ルヴァン杯決勝で五輪のテスト/六川亨の日本サッカーの歩み

2021.01.06 22:15 Wed
©︎J.LEAGUE
全国高校サッカー選手権はこれから佳境を迎えるが、4日のルヴァン杯決勝でJリーグの20年シーズンはすべて終了した。柏対FC東京の決勝戦は、ブラジル人コンビのゴールでFC東京が柏を2-1で退け、09年以来11大会ぶり3度目の優勝を飾った。長谷川監督は就任3シーズン目でのタイトル獲得で、G大阪時代と合わせると5冠を達成した。
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1月4日の国立競技場までの道のりは、観戦に訪れたファン・サポーターで賑わっていた。元旦の天皇杯決勝は人通りもまばらだっただけに、1万3318人(天皇杯)と2万4219人(ルヴァン杯)と、1万人の差でこうも違うものかと実感したものだ。これで焼きそばなどの露店が出ていれば(試合後は半額で大盛りを買うのが恒例だった)、いつもの見慣れたスタジアムの光景なのだが、そうした日常が戻るにはまだまだ時間がかかるだろう。ホープ軒には懐かしい味を求めてか、長蛇の列ができていた。そして2つの大会が近いから感じたのかもしれないが、昨シーズンの川崎F対札幌戦も含め、ルヴァン杯決勝は白熱した好勝負が多い。ところが天皇杯決勝は“重苦しい"試合という印象が強いのだ。
どちらもカップ戦のファイナルであり、出場チームもJ1同士なのに、この差は何が原因なのだろう。やはり天皇杯は100年という重みがあるからなのだろうか。

そして柏対FC東京の決勝戦だが、両チームともオーソドックスな入りをした。4分に中村帆がミドルを放てば、6分にはオルンガがヘッドと攻撃的な姿勢を見せた。その立ち上がりで、メッセージ性を感じたのはFC東京の攻撃だった。
柏のストロングポイントはオルンガであることに間違いはない。彼を徹底マークするのはもちろんだが、クリスティアーノと江坂の2人とのホットラインもケアしなければならない。そこでFC東京は左SB小川が高いポジション取りをすることで、クリスティアーノを自陣に押し込めようとした。

この狙いは16分に先制点となって現れる。CB山下のサイドチェンジのパスを小川がヘッドでカットして前に送ると、レアンドロが単独ドリブルで持ち込み、カットインから右スミに流し込んだ。オルンガは渡辺とジョアン・オマリの2人がかりでマーク。それでも空中戦で楽々と競り勝ってしまうオルンガはやはり脅威だ。

柏が攻勢に出ればカウンターから追加点を狙えばいい――長谷川監督にとって前半のゲームプランはほぼ予定通りに進んでいたはずだった。ところが45分、アディショナルタイムに入る直前、柏は左CKから瀬川が同点ゴールを決めた。オルンガのヘッドは上に浮いてバーを叩いたが、198センチの長身GK波多野は立ったままボールに触ろうとしてクリアできず、そのこぼれを押し込まれた。「波多野の失点以外は全部ハマった」とは長谷川監督の弁だが、波多野にすれば柏の選手に押されたと主張したかったのだろう。

仕切り直しとなった後半、試合の流れは柏に傾いた。ポゼッション率を高め、際どいシュートを見舞ってFC東京ゴールを脅かす。このときの長谷川監督は「後半は押され気味の展開なので、どのタイミングで(アダイウトンと三田を)入れてパワーを引き出すか考えていた」という。

その分水嶺となったのが21分のプレーだ。FC東京はペナルティーエリア外22メートル付近でFKを獲得する。キッカーはレアンドロ。彼のシュートはゴールの角を痛打して右に外れた。直後の22分、「レアンドロのFKが外れたので入れようと思った」(長谷川監督)2人を投入し、4-2-3-1から永井とレアンドロの2トップによる4-4-2にシステムを変更。結果的にこれが奏功し、29分、永井がヘッドで前へ送ったボールに素早く反応したアダイウトンがトーキックで決勝点をもぎ取った。

ネルシーニョ監督も「我々のいい時間帯に一瞬、守備の集中が切れた」と悔やんだ失点で、33分には「なんとか同点に持ち込んで延長を狙って」三原、呉屋、神谷の3人を同時に投入し、4-2-3-1から4-4-2にして反撃を試みた。しかし効果的な攻撃を仕掛けることはできず、13年以来の戴冠はかなわなかった。

1都3県では緊急事態宣言も噂されるなかで行われたルヴァン杯決勝。政府は12月23日、観客動員を5000人以内と規制した。しかしチケットは即日完売しており、規制以前に発売されたチケットについては定員の上限が認められたため、国立競技場には2万4219人の観客が集まった。

そしてJリーグは東京五輪の開催に向けて、ルヴァン杯決勝では様々なテストを実施した。入場者全員の検温で「37.5度以上は1人もいませんでした」(村井チェアマン)ということだけでなく、スタンドやコンコースでは二酸化炭素(CO2)の濃度を測定したり、退出時は密にならないようメッセージを発したり、試合後に直接自宅へ帰ったか、飲食店に立ち寄ったのかGPSでの対策などを世界に発信した。

東京五輪・パラリンピックが無事に開催されるのかどうか現時点では不明だが、国立競技場で2試合を取材して感じた疑問がある。例えば記者席とワーキングルームのデスクは隣同士が密にならないようかなり離れた席割りになっている。さらに感染した際はどこに座っていたか特定できるよう、席に名前が張ってある。そしてそれはJリーグでも同じだったし、カメラマンも同様だ。それはファン・サポーターも同じで、座席を1つ空けて座るようになっている。

東京五輪・パラリンピックのチケットは19年に発売された。取材のために必要なIDカードも共同と時事の2大通信社と全国の新聞・スポーツ紙、NHKと民放各社、雑誌協会などに配布された。当然、海外のメディアにも配布されている。

現在、新型コロナのワクチンは急ピッチで開発されているが、東京五輪・パラリンピックに間に合ったとしても、通常通り開催できるかどうかは疑問だ。となると、現状のように観客は隣を空けて座り、記者席も同様の措置となるだろう。

となると、チケットを購入済みの席を空席にする必要が出てくるし、記者も制限される可能性がある。大会が近づけば、払い戻しの具体的な内容など詳細も決まってくるだろうし、取材に関しても何らかのアナウンスがあるだろうが、現時点では動きようがないのも事実で、それが一番悩ましくもある。

フリーの記者とカメラマンは五輪・パラリンピックの取材はできないが、次に国立競技場を取材で訪れるのはいつになるのだろうか。来年の天皇杯決勝まで機会がないなら、それはそれで寂しいものがある。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた


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