VAR導入で求められるジャッジの正確性と審判の声/六川亨の日本サッカー見聞録

2020.02.07 20:10 Fri
©︎J.LEAGUE
JFA(日本サッカー協会)は2月6日、JFAハウスで2020年シーズンのレフェリングカンファレンスを実施し、今シーズンのレフェリングスタンダードを発表した。内容としては大きく分けて2点あり、まず1点目はコンタクトプレーの強化、そして2点目はJ1リーグにおいてVARが導入されることだ。
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コンタクトプレーに関しては、昨シーズンまでペナルティエリア内で、ボールに関係なくコンタクトプレーにより攻撃側の選手が倒されたらPKだったのが、今シーズンはノーファウルになるということ。司会を務めた扇谷健司氏(今シーズンよりVAR専任の審判員として現場復帰する)によると、「ヨーロッパの5大リーグと同じ基準にする」ためで、例えば「守備者はボールを見て競りにいっているのか、相手を見て競りにいっているのか」、「攻撃側が押されて倒れたが、倒れるほど強い力がかかったのか」、「押されているようで、攻撃側がマークしている選手のユニホームを後ろ手で引っ張っていないか」など、コンタクトプレーの質を見極めて判断することになる。
ペナルティエリア内で倒されても即PKではないということだ。

これについて、1月28日のACLプレーオフに出場したFC東京の長谷川健太監督は「レフェリーもJリーグとはジャッジの基準が違うので気をつけるように」と試合後に話していたので、「JリーグのスタンダードがAFC(アジアサッカー連盟)のスタンダードと合致しているのか」と質問した。というのも、タイのバンコクで開催されたU-23アジア選手権では首をひねりたくなるジャッジがあったからだ。
それに対し、扇谷氏は「Jリーグだけでやっているわけではありません」と否定したものの、U-23アジア選手権の初戦、タイ対バーレーン戦(5-0でタイが快勝)で主審を務めた佐藤隆治氏(国際主審)は、「ジャッジには一定の幅があり、それは各個人の幅であって、それが広いか狭いかの違いはある」とグレーのゾーンがあることを認めた。

Jリーグの基準とACLグループリーグでの基準で相違はあるのかどうか。こちらは今シーズンのジャッジを比較して判断するしかないだろう。

続いてVARだが、湘南対徳島(1-1)のJ1参入プレーオフ決勝で、徳島の選手が放ったシュートが湘南の選手の手に当たったシーンのVTRを再現しつつ、主審を務めた家本政明氏は「ペナルティエリア内で湘南の選手がハンドをしたが、体を支えるためのナチュラルな動きなので、ハンドではないとVARに(自ら)伝えた」と、自身のジャッジでハンドではないと判断したことを明かした。

ところが天皇杯決勝の神戸対鹿島戦の、神戸の2点目のシーンで佐藤主審は「2回(連続して)のオフサイドがあったかどうか、際どいシーンだったのでVARの判断を信じた。VARはチェックのスピードが速い。すべてをクリアしないと試合を再開できない」とVARの判断でゴールを認めたという。

このVARだが、導入前の昨シーズンまで主審はほとんど無言でジャッジしていた。しかし導入後は常に眼前のプレーについて、どう判断して反則をとったのか、あるいは反則をとらなかったかを絶えずVARに報告しなければならない。

このため今シーズンからプロフェッショナルレフェリーになった福島孝一郎主審は「いままでレフェリーが声を出す習慣はなかった。自然に(VARに)声を出す練習をしないといけない」とその難しさを話していた。

サッカーに誤審はつきもの—と言うと審判団の方には失礼かもしれないが、生身の人間が判断するのだから、“誤審”に対してファンやサポーターも寛容だったし、それで“議論”も活性化した。

しかし今後は映像で細かくチェックするシステムをJ1リーグだけでなく各国のリーグ、大会が導入するだろう。このため主審ではなくVARの下した判断がファン・サポーターの議論の対象になるのではないだろうか。そこで疑問に思うのは、「VARは100%正しい判断を下せるのか」ということだ。

VARが下した判断を正しいかどうか、誰がチェックするのかと考えたら、堂々巡りの議論になってしまうような気がしてならない。個人的には、曖昧な部分を残す現行のジャッジシステム、すなわちVARには反対に1票を投じたい。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。


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