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サガン鳥栖躍進の立役者/六川亨の日本サッカーの歩み
2021.08.24 20:30 Tue
Jリーグは8月13日に2回目となる今シーズンの移籍ウインドウを閉じた。昨シーズンと違い、J1とJ2も降格があるためか、チームによっては積極的な動きを見せ、早くも効果の現れたチームがある。
14日のJ1リーグ第24節では、柏から浦和に加入した江坂任が鳥栖戦でPKから決勝点を奪い2-1の勝利に貢献した。そして浦和から横浜FMに新天地を求めた杉本健勇は、12日の名古屋戦(第18節)で得意のヘディングから移籍初ゴールとなる先制点を決めてチームを2-0の勝利に導いた。
彼ら以外にも、21日の第25節では6年ぶりにJリーグへ復帰した神戸の武藤嘉紀が、鹿島戦の後半34分に好判断からの絶妙クロスで決勝点をアシストして健在をアピールした。
その第21節で試合を取材して驚いたのが、柏対鳥栖の一戦だった。何に驚いたかというと、鳥栖の完成度の高いサッカーと、それを実現した金明輝監督の手腕に、である。
鳥栖が選手への高額な人件費などで約7億円の債務超過に陥っていたのは周知の事実。それでも昨シーズンは13位でJ1残留を果たしたが、今シーズンは特にチーム名は上げないが、鳥栖が降格候補の1チームであったことに異を唱える人はいないだろう。
加えて今シーズン開幕前は加入1年目で活躍した右SB森下龍矢を名古屋に、東京五輪後はストライカーの林大地をシント=トロイデンに引き抜かれた。また、チームの中心であった生え抜きのMF松岡大起も清水エスパルスへと移籍した。にもかかわらず、現在の順位をキープしているのは“奇跡”と言ったら大げさだろうか。
実際の試合では、ワンタッチやツータッチのパス交換でゴールをこじ開けて来た。柏戦でもボールポゼッションで圧倒して3-1の勝利を収めたが、鳥栖の凄さが表れていたのが2点目だった。
前半29分にパスをつなぎ始め、幅と深さを使ったパス交換で守備を崩す。柏の選手に奪われることなく21本のパスをつないで、最後は仙頭啓矢のクロスを中野嘉大がボレーシュート。これはGKキム・スンギュに弾かれたが、仙頭に戻しのパスを出した小屋松知哉がフリーで押し込んでリード広げた。小屋松、仙頭、中野はいずれもワンタッチだったため、柏DF陣も対応が遅れた。
鳥栖が鮮やかなのは、ワンタッチ、ツータッチでパスをつなぐために、パスの受け手となる選手の動き出しが相手より早いことと、その動きに連動して複数の選手が反応していることだった。だからこそ、ワンタッチでのプレーが可能になる。
そして、言葉にすれば簡単なことでも、サッカーではいざ実践するとなると上手くいかないことが多い。ところが金監督は、柏戦では8月上旬に移籍してきた選手をスタメンで起用すると、何の違和感もなく“鳥栖スタイル”のサッカーで柏を粉砕した。
右サイドMFの小泉慶とインサイドハーフの白崎凌兵は8月10、11日に移籍してきて10日あまりだが、すでに何年も鳥栖でプレーしているかのように、すっかりチーム戦術に適応していた。元々のポテンシャルが高かった上に、2人とも鹿島からの移籍ということで気心が知れていたのかもしれない。
今シーズン、京都から完全移籍した仙頭と、2シーズン目となる小屋松は京都橘高校の先輩後輩の間柄。だからといって2人の間に共通した“サッカー言語”が存在するかどうかは別問題としても、チームの完成度は高い。
ここらあたり、シーズンを通じたチーム作りが着実に進んでいる証拠かもしれない。当の金監督は試合後に「我々はボールポゼッションや細かいパス回しにこだわっていません。試合に勝つことにこだわっているので、選手たちが判断してやったということです」と謙遜する。
Jリーグの監督には、自分の理想とするスタイルを追求してコツコツとチーム作りを進めるタイプもいれば、選手の適性と能力を見抜いて獲得し、新たなタスクを与えることで才能を開花させる監督もいる。
前者の代表例が元川崎Fの風間監督であり、かつては広島や浦和を指揮し、現在は札幌のペトロヴィッチ監督だろう。そして後者なら浦和のリカルド・ロドリゲス監督やFC東京の長谷川監督、柏やG大阪の監督を務め、元日本代表の監督だった西野氏と言えるかもしれない。
そして金監督は、その中間に位置している監督のような気がする。鳥栖の快進撃とあわせて、その手腕に注目したい監督でもある。
