【戸田和幸のプレミア・アナリシス】独走体制のシティ、強さの秘訣は「“再現性”の高さ」と戸田氏が分析

2017.12.30 13:00 Sat
©超ワールドサッカー
▽現役時代に日本代表として2002年の日韓ワールドカップに出場し、現在はサッカー解説者を務める戸田和幸氏。超ワールドサッカーでは「スポナビライブ」で解説を務める戸田氏に、プレミアリーグを語ってもらった。
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▽今回は、11月のプレミアリーグから5日に行われたマンチェスター・シティvsアーセナルをピックアップ。無敗で首位を独走するマンチェスター・シティ、今シーズンも3バックを採用し、[3-4-3]で戦うアーセナルについて戸田氏に分析してもらった。(※データはインタビュー実施時の12月6日現在のもの)──シーズン開幕から4カ月が過ぎても、マンチェスター・シティが無敗でプレミアリーグ首位に立っています。11月にはアーセナル戦(11月5日/3-1で勝利)がありましたが、この試合ではアグエロが起用されました。ジェズスではなかった理由はあるでしょうか
「単純にアグエロのパフォーマンスレベルが高いからではないでしょうか。シーズン序盤はジェズスと共に2トップ(3バック)とで起用される試合が多かったですがその理由としてはサイドバックがケガで足らなかった事や他の選手たちの状態と比較した時にベストの布陣が2トップだったのではなかったのではないかと思います」

「メンディがプレーできるようになってからは基本的には[4-3-3]を採用してきました(メンディが怪我して以降デルフが左サイドバックを務めている)が[4-3-3]こそがグアルディオラ監督が目指すサッカーを作り上げる為の最高のシステムだと考えているのは間違いありません。[4-3-3]システムがベースのシティにおいて、今シーズンのグアルディオラ監督はより重要な試合にアグエロを起用してきているなと感じていますが、マンチェスター・ダービーではジェズスが先発で出ていますし、試合・相手チームが持つキャラクターによって使い分けている部分もあるのではないでしょうか」
──今シーズンのアグエロはここまで9得点(第16節終了時点)です。グアルディオラ監督の下で1年間プレーしたことで、今シーズンはよりフィットしているという印象でしょうか
Getty Images
「オン・ザ・ボールの局面にて世界最高レベルのものを見せ続けてきたストライカーですが、グアルディオラ監督の下で1シーズンプレーをした中で攻撃時のオフ・ザ・ボールの動きも増え守備のスイッチを入れるチェイシングもかなりやるようになりました」

「とは言え、オフ・ザ・ボールの動きや中盤まで顔を出してビルドアップを手伝う動きについてはジェズスの方が、僕は上手いと思っています。ただ、単独での局面の打開力やシュートのレンジの広さや強さはアグエロに軍配が上がるといったところでしょうか」

「それぞれにインターナショナルレベルのストライカーで甲乙つけがたい状況ではありますが、監督の志向するスタイルを考えると2トップで起用するということはビハインドの状況以外は基本的にはないと思います」

「サウサンプトン戦(11月29日/2-1で勝利)では二人同時に起用されましたが、この時はジェズスが左のウイングで出場していました。ただ、基本的にウイングのファーストチョイスはザネとスターリングだと思うので、過密スケジュールを上手く乗り越えていく為に各選手の状態を見て上手く競わせながら進めていっている感じなのかなと見ています」

──アーセナルの守備面を考えても、アグエロの方が混乱を招くプレーができたという感じでしょうか

「アーセナル戦だけで考えると、むしろアーセナルの守備が非常に機能していたと思います。ようやく[3-4-3]の形で積極的なハイプレス、サンチェスとエジルも揃った中での前線からの積極的なチェイシングが見られそこに中盤・最終ラインが連動した速くて強い守備を見せましたしエジルが一番目立つくらい良く守備にも走り闘っていたのが強く印象に残っています」

「この試合のシティはアーセナルの果敢なプレッシングにかなり苦しめられたんじゃないかなと感じました。ただ、それでもシティには押し切ってしまうチームとしての戦術的な成熟度の高さと各選手の強さと上手さがありました」

