・デシシオン・トマーダ(今朝、彼と話して、退団すると告げられた。もう決めたことだと)」(アンチェロッティ監督)という急展開だったようで、それに応じて、クラブも試合前にベンゼマの退団公告を掲載。いえ、まだチームには契約延長するかどうか不明のセバージョス、ナチョ(月曜に延長)、出場時間がほとんどなかったバジェホ、オドリオソラといった、今季限りでマドリーを離れる可能性のある選手たちはいるんですけどね。それでもいきなりトップチームのFW4人にお別れすることになったファンの気持ちや如何ばかりかと。 だってえ、いくらアンチェロッティ監督は「En estos momentos, que tengamos sólo dos atacantes, me preocupa cero/エン・エストス・、オメントス、ケ・テンガモス・ソロ・ドス・アタカンテス、メ・プレオクパ・セロ(現時点でアタッカーは2人しかいないが、私はまったく心配していない)。時間があるからね」と言っていたとはいえ、残っているのはビニシウスとロドリゴだけなんですよお。2部に降格したエスパニョールからホセルが古巣に戻って来るのはアテにできるとしても、こうなったら、来年夏にハーランド(マンチェスター・シティ)やエムバペ(PSG)が来る前にハリー・ケーン(トッテナム)だけでなく、ハバーツ(チェルシー)クラスのFWも絶対獲っておかないと来季が乗り切れないのでは? おかげでこのオフシーズンは久々にマドリーの補強関連情報を真剣に分析しないといけないような気がするんですが、それはともかく、リーガ最終節でマドリッド勢の順位にどう決着がついたか、お話ししていくことにすると。マドリー以外がアウェイゲームだったこともあり、日曜はもちろん、サンティアゴ・ベルナベウにアスレティック戦を見に行くことになった私ですが、2位争いをしているお隣さんと、ラージョを含む複数のチームが争うコンフェレンスリーグ出場権7位を懸けた試合は午後6時30分と早い時間に揃ってキックオフ。よってまた、オンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の多元中継の力を借りて、ビジャレルvsアトレティコ戦、マジョルカvsラージョ戦も追っていたところ、最初に動きがあったのはこの日を限りに12月末の新装オープンを目指して再び、集中工事期間に入るベルナベウでした。 ええ、オサスナより多い勝ち点を取らないと7位になれないため、勝利を目指して、イニャキとニコのウィリアムス兄弟に加え、グルセタ、サンセットと4人もFWを入れてきたアスレティックでしたが、前半8分にウィリアムス兄のヘッドが背中を向けてジャンプしたクロースの腕に当たったのをハンドと主審が判定し、PKをゲット。先制点の絶好のチャンスをもらったんですが、マドリーにもいたんですねえ。一人だけまだバケーション気分になっていない選手が。それはGKクルトワでベスガのPKを渾身の横っ飛びで弾いてしまったから、ビックリしたの何のって。 それと時を同じくして、ラ・セラミカから悲報が届いたんです!週中はよく先発組予想されながら、なかなかスタメンになれず、この日、とうとうデ・パウルの出場停止でお鉢が回ってきたカンテラーノ(アトレティコB出身の選手)の19才バリオスがチュクワゼのクロスを正確無比なヘッドでジャクソンの足元に届け、何せ、相手はここ7試合8得点と乗りに乗っているFWですからね。エリア内からのシュートを失敗するはずもなく、ビジャレアルの先制点を挙げられてしまうとは情けない。もしや最後のアウェイゲーム3試合がエルチェ、エスパニョールに続いて、こちらも地中海沿岸への遠征というのが、アトレティコの選手たちの夏休み気分を冗長させてしまった? その後は在籍14年間で25のタイトル獲得に貢献したベンゼマに花をもたそうとしたマドリーの努力も実らず、アスレティックが恐ろしくシュート精度の低いチームだったこともあり、ベルナベウは0-0のまま、ハーフタイムに入ったんですが、大丈夫。18分にはグリーズマンのFKから、コレアが同点ゴールを決めたという知らせがあったのもありますが、後半4分にはセバージョスのボールロストから、とうとうサンセットが2度撃ちで、アスレティックにリードをもたらしたんですよ。ただ彼らの儚い希望が続いた時間は短く、何せ、やはり前半を両チーム無得点で終えたエル・サダルでは、オサスナのブドミルが後半7分、10分に2ゴールを挙げ、7位争いの直接ライバル、ジローナを圧倒していましたからね。 すると11分、再びオンダ・マドリッドの実況アナの絶叫が割って入り、アトレティコが勝ち越し点をゲットしたというから、今度は私もつい手を叩いて喜んでしまうことに。ええ、エルモーソのロングパスを負ったグリーズマンがまたしてもコレアに繋ぐと、今度はGKヨルゲンセンをかわして、2点目を決めたとなれば、下剋上2位頂きと思ったアトレティコファンは決して私だけではなかったかと。ただねえ、実はその直前には物議を醸すプレーがあって、グリーズマンがゴール右脇からシュートしたボールがマンディの左腕を直撃。それが主審もVAR(ビデオ審判)も当人が地面に腕をつく直前だったとして、ペナルティを認めてくれないとは一体、どういうこと? これには後々の結果が結果だったたけに、シメオネ監督も「Es muy difícil de explicar algo que se ve muy claro en la television/エス・ムイ・ディフィシル・デ・エクスプリカル・アルゴ・ケ・セ・ベ・ムイ・クラーロ・エン・ラ・テレビシオン(TVでくっきり見えることだけに説明するのはとても難しい)」と文句を言っていたんですけどね。今季33節まで1つもPKをもらえなかったアトレティコにはありがちなパターンですし、大体がして、PKだって、彼らの場合は必ず入る保証はないのだからと、その時は私もあまり真剣に考える時間がなかったんですが…。 というのも後半12分にはマドリーの選手交代が始まり、お別れ組のアセンシオがピッチに登場。そして27分にはユーリ・ベルチチェがエリア内でミリトンの顔を手で払ったとして、今度はマドリーにPKが与えられたからで、もちろんキッカーはベンゼマです。このPKをマドリー最後となる354本目のゴールにして、即座に彼はモドリッチと交代。場内から大きな拍手を浴びていたんですが、まあ、それを見てもこの日のアンチェロッティ監督は試合に勝つことより、長年、クラブに尽くしてくれた選手に花道をお膳立てしてあげる方を優先していたんだと思いますが、ええ、実際、途中出場のアセンシオまで、ロスタイムにはルーカス・バスケスに代わっていましたからね。 そして1-1の引分けで試合が終わり、オサスナもジローナに2-1で勝利したため、「各々があるべき順位にいる。オサスナには7位になるだけのメリットがあって、nosotros para ser octavos/ノソトロス・パラ・セル・オクタボス(ウチは8位となるね)」(バルベルデ監督)という、アスレティックに遺恨を残すこともなかったんですが、え?ラージョはどうしたんだって?いやあ、前節、エスタディオ・バジェカスでのビジャレアル戦に2-1で勝利して、ファンとシーズン仕舞いのお祝いを盛大にしてしまったのが選手たちの緊張感を奪いましたかね。前半は0-0だったものの、後半になると、5分にはムリキ、25分にはコペテ、48分にはアンヘルにもゴールを決められて、3-0で完敗して、最後は11位で終わっているんですから、やっぱりこの辺は1部残留確定で目標達成してしまったチームの限界が出てしまったかと。 まあ、それは同じく7位到達の可能性がありながら、すでにEL優勝で来季のCL出場権をゲットしたセビージャがレアル・ソシエダに2-1で敗戦。レアル・アレナでの10年ぶりCL復帰祝いに花を添えていたところにも現れていますが、眼下のピッチはマドリーの選手たちがベンゼマ、アセンシオ、アザール、マリアーノを次々に胴上げして、お別れしている光景にまったく私は感動できなかったんですよ。というのも後半26分にロ・チェルソに強烈タックルを見舞ったビッツェルが一発レッドで退場しながら。何とか1点差を守っていたアトレティコが、最後の最後に失点しまったから! うーん、オブラクが首椎間板ヘルニアで今季絶望となって以来、頑張ってゴールを守っていたゲルビッチがケガして、40分にはカンテラーノのゴミスに代わらないといけなかったのも不運だったんですけどね。ロスタイム2分、彼がジャクソンを止めたのはいいんですが、エルモーソもサウールもそちらにかかりきりだったため、はぐれたボールをジェラール・モレノやモラレスの負傷でセティエン監督に重宝されているビジャレアルCのFW、20才のパスクアルに決められてしまったから、さあ大変!