【Jリーグが伝えたい事】第3回:キーワードは「共に成長」、25年間にわたるヤマザキビスケット社との歩み

2018.03.15 18:00 Thu
©超ワールドサッカー
▽Jリーグが目指すもの、Jリーグが生み出してきたものについて株式会社Jリーグマーケティング専務執行役員として多忙な日々を送る山下修作氏に語っていただく連載インタビュー『Jリーグが伝えたい事』。

▽これまでのインタビューでは、Jリーグが後援する映画『MARCH』を通じての東日本大震災を始めとする支援活動、2011年からスタートした「サポユニfor smile」という、アジア各国の子供たちへのユニフォーム寄付活動といった、Jリーグが実施している支援活動についてお伺いしてきた。

▽支援活動への積極的な取り組みを見せるJリーグだが、そのJリーグを支えているパートナーも存在する。第3回目のインタビューは、ギネス記録にも認定されているJリーグカップを25年間にわたって支える「ヤマザキビスケット株式会社」との取り組みについてお話を伺った。
取材・文=菅野剛史

▽1992年、Jリーグ開幕前に第1回大会がスタートしたJリーグカップ。その第1回から大会の特別協賛しているのが、ヤマザキビスケット株式会社(旧・ヤマザキナビスコ株式会社)だ。山下氏は、このリーグカップが思い出深いものであると明かしてくれた。
「私が生まれて初めてJリーグクラブの試合を観たのが、1992年に行われたヤマザキナビスコカップ(現JリーグYBCルヴァンカップ)でした。出身地が埼玉県の川越市なんですが、当時、川越で浦和レッズと横浜マリノス(現横浜F・マリノス)の試合が行われていました(2-1で浦和が勝利)。それがすごく印象に残っています」

▽1993年に開幕したJリーグ。その1年前に、「オリジナル10」と呼ばれる初期の10チームが参加した、Jリーグ初の公式大会として「Jリーグヤマザキナビスコカップ」が開催された。山下氏は当時を振り返り、新たな日本サッカーの第一歩を感じたと明かしてくれた。

「それまで日本サッカーリーグ(JSL)とかを、今ほどお客様がいないスタジアムに観に行っていました。天皇杯も決勝は入っているけど、今ほどではないという時代でしたし、観ている人も静かでした。ただ、その試合は今まで観てきたサッカーとは全然違うなという感じをハッキリ覚えています」

(C)J.LEAGUE
[Jリーグ開幕後の1993年大会を制したヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)は第1回大会から3連覇]

▽当時のJリーグカップを観た山下氏は高校2年生だったという。そこから25回の開催を重ねたJリーグカップを支え続けたヤマザキビスケット社に対しては、感謝の気持ちしかないという。

「その頃から支えていただいていると思うと、感謝の言葉しかないです。Jリーグに関わってきた人はみんなその気持ちがあると思いますし、世界に誇れる素晴らしい大会だなと思っています」

▽2012年に20回目の開催を終えたJリーグカップは、2013年に「同一企業の協賛により最も長く開催されたプロサッカーの大会 (Longest sponsorship of a professional football competition)」としてギネス世界記録に認定されている。

▽Jリーグカップを支え続けているヤマザキビスケット社との取り組み。観戦者として第1回大会に触れた山下氏は、第25回大会となった2017年には運営などで大会に直接携わっている。その中で、実際に大会に携わることで、改めてヤマザキビスケット社がJリーグカップに懸ける思いがあることを感じているようだ。

「直接携わると、それまで見えていなかった部分があるということもあります。そして、ヤマザキビスケット様がこの大会に懸けている思いというのをお伺いすることもありました。期待値以上のことにお応えし、協賛していただいていることに対して、お返しできるということを考えています」

「一方が頼るということではなく、お互いが共に成長するということが実現できればなと考え、運営などに携わっています」

(C)J.LEAGUE
[2000年、国内3冠を達成した鹿島アントラーズ]

▽25年にわたり「共に成長する」という点では、大会方式の変更や新たな取り組みを行い、大会そのものも成長し続けている。そこには、出資するという意味での「スポンサー」としての関り方以上のものがあることを教えてくれた。

「大会方式の変更に関しては、我々もこの大会をもっと成長させて日本サッカーを成長させたいとか、こういった方式にした方が露出も増えるとか。ヤマザキビスケット様にもメリットをお返しできるんじゃないかというところから、工夫をして提案し、認めていただいているというところです」

「本当に包容力があるというか、「もっとこうしてくれ」という形ではなく、Jリーグとして考えていることを尊重してくださります。我々もヤマザキビスケット様のことを考えて、日本サッカーのことを考えて提案しているので、凄くご理解をいただいているので、ありがたいですね」

▽共に手を取り合い、一緒に歩みを進めてきたことで、「共に」成長していったJリーグカップ。しかし、2016シーズンに大きな転機を迎える。それは、大会名称の変更だ。

「Jリーグヤマザキナビスコカップ」として親しまれてきたJリーグカップが、2016シーズンのグループステージ終了後に「JリーグYBCルヴァンカップ」と名称を変更した。特別協賛のヤマザキナビスコ株式会社が、「ナビスコ」ブランドのライセンス契約終了に合わせて社名をヤマザキビスケット株式会社に変更。その動きに、Jリーグも対応した。
(C)CWS Brains,LTD.
[2016シーズンのノックアウトステージからYBCルヴァンカップに名称変更]

