【日本代表コラム】個を活かした戦いで世界を驚かせるも、超えられなかった高い壁
2018.07.03 19:30 Tue
▽CKのチャンスからGKがキャッチ、丁寧なスロー、ドリブルで中央を持ち上がり、右サイドへ展開。走り込んだ選手がダイレクトで折り返すと、中央でスルーされ、フリーで走り込んで蹴り込まれる──。一連の流れは、多くの日本人にとって鮮明に記憶に残るのだろう。これまでも劇的なシーンは何度も目にしてきたが、これほどまでに悔しい思いをした場面はそうないだろう。
▽下馬評を大きく覆し、初戦のコロンビア代表戦に勝利した日本代表。2戦目のセネガル代表戦で引き分けると、3戦目のポーランド代表戦はリードを許しながらも、最後の10分間は自陣でボールを回し時間を消費──賛否両論ある中で、3度目のベスト16進出を果たした。
▽期待を寄せられていなかった日本代表が、想像を超える結果を残し、世界屈指の攻撃力を持つベルギー代表に挑んだラウンド16。思い描いていたよりも、日本代表は冷静に試合に入り、ベルギーを上回るほどの落ち着いたプレーを続けていた。
◆ポーランド戦を力に変えて
▽初戦、2戦目と同じ11名をピッチに送り出した西野朗監督。立ち上がりは前線からボールホルダーにプレスをかけ、流動的に動き、ペースを掴んでいった。今大会既に4ゴールを記録していたFWロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)には、鹿島アントラーズでプレーするDF昌子源がマークに。一瞬のスピードで振り切られるシーンもあったが、ルカクのプレーに徐々にアジャストしていった昌子は、試合を通して決定的なピンチを作ることはなかった。
▽前線も同様だ。トップに入ったFW大迫勇也(ブレーメン)は、持ち前のポストプレーと献身的な守備、ポジションを移動して起点となるシーンが多かった。DFヴァンサン・コンパニ(マンチェスター・シティ)を相手にも、自身の持ち味を出していた。MF乾貴士(ベティス)は、左サイドでDF長友佑都(ガラタサライ)とともに攻勢をかけ、MF香川真司(ドルトムント)はバイタルエリアに陣取りつつ、左サイドの攻勢に絡んだ。
▽中盤でタクトを振るMF柴崎岳(ヘタフェ)は、攻守にわたってこの試合でも冴え渡り、縦へのパス、読みからのパスカットなど、日本の中盤を支えた。MF長谷部誠(フランクフルト)はバランスを見たプレーをし、MF原口元気(ハノーファー)は右サイドで持ち前の運動量と上下動で守備に貢献。DF酒井宏樹(マルセイユ)はMFヤニク・フェレイラ=カラスコ(大連一方)との一対一に対応した。
◆個人の特長を最大限に活かすサッカー
▽いつになく、各選手が自身の役割を理解し、チームメイトもその役割を理解し、本来の意味でのチームになっていたようにも感じた。
▽その動きは、後半に入って大きく変化する。立ち上がり、ベルギーに攻め込まれる中、自陣で乾がこぼれ球をトラップ。反転して相手と入れ替わると、近くの柴崎へとパスを出した。その瞬間、右サイドで大人しくしていた原口が猛然と奪取。それを見逃さない柴崎が絶妙なスルーパスを出すと、ヴェルトンゲンの足をかすめてスペースへ。原口はしっかりとボールを受けると、ボックス内でシュート。日本が先制に成功した。
▽このゴールには、乾、柴崎、そして原口の特長が詰まっている。まずは、試合を通して狂いのないボールタッチを見せた乾のトラップ。そして、相手DFをいなすターン。柴崎は、原口のスピードに合わせた絶妙な強さで、ギリギリのラインにパスを通した。そして原口。長い距離のスプリントは原口の特長であり、アジア予選のチーム得点王である所以を見せつけた。このゴールで、日本は大きく優位に立った。
◆微妙にズレた采配
▽ベルギーは、前半から長友とDFトーマス・ムニエ(パリ・サンジェルマン)の高さのミスマッチを利用。何度となく、左サイドから崩し、ファーサイドを使っていた。そして、その狙いが顕著になる選手交代を行う。MFマルアン・フェライニ(マンチェスター・ユナイテッド)を投入。前線のルカクとともに並べることにした。
▽フェライニは昌子と長友の間に陣取り、ルカクは昌子とのマッチアップをチョイス。時間の経過とともに、アザールとMFケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)が連動して日本の右サイドを侵略。吉田と酒井宏が対応に当たることとなった。
▽日本のウィークポイントを突いてきたベルギーは、徐々にペースを握ると、高さを生かして2点ビハインドを跳ね返す。日本はミスマッチが起こっていながら、手を打たず。ウィークポイントの穴埋めにカードを切らない西野監督らしさを見せたが、個人的には対人守備に強いDF植田直通(鹿島アントラーズ)を入れるもの有りだったのではないかと思っている。
