高校サッカー選手権アラカルト/六川亨の日本サッカーの歩み

2021.01.12 21:55 Tue
写真提供:オフィシャルサポート
第99回全国高校サッカー選手権大会は、山梨学院が2-2からのPK戦を4-2で制して11大会ぶり2度目の優勝を飾った。

山梨学院からすれば、狙い通りのPK戦だったかもしれない。総合力で上回る相手の猛攻に耐え、準決勝に続いてのPK戦での勝利。ただ、それを支えたのはGK熊倉のファインセーブがあったからでもある。

開始6分の松木の至近距離からのシュートや、後半15分にもニアサイドへの決定的なシュートを足でブロック。彼の存在が、青森山田の選手から余裕を奪い、それがシュートミスにもつながったのではないだろうか。
青森山田は2回戦から決勝までの4試合で15ゴールを奪った。準決勝では堅守を誇る矢板中央を5-0と粉砕したのだから、決勝戦でも優勢が予想された。しかし「好事魔多し」とはよく言ったもので、油断したわけではないだろうが、苦しみながら勝ち上がってきたチームに負けることは往々にしてある。

過去の選手権でも、戦後の最多得点記録を持つ鹿児島城西(08年の第87回大会)は、1回戦で青森山田に4-3と苦しみながらも競り勝つと、2回戦では大阪桐蔭に5-2、3回戦は宇都宮白楊に7-1、準々決勝は滝川第二に6-2と圧勝。準決勝も前橋育英を5-3と粉砕したが、決勝では広島皆実に2-3と競り負け初優勝を逃した。
鹿児島城西が6試合で奪ったゴールは実に29。1試合平均で約5ゴールと驚異的な得点力である。その鹿児島城西のエースストライカーで、10ゴールを決めて得点王となったのが大迫勇也(ブレーメン)だった。

10ゴールは1大会の最多得点記録であり(通算最多ゴールは国見の平山相太が3年間で記録した17ゴール)、全試合ゴールは第75回大会で優勝した市立船橋の北嶋秀朗(決勝では中村俊輔率いる桐光学園に2-1と勝利。北嶋は第73回大会でも優勝し、高校通算16ゴール。卒業後は柏に入団)以来の快挙でもあった。

準々決勝で敗れた滝川第二のキャプテンが「大迫半端ないって」と泣きながら絞り出した言葉はロシアW杯でも使われた。

この鹿児島城西に続く最多ゴール記録を持っているのが、最近は出場機会がめっきり減った帝京である。1981年の第60回記念大会では、3試合で24ゴールの荒稼ぎをした。

この第60回の記念大会は、いまでこそ当たり前だが、1県に1校の出場枠が与えられ、東京都は2校の出場が認められ、全48校が出場した。

それまでの高校選手権は、例えば東北なら青森と岩手(北奥羽代表)、秋田と山形(西奥羽代表)、宮城と福島(東北代表)で各1校の出場枠を争った。県によって実力差があったことは確かだが、滋賀は京都(京滋代表)に、奈良は和歌山(紀和代表)に阻まれてなかなか全国大会に出られないなど、その実力差はさらに広がるばかりだった。

しかし第60回大会の成功で、翌年こそ32校に戻されたものの、第62回大会から現行の全48校出場に変更されて現在まで続いている。

話を帝京に戻すと、1回戦で高松南に9-0、2回戦で仙台向山に8-1、3回戦で高崎に7-1と圧勝した。しかし準々決勝では韮崎に0-2と敗れ、ベスト8で姿を消した。

チームを率いる古沼貞雄監督は、「点が取れるからといって、たくさん取ろうとして、気付かないうちに疲れが溜まっていた」と反省の弁を述べた。そしてこの教訓を生かし、48校出場となった第62回大会では手堅いサッカーで勝ち上がり、準決勝では韮崎を1-0で破って2年前の雪辱を果たすと、決勝でも前年優勝校の清水東を破って4度目の全国制覇を成し遂げた。

今大会で優勝した山梨学院の総監督は、かつて韮崎を率いた横森巧元監督である。韮崎時代は天才的ドリブラー羽中田昌(高校卒業後に交通事故で脊椎を損傷し下半身不随になるが指導者として活躍)を擁しながら、第58回大会から5大会連続ベスト4で、3度の準優勝と全国制覇の悲願は達成できなかった。

しかし第88回大会では監督として、そして今大会は総監督として2度目の優勝を果たした。一方、準決勝で青森山田に敗れた矢板中央のアドバイザーは、かつて帝京を率いて6度(両校優勝を含む)の優勝を果たした古沼氏である。全国各地の名門校の監督は代替わりしているものの、お二人のように高校サッカーのベテラン指導者もまだまだ健在である。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた

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