▽当初は2017シーズンからの名称変更という話が挙がっていた中、Jリーグの村井満チェアマンはシーズン中の大会名称変更を決断。その裏には、25年にわたり「共に」成長してきたヤマザキビスケット社への感謝の気持ちが込められていた。

「非常にJリーグとしても難しい判断だったと思います。通常、大会が始まって、途中で名前を変更することはないと思います。ただ、それもヤマザキビスケットと社名が変わり、基幹商品も変わるというところで、元々の商品をPRするよりも、我々としてはヤマザキビスケット様に感謝をお伝えできます。そして、共に成長するという部分に繋げられると思ったので、名称変更や大会イメージカラーなど全部を変えていきました」

「色々なことを調整したり、修正したりすることが必要だったと思います。そこまでしてもヤマザキビスケット様に「恩返し」したいというよりは、お世話になった「恩返し+一緒にこれからも歩んでいく」という意思表示としてやらせていただきました」

▽大会途中に名称変更という異例の事態。しかし、その裏にはJリーグが大切にしている「何かできることはないか」の精神があり、パートナーと「共に」成長していくための決断があった。そして、その決断は間違っていなかったと、山下氏は手応えを感じている。

「Jリーグのサポーターの中では『ルヴァン』という名前が一気に浸透したと思いますし、お店で商品が並んでいる時に選んでいただくキッカケになっていると思います。2017年からというのではなく、2016年のあのタイミングで名称を変更したからこそ、インパクトもあったのかなと思います」

▽ルヴァンカップとしてスタートした2017シーズンの決勝は、ここ10年で最も多くのチケットが売れ、5万3000枚が完売した。セレッソ大阪、川崎フロンターレと互いに初タイトルが懸かっていた試合だったことも一因ではあるが、スタジアム全体の盛り上がり、ファン・サポーターの盛り上がりは、大きなものがあった。
(C)CWS Brains,LTD.
[2017年はセレッソ大阪が制しクラブ初タイトル獲得]

▽ルヴァンカップ決勝は、例年Jリーグファンが注目している。しかし、近年は決勝だけでなく、Jリーグカップそのものにファン・サポーターが関心を向けている。「ニューヒーロー賞」や「21歳以下の選手起用」といった若手育成への取り組みも、注目を集める理由の1つだろう。

▽ユース年代を終え、大学進学ではなくプロ入りを志した選手。世代別の代表に選出されながらも、リーグ戦で出場機会を得られない選手は多い。各チームがタイトルを目指す状況であれば、レギュラー組の選手たちが起用されるのも当然だ。しかし、「21歳以下の選手起用」を義務付けたことで、新たな風を吹かせた。

▽リーグ戦とは違う形で、日本サッカーの成長、そして魅力創出に寄与しているJリーグカップ。山下氏は、カップ戦の位置づけについて、重要度が増していると感じている。

「カップ戦の価値を上げていく。リーグ戦の明治安田生命Jリーグとカップ戦のJリーグYBCルヴァンカップが日本のプロリーグを支えている重要な要素だと思っています。その両方がしっかりと成長していくこと自体が、リーグの価値や日本サッカーのレベルを上げていくことになると思っています」

▽JリーグYBCルヴァンカップで実戦の経験を積み、その活躍が明治安田生命Jリーグに繋がる──そういった可能性が広まることは、Jリーグカップとしての魅力が増すだけでなく、日本サッカーの成長、日本代表の強化にもつながる。その結果は、「ニューヒーロー賞」も示している。

▽歴代の「ニューヒーロー賞」受賞者の多くが日本代表としても活躍。また、世界に羽ばたいていっている選手も多い。2016年の受賞者であるMF井手口陽介は2018年にイングランド2部のリーズ・ユナイテッドへと移籍した(2017-18シーズンはスペイン2部のクルトゥラル・レオネサへ期限付き移籍)。
(C)J.LEAGUE
[2016年のニューヒーロー賞を受賞した日本代表MF井手口陽介(当時ガンバ大阪)]

▽2014年の受賞者であるFW宇佐美貴史、2011年の受賞者であるFW原口元気はブンデスリーガ2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフでプレーしている。2004年の受賞者であるMF長谷部誠はブンデスリーガのフランクフルトでも主軸を担い、日本代表ではキャプテンとしてヴァイッド・ハリルホジッチ監督の信頼も厚い。
(C)J.LEAGUE
[2004年のニューヒーロー賞を受賞した日本代表MF長谷部誠(当時浦和レッズ)]

▽若手の出場機会創出により、日本サッカーの底上げを進める場となりつつあるJリーグカップ。今シーズンからは「ニューヒーロー賞」の対象選手も21歳以下の選手に変更された。ヤマザキビスケット社と共に、Jリーグも成長していくためのチャレンジを止めない。

「カップ戦だからこそチャレンジさせていただいていることはあります。21歳以下の選手の件などもそうですが、そういったことをさせていただけるのもありがたいです」

「我々としても、大会の位置付けを考えて世間とコミュニケーションを取る中で、切り口があった方が露出面を考えても良いのかなというのもあり、チャレンジさせていただいています」

▽ヤマザキビスケット社とJリーグが共に歩み、成長してきた25年間。各クラブのタイトル以外にも、眠っている才能の原石を発掘できる場として、日本サッカー界にもたらせているものは大きい。

▽2018シーズンのJリーグYBCルヴァンカップは、3月7日にグループステージが開幕。今シーズンは決勝も21歳以下の選手の出場が取り決められ、若手の活躍も楽しみだ。新たな魅力の創出へ。Jリーグとヤマザキビスケット社の成長は止まらない。

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