要は2-2と引分けたアトレティコとマドリーの差は勝ち点1のままで、2位3位の順番も変わらないとなれば、いえ、試合前には「リーガでは目標の4位以内を達成できた。Si se queda segundo será muy buena, terceros buena/シー・セ・ケダ・セグンド・セラ・ムイ・ブエナ、テルセーロ・ブエナ(もし2位ならとてもいい、3位ないいシーズンだった)」と言っていたシメオネ監督なんですけどね。 「Nos da la tranquilidad de que no teníamos nada tremendamente importante en juego/ノス・ダ・ラ・トランキリダッド・デ・ケ・ノー・テニアモス・ナーダ・トレメンダメンテ・インポルタンテ・エン・フエゴ(とてつもなく重要なことが試合に懸かっていなかったのは落ち着きを与えてくれる)。優勝を逃すとか、そのせいで降格するとかのね」と試合後、ハンドの判定に皮肉の一つも言いたくなる気分もわかるかと。加えて、ビジャレアルの2点目のプレーの起点ではモラタがパウ・トーレスからヒザ蹴りを受けながら、お約束通り、ファールすら取られなかったということもありましたからね。それでもヨーロッパの大会から完全撤退した昨年のW杯前を思い返せば、まあ、シーズン後半のアトレティコは奮闘したと言えるんじゃないんでしょうか。 そして午後9時からは残留争い組の5試合が一斉スタートとなったんですが、いやあ、これがまた、直接ライバル、バジャドリーのホーム、ホセ・ソリージャに乗り込んだヘタフェではガチのボルダラス監督流サッカーが炸裂。ええ、あと勝ち点1で残留が決まる彼らは最初から最後まで、スコアレスドロー維持の専守防衛を貫き、いえ、並行してプレーしていたエスパニョールvsアルメリア戦のスコアがよく動いたため、バジャドリーの方は18位から17位に上がったり、また下がったりを繰り返していたんですけどね。 アルメリアが後半42分にエンバルバのPKゴールで3-3に追いついた時など、ここでバジャドリーに1点取られたら、18位となって、ドボンするのはヘタフェという危ない時間もあったものの、焦った相手がシュートを15本も撃ちながら、1本も枠内に飛ばせないというのも幸いしたんでしょう。ボルダラス監督も「Hemos neutralizado a un equipo que como local es complicado/エモス・ネウトラリサードー・ア・ウン・エキポ・ケ・コモ・ロカル・エス・コンプリカードー(ウチはホームチームとしては厄介な相手を無効化した)」と言っていた通り、やっとこ0-0で終わらせて、地元から応援に駆け付けた600人のファンと共に15位で来季も1部でプレーできるのを祝っていたから、どんなにホッとしたことか。 実際、バジャドリーに負けていれば、アルメリアがエスパニョールに負けるか(最終結果3-3)、セルタがバルサと引分け以下(同2-1でセルタ勝利)でないとヘタフェは残留できず。この日はどちらの条件も当てはまらなかっただけに、キックオフ直後からの時間稼ぎやファールの多用といったサッカーは決して美しくはないものの、背に腹は代えられませんからね。一歩間違えれば、同じ場所で2021年にアトレティコがリーガ優勝を遂げるのと引き換えに、19位で降格した悪夢をリピートしたバジャドリーと立場が逆転していたのかと思うと、ちょっと寒気がしなくもありませんが、まあ、今季終盤は緊急事態での指揮官交代。契約延長予定のボルダラス監督が最初から舵を取れる来季にはもっと、強くなったチームを見せてくれるのを期待しています。 <hr>【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2023.06.06 20:00 Tue
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店じまいにはまだ早い…/原ゆみこのマドリッド

「この日曜も試合があるのよね」そんな風に私が思い出していたのは金曜日、6月半ばのネーションズリーグ・ファイナルフォーに備えたスペイン代表招集リスト発表とデ・ラ・フエンテ監督の会見をネット中継で見たせいもあり、もう完全に今季が終わったような気分になっていた時のことでした。いやあ、代表についてはまた後日、お話しすることにしますが、今週はそれ以外にもシーズン終了感満載のイベントが多数開催。リーガ優勝が何試合も前に決定していたバルサなど、これから1年半の全面改装工事期間に入るカンプ・ノウとのお別れセレモニーに続き、水木と連続して、今季限りで退団するブスケツ、ジョルディ・アルバのお別れセレモニーがあったんですけどね。 一方、バルサの宿敵のレアル・マドリーでは最近、サウジアラビアのアル・ヒラルから年棒1億ユーロ(約150億円)の2年契約オファーを受け、移籍するかもしれないと噂されているベンゼマが木曜にマルカのレジェンド授賞式に出席。司会者のしつこい質問に「話しているのはネットの中だけ。La realidad no es Internet/ラ・レアリダッド・ノー・エス・インテルネット(現実はネットにはない)」と答えたことから、残留の線が強いのではという推測も聞かれるように。 それでも女児のファンから、直球で「Te vas a quedar en el Real Madrid?/テ・バス・ア・ケダール・エン・エル・レアル・マドリッド(レアル・マドリーに残るの?)」と尋ねられた際、「Por el momento estoy aquí/ポル・エル・モメントー・エストイ・アキー(今のところ、自分はここにいる)。毎日を楽しんで、いい練習をしてるし,まだ試合もある」と答えて揚げ足を取られ、「今のところ」と言っているのが怪しいという意見もなきにしろあらず。まあ、どっちにしろ、アンチェロティ監督続投の決まった後、スポーツ紙のマドリーページにはこの夏の選手の出入り以外、話題がないとなれば、何でも針小棒大に報じられるのは仕方なかったかと。 加えてお隣さんも先週末、3位以上を確定したと思いきや、最終節を待たずにヒメネスが水曜にヒザの半月板の内視鏡手術を受け、一足先にバケーション入り。木曜にもカラスコが鼻を手術と、うーん、丁度、サビッチ、レマル、マルコス・ジョレンテが負傷のリハビリを終えて、チームに戻って来たからというのもあるんでしょうね。その日にはマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場でセッション後、コロナ禍以降、初めてとなるバーベキューで、シーズン慰労ランチ会を開いていたなんて聞くと、もう日曜の試合が終わった途端、選手全員がリゾート地に旅立つ光景が目に浮かんでこない? え、それどころではなかったのが、セビージャのSeptima(セプティマ/7回目のEL優勝のこと)祝勝行事じゃなかったかって?その通りで、木曜にブダペストから帰還したその足で彼らはオープンデッキバスに乗ると、市内を延々4時間パレード。プエルタ・デ・ヘレス(セビージャファンがお祝いする定番スポット)、市役所、カテドラルと名所をもれなく回った後、午後11時過ぎに始まったサンチェス・ピスファンでの祝賀イベントが夜半過ぎまで続くって、前夜も午前零時まで、ローマとの決勝をプレーしていた選手たちの途方もない体力に感心するばかりですが、ええ、これで来季のCL出場権もゲットできましたしね。 日曜はレアル・ソシエダがホームのレアル・アレナで盛大に前節アトレティコ戦での4位確定、10年ぶりのCL復帰を勝利で祝うのにまったく異存はないということでしょうが、ちなみに水曜のセビージャのEL決勝がどんな試合だったのか、ちょっとお伝えしておくことにすると。実は私も今季、彼らのEL決勝トーナメントを近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で観戦するのは初めてだったんですが、やはり決勝ともなると皆、見ておこうと思うんでしょうかね。店内も普段のセビージャの試合では考えられないような賑わい方だったんですが、やっぱり彼ら、この大会の神様に後押しされていたよう。 だってえ、ローマのモウリーニョ監督が「20~30分ぐらいならプレーできる」と試合前日にブラフを張っていた負傷明けのディバラが先発し、前半35分にはセンターでラキティッチがボールを奪われたのをキッカケにマンチーニがスルーパス。これに応じた彼にエリア内からシュートを決められ、先制点を取られながら、オリベル・トーレス、ブライアン・ヒルから、スソ、ラメラに攻撃力増強した後半9分にはヘスス・ナバスのクロスをエン・ネシリの前でマンシーニがオウンゴールして、同点に追いついてしまったんですよ。 