【六川亨の日本サッカーの歩み】VARの功罪とは
2018.06.26 14:30 Tue
▽6月14日のロシア対サウジアラビアで開幕したW杯も12日が過ぎ、各グループとも2試合を終え、今週からは最終戦を迎える。すでにグループステージ突破を決めた国、敗退の決まった国もいるが、ドイツやアルゼンチン、ブラジルら、どちらかというと下馬評の高かった国の苦戦が目立つ。
▽そんななか、大会序盤から話題を呼んだのが、今大会から導入された「ビデオ・アシスタント・レフェリーシステム」、いわゆるVARシステムである。幸いにもというべきか、日本はまだ新システムによる“被害”も“恩恵”も受けていない。
▽このVAR、個人的には反対派だ。まず試合の流れが止まり、緊迫感が薄れること著しい。そして、例えばテニスでは選手が要求すれば高速スローの映像で、選手、審判、コートの観客はもちろん、TV視聴者にもジャッジの正誤がわかる。しかしVARでは、問題のシーンはスタジアムとTVで繰り返されても、具体的にどのプレーを主審はファウルと判断したのか分かりづらい。
▽大会序盤、VARで増えたのがPKの数である。正当なファウルと主審が判断してプレーオンにしても、このVARで判定が覆ってPKとなるシーンをかなり見た。それだけ主審はPKを見逃してきたのか。あるいはVAR導入により、試験的にPKをなるべく取らないようにしているのか。こちらは大会後の総括で明かされるだろう。
▽これまでペナルティーエリア内で攻撃側の選手が倒されてもPKにならないシーンがあった。攻撃側の反則、いわゆるシミュレーションである。近年のFIFA(国際サッカー連盟)は特にシミュレーションを厳密に取るよう通達してきた。
▽これなどは、VARでの判定はかなり難しいのではないだろうか。最新の映像技術で繰り返し問題のシーンを見直しても、選手の内面までは映し出すことはできないからだ。「現場の空気感」、あるいは「主審の直感」が選手の精神状態を把握できるのかもしれない。もちろん、触れていないのにダイブするような選手は、もはやファン・サポーターに笑われ者であることは言うまでもない。
▽VAR導入で増えた見苦しいプレーもある。それはファウルを受けたと主張する選手が、主審同様に両手でボックスのジェスチャーをしてVAR判定を求めることだ。アクチュアルプレイングタイムを増やすためにも、不必要なアピールには口頭で注意を与えるなど試合のスピードアップに努めて欲しい。
▽いずれにしても、VARについては問題となったシーンや大会後に総括として触れざるを得ないと思っている。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽そんななか、大会序盤から話題を呼んだのが、今大会から導入された「ビデオ・アシスタント・レフェリーシステム」、いわゆるVARシステムである。幸いにもというべきか、日本はまだ新システムによる“被害”も“恩恵”も受けていない。
▽大会序盤、VARで増えたのがPKの数である。正当なファウルと主審が判断してプレーオンにしても、このVARで判定が覆ってPKとなるシーンをかなり見た。それだけ主審はPKを見逃してきたのか。あるいはVAR導入により、試験的にPKをなるべく取らないようにしているのか。こちらは大会後の総括で明かされるだろう。
▽これまでペナルティーエリア内で攻撃側の選手が倒されてもPKにならないシーンがあった。攻撃側の反則、いわゆるシミュレーションである。近年のFIFA(国際サッカー連盟)は特にシミュレーションを厳密に取るよう通達してきた。
▽ところが今大会はシミュレーションによる警告やFKが少ないような気がする。ドリブルを仕掛けてペナルティーエリアに入る。その一瞬、攻撃側の選手がファウルを誘ったり、自らダイブしたりしたかどうか。その判断は前後のプレーも含め、瞬時に決めなければならない。
▽これなどは、VARでの判定はかなり難しいのではないだろうか。最新の映像技術で繰り返し問題のシーンを見直しても、選手の内面までは映し出すことはできないからだ。「現場の空気感」、あるいは「主審の直感」が選手の精神状態を把握できるのかもしれない。もちろん、触れていないのにダイブするような選手は、もはやファン・サポーターに笑われ者であることは言うまでもない。
▽VAR導入で増えた見苦しいプレーもある。それはファウルを受けたと主張する選手が、主審同様に両手でボックスのジェスチャーをしてVAR判定を求めることだ。アクチュアルプレイングタイムを増やすためにも、不必要なアピールには口頭で注意を与えるなど試合のスピードアップに努めて欲しい。
▽いずれにしても、VARについては問題となったシーンや大会後に総括として触れざるを得ないと思っている。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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