「この試合に関してはアーセナルの方に変化、ポジティブな要素が多く見られましたが、終わってみればシティが全てにおいて凌駕してしまったという試合でした」

──アーセナルの守備の話が出ましたが、失点シーンは崩されての2点とPKによるものでした。速くて強かったという守備に問題はなかったのでしょうか
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「アーセナルは前線からの連動した強くて速い守備を見せ大いに健闘しました。実際シティはそれまでの試合に比べれば相手を圧倒することはできなかったと思います。ただし、敵陣に入っていく為の安定したビルドアップやボックスに近づく方法論、そして実際にボックス内へと侵入していく為の幾つかの形をチームとして持った上で、シルバやデ・ブライネがタクトを振るっているのが今のシティの攻撃だと思います」

「チームとして持つプレーモデル、試合における具体的で実践的なゲームプラン、そしてその上で各選手が見せた柔軟性やプレーの質、それら全てにおいてシティの方が上だったなと思います。そんなシティに対してアーセナルはよく戦ったと思いますが、それでも敵わないんだなという90分でした」

「サッカーというスポーツはロジカルなスポーツなのだと考えています。もちろん選手が持つ感覚、センスも当たり前に必要ですが、11人が一つになって相手チームに対し効果的に動く為には集団としてのルールが必要です。ビルドアップ時の各選手の立ち方や敵陣でのボールの動かし方、スペースの作り方、取り方を見ればシティがロジカルなものをきちんとベースに持って毎試合闘っているチームだという事が良く分かると思います」

「相手のプレースタイルや守備の陣形、方法を正しく把握し実際の試合中にも適切に変化させながら、各選手が正しいポジショニングを取り如何に安定したポゼッションンプレーで敵陣までボールを運ぶかという事に腐心していますし、得点を奪うための効果的なボックス内への侵入という部分についてもウインガーの縦への突破、ワンツー、カットインからの斜めの飛び出し、サイドバックのオーバーラッピング、インサイドハーフによるニアゾーンを取りに行く動き、など具体的な方法論を幾つも共有する中で状況に対し適切に選び使い分けています」
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「これらの事を毎試合高いレベルで繰り返し行ってきているのを見るに間違いなく監督からの戦術的な落とし込みが行われていると思いますしそれをトップレベルの選手がしっかりと理解して見事に遂行しています。そこが例えばアーセナルとの決定的な違いであると考えていますし、それはシティ戦後のアーセナルの試合を見ていてプレッシング一つとって見ても継続性が見られないところからも間違いないと思います」

「アーセナルはどちらかというと選手の技術力や創造性を生かした攻撃を見せます。例えばそれがロジカルかと言われるとそうではなく多分に即興性や再現性の低いものだという言い方にはなると思います」

「ただ、選手個々が持つ技術や即興性が時に素晴らしいコンビネーションを生むこともありますし、それがアーセナルのスタイルでありファンを魅了するところでもあり、必ずしもシティと比較をする必要もないとも言えます。ただ、昨シーズン含め実際にここまで残されている数字を比較してみると両チームには埋められない大きな差があるという事もまた事実です」

「シティのここ最近の試合を振り返るとサウサンプトン戦やハダースフィールド戦(11月26日/2-1で勝利)ではアウェイゲームということゴール前を執拗に固められ存分に苦しめられました。しかしながら、あれだけゴール前を固められても滅多にボールを失わずボックス内に侵入していく形を何度も作っていく。それは対戦相手を攻略する為の具体的な方法論をチームとして共有した中で効果的な攻撃を繰り返したという事になりますがチームとしての戦術的なコンセプト、細部にわたるディテールの構築がないとあれだけ徹底した守備に対して効果的なスペースメイク、チャンスメイクは絶対にできません」

「グアルディオラ監督が作ってきたチームなので当然戦術的にレベルの高いチームなのは間違いありませんが、とは言え選手がそこに縛られ過ぎている感じもありません。ボールを保持する時間を最大限長くする為に失った後の守備に対する準備も抜かりがなく近い距離を保ちながら攻撃を行う=守備への移行もスムースなのでそうそうカウンターからやられるシーンもありません」