29分にはオカンポスがイバニェスにエリア内で倒され、PKをもらいかけたんですが、残念ながら、これはVAR(ビデオ審判)のモニターチェックでなしに。GKボノがベロッティのvolea(ボレア/ボレーシュート)をparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いだ後、ロスタイムのスソ、ラメラ、フェルナンドのトリプルチャンスも決まらすに延長戦に突入です。「La prórroga no se ha jugado casi nada/ラ・プロロガ・ノー・セ・ア・フガードー・カシー・ナーダ(延長戦はほとんどプレーしなかった)。ずっとボールが止まっていたし、ケガ人やら、選手交代やら…」(メンディリバル監督)という30分を、ていうか、大量ロスタイムのせいで40分以上もあったのを1-1のままやり過ごし、いよいよPK戦が始まったところ…。 圧倒的にセビージャが強かったんです!そう、第1キッカーはオカンポス、クリステンセンと両チームとも成功したものの、第2キッカーのラメラがGKルイ・パトリシオを破った後、マンチーニをボノが弾き、次のラキティッチは成功。すると、この試合、何度も接触戦で地面に倒れ、最後は唇を縫うケガを負っていたイバニェスのPKもボノが少しだけ触れてポストを直撃したから、ビックリしたの何のって。いやあ、その光景には昨年11月のW杯16強対決、PK戦でスペインのサラビア(当時はPSG)がポストに当て、カルロス・ソレル(PSG)、ブスケツと連続してボノに弾かれて敗退した悪夢がデジャブのように浮かんでくることに。 うーん、メンディリバル監督によると、「Montiel iba a ser el quinto pero luego se han cambiado el orden/モンティエル・イバ・ア・セル・エル・キント・ペロ・ルエゴ・セ・アン・カンビアードー・エル・オルデン(モンティエルは最初、5番目だったんだが、それから順番を変えた)」そうなんですけどね。この彼がまた、W杯決勝フランス戦で最後のPKを決めて、アルゼンチンに優勝をもたらした英雄だったんですが、第4キッカーの一撃はルイ・パトリシオに弾かれてしまったんですよ。それがGKの足がラインより前にあったとし、主審がやり直しを命じてくれたのが渡りに船となり、2度目のトライで成功。セビージャのEL戴冠もゲットしてしまうんですから、これぞまさにチャンピオンの幸運(PK戦スコア4-1)? え、記者会見では6回目にして初めてヨーロッパの大会の決勝で負けたモウリーニョ監督も「セビージャは偉大なチーム、それが現実だ。ウチにはない選手層があって、経験もある」と言っていた通り、「ボクはこういう瞬間を何度も生きていて、entendí que hay que tener mucha calma para afrontar estos momentos/エンテンディ・ケ・アイ・ケ・テネール・ムーチャ・カルマ・パラ・アフロンタール・エストス・モメントス(こういう時には落ち着きを保たないといけないことを理解していた)」(ボノ)という、W杯準決勝進出モロッコのGK、更に王者アルゼンチンのラメラ、アクニャ、パプ・ゴメスの3人がいるセビージャの方が元々、勝ち馬だったんじゃないのかって? いやまあ、それでもローマには優勝チームの同僚、ディバラがいましたし、大体、アクニャは準決勝ユベントス戦2ndレグでイエローカード2枚による無念の退場となり、この試合は出場停止でしたからね。パプもベンチ観戦だったんですが、何より、このチームにはラキティッチ、ヘスス・ナバスといったELのベテランに加え、2020年のコロナ禍無観客決勝でインテルを制したエン・ネシリ、オパンポス、フェルナンド、スソら、Sexta(セクスタ/6回目のEL優勝のこと)組もいたのは大きかったかと。おかげで試合後はまだ、来季の続投が決まっておらず、「Sería la leche no poder seguir/セリア・ラ・レッチェ・ノー・ポデール・セギール(これで続けられなかったら、最高だろう)」と皮肉を言っていたメンディリバル監督も翌日、祝賀イベントの席でカストロ会長から新契約のオファーをもらうことができましたっけ。 まあ、そんな幸せなセビージャの話はこれぐらいにして、一応、この最終節に挑むマドリッド勢のカードも紹介しておくと、前節同様、キックオフ時間にunificacion(ウニシカシオン/統一)がかかった日曜は午後6時30分(日本時間翌午前1時30分)と午後9時(日本時間翌午前4時)の前後半に分かれていて、マドリー、アトレティコ、ラージョの3チームは早い方のスタートに。ホームゲームはサンティアゴ・ベルナベウにアスレティックを迎えるマドリーだけなんですが、アンチェロッティ監督のチームの目標はお隣さんとの勝ち点差1を守って、2位をキープすることだけなのに対して、ビルバオ勢はゴールアベレージ差で上回るオサスナを抜いて、コンフェレンスリーグ出場権獲得を熱望していますからね。 ただちょっと、この7位争いは複雑で、勝ち点1差下にはオサスナと直接対決となるジローナ、何も懸かっていないマジョルカと対戦するラージョ、そしてレアル・ソシエダ戦の後、何かの偶然で7位になってしまうと、スペインのコンフェレンスリーグ枠がなくなるというセビージャがいますからね。おまけに丁度、ネグレイラ事件(スペインの審判委員会副委員長に20年余り多額の報酬を払い、有利なジャッジを受けようとしたと疑われている)を調査中のUEFA倫理委員会が来季のバルサをCL出禁にするかもしれないという報道も。 これが現実となると、またヨーロッパの大会の出場順位がズレて、訳のわからないことになるため、6月12日にUEFAのCL出場チームリストが出るまで、確たることは私もわからないんですが、ベンゼマを始め、メスタジャでの人種差別的野次が大騒ぎになった後、ヒザの負傷で休んでいたビニシウス、マドリーと契約延長をせず、PSGに移籍する可能性が濃厚になったアセンシオが復帰。ベルナベウのファンの前で有終の美を飾りたいマドリーとあって、ケガで欠場者を多く抱えるアスレティックが勝ち点を稼ぐのは難しいかもしれません。 そしてラージョは今季限りで別れを告げるイラオラ監督最後の試合に臨み、アトレティコはすでに5位が確定したビジャレアルと対戦するんですが、シメオネ監督のチームは来季、チェルシーを率いるポチェッティーノ監督がジョアン・フェリクスを戦力外としたため、夏の補強計画がスタンドバイ状態に。というのもジョアンは絶対にシメオネ監督の下には戻りたくなく、かといって今、クラブが望む移籍金1億ユーロ以上どころか、オファーそのものがまったく来てないから。そのせいで選手獲得に幾ら使えるのかのメドが立たないとはいえ、まあその辺はリーガが終わってから、おいおい考えていけばいいですからね。 今は私もアトレティコの選手たちがエルチェ戦やエスパニョール戦のような、一足早い夏休み気分にならず、まっとうに最終戦をプレーしてもらいたいだけですが、やっぱり目を離せないのは日曜後半戦、前節エスパニョールの降格が決定した後、残り1つとなった2部行きの切符を引かないために争っている6チームの一つ、弟分のヘタフェでしょうか。いえ、彼らはここ2試合、ベティス、オサスナに連勝したおかげで降格圏外の14位に逃れ、ホセ・ソリージャで顔を合わす18位のバジャドリーとも勝ち点差2あるんですけどね。実は前回、降格した2016年も17位で最終節に挑み、最後のガラガラドボンで19位に落ちて、1部を去ることになったという黒歴史が。 それだけにその翌シーズン途中からチームを率い、昇格プレーオフで最短Uターンを達成したボルダラス監督も気を引き締めているはずですが、さて。ただ、水曜に売り出された300枚のアウェイチケットを求め、コリセウム・アルフォンソ・ペレスの前に徹夜組の行列もできる程、ファンも気合を入れているだけでなく、クラブも試合当日に無料バスを出してくれるんですが、何せバジャドリーもすでにチケットがソールドアウト。多勢に無勢となるのは避けられませんが、2年前、兄貴分のアトレティコがコロナ禍でファンの声援がまったくない中、彼の地で優勝を遂げたのを見習って、残留確定要件の引分け以上を勝ち取ってほしいかと。きっとエースのエネス・ウナルも水曜にヒザの靭帯の手術を受けたインスブルックから、ヘタフェを応援しているはずですよ。 【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2023.06.03 20:00 Sat
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あとは最後の仕上げが待っている…/原ゆみこのマドリッド

