【東本貢司のFCUK!】真っ当なクラブ経営の危機
2016.08.17 13:30 Wed
▽新シーズン開幕戦最大の目玉、アーセナル-リヴァプールの一戦は“大変に”示唆の多い試合だった。手っ取り早く言えば、両軍ともに「攻撃力は有望、守備大いに不安」。状況を振り返ればさにあらんと言うべきだが、それにしてもこれほど「期待と課題」がもろにあぶりだされたゲームも珍しい。まだあと2週間開いている“移籍の窓”がどんな効果をもたらすのか、あるいはもたらさないのか、関係者にとって悩ましいところだろうか。と言うのも、近年のファンは補強について過度に敏感だからだ。つまり、補強が進まない、物足りない、思わしくないと見るや、眉をしかめる、騒がしくブーたれる、果ては指導陣の資質を(悪しざまに)問う。まるで、満足のいく補強が進められない監督は無能だと言わんばかりに。これについては現地識者からも憂慮する声が止まらない。そう、「有望な補強ができれば一安心」なる考え方がいかに空疎かという“現実”をまだわかっていない。
▽チャンピオンシップ(2部)の「この先よほど頑張って戦力強化をしなければ(プレミア昇格は)むずかしい」クラブにすら、海外資本が続々と“たかる”ご時世である。アーセナルがその気になれば、世界有数の資金バックアッパーに事欠くはずがない。だが、それを良しとしないのが「ヴェンゲル流」もしくは、ヴェンゲルに全幅の信頼を置くクラブ運営ポリシーだということだ。つまり、コアなファンの一部は「それでどうにもならないんなら“悪魔"に魂を売っちゃえよ」(つまりは「脱ヴェンゲル・緊急“暴"義」)と“ヤジ”を飛ばしているのだと考えられないか。ホーム開幕戦でリヴァプールに4点も取られたのは、表面的には「期待はずれの若造の新参者に任せるしかなかったせい」だと受け止められている。しかし、コシェルニーは近々戻ってくるし、メルテザッカーもいずれ復帰する。いや、それ以前にチェンバーズとホールディングの急造若手CBコンビは言うほど悪くもなかった。しかも4-1を4-3まで盛り返した攻撃陣も反発力は明るい収穫だった。マイナス面よりもプラス面を見よという教訓がここにある。なにせまだ開幕戦なのだ。
▽一つ、間違いのない事実を言うなら、少なくともアーセナルではヴェンゲルと運営陣が一心同体であり、目指す道へブレずに邁進していく大きな原動力となっている。では、リヴァプールはどうか。気になるのは、ベンテケの処遇についてだ。クロップは戦力外志向。そこへクリスタル・パレスが思い切った額を提示してきた。普通はそれで話が動く。ところが、移籍金額の一部が「ボーナス査定扱い」だからダメだって? なんだ、それ。監督は放出にゴーサインを出しているのに、クラブは妙な理屈をこねて出し渋る。パレスの戦力強化が嫌だとでも? ベンテケ自身のキャリアなど一切お構いなしなのか? とんだ“カネ主導時代”の茶番ではないか。こんなセコい考え方をするクラブに明日があっていいものなのかと天を仰ぎたくなるのは筆者だけだろうか。真っ当なクラブ経営が報われない時代になっているのだとしたら、真にメスを入れる必要がどこにあるのかわかろうというものだ。今後の2週間、何がどう動くかにもよるが、少なくとも現時点ではアーセナルに肩入れしたくなっている自分がいる。そうだ、頑張れよヴェンゲル、そして、そう、監督肝入りの新戦力たち、ジャカ、ホールディング、あるいはまだ見ぬ新ガナーたちよ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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▽特にアーセナルのファンが今一度胸に手を当てて忖度すべきなのは、今アーセン・ヴェンゲルを仮に追い出したところでいったい何が好転するかという、肝心要の、しかもシンプルこの上ない命題である。誰がヴェンゲルに代わってエミレイツのホットシートに座ろうと、それで「補強が思うように進まない」という問題が即解決するとでも思っているのだろうか。こんなことを言うと、それは他のクラブでだってよくあることだろうと突っ込まれるかもしれない。だが、どうやらそれは違うようなのだ。アーセナルの場合、それはほとんどヤケッパチの雑音、悲鳴にすら聞こえてくる。例えば、アレックス・ファーガソンはあれほど長期政権を維持して数えきれないほどタイトルをもたらしたが、ヴェンゲルのそれは数ではるかに物足りない、じゃあもうそろそろ・・・・とまあ、要するに文字通りの愚痴なのだ。ご存じだろうか。昨シーズン、百年の一度あるかないかの珍事だからこの際レスターに優勝させてやっても、と本気で考えていたガナーズファンがかなりいたことを。▽一種の「ルーティン」と言ってもいい。誇りと自虐がない交ぜになった定番のグチっぽさというルーティン。よって、周りが訝るほどには“彼ら(の大半) ”もヴェンゲルに「飽きている」わけでもない。近年でいえば、エジル、カソーラ、サンチェス(の獲得)は成功の部類なのだから「引き続き頼むぞ」というアピールである。ところが、時代がそれを何かと拒み続けているのがネックなのだ。例えば直近では、他と競合の噂もない、狙いすましたラカゼットも、昨今の移籍金異常高騰事情に乗っかろうと欲をかいた(?)リヨンに待ったをかけられる。そんなじれったさ、もどかしさを、ファンは痛いほどわかっている。どんなチームを作るかという以前に、カネですべてが決められてしまうという虚しさとやり場のなさ。CEOのカジディスは早々に宣言したではないか。「カネで張り合える(財)力はない」とは、言葉を変えれば「そんなあざとい意地を張ってまで」というプライドの証なのかもしれない。そしてそれをファンも理解している。だから「辛い」のだ。▽一つ、間違いのない事実を言うなら、少なくともアーセナルではヴェンゲルと運営陣が一心同体であり、目指す道へブレずに邁進していく大きな原動力となっている。では、リヴァプールはどうか。気になるのは、ベンテケの処遇についてだ。クロップは戦力外志向。そこへクリスタル・パレスが思い切った額を提示してきた。普通はそれで話が動く。ところが、移籍金額の一部が「ボーナス査定扱い」だからダメだって? なんだ、それ。監督は放出にゴーサインを出しているのに、クラブは妙な理屈をこねて出し渋る。パレスの戦力強化が嫌だとでも? ベンテケ自身のキャリアなど一切お構いなしなのか? とんだ“カネ主導時代”の茶番ではないか。こんなセコい考え方をするクラブに明日があっていいものなのかと天を仰ぎたくなるのは筆者だけだろうか。真っ当なクラブ経営が報われない時代になっているのだとしたら、真にメスを入れる必要がどこにあるのかわかろうというものだ。今後の2週間、何がどう動くかにもよるが、少なくとも現時点ではアーセナルに肩入れしたくなっている自分がいる。そうだ、頑張れよヴェンゲル、そして、そう、監督肝入りの新戦力たち、ジャカ、ホールディング、あるいはまだ見ぬ新ガナーたちよ!
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