▽そして、2点差を追いつかれて投入されたのは、MF山口蛍(セレッソ大阪)とMF本田圭佑(パチューカ)だ。本田は右サイドの原口に代わり、タメを作って攻撃のバリエーションを増やした。香川とのコンビネーションからシュートチャンスや、FKからブレ球で直接狙うなど積極的な姿勢を見せた。
▽一方の山口は、攻守のカギを握っていた柴崎と交代。しかし、残り10分程度の難しい時間帯に入ったこともあり、試合に入れていなかった。西野監督は今大会、采配で局面を動かしてきていた。初戦、2戦目と途中投入した本田が得点に絡み、勝ち点を獲得。3戦目は、長谷部を入れて場を整えた。
▽しかし、ベルギー戦は後手に回りすぎ、良いペースを手放す格好となってしまった。もちろん、ベルギーとの実力差も大いにあり、個々の能力差もあった上だが、2-0のリードを活かす方法論はあったはずだろう。
◆ベスト8の壁を超えるため
▽一方で、それでも勝てないという現実も突き付けられている。90分が過ぎようとしている時間帯に、あれだけの選手が相手ゴールへと駆け上がり、最後は勝ち点3を持っていく。世界屈指の攻撃力を誇るベルギーを相手に、そんなサッカーを身を持って体験したからこそ、未来の日本のために繋げられるはずだ。
▽直前の監督交代に始まり、ベスト16進出、手がかかったベスト8を逃す結末…大いに検証し、分析し、次に繋がる課題を見つけてもらいたい。
▽次の戦いは4年後。何人の選手が再びワールドカップに出場するかは分からない。もしかしたら、出場権を獲得できないかもしれない。それでも、日本サッカーは終わらない。世界を驚かせたルーザーは、ウィナーになるべくして次のステップに進んでもらいたい。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
▽下馬評を大きく覆し、初戦のコロンビア代表戦に勝利した日本代表。2戦目のセネガル代表戦で引き分けると、3戦目のポーランド代表戦はリードを許しながらも、最後の10分間は自陣でボールを回し時間を消費──賛否両論ある中で、3度目のベスト16進出を果たした。
▽期待を寄せられていなかった日本代表が、想像を超える結果を残し、世界屈指の攻撃力を持つベルギー代表に挑んだラウンド16。思い描いていたよりも、日本代表は冷静に試合に入り、ベルギーを上回るほどの落ち着いたプレーを続けていた。
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▽賛否両論があったポーランド戦の戦い方。先発を6名変更し、最後はビハインドながら時計の針をただただ進めるパス回しを行った。結果として、ラウンド16に進めたことで、この判断は正しかったと結論付けられがちだが、本来の意味ではこのラウンド16のベルギー戦でどの様な試合を見せるかが重要だった。▽初戦、2戦目と同じ11名をピッチに送り出した西野朗監督。立ち上がりは前線からボールホルダーにプレスをかけ、流動的に動き、ペースを掴んでいった。今大会既に4ゴールを記録していたFWロメル・ルカク(マンチェスター・ユナイテッド)には、鹿島アントラーズでプレーするDF昌子源がマークに。一瞬のスピードで振り切られるシーンもあったが、ルカクのプレーに徐々にアジャストしていった昌子は、試合を通して決定的なピンチを作ることはなかった。
▽センターバックでコンビを組んだDF吉田麻也(サウサンプトン)も同様だ。プレミアリーグでも対峙しているルカク、MFエデン・アザール(チェルシー)を冷静に対処。粘り強い守備を見せ、決定機も身体を張って凌いだ。
▽前線も同様だ。トップに入ったFW大迫勇也(ブレーメン)は、持ち前のポストプレーと献身的な守備、ポジションを移動して起点となるシーンが多かった。DFヴァンサン・コンパニ(マンチェスター・シティ)を相手にも、自身の持ち味を出していた。MF乾貴士(ベティス)は、左サイドでDF長友佑都(ガラタサライ)とともに攻勢をかけ、MF香川真司(ドルトムント)はバイタルエリアに陣取りつつ、左サイドの攻勢に絡んだ。
▽中盤でタクトを振るMF柴崎岳(ヘタフェ)は、攻守にわたってこの試合でも冴え渡り、縦へのパス、読みからのパスカットなど、日本の中盤を支えた。MF長谷部誠(フランクフルト)はバランスを見たプレーをし、MF原口元気(ハノーファー)は右サイドで持ち前の運動量と上下動で守備に貢献。DF酒井宏樹(マルセイユ)はMFヤニク・フェレイラ=カラスコ(大連一方)との一対一に対応した。
◆個人の特長を最大限に活かすサッカー
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▽これまでに見たことのないような落ち着いたプレーを見せていた日本。その大きな理由は、個人個人の特長を生かし、連携し合ったプレーを見せていたからだろう。距離感、立ち位置、ボールを運ぶ流れ。遅攻に移った際の切り替え、攻守の切り替えと冴えを見せた。▽いつになく、各選手が自身の役割を理解し、チームメイトもその役割を理解し、本来の意味でのチームになっていたようにも感じた。
