VAR導入の裏側/六川亨の日本サッカー見聞録
2019.04.11 21:00 Thu
Jリーグは2019シーズンの一部の試合で、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の導入を決定していたが、4月11日、メディアを対象に改めてVARへの理解を深めると同時に、一般のファン・サポーターへの告知のための講習会を開いた。
導入される試合はルヴァン杯プライムステージ(準々決勝、準決勝、決勝)の全13試合と、J1参入プレーオフ1試合(決定戦)の4試合だ。このVARだが、実施するためには様々なハードルがある。
まず「FIFA(国際サッカー連盟)およびIFAB(国際サッカー評議会)より通達のある、VAR導入に際し大会主催者が順守すべきImplementation Assistance and Approval Program(実施支援および承認プログラム)に基づき、担当審判員のトレーニング、開催スタジアムでの事前テスト、FIFA立ち会いの検査等の各種要件を充足したうえで、FIFAおよびIFABからの事前認可取得が必要となる」とされている。
FIFAとしては各国にVARを導入して欲しいが、試合結果に直結するだけに、万全を期して運用して欲しいということだろう。今回は元プレミアリーグのレフェリーで、イングランドサッカー協会審判委員長でありIFABのメンバーでもあるディビッド氏が来日し、講習会で説明した。
まずVARが適用されるのは、次の4つのケースに限られる。1)得点か得点ではないか。2)PKかPKでないか。3)退場(累積ではなくレッドカードでの退場)。4)人間違い(主審が、反則を行ったチームの別の競技者に対して警告したり退場を命じたりした場合)。
その際に主審はイヤホンまたはヘッドセットにはっきりと指を当てながら、もう一方の手または腕を伸ばすシグナルを送って選手や監督に伝える必要がある(これを「チェック」と言う)。続いて主審は両手でテレビモニターの形(四角)を見せる(TVシグナル)ことで、「レビュー」することを示さなければならない。そして映像で確認したら、改めて「TVシグナル」を示した上で、その直後に最終判定を下すという手順になっている。
こうして書くと簡単そうなVARと思うだろう。しかしデモンストレーションを見たら、いかに大変な作業かが実感された。スタッフは3人で、VARを中央に、左隣はアシスタントレフェリーのAVAR、右隣はリプレーオペレーター(RO)が座る。VARとAVARはレフェリーかレフェリー経験者に限られ、ROはVARの求めに応じて必要な場面を再現したり、ピッチサイドにいる主審に映像を送ったりするため映像のプロが務める。
そしてAチームがボールを保持して攻撃を開始したら、VARは「APP(Attacking Possession Phase)スタート」とスタッフに告げ、Aチームがボールを失ったら「APP終了」と告げつつ、対戦相手のBチームが攻撃に移ったら、再び「APPスタート」と言って画面に見入る。のんびり観戦している暇などないのだ。
VARの席には上下2つのモニターがあり、上はライブ映像、下は4分割に違う角度から撮影された映像で3秒遅れとなっていて、AVARはアシスタントの名の通りオフサイドか否かをチェックする。
さて、このVARだが、冒頭にも書いたように対象となるのは4つのプレーだ。4)の人間違いは見ているファン・サポーターにもわかりやすいだろうし、試合結果に直接影響しない。1)と2)も場所が限定されるため観戦者はゴールか否か、PKか否かはわかりやすいだろう。
問題は、3)の退場かどうかだ。Aチームが得点したとしよう。しかし、その前にオフサイドがあった場合、ゴールは取り消される(1の得点か否かが適用される)。同様に反則がありながら主審が見逃し、Aチームが得点しても、反則がイエローならゴールは認められるが、レッドの場合は取り消される。そうなると反則のあった地点でのFKで試合は再開されるが、果たして観戦しているファン・サポーターは「なぜ応援しているチームの得点が取り消されたのか」理解できるかどうかだ。
この点をJリーグの関係者に聞いたところ、「将来的には何らかの方法が必要になるかもしれませんね」という答えだった。昨年3月にも来日したディビッド氏は反則映像をスタジアムの電光掲示板で再現することに「どちらかのチームに不利になる判定をスタジアムにいるすべての人たちが、サッカー競技規則のもとVARの判定を支持するかどうかという懸念点が残る」として明言を避け、今後の検討課題にしていた。それだけVARはデリケートな問題をはらんでいるようだ。
今回の講習会でディビッド氏は「最小限の介入で最大限の効果」と従来のFIFAのVAR採用の効果を語り、次のようなケースも指摘した。初めてVARが導入された昨夏のロシアW杯グループリーグ、フランス対オーストラリア戦で、フランスはVARのおかげでPKを獲得し2-1の勝利を収めた。もしもPKによる得点がなければ「フランス対オーストラリアはドローに終わり、(得失点差で2位の)フランスは決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦したので、VARがなければ優勝もなかったかもしれない」と。
他にもロシアW杯ではVARにより「レッドカードや激しいファウルが減少した。選手もVARで見られていることを知ったからだ。コッリーナ(イタリア人の元主審)も『セリエAでは暴言とシミュレーションが減少した』と言っていた。VARは大きなミスを正すだけでなく、フットボールをクリーンにする」と訴えた。