「今度の日曜はもう、選挙はないわよね」そんな風に私がホッとしていたのは月曜日、unificacion(ウニフィカシオン/統一)時間割で9試合が同時開催となった前日の夜、メトロポリターノから頭をクラクラさせて帰って来た疲れが抜けないまま、最終節の日曜も午後6時30分と9時の前後半2部に分かれただけの時間割を眺めていた時のことでした。いやあ、普段なら、マドリッド勢の試合が重なる時はオンダ・マドリッド(ローカルラジオ局)の多元中継が大きな味方となって、逐一、他会場の進行も伝えてくれるんですけどね。 それが先週の日曜は何の因果か、スペイン全国地方自治体選挙を被り、サッカー中継転じて選挙速報番組と化していたため、全国放送の大手局の実況を聞いていたところ、ええ、これがまた揃って9試合の実況カルーセルなんですよ。次々とカードが変わるせいで、ラージョもヘタフェもゴールの報をリアルタイムで聞き逃し、結局、アトレティコの試合が終わった後、ネットで両者共、勝利を挙げていたことを知ったんですが、またレアル・マドリー、アトレティコ、ラージョの試合が同時開催となる今週末も同じ思いはしたくなかったから。 といっても土曜に1カードだけ先駆けしたセビージャvsレアル・マドリー戦もオンダ・マドリッドにはかなりムゲにされていて、その日のその時間帯はRFEF1部(実質3部)の最終節とほぼ同時進行。2部直接昇格の可能性のあったアルコルコン(プレーオフ出場に)とサンセ(RFEF2部/実質4部に降格)とのダービー、RMカスティージャ(プレーオフ)、ラージョ・マハダオンダ(残留確定)、フエンラブラダ(同)ら、下部カテゴリーのマドリッド勢の多元実況にかまけていたため、途中で聴くのを止めてしまったという経緯もあったんですけどね。 もちろん、片や水曜午後9時(日本時間午後4時)からのEL決勝ローマ戦しか眼中にないセビージャ、片や来季のチーム構想の方がすでに話題のメインになっているマドリーの消化試合とあれば、それなりの扱いを受けても仕方ないんですが、一応、どんな試合だったかお伝えしていくことにすると。まあ、ブダペストでのSeptima(セプティマ/7回目のEL優勝のこと)達成に来季CL出場を懸けているメンディリバル監督がエン・ネシリやオカンポスといった主力を温存したのは当然だったんですけどね。ベンゼマ、ビニシウス、アセンシオ、マリアノとFW陣を大量に負傷で欠くことになったアンチェロッティ監督は先発にワントップのロドリゴを置いて、MFを5人並べる布陣でスタート。 守備陣の方は普通にルーカス・バスケス、ミリトン、アラバ、メンディだったんですが、いくらバケーションが近づいているからといって、眠ったままピッチに立ってはいけませんよね。ええ、開始からすぐの3分、EL準決勝ユベントス戦2ndレグでレッドカードを受けていたアクーニャが決勝に出られない悔しさを晴らすべしと、ドリブルでエリア内左奥に侵入するのを誰も止められず。その折り返しのパスがミリトンに当たり、ヘスス・ヒルのシュートも他のDFに当たって跳ね返ったものの、最後はラファ・ミルに撃ち込まれ、先制点を奪われてしまうのですから、もしやこれ、アウェイ3連敗目になる? でも大丈夫だったんですよ。というのもボッチFWという重責にロドリゴが見事に応えてくれたおかげで、いえ、13分にはルーカス・バスケスからゴール前にラストパスをもらいながら、外してしまうなんてこともあったんですけどね。28分、敵エリア前からのFKをセビージャの壁が割れた隙間を縫って通し、ゴールにしてしまったから、ビックリしたの何のって。これで同点に追いついたマドリーは後半24分、得意の高速カウンターを発動させます。 ええ、それはセビージャのジョルダンが蹴ったFKをロドリゴがクリアしたことから始まり、モドリッチ、クロースと繋げ、最後は敵ゴール目掛けて爆走した当人がエリア内でモンティエルをかわすと、勝ち越しゴールも挙げてしまうって、何かと昨今はビニシウスばかりが注目されていたマドリーですけどね。1つ年下のブラジル人FWまで、ここまで成長していたとはホント、彼らの南米担当スカウト陣の目利きぶりには驚かされるばかりかと。 このdoblete(ドブレテ/1試合2ゴールのこと)で今季通算を19得点まで伸ばしたロドリゴは36分にルーカス・バスケスと共にリュディガー、ナチョと交代となり、その際には怒ったようなリアクションを見せてもいたんですけどね。アンチェロッティ監督によると、これは「él quería quedarse en el campo para intentar hacer el hat-trick/エル・ケリア・ケダールセ・エン・エル・カンポ・パラ・インテンタール・アセール・エル・ハットトリック(ハットトリックを達成するために彼はピッチに残りたがった)から、私たちは違う目標を持っていると言った。『君はゴールを入れたいだろうが、私は失点したくない』とね」ということだったよう。 もうこの時にはカンテラーノ(RMカスティージャの選手)の大型FW、アルバロ・ロドリゲスも入っていましたし、何よりその2分後にはセビージャが自爆。そう、アクーニャがEL決勝に出られない悔しさを今度はセバージョスへの強烈タックルに込めてしまい、レッドカードで退場させられたからですが、いやはや。同僚たちがモウリーニョ監督のチームとの死闘で疲れ果てた後に来る、場合によってはコンフェレンスリーグ出場権のもらえる7位ゲットが必要となるかもしれないリーガの最終節、レアル・ソシエダ戦にも出られなくなってしまったのではねえ。赴任して以来、リーガ11試合で4人も退場者を出しているメンディリバル監督が「ウチはピッチでもベンチでもならず者のように振舞っていてはいけない」と言っていたのも当然だった? おかげでマドリーは長いロスタイム9分も無事にやり過ごし、そのまま1-2で逆転勝利。3位のアトレティコとの差を暫定で勝ち点4に広げたんですが、まあこちらは最終節まで楽しみに結果を待つとして、その日の夜には2部の最終節も行われ、1位と2位が決定。ええ、すでに残留が決定していた弟分、柴崎岳選手のいるレガネスに2-0と快勝したグラナダが1位となり、最短コースで1部復帰を決めただけでなく、アラベスとスコアレスドローしたラス・パルマスも2位で5年ぶりの復帰、残り1座席を争うプレーオフの準決勝はアルバセテvsレバンテ、エイバルvsアラベスという組み合わせに。今季は14位に終わったレガネスも早くこのグループに混じれることを祈っていますが、なかなか先行きが厳しそうなのはちょっと残念だったかと。 そして日曜はメトロポリターノでレアル・ソシエダ戦を見ることにした私だったんですが、シメオネ監督もアンチェロッティ監督を真似したようにグリーズマンのワントップ、FW1人の5-4-1体制でスタートしたのは単なる偶然の一致。これまでほとんど出場していなかったレギロンを左SBとして先発に使ったのは、「Queríamos que Kubo se enfrentara a un lateral y no a un extremo/ケリアモス・ケ・クボ・セ・エンフレンタラ・ア・ウン・ラテラル・イ・ノー・ア・ウン・エクストレーモ(久保のマッチアップはサイドハーフでなく、SBとさせたかった)」(シメオネ監督)という理由だったようですが、どうやらソシエダサイドも「前半は0-0で良かったから、もっと仕掛けようと思ったらできたけど、やらなかった」(久保建英選手)とあまり積極的でなかったのが幸い。 そう、ボールは持たれていたものの、前半37分にはデ・パウルの慧眼がまたしても輝いたんです。センターから彼が放ったロングパスに左サイドラインぎりぎりで追いついたグリーズマンがエリア内まで持ち込み、そこから対角線上に放ったシュートがすっぽりゴールに収まってくれたから、今季ホームで最後にプレーするアトレティコを応援に来たファンたちもどんなに喜んだことか。ただし、当人は「ソシエダは14才の時、フランスでどこのクラブにも入れなかったボクに門戸を開いてくれた。Si soy este jugador es gracias a ellos también/シー・ソイ・エステ・フガドール・エス・グラシアス・ア・エジョス・タンビエン(自分が今の選手になれたのは彼らのおかげでもあるから)」と祝いませんでしたけどね。 折しもその頃には、コリセウム・アルフォンソ・ペレスやエスタディオ・バジェカーノではキックオフ時から、ガンガン降っていた雨がメトロポリターノにも到着することに。ピッチに近い1階席に座っていた観客は気の毒なことになったんですが、この程度の雨に負けていては、前夜、ドシャ降りのブタルケ(レガネスのホーム)でコパ・デ・レイナ決勝のマドリーダービーを戦い、後半43分まで2-0とお隣さんにリードされながら、土壇場に2点を挙げて延長戦入り。