高校サッカーのロングスローは歓迎/六川亨の日本サッカー見聞録
2021.01.09 19:00 Sat
Jリーグはオフシーズンに突入し、国内はもちろん海外への移籍も活発だ。こちらは落ち着いてから整理して、戦力分析をしようと思っている読者も多いだろう。
そのためにも、まずは2月開幕のJリーグと3月のW杯2次予選を無事に迎えることが最初の課題と言っていい。
さて、全国高校サッカー選手権も残すところ9日の準決勝と11日の決勝戦となった。4都県に緊急事態宣言が出されたことで、生徒と父兄ならびに学校関係者の観戦が取りやめとなったのは残念だが、感染が拡大している現状ではやむを得ないだろう。
まず1点は、かつては珍しかったロングスローを投げる選手が、いまはどのチームにもいたことだ。このためFK、CKと同様にロングスローからの空中戦も大きな武器になっていた。
もう1点は、交代枠が5人に増えたことで、Jリーグ同様選手交代を早めに行うチームが増えたということである。
まず交代枠だが、4人から5人に増加されたのは3年前の第96回大会からだった。それまでは、主力11人をスタメンで送り出し、(1)劣勢に立たされたチームが起死回生で温存したスーパーサブを投入する。(2)来年度のチーム作りに向けて期待の1年生に選手権を経験させるために送り出す。(3)勝負は半ば諦めて、3年間頑張った控えの選手に出場機会を与える――というパターンが多かったと記憶している。
ところが第96回大会では優勝した前橋育英(群馬)や準優勝の流通経済大柏(千葉)ら、選手層の厚いチームは5人の交代枠を有効に使って好成績を収めた。
大会は連戦もあるため交代選手を9人登録できる。交代枠が3や4だと、サブの選手は次に誰が出場機会をつかむのか推測しやすいだろう。しかし5に増えたことで、50パーセントの確率で出場できるため、選手のモチベーションも高まるはずだ。
監督にしても、交代選手の数が増えれば柔軟な対応ができる。例えば対戦相手をスカウティングしてスタメンを送り出しても、ゲームプランが狂えば前半の20分くらいで選手交代により修正できるメリットがある。
ただ、個人的には悩むところだ。1つは「たった20分で交代させるのは、選手を駒としか扱っていないのではないか」という思いだ。その一方で、「20分でもピッチに立て、さらに交代枠をすべて使えば16人の選手が選手権を経験できるメリットがある」という考え方だ。
これは、たぶん答えの出ない自分自身への問いかけでもある。
それに比べてロングスロー攻撃は歓迎だ。選手もロングスローを投げられるよう肉体改造に努力しているのだから、それは賞賛すべきだろう。そもそも堅守からCKやFKから長身選手のゴールで勝つのはいまに始まったことではない。
小嶺監督時代の国見(戦後最多の6回優勝)、そして市立船橋(優勝5回)が全国制覇した時は、いつもセットプレーが大きな武器で、ヘディングの強い長身選手を擁して空中戦を得意としていた。一発勝負のトーナメントを勝ち抜く、効率の良いサッカーである。
もちろん見ていて楽しいサッカーではないため否定する向きもある。しかし彼らの“アンチ"としてドリブルやパスサッカーを標榜する静岡学園や野洲があった。どちらが良い悪いではなく、いろいろな考え方とスタイルがあっていいと思う。
その上で、日本代表を始めJクラブも国際試合、EAFF E-1選手権とACLでは韓国代表と韓国のクラブ(と韓国人が監督を務める中国クラブ)には、ロングボールによる空中戦攻撃に苦しめられている。いまに始まったことではないが、空中戦に強い長身FWの育成と、しっかりヘッドで弾き返せるCB(闘莉王や中澤のような)の育成は急務なので、高校年代からヘディングの強化は歓迎したい。
