マラソン厚底シューズ問題をサッカー記者の視点で考える

2020.02.01 20:30 Sat
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世間を騒がしているピンクの厚底シューズ問題。1月31日、世界陸上競技連盟が東京オリンピックでの使用について見解を発表。シューズについての定義を設けたものの、渦中のピンクのシューズ「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」は認められ、事態は終息することとなった。この問題の一連の報道を見ていると、いくつかの傾向がみられる。

・禁止の影響
・助力の問題
・技術革新
といったところだろうか。

禁止の影響は当然のこととして東京オリンピックがあればこそと邪推する。これが東京でオリンピックが開催される年でなければ、これほどまでに日本のマスコミは取り上げたのだろうか?
当然マラソン人口の拡大により市民ランナーは格段に増え、そして彼らにとってもこの魔法のシューズ問題は関心事であることは否定しない。

しかしワイドショーで連日取り上げるのはやはり「日本人は!」「オリンピックは!」といったナショナリズムに起因するが故ではないか?

かつてゴルフクラブにメタルやチタンが採用された経緯がある。野球のボールにも高反発、低反発問題が起こったことがある。それぞれに競技団体や競技者、ファンにとっては深刻な問題であり、世間を騒がす問題であった事実は否めない。

ただ、今回のように連日お茶の間で「ピンクのシューズ」をみるような情報量であっただろうか?やはりこれは一大イベントに関わるナショナリズム、邪推を重ねれば東京で行われることのない東京オリンピックのマラソン。「またマラソン(で問題発生)か!」といったところではなかろうか。

そこで視点を競技における公平性に向けてみよう。

マラソン競技の規則に「助力の禁止」という項目がある。つまり、「自分の脚で走りなさい」、「人の力や、なんらかの走力を手助けするツールを使ってはだめですよ」ということだ。

実際にマラソン競技ではイヤホンをつけてレースを戦うことも禁止されている。コーチからの指示、一定のリズムで走るための音や気持ちを高揚させる音楽。これらは助力とみなされるからだ。

しかし今回のケースは助力かどうかがそれほど大きく報道されていない。もっと極端なシューズが出てくれば議論されるのかもしれないが、マラソン界の偉い人達はどうも「公平に誰もが手に入れられるならよい」といっている。

それはなぜなのか。技術革新が競技の魅力を高め、そして競技人口のすそ野を拡げるということをよく知っているからに他ならない。

ゴルフだって、ボールが遠くに飛べばうれしいし、マラソンだって速く走れたり楽しく走れたらうれしい。なによりあのピンクのシューズなら走ってみたい。

そう思わせるものが世の中で公平に(価格が高いとかはこの際おいておき)手に入るなら、間違いなく競技人口の拡大や競技普及にはプラスに作用するのだ。ここがポイントではないだろうか。

つまり、競技としてのスポーツは本来競技者が己の極限で能力を競い合うものであると同時に、当該競技の愛好者や視聴者に魅力や感動を与えるからこそ競技として成立するのである。だから「正直盛り上がってくれるならよし!」という側面は否めない。

これが今回は1社のシューズが独占状態であることが焦点であり、あるいは水泳のレーザーレーサーのときのように「所詮トップアスリート以外は入手不可能なツール」だったとしたら。そここそが今回のポイントであるはず。

そして、その裏にあるのは日本国内でいえば東京で開催される、いや日本で開催されるオリンピックだからという世論をうまく使った(使われた?)のであり、世界的にいえば「競技の公平性」を人質に他のシューズメーカーが焚きつけたといっても言い過ぎではないだろう。

正直なところ世界的な大会が関係なく、通常の時期だったとしたら、おそらくこれほどまでにこの話題で日本中、世界中(本当に世界中で騒いでいるのかすら怪しいが)で持ち切りにはならなかったはずだ。

あまりにも前置きが長くなりすぎたが、ここでサッカー記者としてサッカー界からこの問題を観てみたい。

この問題をサッカーに当てはめた場合、実は私はシューズではないと思っている。

この問題をサッカーに当てはめるなら、それは「ボール」だ!

サッカーはチームスポーツであることはいまさら言及するべくもない。つまり、個々人がどれほどシューズで競技公平性を崩してもチームとしての戦術が成り立たなければ話にならない。
(もちろんシュートスピードが3倍になる鉄のプレートの入ったシューズや、1チームだけが全員特殊なシューズで秘密裏に練習を重ねていきなりワールドカップに出てきちゃったとかいう話ならそれは事件だし、そもそもそれこそ競技の公平性は保てないし助力に間違いない。反論はコメントでお待ちしております)

マラソンでは、ランナーが唯一といっていいほど競技に関わる道具はシューズに限定される。サッカーに置き換えれば、まさにそれはボールに他ならない。

これまた邪推とお許しいただきたいが、サッカーのワールドカップ公式球を振り返ると結構な特徴が毎回ある。
技術の進歩は賞賛に値する。ただ、そこに「球のクセ」が結構見て取れるのである。

「回転数を押さえるボール」、「転がりのよいパスサッカーに向くボール」…例を挙げれば色々あるが、たとえばそのボールにフィットするサッカーを体現できるチームは有利にはならないだろうか?

私はなると思う。

ただしそれは公式球として統一され、公平性が保たれ同一条件であるから問題はない。が、もしその公式球が特定の国のプレイスタイルを想定していたら? もしその公式球が一部の国に試作段階で供給されていたら?

邪推はこれくらいでやめておこう。

仮にそうだとしてもトップアスリートの競技は魅せる競技であり、そして魅力と感動で競技人口の拡大や普及を目指すもの。つまりカッコイイことが大事なのだ。

2002年のあとフィーバーノヴァ(2002年W杯公式球:アディダス製)はよく売れたじゃないか! そしてたくさんの日本の子供たちがサッカーを始め、その子供たちが世界で活躍するようになったではないか!
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2010年にはジャブラニ(2010年W杯公式球:アディダス製)を使って「無回転シュート」で盛り上がらなかったか!?

それでいいのだと思う。一流のプレイは人々を魅了する。そして国別対抗になる大会はナショナリズムを刺激する。

だからこそ「憧れ」と「体験」が共有できるツールの革新は歓迎すべきものなのだと思うのである。そう思えば今年のオリンピックは見逃せない!
【文・藤田一巳】

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