日付が変わった深夜のPK戦でマドリーに勝って、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)返し優勝し、ソシエダ戦前にはピッチでトロフィーを披露していた女子チームに笑われてしまうと、私も心配しちゃいましたからね。1-0とリードしてハーフタイムに入れたのは嬉しかったんですが、最近の彼らは1点差では安全圏と言えないのが玉に瑕。 そのせいもあって、後半25分に久保選手とイジャラメンディがアリ・チョとカルロス・フェルナンデスと代わるのと同時にレギロンがコレアに交代。その3分後にはコレアからのパスをグリーズマンがワンタッチでモリーナに繋ぎ、シメオネ監督が「Está entre los mejores laterales de LaLiga/エスタ・エントレ・ロス・メホーレス・ラテラレス・デ・ラ・リーガ(リーガで最高のSBの1人)」と絶賛する彼のシュートが決まって2点目が入った時には皆、安堵したかと思いますが、とんでもない。終盤、頸椎捻挫の治ったモラタとコンドグビアがピッチ脇で入るのを待っているうち、43分にはブライス・メンデスのスルーパスを受けたセルロートに1点を返され、何せ、3点リードしながら、追いつかれたエスパニョール戦はほんの3日前のことでしたからね。 結局、シメオネ監督は選手交代をせず、終了の笛が鳴るまでスタンドも一生懸命応援することになったんですが、いや、驚きました。だってえ、2-1で勝ったのはアトレティコなのに、試合が終わるやいなや、ソシエダ勢がピッチでただ事ではないハイな状態でお祝いを始めたんですよ。静かに場内一周で3位以上確定、来年のスペイン・スーパーカップ出場権ゲットを後押ししてくれたファンに感謝していたホームチームとは対照的に、「We are Real」と書かれたお祝いTシャツには着替えるわ、胴上げはするわと、そうです。彼らも4位以上が確定して、10年ぶりとなるCL出場が決まったということは…。 5位のビジャレアルがラージョに勝てなかったということじゃないですか。そこでイマノル監督がロッカールームでお祝いを続け、なかなか記者会見に出て来ない時間を利用して、バジェカスの試合をようやくチェックしてみたところ、0-0で前半を終えた後、後半10分にはチェバリアのクロスをRdT(ラウール・デ・トマス)がヘッドで先制点を挙げると、17分にはコメサニャがエリア内右奥から敵に競り勝って出したラストパスをイシが決めて、2点をリード。37分にはペドラサのクロスから、ロ・チェルソに頭で1点を返されたものの、2-1で逃げ切って、この試合前に来季は続投しないと発表したイラオラ監督、最後のホームゲームを勝利で飾っているんですから、立派じゃないですか。 これで12位から10位に上がり、コンフェレンスリーグ出場の7位まで、勝ち点差1とラージョができたのには弟分仲間のおかげもあって、いえ、残留が懸かっているヘタフェは何が何でも勝たないといけなかったんですけどね。再び、チームバスを大勢のファンがお出迎えしたコリセウム・アルフォンソ・ペレスにその7位のオサスナを迎えた彼らは開始2分、FKからアリダネ、チミ・アビラとヘッドを繋がれて1点を奪われたとラジオで聴いて、心臓が凍りそうな想いをさせられることに。 得点源のエネス・ウナルが前節のベティス戦でヒザの靭帯断裂、松葉杖をついて見学しているというのにどうするのかとヤキモキしながらも私が展開を追えていないうち、前半38分にはルイス・ミジャのクロスをリーガ初先発のラタサがヘッドで叩き込んで、同点にしていたんですよ。それどころか、引分けかと思われた後半45分にはボルダラス監督第1期の頼りになるエース、マタが1度はGKエレーラに弾かれながら、2度目に撃ったシュートをゴールにして、土壇場で2-1と勝利。胸を張ってコリセウムのファンに別れを告げていたのがわかった時にはどんなに嬉しかったことか。 この日はエスパニョールがバレンシアと引分け、降格2チーム目となったため、14位に上がったヘタフェは今週の日曜午後9時、勝ち点差2で18位にいるバジャドリーとの直接対決で負けても他会場の結果次第では残留可能となったんですが、まあ確実なのはドロー以上。日曜にバルサのカンプ・ノウ&ブスケツ、ジョルディ・アルバお別れ試合で負け、完全に目標のなくなったマジョルカと午後6時30分から対戦するラージョも7位の座を争うオサスナとジローナは直接対決、降格決定後、最強チームと化したエルチェに負けたアスレティックはサンティアゴ・ベルナベウでマドリーに挑むとあって結構、夢を見てもいい気がしますが、さて。ちなみにアトレティコは5位が確定したビジャレアルと当たるんですが、彼らの2位奪取とラージョの7位到達を両立させるにはお隣さんが引分けるのが最適解?果たして最終節はどんな結末に終わるのか、今からドキドキです。 <hr>【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2023.05.30 19:00 Tue
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あと2試合でリーガの全てが決まる…/原ゆみこのマドリッド

「どんな試合になるのか、検討もつかないわ」そんな風に私が困惑していたのは金曜日、リーガ37節のカードをチェックしていた時のことでした。いやあ、もう残り2試合ということで、今週末はセビージャvsレアル・マドリー戦以外、全てキックオフが日曜午後7時(日本時間翌午前2時)にunificacion(ウニフィカシオン/統一)されているんですけどね。要は他試合を気にせず、ゆっくり観戦できるのはマドリーだけということですが、何と土曜午後7時からのサンチェス・ピスファンでの試合前日、アンチェロッティ監督が出した招集リストにはFWが3人しかおらず。しかもそのメンバーが問題で、ロドリゴはともかく、残り2人は今季ずっと員数外だったアザルとカンテラーノ(RMカスティージャの選手)のアルバロ・ロドリゲスって、かなり頼りなく見えない? いえ、もちろんベンゼマには水曜の試合で足を踏まれ、5針縫う切り傷を作りながら、フル出場したという理由がありますし、その兄弟分ダービーを、バレンシア戦で出されたレッドカードは取り消されていたものの、ヒザの痛みで欠場。ペレス会長と並んでパルコ(貴賓席)観戦することにしたビニシウスもアンチェロッティ監督が言うには、セビージャファンの敵対的な雰囲気を警戒してではなく、「no viaja porque no puede jugar/ノー・ビアハ・ポルケ・ノー・プエデ・フガール(プレーできないから遠征に行かない)」そう。アセンシオも筋肉痛でお休みとなったものの、やはりバルデベバス(バラハス空港の近く)のグラウンドに姿が見えなかったマリアーノについては正直、誰も気にしてないかと。 かといって、コンフェレンスリーグ出場圏の7位に届く可能性のあるセビージャが手ぐすね引いて待っているという訳ではなく、そう、彼らも今は来週水曜にブダペストで開催されるローマとのEL決勝しか眼中にありませんからね。一応、メンディリバル監督は「Si veo que no compiten, igual no son titulares ante la Roma/シー・ノー・ベオ・ケ・ノー・コンピーテン、イグアル・ノー・ソン・ティトゥラレス・アンテ・ラ・ローマ(競っていないのを見たら、ローマ戦のスタメンに選ばないかもしれない)」と記者会見で選手たちに警告していたものの、前節引分けたエルチェ戦で一発退場したゲイエ、累積警告になったヘスス・ナバスは出場停止。頭数合わせで、まだ負傷の治っていないジョルダン、マルコン、ニアンズを招集リストに入れたぐらいですからね。 前人未踏のSeptima(セプティマ/7回目の優勝のこと)をEL決勝で果たせば、来季のCL出場権も手に入るため、競争相手が6チームもいるコンフェレンスリーグのため、ちまちま戦っても仕方ないとセビージャが考えるのも当然ですが、そうなるとここ数節、お隣さんと2位争いを繰り返しているうち、ライバル心に火がついたんでしょうか。「Ahora no podemos quedar primeros así que hay que luchar por la segunda/アオラ・ノー・ポデモス・ケダール・プリメーロス・アシー・ケ・アイ・ケ・ルチャール・ポル・ラ・セグンダ(今ではもう1位にはなれないから、2位になるように戦わないといけない)」(カマビンガ)と、リーガでの目標を再設定したマドリーの方が有利にも見えなくありませんが…いえ、どっちもどっちですよ、きっと。 まあ、それはそれで置いておいて、今季最後のミッドウィークリーガのマドリッド勢がどうだったのか、お話ししていくことにすると。