なぜか日本では、ヘディングの技術が軽視されていると感じられてならないのは私だけだろうか。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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AFC(アジアサッカー連盟)からは8日の昼過ぎにメールが届き、次回のアジアカップが23年6月から7月にかけて中国で開催されること。本大会はこれまでの16カ国から24カ国に増えるものの、大会日数は前回UAE大会の28日から31日と3日間しか違わないことなどが報告されていた。気になる開催都市だが、まだ2年以上先ということで詳しい情報はなかった。それよりも、まずは今夏の東京五輪、来年2月の北京冬期五輪、そして11月開幕のカタールW杯が無事に開催できるかどうか。さて、全国高校サッカー選手権も残すところ9日の準決勝と11日の決勝戦となった。4都県に緊急事態宣言が出されたことで、生徒と父兄ならびに学校関係者の観戦が取りやめとなったのは残念だが、感染が拡大している現状ではやむを得ないだろう。
そんな高校選手権を年末年始に取材して感じたことが2点ある。
まず1点は、かつては珍しかったロングスローを投げる選手が、いまはどのチームにもいたことだ。このためFK、CKと同様にロングスローからの空中戦も大きな武器になっていた。
もう1点は、交代枠が5人に増えたことで、Jリーグ同様選手交代を早めに行うチームが増えたということである。
まず交代枠だが、4人から5人に増加されたのは3年前の第96回大会からだった。それまでは、主力11人をスタメンで送り出し、(1)劣勢に立たされたチームが起死回生で温存したスーパーサブを投入する。(2)来年度のチーム作りに向けて期待の1年生に選手権を経験させるために送り出す。(3)勝負は半ば諦めて、3年間頑張った控えの選手に出場機会を与える――というパターンが多かったと記憶している。
ところが第96回大会では優勝した前橋育英(群馬)や準優勝の流通経済大柏(千葉)ら、選手層の厚いチームは5人の交代枠を有効に使って好成績を収めた。
大会は連戦もあるため交代選手を9人登録できる。交代枠が3や4だと、サブの選手は次に誰が出場機会をつかむのか推測しやすいだろう。しかし5に増えたことで、50パーセントの確率で出場できるため、選手のモチベーションも高まるはずだ。
監督にしても、交代選手の数が増えれば柔軟な対応ができる。例えば対戦相手をスカウティングしてスタメンを送り出しても、ゲームプランが狂えば前半の20分くらいで選手交代により修正できるメリットがある。
ただ、個人的には悩むところだ。1つは「たった20分で交代させるのは、選手を駒としか扱っていないのではないか」という思いだ。その一方で、「20分でもピッチに立て、さらに交代枠をすべて使えば16人の選手が選手権を経験できるメリットがある」という考え方だ。
これは、たぶん答えの出ない自分自身への問いかけでもある。
それに比べてロングスロー攻撃は歓迎だ。選手もロングスローを投げられるよう肉体改造に努力しているのだから、それは賞賛すべきだろう。そもそも堅守からCKやFKから長身選手のゴールで勝つのはいまに始まったことではない。
小嶺監督時代の国見(戦後最多の6回優勝)、そして市立船橋(優勝5回)が全国制覇した時は、いつもセットプレーが大きな武器で、ヘディングの強い長身選手を擁して空中戦を得意としていた。一発勝負のトーナメントを勝ち抜く、効率の良いサッカーである。
もちろん見ていて楽しいサッカーではないため否定する向きもある。しかし彼らの“アンチ"としてドリブルやパスサッカーを標榜する静岡学園や野洲があった。どちらが良い悪いではなく、いろいろな考え方とスタイルがあっていいと思う。
その上で、日本代表を始めJクラブも国際試合、EAFF E-1選手権とACLでは韓国代表と韓国のクラブ(と韓国人が監督を務める中国クラブ)には、ロングボールによる空中戦攻撃に苦しめられている。いまに始まったことではないが、空中戦に強い長身FWの育成と、しっかりヘッドで弾き返せるCB(闘莉王や中澤のような)の育成は急務なので、高校年代からヘディングの強化は歓迎したい。
なぜか日本では、ヘディングの技術が軽視されていると感じられてならないのは私だけだろうか。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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