今季の判定基準とVARに期待すること/六川亨の日本サッカー見聞録
2021.02.20 13:30 Sat
JFA(日本サッカー協会)は2月16日、今年最初となるレフェリングの判定基準(スタンダード)とVARの説明会を開催した。これは今シーズンのJリーグの判定基準を紹介するもので、ルールに変更があった場合は適用される時期も含めて把握しておかなければならない重要なブリーフィングだ。
(1)コンタクトプレーについては昨シーズン同様、レフェリーは選手が倒れたからといって簡単に笛を吹かずノーファウルとする。
(2)昨年7月に改正された通り、守備側の選手がスライディングで倒れた際に、攻撃側の選手のクロスが手に当たったとしても、守備側の選手の手は体を支えるためハンドとならない。ただし、その手が横や縦に伸びていたらハンドとなる。
(3)オフサイドでは、直接ボールに触れなくても、インパクト(妨害)するプレー、GKを惑わすようなプレーはオフサイドであることが確認され、具体例としてクラブW杯決勝のバイエルン・ミュンヘンのレバンドフスキのプレーが指摘された。
(4)著しく不正な、一発レッドに相当するプレーは、ファウルを受けた選手のチームが1タッチでゴールできるなど得点に結びつく可能性があればアドバンテージを取るが、そうでなければ攻撃側のアドバンテージは取らず、プレーを止めて不正を行った選手を即座に退場処分にする。
これは、アドバンテージによるプレー続行で、ファウルを犯した選手が万が一にも得点したり、さらなるカードに値するプレーをしたりした場合など余計なリスクを背負うことになるからだ。本来なら退場にする選手が新たなアクションに関与してしまうことを避けるためである。
ただ、不正なプレーがイエローの場合は、主審の判断により攻撃側のアドバンテージをとることは認められる。
そして最後に、昨シーズンは第1節で終わったVARの説明が行われ、「どこまで戻ることができるか」についてのレクチャーがあった。VARらはスタジアム外のコンテナ内などで映像を見ながら、プレーをチェックしている。J1リーグでは12台のカメラが映像をとらえ、1プレーにつき3~4台のカメラでチェックしているそうだ。
そこであるチームがボールを奪い、攻撃をスタートさせるとVARは「APPスタート」と言って映像をチェックする。このAPPとはVARのタグ付けを意味し、「事象に関して最後の攻撃の起点にタグ付け」することだという。
そう言われてもピンとこない読者も多いのではないだろうか。そこでヒントになるのが昨年のACL準決勝、蔚山現代対神戸戦である。
試合は52分に右CKから山口蛍のゴールで神戸が先制した。さらに75分、MF安井拓也のボール奪取から神戸はカウンターを仕掛け、最後はMF佐々木大樹が押し込んで追加点を奪ったかに見えたが、VARによるオンフィールドレビューの結果、主審はゴールを取り消した。
安井がボールを奪った時点でAPPはスタートし、ゴールが決まったものの事象は安井まで戻された。そして安井のプレーが反則か反則ではないかのジャッジで、最初はノーファウルと判定した主審がオンフィールドレビューを見てジャッジを覆したため、神戸の追加点は取り消された。
このプレーに関しては昨年末のコラムでも書いた。安井のプレーが反則かどうか。これはもう主観の問題のため論議しても結論は出ないだろうし、主審がジャッジを下した以上、それを覆すことはできない(その後、蔚山の同点ゴールに副審はオフサイドのフラッグを上げたものの、VARでゴールが認められ、延長で神戸はPKからの失点で敗退)。
日本(Jリーグ)においてVARは、2019年にルヴァン杯(決勝トーナメント)などで試験的に採用され、リーグ戦では20年のJ1リーグから本格運用する予定でいた。しかしご存じのようにコロナ禍でリーグは延期され、VARも密になることなどから採用が見送られた。
このため今シーズンが実質的な本格運用となる。そこで気になるのが、「VARオンリーレビュー」と「オンフィールドレビュー(OFR)」の違いだ。
両者の違いについてJFAのHPには、
「VARオンリーレビュー(VARの助言だけ)」→オフサイドポジションでいたかどうか? ボールが手にあたったかどうか? という、映像から事実として確認できる事象に対して使用する。
それに対して
「オンフィールドレビュー(OFR。主審が映像を確認する)」→選手同士がどの程度の強さで接触したのか? ボールが腕にあたったが意図的であったか? また、その腕を用いて自身の体を不自然に大きくしたか? という、主観的な判断が必要となる事象に対して使用する。
とある。前者は明らかな事実を確認できるため、確認中に映像がスタジアム内のオーロラビジョンに流されることはない。それに対して後者はファン・サポーターも映像を確認できるものの、あくまで最終決定権は主審にある。
この「主観的な判断」が正しいのかどうか。これこそが一番難しい判断ではないだろうか。VARの本格導入により、例えばゴール後の歓喜のシーンにタイムラグが生じるかもしれないし、VAR判定を求めるファン・サポーターのブーイングが起きるかもしれない。それは選手も同じだろう。
VAR元年となる今シーズンのJ1リーグ。これはこれで楽しみでもある。