▽その動きは、後半に入って大きく変化する。立ち上がり、ベルギーに攻め込まれる中、自陣で乾がこぼれ球をトラップ。反転して相手と入れ替わると、近くの柴崎へとパスを出した。その瞬間、右サイドで大人しくしていた原口が猛然と奪取。それを見逃さない柴崎が絶妙なスルーパスを出すと、ヴェルトンゲンの足をかすめてスペースへ。原口はしっかりとボールを受けると、ボックス内でシュート。日本が先制に成功した。
▽このゴールには、乾、柴崎、そして原口の特長が詰まっている。まずは、試合を通して狂いのないボールタッチを見せた乾のトラップ。そして、相手DFをいなすターン。柴崎は、原口のスピードに合わせた絶妙な強さで、ギリギリのラインにパスを通した。そして原口。長い距離のスプリントは原口の特長であり、アジア予選のチーム得点王である所以を見せつけた。このゴールで、日本は大きく優位に立った。
◆微妙にズレた采配
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▽その後、ベルギーの猛攻を凌ぐと、乾のスーパーゴールで日本がベルギーを突き放す。さすがのシュートに、ロベルト・マルティネス監督も唖然。日本の底力を目の当たりにしたが、これがベルギーの選手たちに火をつけた。▽ベルギーは、前半から長友とDFトーマス・ムニエ(パリ・サンジェルマン)の高さのミスマッチを利用。何度となく、左サイドから崩し、ファーサイドを使っていた。そして、その狙いが顕著になる選手交代を行う。MFマルアン・フェライニ(マンチェスター・ユナイテッド)を投入。前線のルカクとともに並べることにした。
▽フェライニは昌子と長友の間に陣取り、ルカクは昌子とのマッチアップをチョイス。時間の経過とともに、アザールとMFケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)が連動して日本の右サイドを侵略。吉田と酒井宏が対応に当たることとなった。
▽日本のウィークポイントを突いてきたベルギーは、徐々にペースを握ると、高さを生かして2点ビハインドを跳ね返す。日本はミスマッチが起こっていながら、手を打たず。ウィークポイントの穴埋めにカードを切らない西野監督らしさを見せたが、個人的には対人守備に強いDF植田直通(鹿島アントラーズ)を入れるもの有りだったのではないかと思っている。
▽そして、2点差を追いつかれて投入されたのは、MF山口蛍(セレッソ大阪)とMF本田圭佑(パチューカ)だ。本田は右サイドの原口に代わり、タメを作って攻撃のバリエーションを増やした。香川とのコンビネーションからシュートチャンスや、FKからブレ球で直接狙うなど積極的な姿勢を見せた。
▽一方の山口は、攻守のカギを握っていた柴崎と交代。しかし、残り10分程度の難しい時間帯に入ったこともあり、試合に入れていなかった。西野監督は今大会、采配で局面を動かしてきていた。初戦、2戦目と途中投入した本田が得点に絡み、勝ち点を獲得。3戦目は、長谷部を入れて場を整えた。
▽しかし、ベルギー戦は後手に回りすぎ、良いペースを手放す格好となってしまった。もちろん、ベルギーとの実力差も大いにあり、個々の能力差もあった上だが、2-0のリードを活かす方法論はあったはずだろう。
◆ベスト8の壁を超えるため
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▽ベルギー相手に、世界が驚くほどの好ゲームを見せた日本。その点に関しては、自信を持って良い部分もあり、世界と戦える力を付けることが可能であることも証明した。▽一方で、それでも勝てないという現実も突き付けられている。90分が過ぎようとしている時間帯に、あれだけの選手が相手ゴールへと駆け上がり、最後は勝ち点3を持っていく。世界屈指の攻撃力を誇るベルギーを相手に、そんなサッカーを身を持って体験したからこそ、未来の日本のために繋げられるはずだ。
▽直前の監督交代に始まり、ベスト16進出、手がかかったベスト8を逃す結末…大いに検証し、分析し、次に繋がる課題を見つけてもらいたい。
▽次の戦いは4年後。何人の選手が再びワールドカップに出場するかは分からない。もしかしたら、出場権を獲得できないかもしれない。それでも、日本サッカーは終わらない。世界を驚かせたルーザーは、ウィナーになるべくして次のステップに進んでもらいたい。
《超ワールドサッカー編集部・菅野剛史》
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