それらは紛れもない事実であるし、ロシアW杯や今年1月のアジアカップでは日本も恩恵を受け、そしてハンデになったことも経験した。真実を追究することとロマンを求めること(誤審があるからこそ人々の記憶に残る)――この矛盾する両面をどう折り合っていくのか。VARの導入には問題が山積だと思う。そこで今後は審判だけでなく、元と現を含めて選手や監督からの意見も聞いてみたいと思ったVARである。
導入される試合はルヴァン杯プライムステージ(準々決勝、準決勝、決勝)の全13試合と、J1参入プレーオフ1試合(決定戦)の4試合だ。このVARだが、実施するためには様々なハードルがある。
まず「FIFA(国際サッカー連盟)およびIFAB(国際サッカー評議会)より通達のある、VAR導入に際し大会主催者が順守すべきImplementation Assistance and Approval Program(実施支援および承認プログラム)に基づき、担当審判員のトレーニング、開催スタジアムでの事前テスト、FIFA立ち会いの検査等の各種要件を充足したうえで、FIFAおよびIFABからの事前認可取得が必要となる」とされている。
まずVARが適用されるのは、次の4つのケースに限られる。1)得点か得点ではないか。2)PKかPKでないか。3)退場(累積ではなくレッドカードでの退場)。4)人間違い(主審が、反則を行ったチームの別の競技者に対して警告したり退場を命じたりした場合)。
これらの反則があり、VAR(のスタッフ、またはその他の審判員)が「レビュー(VTRで確認すること)」を勧める。あるいは重大な出来事が「見過ごされてしまった」と主審が不安に思った時にVARを利用することができる。
その際に主審はイヤホンまたはヘッドセットにはっきりと指を当てながら、もう一方の手または腕を伸ばすシグナルを送って選手や監督に伝える必要がある(これを「チェック」と言う)。続いて主審は両手でテレビモニターの形(四角)を見せる(TVシグナル)ことで、「レビュー」することを示さなければならない。そして映像で確認したら、改めて「TVシグナル」を示した上で、その直後に最終判定を下すという手順になっている。
こうして書くと簡単そうなVARと思うだろう。しかしデモンストレーションを見たら、いかに大変な作業かが実感された。スタッフは3人で、VARを中央に、左隣はアシスタントレフェリーのAVAR、右隣はリプレーオペレーター(RO)が座る。VARとAVARはレフェリーかレフェリー経験者に限られ、ROはVARの求めに応じて必要な場面を再現したり、ピッチサイドにいる主審に映像を送ったりするため映像のプロが務める。
そしてAチームがボールを保持して攻撃を開始したら、VARは「APP(Attacking Possession Phase)スタート」とスタッフに告げ、Aチームがボールを失ったら「APP終了」と告げつつ、対戦相手のBチームが攻撃に移ったら、再び「APPスタート」と言って画面に見入る。のんびり観戦している暇などないのだ。
VARの席には上下2つのモニターがあり、上はライブ映像、下は4分割に違う角度から撮影された映像で3秒遅れとなっていて、AVARはアシスタントの名の通りオフサイドか否かをチェックする。
さて、このVARだが、冒頭にも書いたように対象となるのは4つのプレーだ。4)の人間違いは見ているファン・サポーターにもわかりやすいだろうし、試合結果に直接影響しない。1)と2)も場所が限定されるため観戦者はゴールか否か、PKか否かはわかりやすいだろう。
問題は、3)の退場かどうかだ。Aチームが得点したとしよう。しかし、その前にオフサイドがあった場合、ゴールは取り消される(1の得点か否かが適用される)。同様に反則がありながら主審が見逃し、Aチームが得点しても、反則がイエローならゴールは認められるが、レッドの場合は取り消される。そうなると反則のあった地点でのFKで試合は再開されるが、果たして観戦しているファン・サポーターは「なぜ応援しているチームの得点が取り消されたのか」理解できるかどうかだ。
この点をJリーグの関係者に聞いたところ、「将来的には何らかの方法が必要になるかもしれませんね」という答えだった。昨年3月にも来日したディビッド氏は反則映像をスタジアムの電光掲示板で再現することに「どちらかのチームに不利になる判定をスタジアムにいるすべての人たちが、サッカー競技規則のもとVARの判定を支持するかどうかという懸念点が残る」として明言を避け、今後の検討課題にしていた。それだけVARはデリケートな問題をはらんでいるようだ。
今回の講習会でディビッド氏は「最小限の介入で最大限の効果」と従来のFIFAのVAR採用の効果を語り、次のようなケースも指摘した。初めてVARが導入された昨夏のロシアW杯グループリーグ、フランス対オーストラリア戦で、フランスはVARのおかげでPKを獲得し2-1の勝利を収めた。もしもPKによる得点がなければ「フランス対オーストラリアはドローに終わり、(得失点差で2位の)フランスは決勝トーナメント1回戦でクロアチアと対戦したので、VARがなければ優勝もなかったかもしれない」と。
他にもロシアW杯ではVARにより「レッドカードや激しいファウルが減少した。選手もVARで見られていることを知ったからだ。コッリーナ(イタリア人の元主審)も『セリエAでは暴言とシミュレーションが減少した』と言っていた。VARは大きなミスを正すだけでなく、フットボールをクリーンにする」と訴えた。
それらは紛れもない事実であるし、ロシアW杯や今年1月のアジアカップでは日本も恩恵を受け、そしてハンデになったことも経験した。真実を追究することとロマンを求めること(誤審があるからこそ人々の記憶に残る)――この矛盾する両面をどう折り合っていくのか。VARの導入には問題が山積だと思う。そこで今後は審判だけでなく、元と現を含めて選手や監督からの意見も聞いてみたいと思ったVARである。
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