私はまず、水曜の早い時間帯に始まるマドリーとラージョの兄弟分ダービーをサンティアゴ・ベルナベウに見に行ったんですが、その試合は先週末、メスタジャで人種差別的野次や猿の物真似をされ、マリオ・ケンペス・スタンドの応援団と対峙したビニシウスにマドリーファンが連帯を示す絶好の機会に。Fondo sur/フォンド・スール(南側ゴール裏席)には「Vinicius somos todos, basta ya/ビニシウス・ソモス・トードス、バスタ・ジャー(私たちは全員、ビニシウス。もう沢山だ)」という横断幕が掲げられ、マドリーの選手たちも揃って彼の背番号20のユニを着て入場したんですが、何せ、今回の人種差別騒動はスペインだけでなく、全世界から非難される大ごとになってしまいましたからね。 そこで珍しく、競技委員会が速攻でメスタジャの該当スタンド5試合閉鎖(上訴委員会で3試合に)と罰金4万5000ユーロ/約700万円(同2万7000ユーロ/約400万円に)を申し渡し、警察も画像で確認できた人種差別行為をした18才から21才の3人を逮捕。バレンシアも彼らをスタジアムから永久追放しただけでなく、マドリッドの警察も時同じくして、1月末のコパ準々決勝マドリーダービー前日に高速道路にビニシウスの首吊り人形をぶら下げた19才から24才の男性4人を逮捕していたんですが、え?ラージョと言えば、ブカネーロス(過激なファンのグループ)もヤバいんじゃないかって? そうですね、おかげでその日のベルナベウ周辺にはCLでもついぞ見たことのない程、大勢の警官がいたんですが、大丈夫。大体がして、ビニシウス本人がベンチにもいませんでしたしね。fondo norte/フォンド・ノルテ(北側ゴール裏席)最上階で応援していた500人程のラージョファンはよく、アウェイゲームに行くとホームファンたちから投げかけられる、「Vallecanos, yonkis y gitanos/バジェカーノス、ジャンキス・イ・ヒターノス(ラージョファン、ジャンキーでジプシー)」というカンティコを自虐的に歌っていたぐらいでしたから、全然、問題は起きませんでしたっけ。 そして試合の方は大舞台に張り切る弟分が序盤から、エリア外シュートを放って積極的に攻めていたんですが、まだ両チーム、無得点だった前半31分、クロースが機転を発揮。ええ、CKを守っていたイシが集団の中で倒れ、一旦、主審がプレーを止めた後、もらったドロップボールを素早くベンゼマに送ったんですよ。バルベルデを経由すると、最後はエースがGKデミトリエフスキをかわして、ゴールを決めてしまったから、ビックリしたの何のって。いやあ、後でイラオラ監督も「La mitad de mi equipo no sabía que sacaban ellos/ラ・ミタッド・デ・ミ・エキポ・ノー・サビア・ケ・サカバン・エジョス(ウチのチームの半数は相手ボールだと知らなかった)」と説明していたんですけどね。 そのせいでラージョが適切な守備体制を取れなかったのが失点の原因ですが、「Antes de sacar hay que aclarar de para quién es el saque/アンテス・デ・サカール・アイ・ケ・アクララル・デ・パラ・キエン・エス・エル・サケ(ドロップボールをする前にどちらのボールかはっきりさせるべきだ)」(イラオラ監督)というのは果たしてルールで決められていることなのか。私にはわかりかねますが、ラージョサイドの抗議も空しく、この1点はスコアに上がり、試合は1-0でマドリーがリードしてハーフタイムに入ります。 そして後半はマドリーがタランタランモードに入ったのもあり、トレホ、チャバリア、RdT(ラウール・デ・トマス)、ファルカオ、サルビと攻撃力アップの選手交代に特化したイラオラ監督の作戦がとうとう39分に実を結ぶことに。サルビの折り返しパスをRdTがエリア内からのシュートでGKクルトワを破り、彼のエスパニョール戦に続く、古巣への恩返しゴールでラージョは同点に追いついたんですが…。 あと終わりまで一息だった44分、昨季はCL決勝トーナメントでマドリーの根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)精神を体現したロドリゴにエリア前からゴールを決められてしまうとは!いやあ、当人によると、このゴールは「Fue para mi hermano y para Vini/フエ・パラ・ミ・エルマーノ・イ・パラ・ビニ(ボクの兄弟、ビニのため)」だったそうですけどね。入団も年も1つしか違わない、同じ肌の色をした彼の方にはまったく人種差別騒動を聞かないのはやっぱり、リーガにいた当時はヘイトクライムに相当する野次をかけられまくられていた、黒人ではないクリスチアーノ・ロナウド(アル・ナスル)やメッシ(PSG)のように、突出した選手だけが標的になるということ? 結局、そのまま2-1で負けてしまったラージョは翌日、バレンシアに勝ったマジョルカにも抜かれ、12位に落ちてしまったんですが、7位まで勝ち点差4というのは変わらず。日曜午後7時の試合ではEL出場圏の5位を確定しながら、まだ5差上のレアル・ソシエダの占める4位のCL出場圏到達を狙っているビジャレアルと対決するんですが、はあ。何でその上、やはり5差もあるアトレティコが、来季のスペイン・スーパーカップ出場権(コパ・デル・レイにマドリーが優勝したため、リーガ3位に回った)を脅かされている云々の流れにスポーツ紙がなってしまったのかというと。 いやまあ、この日曜、アトレティコがメトロポリターノにここ7試合無敗、その途中ではバルサやマドリーにも勝って、前節も久保建英選手のゴールで1-0とアルメリアを破ったレアル・ソシエダを迎えるのは確かですけどね。正直、原因は水曜のエスパニョール戦。だってえ、私が急いでベルナベウを後にし、メトロで移動している最中だった前半21分にはRCDEスタジアムでエルモーソのセンターからのロングパスを追って爆走したサウールが先制点をゲット。GKゲルビッチがparadon(パラドン/スーパーセーブ)連発だったのはラジオで聴いていても、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に着いてすぐだった44分にはラッキーにも2点目が入ったんですよ。 そう、この時のサウールのシュートはGKパチェコに弾かれてしまい、続くカラスコもゴールポストに当ててしまったものの、グリーズマンの最後の一撃をGKが掻き出した位置がゴールラインを越えていたとVAR(ビデオ審判)が連絡。おまけに後半開始数秒でコレアのエリア外からのシュートをパチェコが弾いたボールに詰めたカラスコが3点目を挙げたため、これは降格圏19位にいるエスパニョールにはあまりにきつい仕打ちだと私も同情してしまった程だったんですが、とんでもない。 19分にCKからモンテスがヘッドでゴールを決めて、反撃の狼煙を上げた相手は、モリーナがエリア内からのシュートを敵DFにゴール前でクリアされ、アトレティコが追加点のチャンスをモノにできなかったのが追い風になりましたかね。31分にはゲルビッチにプアドがエリア内で倒されてPKをもらうと、エースのホセルが決めて2点目。これで1点差になってもコレアとデ・パウルを下げ、カンテラーノのカルロス・マルティンとバリオスを入れたシメオネ監督にもちょっと首を傾げたんですが、34分にはアレイシ・ビダルのクロスをビニシウス・ソウザに頭で叩き込まれ、とうとう3-3に追いつかれているって、一体、どうなっている? うーん、前節のオサスナ戦ではクラブが設定したDia del Nino/ディア・デル・ニーニョ(子供の日)のお祭り効果で3-0と快勝していた彼らだったんですけどね。後でコケも「Desconexión total/デスコネクシオン・トタル(完全なスイッチオフ)」と言っていたんですが、1-0で負けたエルチェ戦同様、またアトレティコの選手たちはバケーションに入ってしまったよう。終盤は勝ち越し点を狙うどころか、コンドグビアとレギロンを入れて、何とかドローで御の字という結果に。ヒメネスなども「Siento vergüenza de lo que ha pasado/シエントー・ベルグエンサ・デ・ロ・ケ・ア・パサードー(起こったことを恥ずかしく感じる)。0-3で勝っていながら、引分けたなんて、子供たちにどう説明していいかわからないよ」と神妙にしていたんですが、シメオネ監督になってからでさえ、彼らは太古からの悪癖を完全に駆逐できていませんからね。 