【日本サッカー見聞録】クラブW杯で見せた広島の完成度の高さ

2015.12.11 15:00 Fri
▽広島が、“広島らしい”サッカーをJリーグだけでなくクラブ・ワールドカップ(W杯)という世界のひのき舞台でも披露した。

▽12月10日、クラブW杯の開幕戦でニュージーランド代表のオークランド・シティと対戦した広島は、開始9分で先制する。ボックス右角付近から野津田が強烈なシュートを放つと、GKがパンチし損ねてこぼしたボールを、ゴール前に詰めていた皆川が押し込む。この1点で広島の選手は自陣に引いてブロックを作り、あとは得意のカウンターを狙う展開に持ち込んだ。

▽長い国内リーグを戦い抜き、さらに「CSはプレッシャーもあり、かなり疲労した選手もいる」(森保監督)のと、今大会後は天皇杯も控えているため、無理して攻める必要はないからだろう。当然と言えば当然のゲームプランである。このためスタメンにも皆川や野津田、丸谷ら「フレッシュな選手」(森保監督)が名前を連ねた。
▽ただ、Jリーグと違ってオークランドは昨年のクラブW杯で3位になったチーム。セミプロの選手もいるとはいえ、クラブW杯最多となる7度の出場を誇り、今大会のスタメンにはセルビア、クロアチア、スペイン、日本、韓国、ポルトガル、ソロモン諸島の選手8人を擁する“多国籍軍団”だ。ボールポゼッションでも広島を圧倒していただけに、1-0は必ずしもセーフティリードではないと思っていた。

▽勝負の行方は“次の1点”と思っていた矢先、アクシデントが広島を襲う。まず14分に野津田が負傷して柴崎と交代。すると今度は柴崎が負傷して53分にドウグラスとの交代を余儀なくされる。さらに65分、清水の負傷で佐々木がピッチに送り込まれ、森保監督は交代枠の全てを負傷者で使わなくてはならなかった。
▽ただ、オークランドが悪質なプレーをするチームかというと、それは当てはまらない。持ち前のフィジカルの強さと球際での激しさは森保監督も想定内。技術・戦術で劣るチームがジャイアント・キリングを起こすには必要不可欠な要素でもある。あえて悪質なプレーを指摘するとすれば、55分に俊足・浅野の突破をアフターで足裏タックルしたキム・デウクのプレーくらいだろう。

▽広島は3枚の交代枠を使ったが、右サイドに入ったドウグラスがフィジカルの強さとスキルフルなプレーからオークランドにプレッシャーを与える。得意のカウンターも何度か惜しいシーンを作った。そして70分、いつものように“いつの間にか”攻撃参加した塩谷のシュートがDFに当たってコースが変わり、GKの股間を抜けて広島が追加点を奪う。この1点で広島の勝利は確定した。

▽試合後にオークランドのトリプリチエ監督が「広島はシーズン中と同じスタイル。先制して完璧な試合運びをした」と脱帽した“横綱相撲”で、2012年に続き初戦でオークランドに勝利した。そして前回大会との違いを指摘するなら、今回は前述したようにレギュラーシーズンからスタメンを変更しながら、同じスタイルとクオリティで勝利を収めたことだ。

▽それだけ“森保スタイル”の完成度が高まっている証拠だろう。3年前は準々決勝でアル・アハリ相手に敗退したが、次のマベンゼ(アフリカ代表)戦に向けては前回大会のリベンジも含めて期待の高まるところだ。

【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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