五輪増刊号は「売れない」理由/六川亨の日本サッカー見聞録

2021.08.13 19:30 Fri
Getty Images
“五輪ロス"のスポーツファンが多いかもしれないが、サッカーファンは中断されていたリーグ戦が再開され、人数制限があるとはいえ五輪と違い有観客で開催されているため、久々のライブ感を楽しんでいるファンもいるのではないだろうか。
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J1リーグの神戸はFW古橋亨梧こそセルティックに移籍したが、武藤嘉紀と大迫勇也を完全移籍で補強しただけでなく、元バルセロナのFWボージャン・クルキッチまで獲得した。まだ彼のデビュー戦の日程は決まっていないが、チーム構成はシーズン開幕前と大きく変わった。同じことは浦和にも言えるだろう。6月に柏からFW江坂任を獲得したのに始まり、FW杉本健勇やMF武田英寿を期限付き移籍で放出しつつ、CBに新外国人のアレクサンダー・ショルツを補強したのを始め、ノルウェー1部リーグのスターベクIFからは190センチの長身FW木下康介(26歳)を獲得した。
木下は横浜FCユースからドイツ(フライブルク)に渡ったため、Jリーグでのプレー経験がない。このためどんなプレーをするのか未知数だが、元日本代表FWの杉本を放出してまで獲得しただけに、浦和フロントの期待の大きさがうかがえる。

この2チームだけでなく、チームの主力選手の顔ぶれが変わったチームも多いだけに、開幕前のサッカー専門誌の「選手名鑑」はほとんど役に立たなさそうだ。本誌の特集でもいいから、選手の移籍相関図を整理してもらえると助かるのだが……。
そのサッカー専門誌だが、12日にサッカーダイジェストが東京五輪の総括特集を組んだ。ただし、「増刊号」ではないのが、W杯と五輪の違いかもしれない。

日本が28年ぶりに五輪に出場した96年アトランタ五輪では、ダイジェスト時代に大会を展望する「増刊号」を出した。しかし結果は残念ながらグループリーグで敗退したため、本大会を特集した「増刊号」は出せなかった。

同じように00年シドニー五輪、04年アテネ五輪、08年北京五輪、12年ロンドン五輪と、サッカー専門誌は予選を振り返り、本大会を展望した「増刊号」を出したものの、ロンドン五輪を除き本大会を網羅した「増刊号」は出していない。

理由は色々あるが、一番大きいのは「売れないから」に尽きるだろう。ロンドン五輪は44年ぶりにメダルの可能性があったため、サッカーダイジェストは「増刊号」を出した。結果は4位だったが、すでに発刊の準備を進めていたため、結果にかかわらず増刊号を出すしか選択肢はなかった。

それはそれで、拍手を送りたい。結果を活字と写真で後世に残すことは出版文化の使命だと考えるからだ。

ではなぜ売れないのかというと、W杯に比べて大会のレベルが低く、注目選手が出場していないため話題性に欠けることはもちろんだが、五輪は日本戦以外の情報量が圧倒的に不足しているからだ。

中2日の連戦は体力的にハードであると同時に、全試合が同じ日に開催される。さらに五輪はサッカー以外にも連日のように多くの競技が開催されるため、日本戦以外の試合がライブでテレビ中継されることもなければ、録画でも放映されない。

これがもしも今回の東京五輪が有観客で開催されて、他の試合を日本のサッカーファンが観戦したら、ブラジルやスペイン、メキシコだけでなくアルゼンチンやドイツ、ニュージーランドも口コミで話題になっていたかもしれない。

W杯では1ヶ月近く、連日のように試合が放映され、素晴らしいプレーはニュース映像でも流され、普段はあまりサッカーと縁のない視聴者にも訴求効果がある。

例えば昨日までメッシを知らなかった主婦層が、ワイドショーでパリSGへの移籍を報じられたことで名前を知るようになる。そうした効果がW杯にはあるが、残念ながら五輪はサッカー以外にもトピックスがあふれているため、よほど活躍しない限り取り上げられることはない。

東京五輪では、目標とした金メダルには届かなかったが、銅メダルの可能性はあった。それでもサッカーダイジェストは「増刊号」ではなく「本誌」で五輪を特集して総括した。これが残念ながら、現在の日本サッカーを取り巻く現実でもあるだろう。

もしも日本が男女とも金メダルを獲得したら「増刊号」は出ていたのか? それは次の楽しみにとっておきたい。


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