まあ幸い、アトレティコの2点目はボールが完全にラインを越えているのを示す映像がないため、バレンシアvsマドリー戦でウーゴ・ドゥーロに首を絞められているシーンが省かれ、ビニシウスが彼の顔を叩いたところだけ見て、主審が出したレッドカードが後日、取り消されたように、VARの落ち度により、無効試合にするよう、エスパニョールが申し立ているのもスルーされそうな感じですしね。こういう欠点もアトレティコあるあるとして受け入れるしかないかと。頸椎捻挫でこの試合をお休みしたモラタもレアル・ソシエダ戦には戻って来れそうですし、唯一、残念なのは2位をキープできなかったのはともかく、残留を争っている弟分、ヘタフェの援護射撃ができなかったことなんですが…。 とうとう勝てたんですよ、それも6位のベティスに。そう、アトレティコと同じ時間にキックオフしたベニト・ビジャマリンでは前半10分にエースのエネス・ウナルが負傷。ラタサと交代する逆境に見舞われたボルダラス監督のチームですが、相手がチャンスをことごとくムダにしてくれたのが運を引き寄せました。後半23分、ミジャの蹴ったCKをアンデレテがヘッドで撃ち込み、虎の子の1点を奪ったとなれば、翌日にはクラブがヘルタ・ベルリンからレンタルする際につけた買取オプション400万ユーロ(約6億円)を行使して、来季も彼にヘタフェの選手でいてもらうことにしたのも無理はない? 15分を残してベティスのペッツェラがレッドカードで退場したのにも助けられ、そのままヘタフェは0-1で逃げ切って勝ち点3を獲得。順位も18位から、降格圏外の16位へと上がったんですが、まだまだ安心するには程遠く、17位のカディスと18位のバジャドリーとポイント数が同じですからね。もうここは、コリセウム・アルフォンソ・ペレスで今季最後の試合となる日曜のオサスナ戦に何が何でも勝って、現時点で7チームが絡む最終節のガラガラドボンに巻き込まれないことを祈るばかり。返す返すも痛いのはヒザの靭帯断裂と診断されたウナルの欠場ですが、嘆いている時間もないため、ベティス戦ではDFがゴールを決めたように、残り2試合は全員がFWの覚悟で挑んでくれたらと思います。 <hr>【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2023.05.27 19:00 Sat
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優勝は決まっても他はまだ決まっていない…/原ゆみこのマドリッド

「何も揃って水曜にしなくてもいいのに」そんな風に私が溜息をついていたのは月曜日、リーガはあと3節しかないというのに、マドリッド勢のミッドウィークの予定が全て同じ日に集中していることに気がついた時のことでした。いやあ、実はこの責任は先週、ユベントスを破り、EL決勝進出を決めたセビージャにあって、ブダペストでローマと対決する大一番は5月31日(水)に開催。そのため、リーガ最後の2節はキックオフ日時のunificacion(ウニフィカシオン/統一)で日曜午後7時に10試合一斉にプレーするはずだったのをラ・リーガが気を利かせ、セビージャvsレアル・マドリー戦だけを土曜に前倒しすることに。おかげ木曜に設定されていた36節、マドリーvsラージョの兄弟分ダービーが水曜に繰り上がったという事情もあるんですけどね。 それはまだいいとしても許せないのは、うーん、4月の末から5月頭にかけてミッドウィークリーガが2週連続あった時もそうだったんですが、またしてもアトレティコとヘタフェの試合が同日同時刻に設定。ホームなら一方は完全に捨てるしかなく、アウェイだって、大抵のバル(スペインの喫茶店兼バー)は1カードしか店内のTVで流してくれず、需要に応じて兄貴分が優先されるのは仕方ありませんがませんからね。これってもしや、ラ・リーガがどちらのチームも応援しているマドリッドのサッカーファンに嫌がらせしている? まあ、弟分がすでに宿題を済ませていたら、それ程、私も怒りも感じないんですが、先週の土曜、前回から1カ月以上も間を空けて、私がコリセウム・アルフォンソ・ペレスで観戦することができたエルチェとの試合でもヘタフェは期待された結果を出せず。ええ、サンティアゴ・ベルナベウでの兄弟分ダービーで勝ち点が取れないことは織り込み済みで、この日の勝ち点3を当てにして、すでに2部降格が決定して2試合目となる相手を迎えたんですけどね。キックオフ1時間半前にスタジアム入りするチームバスを盛大にbengala(ベンガラ/発煙筒)を焚いて、熱く歓迎をしてくれたファンに応えることができなかったんですよ。 いえ、立ち上がりは良く、前半8分にはダミアンのクロスを反対サイドにいたムニルが撃ち込んで、先制点を取ることができたんですけどね。そのまま直近のホームゲーム、3分にPKでエネス・ウナルがゴールを挙げたセルタ戦のように、最後まで虎の子の1点を守り切るのかと思いきや、とんでもない。35分にアランバリがもう今季、何度目かわからない足首の負傷を再発し、泣きながら、ファン・イグレシアスと交代せざるを得なくなったのもチームメートにもショックを与えたんでしょうか。あと一息でハーフタイムというロスタイム、CKからエルチェのエース、ボジェにヘッドを決められ、同点に追いつかれてしまったから、さあ大変! 後半はマジョラルやポルトゥ、ゴンサロ・ビジャル、ラタサらを投入して、勝ち越し点を狙ったんですが、いえ、ボルダラス監督は「Miedo se tiene a la muerte, no a un partido de fútbol/ミエードー・セ・テシエネ・ア・ラ・ムエルテ、ノー・ア・ウン・パルティードー・デ・フトボル(恐れは死に対して抱くもの。サッカーの試合にではない)」と言っていたんですけどね。ゴールを入れようと焦ったヘタフェの選手たちはパスが3度も続かない状態に陥ってしまうわ、またしてもマジョラルは絶好機にシュートを敵GKに向けて撃ってしまうわと、スコアボードは最後まで1-1のまま動かず。対照的にエルチェは前節、アトレティコに1-0で勝つなど、降格が決まってから、伸び伸びプレーできるようになっていましたからね。4-0のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らったラージョのような目に遭わなかっただけでもマシですが、おかげでコリセウム上空にも本当に残留達成できるのかという恐怖の暗雲が大きく立ち込めることに。 まあ、それでも勝ち点1を稼いだことでバジャドリーが18位に落ち、ポイントは同じでもヘタフェは17位と降格圏外に上がれたんですけどね。要はこの水曜、アンダルシアーダービーでセビージャとスコアレスドローとし、6位のEL出場圏でのフィニッシュが濃厚となったベティスとのアウェイゲーム、続くオサスナ戦、バジャドリー戦で下2チームより勝ち点を増やせれば、残留は決して不可能ではないんですが、懸念の種は19位だったエスパニョールにも勝ち点1差に迫られてしまったこと。それもこれも翌日曜、弟分仲間が援護射撃に失敗してしまったせいなんですが…。 そう、ここ3連勝中のエスタディオ・バジェカスにエスパニョールを迎えたラージョだったんですが、もしや前節は自分たちのホームで優勝を決められただけでなく、月曜には3時間にも渡る市内祝賀パレードでバルセロナ中を練り歩かれ、街がバルサ一色に染められてしまった鬱憤も相手にはあったんでしょうか。ピンクのアウェイユニを着たルイス・ガルシア監督のチームはブラースヴァイトもケガでいませんでしたし、それ程、怖くは見えなかったにも関わらず、前半22分にはオスカル・ヒルがエリア内で落としたボールをパテ・シスがクリアミス。ダルデルに先制ゴールを決められて、出鼻をくじかれてしまうことに。 いやあ、ラージョも反撃して、41分にはエリア内でオスカル・ヒルが犯したハンドから、RdT(ラウール・デ・トマス)がPKゴールを決め、一旦、同点に追いついたんですけどね。続く時間帯のアトレティコの試合に間に合わせるべく、にわか雨が激しく降りだす中、私がバジェカスを出なければならなかった後半はかなり、攻守交替の激しいせめぎ合いになったよう。ただ得点は13分、ダルデルのシュートはゴールポストに当たったものの、その跳ね返りをメラメドが押し込んだ1点だけで、イシがゴール前からのシュートを天高く撃ち上げてしまったこともあり、そのままラージョは1-2で負けてしまうんですから、まったく悔しいじゃないですか。 もちろん、すでに残留が確定しており、勝ち点差4の7位まで上がって、来季コンフェレンスリーグに出場できたらいいなとボンヤリ思っているラージョと、3年前の2部降格の悪夢を絶対避けたいと戦っているエスパニョールとは試合に対する覚悟が違って当然なんですけどね。