コロナ禍におけるレフェリーの憂鬱/六川亨の日本サッカー見聞録
2020.09.05 22:15 Sat
JFA(日本サッカー協会)は昨シーズンまで、約3ヶ月に1回の割合でレフェリーブリーフィングを開催していた。J1とJ2のプレーを中心に、「オフサイド」や「ハンド」など項目を立てて、実際のプレーからジャッジが妥当だったかどうか。ミスジャッジだったら、その原因はどこにあるのか検証する、メディアにとってはとても有益なブリーフィングだった。
このこと自体、とても画期的な出来事である。JSL(日本サッカーリーグ)時代はもちろんのこと、Jリーグが開幕してからも試合後の主審に取材は許されないなど、JFAの審判委員会と医事委員会は「象牙の塔(外部からの干渉を拒絶する閉鎖的な社会のこと)」と揶揄されてきた。
ミスジャッジを認め、不運にも誤ったジャッジを下した主審に対しては、科したペナルティーの内容まで公表する「開かれた審判委員会」を実現した小川前審判委員長の功績は、改めて大きいことをここに紹介しておく。
このミスジャッジに関しては、今シーズンは審判団もリモート会議が多いため、何パーセントだったかという統計は取っていないと扇谷グループマネジャー(2020年VAR専任審判)は説明していた。
それでも、たぶん読者も記憶にあると思われるプレーがあるので一例を紹介しておこう。
8月19日の第11節、横浜FC対鹿島戦でのこと。前半25分、左サイドから攻め込んだ横浜FCは、クロスがニアサイドで混戦となり、バウンドボールが横浜FCのFW一美の左手に当たった。鹿島の選手はハンドをアピールしたものの、プレーは続行され、こぼれ球を皆川が押し込んで決勝点とした。
このプレーについて扇谷グループマネジャーは、「意図的ではなく偶発的なハンドだが、直後にゴール(もしくはチャンス)が産まれているためハンドの判定が妥当」とミスジャッジであることを認めた。
そしてその一因として、「レフェリーは、ペナルティーエリアではPKのジャッジなどDFのプレーに目が行きがちな習性がある」ことを指摘した。DFがハンドしたかどうかはPKにつながるだけに、そちらに神経を集中させるのは当然と言える。
そんなレフェリーにとっても、新型コロナの影響は少なからずあるようだ。今シーズンのJリーグの審判団は総勢154人だが、例年より少ないという。プロフェッショナルレフェリーを除けば、教員など仕事をしているレフェリーも多い。職種は違うものの、いずれも会社員であり、家庭を持っている人も少なくない。
このため、会社や家族から今シーズンはレフェリーを辞退してほしいと要請された人もいるという。地方で勤務されているレフェリーは、会社から感染の拡大している「東京、大阪、福岡の出張は認められない」と言われたり、「自家用車など、公共交通機関でなければ出張を認める」と言われたりしたそうだ。
あるいは、観客が5000人以下か50パーセント未満で、声を出しての応援が禁止されているため、「選手の声が聞こえるのが辛い」という意見や、自宅でジャッジした試合のVTRを見ていて、試合中は聞こえなかったベンチの声を聞いてストレスを感じているレフェリーが多いこともわかった。
選手や監督、コーチにしてみれば、納得のいかないジャッジに関し、レフェリーやアシスタントレフェリー、そして第4の審判員に対しても、つい声を荒げてしまうのはサッカーではよくあることだ。これまでは大観衆の声援で聞こえなかった両チームからの様々なクレームを、一身に引き受けなければならない。
こうしたレフェリーのメンタルケアをどうするかを、審判委員会でも検討する方向だと扇谷グループマネジャーは話していた。
新型コロナで長期に渡り節制を強いられているのは、監督・選手だけではないことを痛感した今シーズン3回目のレフェリーブリーフィングだった。
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しかし今シーズンは新型コロナの影響でJリーグはかつてない中断を余儀なくされた。このため2月に新シーズンのルール解説を行って以来、3回目となるレフェリーブリーフィングが9月3日に開催されたのだった。例年のブリーフィングでは、J1からJ3まで数多くの試合が行われ、主審や副審の判断に至ってはそれこそ膨大な数になる。それらのジャッジのうち、20パーセントほどが「ミスジャッジだった」と審判委員会は認めてきた。ミスジャッジを認め、不運にも誤ったジャッジを下した主審に対しては、科したペナルティーの内容まで公表する「開かれた審判委員会」を実現した小川前審判委員長の功績は、改めて大きいことをここに紹介しておく。
さて今シーズンである。本来ならVARがJ1リーグに導入されるはずだった。そこでVARによりどれだけミスジャッジが減るのか秘かに注目していたが、残念ながら新型コロナの影響で導入は見送られた。こちらは来シーズンの楽しみに取っておくことにしよう。
このミスジャッジに関しては、今シーズンは審判団もリモート会議が多いため、何パーセントだったかという統計は取っていないと扇谷グループマネジャー(2020年VAR専任審判)は説明していた。
それでも、たぶん読者も記憶にあると思われるプレーがあるので一例を紹介しておこう。
8月19日の第11節、横浜FC対鹿島戦でのこと。前半25分、左サイドから攻め込んだ横浜FCは、クロスがニアサイドで混戦となり、バウンドボールが横浜FCのFW一美の左手に当たった。鹿島の選手はハンドをアピールしたものの、プレーは続行され、こぼれ球を皆川が押し込んで決勝点とした。
このプレーについて扇谷グループマネジャーは、「意図的ではなく偶発的なハンドだが、直後にゴール(もしくはチャンス)が産まれているためハンドの判定が妥当」とミスジャッジであることを認めた。
そしてその一因として、「レフェリーは、ペナルティーエリアではPKのジャッジなどDFのプレーに目が行きがちな習性がある」ことを指摘した。DFがハンドしたかどうかはPKにつながるだけに、そちらに神経を集中させるのは当然と言える。
そんなレフェリーにとっても、新型コロナの影響は少なからずあるようだ。今シーズンのJリーグの審判団は総勢154人だが、例年より少ないという。プロフェッショナルレフェリーを除けば、教員など仕事をしているレフェリーも多い。職種は違うものの、いずれも会社員であり、家庭を持っている人も少なくない。
このため、会社や家族から今シーズンはレフェリーを辞退してほしいと要請された人もいるという。地方で勤務されているレフェリーは、会社から感染の拡大している「東京、大阪、福岡の出張は認められない」と言われたり、「自家用車など、公共交通機関でなければ出張を認める」と言われたりしたそうだ。
あるいは、観客が5000人以下か50パーセント未満で、声を出しての応援が禁止されているため、「選手の声が聞こえるのが辛い」という意見や、自宅でジャッジした試合のVTRを見ていて、試合中は聞こえなかったベンチの声を聞いてストレスを感じているレフェリーが多いこともわかった。
選手や監督、コーチにしてみれば、納得のいかないジャッジに関し、レフェリーやアシスタントレフェリー、そして第4の審判員に対しても、つい声を荒げてしまうのはサッカーではよくあることだ。これまでは大観衆の声援で聞こえなかった両チームからの様々なクレームを、一身に引き受けなければならない。
こうしたレフェリーのメンタルケアをどうするかを、審判委員会でも検討する方向だと扇谷グループマネジャーは話していた。
新型コロナで長期に渡り節制を強いられているのは、監督・選手だけではないことを痛感した今シーズン3回目のレフェリーブリーフィングだった。
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