「唯一、セットプレーやクロスに対する守備が若干緩いのは課題として挙げられますがこれだけ圧倒的な得点力を誇りながら守備でも最小失点という結果を引き寄せている要因はやはりロジカルなチーム作りにあり、その上で素晴らしい選手達の特徴を最大限引き出すサッカーが展開できているからこその結果だと思います」

──グアルディオラ監督が昨シーズン1年間やり、メンバーも大きく変わっていないことでの積み上げが今シーズンは大きいでしょうか

「お互いを理解し合えるようになったと監督、選手両面からポジティブなコメントが出ていますしサッカーの内容についてもエデルソンにはじまりウォーカーやメンディ、ベルナルド・シウバといったチームのレベルを引き上げる為に監督が求めた優秀な選手も加わった事でチームのレベルは更に上がりましたし陣容も豊かになっています」

「どのチームと対戦しても常にボール保持率で大きく上回りながら、ボールを保持するだけでなくゴールを目指す多彩な攻撃を見せてきているからこそのリーグ戦16連勝という大記録を達成しています。そして、現代サッカーにおいてピッチの中央から全てを作り出す事は不可能だという前提に基づき、サイドバックにも多くのお金を費やして二人のインターナショナルレベルの選手を獲得し目指すチームのプレーモデルに対してボールを保持しゴールを奪う為に必要な要素を全て揃えました」

「また、既存の選手達のレベルアップも見逃せない点で、例えばスターリングは右利きですが利き足が外側にある右のウイングでプレーしているにも関わらず、あれだけ中央に侵入して効果的な働きができているというのは状況に合わせたポジショニング、カットインするタイミング、そしてフィニッシュワークが改善、向上したからこそです」

「基本的に、ウインガーは利き足とは逆のサイドに入ってプレーした方が、縦への突破に加えカットインするとゴールに向かって利き足を使う事ができるのでプレーしやすいはずですし、一昔前とは違いサッカーが複雑化していますから、ライン際に張ったウインガーが縦に突破するという攻撃は如何にボールをウィングプレーヤーに渡すかという部分に工夫を加えないとなかなか通用しにくくなってきています」
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「しかし、シティにおいてはサネとスターリングは利き足側のサイドでプレーする事が多くなっていますが、利き足側のサイドで起用されると縦への突破がメインになりがちになる中、ワンツーやドリブル、周辺の選手達との関わりの中カットインしてくる動きも駆使し、内・外、幅広く活躍できているという事は何かが変わったという事です。つまりは、監督の求めるサッカーに対する理解が進みオフ・ザ・ボールの動きが良くなったという事でパフォーマンスの質が上がったという事でしょう」

「ポジショニング、身体の向きや視野の持ち方、そしてチーム戦術の中で如何に振舞えばよいのかというところまで細やかな指導を受けてきた事で大きく改善されたと見ています」

「また、それらが向上したことにより、状況毎に持てる選択肢が多くなり尚且つ正しく判断ができるようになってきたので際立った活躍が見られるようになりました。これはまさに、グアルディオラ監督が情熱をもって指導してきたことがパフォーマンスに表れてきていると思います」

「もし、今のシティを苦労させるのであればと考えた時にまず思い付く事は一番影響力の低いポジション、つまり2人のセンターバックにボールを持たせるということになると思います。そして、メインとなる選手にピッタリとマークが張り付いていく、もしくは隙のないゾーンディフェンスを敷きながら相手のミスを待つという事でしょう。最終的にはスターリングのゴールで敗れはしましたが、サウサンプトンも自陣近くでの守備にはなりましたがスペースを消しながら根気強い守備で頑張っていました」

──そんなサウサンプトン戦も最終的にはシティが押し切って勝利しました
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「やはり、ずっと守っているだけだと今のシティ相手ではいつかは破綻します。そこがロジカルが故の強みです。常に厳しいマークを受けるシルバやデ・ブライネは特に頭が良いので、マークが付いてくるなら、自分が動くことで味方に空間を提供し結果自分たちもその見返りが受けられるようなところまで持っていく圧倒的な知性と技術を持っています」