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結論から言うと、特に新たな変更点はなかった。脳しんとうにより交代した選手は再出場できないことはJリーグで決定しているものの、グラスルーツのレベルではJFAの理事会での承認を経てからの決定となる。そして司会役の元国際主審の扇谷マネジャーは以下の4つのプレーについて留意点を強調した。(2)昨年7月に改正された通り、守備側の選手がスライディングで倒れた際に、攻撃側の選手のクロスが手に当たったとしても、守備側の選手の手は体を支えるためハンドとならない。ただし、その手が横や縦に伸びていたらハンドとなる。
このジャッジに関してオブザーバーで会議に参加した松尾主審は「ボールが手のどこに当たったか、どういう風に当たったのか判断は難しい」と、ペナルティーエリア内ではPKに直結するだけに、ジャッジの難しさを話した。
(3)オフサイドでは、直接ボールに触れなくても、インパクト(妨害)するプレー、GKを惑わすようなプレーはオフサイドであることが確認され、具体例としてクラブW杯決勝のバイエルン・ミュンヘンのレバンドフスキのプレーが指摘された。
(4)著しく不正な、一発レッドに相当するプレーは、ファウルを受けた選手のチームが1タッチでゴールできるなど得点に結びつく可能性があればアドバンテージを取るが、そうでなければ攻撃側のアドバンテージは取らず、プレーを止めて不正を行った選手を即座に退場処分にする。
これは、アドバンテージによるプレー続行で、ファウルを犯した選手が万が一にも得点したり、さらなるカードに値するプレーをしたりした場合など余計なリスクを背負うことになるからだ。本来なら退場にする選手が新たなアクションに関与してしまうことを避けるためである。
ただ、不正なプレーがイエローの場合は、主審の判断により攻撃側のアドバンテージをとることは認められる。
そして最後に、昨シーズンは第1節で終わったVARの説明が行われ、「どこまで戻ることができるか」についてのレクチャーがあった。VARらはスタジアム外のコンテナ内などで映像を見ながら、プレーをチェックしている。J1リーグでは12台のカメラが映像をとらえ、1プレーにつき3~4台のカメラでチェックしているそうだ。
そこであるチームがボールを奪い、攻撃をスタートさせるとVARは「APPスタート」と言って映像をチェックする。このAPPとはVARのタグ付けを意味し、「事象に関して最後の攻撃の起点にタグ付け」することだという。
そう言われてもピンとこない読者も多いのではないだろうか。そこでヒントになるのが昨年のACL準決勝、蔚山現代対神戸戦である。
試合は52分に右CKから山口蛍のゴールで神戸が先制した。さらに75分、MF安井拓也のボール奪取から神戸はカウンターを仕掛け、最後はMF佐々木大樹が押し込んで追加点を奪ったかに見えたが、VARによるオンフィールドレビューの結果、主審はゴールを取り消した。
安井がボールを奪った時点でAPPはスタートし、ゴールが決まったものの事象は安井まで戻された。そして安井のプレーが反則か反則ではないかのジャッジで、最初はノーファウルと判定した主審がオンフィールドレビューを見てジャッジを覆したため、神戸の追加点は取り消された。
このプレーに関しては昨年末のコラムでも書いた。安井のプレーが反則かどうか。これはもう主観の問題のため論議しても結論は出ないだろうし、主審がジャッジを下した以上、それを覆すことはできない(その後、蔚山の同点ゴールに副審はオフサイドのフラッグを上げたものの、VARでゴールが認められ、延長で神戸はPKからの失点で敗退)。
日本(Jリーグ)においてVARは、2019年にルヴァン杯(決勝トーナメント)などで試験的に採用され、リーグ戦では20年のJ1リーグから本格運用する予定でいた。しかしご存じのようにコロナ禍でリーグは延期され、VARも密になることなどから採用が見送られた。
このため今シーズンが実質的な本格運用となる。そこで気になるのが、「VARオンリーレビュー」と「オンフィールドレビュー(OFR)」の違いだ。
両者の違いについてJFAのHPには、
「VARオンリーレビュー(VARの助言だけ)」→オフサイドポジションでいたかどうか? ボールが手にあたったかどうか? という、映像から事実として確認できる事象に対して使用する。
それに対して
「オンフィールドレビュー(OFR。主審が映像を確認する)」→選手同士がどの程度の強さで接触したのか? ボールが腕にあたったが意図的であったか? また、その腕を用いて自身の体を不自然に大きくしたか? という、主観的な判断が必要となる事象に対して使用する。
とある。前者は明らかな事実を確認できるため、確認中に映像がスタジアム内のオーロラビジョンに流されることはない。それに対して後者はファン・サポーターも映像を確認できるものの、あくまで最終決定権は主審にある。
この「主観的な判断」が正しいのかどうか。これこそが一番難しい判断ではないだろうか。VARの本格導入により、例えばゴール後の歓喜のシーンにタイムラグが生じるかもしれないし、VAR判定を求めるファン・サポーターのブーイングが起きるかもしれない。それは選手も同じだろう。
VAR元年となる今シーズンのJ1リーグ。これはこれで楽しみでもある。
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