「数字的なオプションはまだあるから、ウチは最後まで戦うが、creo que está prácticamente imposible/クレオ・ケ・エスタ・プラクティカメンテ・インポシーブレ(実際的にはほぼ不可能だと思う)」とイラオラ監督も言っていたように、11位のラージョの上にはアスレティック、ジローナ、セビージャ、オサスナと4チームもいますからね。 ただ次節の水曜午後7時30分(日本時間翌午前2時30分)、ベルナベウにマドリーを訪ねる試合はトリッキーで、今は相手もゴタゴタしているため、運が良ければ、勝てるかもしれないんですが、ま、それは後で話すとして。今はアトレティコが前節、バケーション気分でプレーして負けたエルチェ戦をしっかり反省。メトロポリターノでファン公開練習をした土曜から開催されている、Dia del Nino/ディア・デル・ニーニョ(子供の日)のオサスナ戦を見に来たファンを喜ばすことができたのかどうかというと。 それが何か、最近のアトレティコはお祝い事が好きみたいで、シメオネ監督のクラブ歴代最多指揮試合数を達成した日や創設120周年記念の日のように盛り上がってしまったんですよ。幸いキッズパークのアトラクションもバジェカスより西にあるこちらでは雨の被害を受けなかったようで、選手たちも子供連れが多数。皆、キックオフ前に記念写真を撮るため、ボールが動きだすまでにちょっと時間がかかったんですが、序盤から、グリーズマンやサウールがシュートをゴール枠に当てるわ、モラタは2度もオフサイドで認められないゴールを決めるわと、彼らは積極的に攻めていくことに。とはいえ、先制点が入ったのはちょっと遅くて、前半44分になってからのことでした。 ええ、センターサークルでダビド・ガルシアとボールを争ったモラタが倒れているのをスルーして、サウールが蹴ったロングボールをグリーズマンが追い、エリア内でカラスコにアシストしてゴールが生まれたんですが、チームの半数が片側で祝っている間、モラタがメディカルスタッフに介抱されていたのはなかなかシュールな光景だったかと。結局、首を痛めた当人は頸椎捻挫で前半残り時間をプレーせず、ハーフタイムでコレアと交代したんですが、え?ということはメンフィス・デパイもいつ戻れるのかわからないですし、残り3試合、アトレティコのFWはグリーズマンとコレアだけ? その心配はまた後日にすることにして、その日は大丈夫でした。というのもオサスナが後半、チミ・アビラを引っ込め、5人DF制に変えたのも影響せず、17分にはデ・パウルがエリア内に送ったパスをサウールが胸トラップ、落としたボールをシュートして2点目を決めてくれたから。いえ、レマルの負傷で先発予想に入っていたのは19才のバリオスだったんですけどね。意表を突くスタメン出場で、カンテラーノ(アトレティコB出身の選手)の序列を教えてくれるとはまったく、いい先輩じゃないですか。そして37分にもデ・パウルが閃き、今度はスルーパスをアルゼンチン代表W杯優勝仲間のコレアにプレゼント。こちらもGKエレーラを破り、ようやく4月上旬に病気で亡くなったお母さんに捧げるゴールを挙げることができましたっけ。 結局、コパ・デル・レイ決勝でマドリーに負けた後、アルメリアにはエル・サダルで勝ったものの、アトレティコと競える程、体力気力が残っていなかったオサスナはそのまま一矢も報いることなく、3-0でホームチームが快勝。これでシメオネ監督は11年連続のCL出場を確定したんですが、W杯前のCLグループリーグ最下位敗退イコール、ヨーロッパからの完全撤退を含む、超ダメダメ状態から立ち直り、ここまで辿り着いたのは大いに賞賛されてしかるべきかと。 どうやらこれには、「11月には入院していて、医者にほとんど死んでいると言われていた。Trabajamos día a día, buscando qué podíamos hacer... Nos preocupamos por lo que podíamos mejorar/トラバハモス・ディア・ア・ディア、ブスカンドー・ケ・ポディアモス・アセル…ノス・プレオクパモス・ポル・ロ・ケ・ポディアモス・メホラル(毎日、毎日、働いて、できることを探して、改善できることに取り組んだ)」(シメオネ監督)という、スタッフ、選手全員の地道な努力があったようなんですけどね。この時点で再び、お隣さんを追い越し、アトレティコは2位になったものの、どうせマドリーはバレンシアに勝つだろうし、次節水曜午後10時(日本時間翌午前5時)からのエスパニョール戦でヘタフェの援護射撃ができればいいと、メスタジャでの前半33分、クライファートのシュートをルュデガーもミリトンもクリアせず、ディエゴ・ロペスに先制点を取られたことはあまり気にせず、メトロに乗った私でしたが…。 いやあ、まさか後半15分過ぎに近所のバルに着いたところ、そこからとんでもない展開を目にすることになるとは!ピッチで騒動が始まったのは24分、まさかビニシウスとフルキエがバレンシアのエリア左奥でボールを争っている最中、そこにもう1個、ボールが飛んできたから、ビックリしたの何のって。実はこれ、スタンドから放り込まれたものをキュメルトが邪魔してやろうと蹴ったようですが、いくら降格の危機に瀕しているチームとはいえ、何をどう思えばそうなる?その時はキュメルトにイエローカードが出て、プレーはFKで再開されることになったんですが、一向に始まりません。それはビニシウスがスダンドのバレンシアファンから差別主義的な野次を受けたと抗議して、その張本人を指さしに行ったから。 うーん、彼はメスタジャ入りの時から、「Eres un mono/エレス・ウン・モノ(お前はサルだ)」と歌われていて、ずっとイヤな思いをしていたんですけどね。この時は警察官が猿の真似をしたファンをスタンドから追放して事を収めたんですが、ビニシウスもアンチェロッティ監督の交代した方がいいという勧めに従っていればねえ。この中断のせいで10分と出た長いロスタイム、クロースのFKをparadon(パラドン/スーパーセーブ)で逸らせたGKママルダシビリがビニシウスに突撃したことから、再びピッチはtangana(タンガナ/小競り合い)状態となり、ウーゴ・ドウーロに首を絞められたビニシウスが腕で相手の顔を払い、レッドカードで退場とはもう、メチャメチャですよう。 ロッカールームに引き揚げる時、ビニシウスがVサインを下に向けて、相手の2部落ちをあげつらったのも場内の敵意に拍車をかけたなんてこともあったんですが、こんな状態ではマドリーもお家芸、根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)を発現することができず、試合はそのまま1-0でバレンシアが勝つことに。勝ち点40を貯めて降格の危険を回避したんですが、とにかく試合後はビニシウスの受けた人種差別的野次の話題一辺倒です。まあ、当人から、SNSで「En Brasil, España es conocida como país de racistas/エン・ブラシル、エスパーニャ・エス・コノシーダ・コモ・パイス・デ・ラシスタス(ブラジルでスペインは人種差別主義者の国として知られている)」とまで書かれては、スペインのマスコミもそうじゃないと言い張るしかないですからね。 ただ、アンチェロッティ監督が「Nunca he visto un estadio entero haciendo un insulto racista/ヌンカ・エ・ビストー・ウン・エスタディオ・エンテーロ・アシエンドー・ウン・インスルト・ラシスタ(スタジアム中が差別主義的侮辱をしているのは見たことがない)」と怒っていたのは、ビニシウスが退場する際、皆が「Tonto, tonto/トント(バカ)」と唱和していたのを「mono(モノ/サル)」と聞き間違えたんじゃないかという、バレンシア側の主張もあったんですが、どちらにしろ失礼は失礼。要は根本的に差別主義者かどうかは別として、そういう野次を飛ばすファンには人に対する礼節が欠けているんじゃないかと思うんですが、さて。 こんな調子でマドリーの敗戦自体についてはあまり問題視されていないんですが、とにかくCL準決勝2ndレグでマンチェスター・シティにボロボロにやられたショックもありますしね。実際、いいプレーもできていなかったため、その辺が水曜に彼らに挑むラージョのつけどころになる?一応、マドリーもCL出場権は確定していますし、ここはリーガの順位に応じた分配金が700万ユーロ(約11億円)程、増えると喜んでいる、あまり裕福ではないお隣さんに2位を譲ってあげてもいいかもしれませんね。 <hr>【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。 2023.05.23 20:00 Tue
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