「彼らの見せてくれるもののベースには、グアルディオラ監督がもたらしたプレーモデル・コンセプトと細やかなディテールが存在していますがとはいえ彼らに特別な能力がなければ今我々が見る事ができている素晴らしいサッカーは存在しません」

「監督が求めるものを実際に表現し、チームを勝利に導いているのがシルバやデ・ブライネといった最高の選手になりますし、どれだけ守りを固められても決して慌てることなく冷静に相手チームの体力を削いでいきながら「穴」を作っていく作業を根気強く徹底して続けることができる、それはチームにロジックが存在しなければできない事です」

──何度も話に出てきているデ・ブライネは、チェルシー時代やブンデスリーガの頃と比べて、役割やプレースタイルが変化していると思いますが
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「チェルシー時代のプレーは覚えていないですが、ドイツではトップ下でプレーし真ん中から動いてスペースへと出ていくプレーが多かったです。今のデ・ブライネの特徴は、ポジション取りが良いこととオフ・ザ・ボールの動きが抜群に上手くゴールへの道筋を見つける能力に優れています」

「また、視野もとても広く優先順位の持ち方が正しいので、保持する時かゴールへと向かう時かの判断も正確ですしトップスピードで走る味方の足元に正確なパスを届けられる素晴らしい「目」とキックの技術を持っています。シティに来た当初は今よりもう少し攻撃的なポジションにてサイドに流れてワンタッチでクロスを入れるといったプレーが多かったと思います」

「グアルディオラ監督と出会い新しいポジションや役割を与えられましたが、とてつもなく頭の良い選手だと思うので、難しい役割を与えれば与えるほど伸びる選手だと思いますしシルバも同様です。彼らはとにかくサッカーの理解度や戦術理解度がとても高いので、グアルディオラ監督からの高いレベルの要求に対して即座に反応できるのだと思います」

──グアルディオラ監督2年目で大きく変化したと感じられている選手はいますか

「たくさんいると思います。既に話をした通りアグエロも変わりましたし、スターリングも変わりました。後ろの選手だと、オタメンディはボールを持った時に、やる気に満ち溢れているので狙いすぎてパスが引っかかることはありますが「運ぶ」「離す」の判断が昨季より良くなっていますしストーンズも頭のなかがかなり整理された様に見えます」

「またビルドアップというところでは、GKとサイドバックの選手の質が高くなったので、センターバックの選手はかなり楽になったかなと思います。そしてフェルナンジーニョも素晴らしい、彼が前後を繋ぐ役割をあれだけのレベルで果たしてくれなければこのサッカーは実現していないと思います。つまり、チーム全体に監督が求まるサッカーを実現できるだけの選手が揃ったので、誰かに負担がかかるということが減ったと思います」

「誰か1人というわけでなく、各ポジションに選手が揃ったことで相手を見て戦術的に多彩なサッカーができる様になり、各個人の成長もあり各々の持つ良さがどんどん出始めている気がします」

──ウォーカーが入ったことは今シーズンのシティにとっては非常に大きな補強だったと思いますがいかがでしょう
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「スパーズの時は、ウォーカーの前にあえてレーンを空けて彼の攻撃力を最大限活用する形を採っていましたし毎試合かなりの回数上下動を繰り返していました。対人の強さはもちろん、敵陣に入った時のウインガーとしての仕掛けからのクロスも大きな持ち味でしたが、今シーズンはまずは安定したビルドアッププレーとタイミングを見た攻撃参加を求められていると思いますから体力的な負担もかなり少なくなり怪我のリスクが大きく軽減されているのではないでしょうか」

「課題としては自陣でのビルドアップに改善の余地が残されており、グアルディオラ監督からもそういった発言が出ています。その質をどれだけ上げていけるかというのが、ウォーカーが次のステップに進めるかのポイントかなと思います」

「対人の守備は物凄く強いですし、スピードも素晴らしいものがあるので彼が加入し守備という点では更に安定しましたね」


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