【文・六川亨】
14日のJ1リーグ第24節では、柏から浦和に加入した江坂任が鳥栖戦でPKから決勝点を奪い2-1の勝利に貢献した。そして浦和から横浜FMに新天地を求めた杉本健勇は、12日の名古屋戦(第18節)で得意のヘディングから移籍初ゴールとなる先制点を決めてチームを2-0の勝利に導いた。
その第21節で試合を取材して驚いたのが、柏対鳥栖の一戦だった。何に驚いたかというと、鳥栖の完成度の高いサッカーと、それを実現した金明輝監督の手腕に、である。
鳥栖が選手への高額な人件費などで約7億円の債務超過に陥っていたのは周知の事実。それでも昨シーズンは13位でJ1残留を果たしたが、今シーズンは特にチーム名は上げないが、鳥栖が降格候補の1チームであったことに異を唱える人はいないだろう。
それがフタを明けてみれば、第25節終了時点でACL圏内の3位(勝点44)と大健闘。4位神戸とは同勝点、5位の名古屋とは1勝点差、6~7位の鹿島と浦和とは3勝点差と気の抜けない状況ではあるが、ライバルはいずれもリーグ優勝や天皇杯を獲得したことのある強豪だ。
加えて今シーズン開幕前は加入1年目で活躍した右SB森下龍矢を名古屋に、東京五輪後はストライカーの林大地をシント=トロイデンに引き抜かれた。また、チームの中心であった生え抜きのMF松岡大起も清水エスパルスへと移籍した。にもかかわらず、現在の順位をキープしているのは“奇跡”と言ったら大げさだろうか。
実際の試合では、ワンタッチやツータッチのパス交換でゴールをこじ開けて来た。柏戦でもボールポゼッションで圧倒して3-1の勝利を収めたが、鳥栖の凄さが表れていたのが2点目だった。
前半29分にパスをつなぎ始め、幅と深さを使ったパス交換で守備を崩す。柏の選手に奪われることなく21本のパスをつないで、最後は仙頭啓矢のクロスを中野嘉大がボレーシュート。これはGKキム・スンギュに弾かれたが、仙頭に戻しのパスを出した小屋松知哉がフリーで押し込んでリード広げた。小屋松、仙頭、中野はいずれもワンタッチだったため、柏DF陣も対応が遅れた。
鳥栖が鮮やかなのは、ワンタッチ、ツータッチでパスをつなぐために、パスの受け手となる選手の動き出しが相手より早いことと、その動きに連動して複数の選手が反応していることだった。だからこそ、ワンタッチでのプレーが可能になる。
そして、言葉にすれば簡単なことでも、サッカーではいざ実践するとなると上手くいかないことが多い。ところが金監督は、柏戦では8月上旬に移籍してきた選手をスタメンで起用すると、何の違和感もなく“鳥栖スタイル”のサッカーで柏を粉砕した。
右サイドMFの小泉慶とインサイドハーフの白崎凌兵は8月10、11日に移籍してきて10日あまりだが、すでに何年も鳥栖でプレーしているかのように、すっかりチーム戦術に適応していた。元々のポテンシャルが高かった上に、2人とも鹿島からの移籍ということで気心が知れていたのかもしれない。
今シーズン、京都から完全移籍した仙頭と、2シーズン目となる小屋松は京都橘高校の先輩後輩の間柄。だからといって2人の間に共通した“サッカー言語”が存在するかどうかは別問題としても、チームの完成度は高い。
ここらあたり、シーズンを通じたチーム作りが着実に進んでいる証拠かもしれない。当の金監督は試合後に「我々はボールポゼッションや細かいパス回しにこだわっていません。試合に勝つことにこだわっているので、選手たちが判断してやったということです」と謙遜する。
Jリーグの監督には、自分の理想とするスタイルを追求してコツコツとチーム作りを進めるタイプもいれば、選手の適性と能力を見抜いて獲得し、新たなタスクを与えることで才能を開花させる監督もいる。
前者の代表例が元川崎Fの風間監督であり、かつては広島や浦和を指揮し、現在は札幌のペトロヴィッチ監督だろう。そして後者なら浦和のリカルド・ロドリゲス監督やFC東京の長谷川監督、柏やG大阪の監督を務め、元日本代表の監督だった西野氏と言えるかもしれない。
そして金監督は、その中間に位置している監督のような気がする。鳥栖の快進撃とあわせて、その手腕に注目したい監督でもある。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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