【2022年カタールへ期待の選手㉖】コパ・アメリカ参戦組がまた1人海外へ。東京五輪世代の快足FWは成功を手にできるか?前田大然(マリティモ/FW)

2019.08.01 16:00 Thu
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「2020年の東京五輪で日の丸をつけて活躍するには、自分自身ももっと成長しなくてはならないと思い、海外にチャレンジする決断をしました。次に日本に来るときは日の丸をつけて、ピッチで躍動している姿を見せられるよう、しっかりとポルトガルで結果を出してきます」

ポルトガルリーグ1部のCSマリティモへ1年間のレンタル移籍を決断した前田大然が22日、このようなコメントを残して日本を飛び立った。6月のコパ・アメリカ(ブラジル)で国際Aマッチデビューを飾りながら、初戦・チリ戦(サンパウロ)では右サイドの不慣れなポジションで苦悩し、エクアドルとの最終戦(ベロオリゾンテ)でジョーカーとして起用されながら再三の決定機を逃した。その悔しさは本人の中に深く刻み込まれている。それを糧にして、決めるべきところで決められる点取屋になるためには、海外で武者修行するしかない…。そんな思いに至ったのだろう。

2016年に山梨学院大学附属高校から松本山雅FC入りして3年半。プロ2年目にレンタルで赴いた水戸ホーリーホックで13得点を挙げたことがあったものの、あくまでJ2での実績だった。J1に参戦したのは今季が初。前田自身もシーズン開幕前は「2ケタゴールを奪って山雅をJ1に残留させる」と宣言していた。

しかしながらゴール数はなかなか伸びず、チームも勝てない日々が続いた。スプリント回数は毎回のようにリーグトップクラスを叩き出していたが、「自分は守備するために走っているのが圧倒的に多い。その状況ではいくらスプリントが多いといっても納得できない」と不完全燃焼感を吐露することもあった。

川崎フロンターレやFC東京、鹿島アントラーズといった上位陣とは違い、松本はどうしても長時間守勢に回ることが多い。前田も前線からのハードワークを強いられ、ボールを追いかける仕事が中心になり、得点機らしい得点機がほとんど巡ってこなかった。数少ないチャンスが訪れても、「決めなきゃ」という焦りが先に立ってシュートの精度を欠く。そんな悪循環からどうにかして抜け出したいと考えていたはず。それが今回のポルトガル移籍に傾いた大きな要因だったのではないだろうか。

とはいえ、マリティモもポルトガル1部の中堅。昨季王者のベンフィカ、中島翔哉が移籍したFCポルト、スポルチィング・リスボンの3強とは大きな実力差があるのは事実だろう。昨季は11位だったものの、そこまで相手を凌駕できるようなサッカーができるとも考えにくい。松本でやっていたような前線からのハードワークや献身的な守備が求められる可能性も少なからずある。そういった仕事をこなしつつ、決定力を上げていくことが直近の最重要テーマになってくる。

日本では「大然は守りの貢献度が高かったから、ゴール数が少ないのもある程度、仕方がない」と見る向きも強かったが、海外に出ればそんな生易しい見方はしてもらえない。助っ人外国人FWである以上、とにかく数字を残すことが必要不可欠だ。シュート技術向上や余裕を持ってゴールや相手を見るといった基本的なところから、得点への道筋を1つ1つ研ぎ澄ませていくしかない。

マリティモはクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)の故郷・マディラ島のフンシャルに本拠地を置くクラブ。ポルトガル本土に行くために毎回、飛行機移動を強いられる。日本人もほとんどおらず、当面は単身生活を送る前田は孤独を感じることもあるかもしれない。生活習慣も文化も異なるし、もちろん言葉も違う。英語はほぼ通じないと見られるだけに、意思疎通をどうやって図っていくかも考えていかなければならない。「大阪から山梨に行って、無名のところから這い上がった大然はタフな環境に慣れている」と松本のチームメートやスタッフも太鼓判を押していたが、そういった雑草魂を前面に押し出さなければ、このクラブではやっていけないだろう。原点に戻って自分自身を見つめなおすところからスタートさせてもらいたい。

新シーズンの開幕戦は8月12日のホーム・スポルティング戦。いきなり出番を与えられるかどうかは全く分からないが、海外移籍した選手は初戦の出来不出来でその後の状況が大きく変わることが多い。彼の場合、50m・5秒8という爆発的スピードという絶対的強みがある。そこを最大限生かして敵を抜き去り、ゴールを奪えれば、最高のスタートとなる。そういう形に持って行けるように、残り2週間のプレシーズンを大事にすることが肝要だ。

「次に日本に来るときは日の丸をつけてピッチで躍動している姿を見せられるように」という言葉を現実にするためにも、新天地での失敗は許されない。1年後の東京五輪での凱旋を果たそうと思うなら、確実に得点できるFWへと変貌を遂げること。それしかない。「あと一歩、冷静さが足りない」と言われてきたこれまでの前田大然とは一味違った姿を近い将来、見せてくれることを祈りたい。
【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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